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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第3章_数字が壊れる日

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第31話 仮面が落ちる時

舞踏会の後半。


 リゼットの発表は会場に波紋を広げていた。シルヴァーノ領の経済的自立を公に示したことで、他の中小貴族たちの反応が二分されている。


 「さすがシルヴァーノの令嬢だ」と好意的な声もあれば、「王太子殿下に恥をかかせるとは」という冷たい視線もある。


 俺は会場を歩きながら、近づいてくる貴族たちが『俺に向ける好感度』を片っ端からチェックしていた。

 シルヴァーノ家の末席である俺への態度を見れば、彼らが公爵家をどう評価しているかはおおよそ透けて見える。


 ——【+3】。無害。社交辞令だけで接してくる相手。

 ——【-5】。やや敵対的。俺を『目障りな派閥の人間』と見ている。グランツ派閥の末端か。

 ——【+10】。好意的。リゼットの手腕を評価し、その連れである俺にも好意的な小領主。

 ——【-15】。警戒が必要。シルヴァーノ家に対する明確な敵意が、俺にも向けられている。


 情報担当としての仕事をこなしながら、フィーネに目配せで危険な人物を伝えていく。


 彼女は頷きで応じ、該当する人物をさりげなくリゼットから遠ざけた。


 完璧な連携——のはずだった。


 異変が起きたのは、舞踏会が終盤に差し掛かった頃だ。


 一人の男が、リゼットに近づいた。


 仮面と外套に身を包んだ中年の男。貴族にしては粗野な歩き方。好感度を確認する——


 【-80】


 -80。


 出会った人間の中で、最低の数値。ヴィクトールの+85の正反対。


 しかも——近づき方がおかしい。他の貴族のように正面からではなく、柱の陰を縫うようにリゼットの死角に回り込んでいる。


 ——殺気。


 前世では感じたことのない感覚が、背筋を駆け抜けた。好感度-80が発する「意識の強度」が、殺意そのものだ。


「フィーネ!」


 叫んだ。


 フィーネが振り向いた——同時に、男が外套の内側から何かを引き抜いた。


 短剣。


 リゼットの背に向けて——振り下ろされる。


 体が動いた。考えるより先に。


 俺はリゼットの背中に飛びつき——彼女を庇うように倒れ込んだ。


 ——左肩に、焼けるような痛み。


「ぐっ——!」


 刺さった。浅くはない。短剣が肩の肉を抉り、血が噴き出す。


「レンッ!!」


 フィーネの叫び声。次の瞬間、彼女の拳が男の顔面を捉えた。男は吹き飛ばされ、床に崩れ落ちる。


 大広間が悲鳴に包まれた。仮面の下の素顔が驚愕に歪み、貴族たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「レン——レン!」


 リゼットの声が聞こえた。俺の上に覆いかぶさったまま——いや、俺がリゼットに覆いかぶさって庇っている体勢だった。


 左肩の痛みが脈打つように襲ってくる。視界がぼやける。


 HP——確認しなければ。


 好感度合計は——計算する余裕がない。だが基礎HP100がある。即死はしないはずだ。


「レン! 目を開けて——レン!」


 リゼットの声が、仮面の下から聞こえた気がした。だが——彼女の顔には、もう仮面はなかった。


 銀の仮面が床に転がっている。リゼットの素顔が、すぐ目の前にあった。


 紫の瞳が大きく見開かれ——涙が、溢れていた。


 氷の公爵令嬢が。仮面もなく。人前で。涙を流している。


「な、んで……あなたが……私を庇うなんて——馬鹿……っ!」


 好感度を見る——


 【+5】→【+15】→【+30】→【+10】→【-5】→【+25】→【-10】→【+40】→——


 数字が。


 激しく。


 狂ったように振動している。


 +と-が交互に入れ替わり、上下に激しく揺れ、一つの数値に定まらない。


 今まで見たことのない動きだ。「心配している」時の振動パターンとは次元が違う。数字そのものが壊れかけている。


「衛兵を! 治療師を呼べ!」


 フィーネが怒鳴っている。男は取り押さえられた。


 俺は——リゼットの顔を見ていた。仮面の落ちた素顔を。


 涙を拭おうともせず、俺の肩に手を当てて止血しようとしている。その手が——震えている。


「大丈夫……です。浅いですから——」


「……お願い、黙っていて。喋らないで……。血が、止まらないの……っ」


 リゼットの指が、俺の血で赤く染まっていた。


 意識が遠のいていく。痛みと出血で——


 最後に見えたのは、好感度の数字だった。


 激しく振動する数字が——一瞬、停止した。


 表示された数字は——


 【+100】


 上限値。一瞬だけ。


 次の瞬間——意識が途切れた。

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