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0‐AXIA  作者: 和和和和
恋詠カレンダー
8/30

元人間悪魔少女メイド




「俺の下につけ」


「それって……」

 ここまで機を待っていたであろう言葉に、恋詠は思わず息を呑む。

 そんな恋詠の声に、デクスは泰然とした体勢を崩すことなくそれに応えるように口を開く。


「言った通りだ。俺の部下になって、俺のために戦え」


 デクスや悪魔の事については未だ分からないことも多い恋詠だが、デクスのその言葉が文字通り「悪魔の契約」であることは容易に想像できた。


「俺とベルザードは敵同士だ。友達を助ける機会もあるだろ。それに、0‐AXIAを集めることができれば、お前を人間に戻してやれるかもしれない」


「――!」

 デクスの言葉に、恋詠はわずかに動揺を浮かべる。


「俺は俺の力で悪魔にした人間を人間に戻すことはできない。だが、0‐AXIAの力があればできるかもしれない

 お前は友人を助け、俺が王になるまで俺の力となって働く。そうすれば、俺は俺が魔王になった時、お前を人間に戻すために力を尽くすと誓おう」


 一方的に互いのメリットとデメリットを告げたデクスは、視線で恋詠に「どうだ?」と問いかけてくる。


 恋詠にとっての利点は、麻衣を助けられることと、デクスが魔王になった時に人間に戻れる可能性が生まれること。

 それに比べてデクスの利点は、裏切り者であり敵であるベルザードを殺せることに加え、魔王になるまで恋詠を部下にできること。

 仮に魔王になれなければ、人間に戻す契約は破棄される。――それは、客観的に見ればデクスに有利で、決して平等で対等な取引ではなかっただろう。


「――分かった。その条件を呑むわ」


 しかし、そんな条件に対し、恋詠はほとんど逡巡する間もなく答える。

 だが、恋詠の答えはそれで終わりではなかった。デクスの要求に応じた恋詠は、意を決して口を開く。


「ただし、私からも一つだけ条件を付けさせて。無関係な人を殺したり、犠牲にしたりしないでほしいの」


 たとえ麻衣を助けることができたとしても、それで終わりではない。

 麻衣のように悪魔に利用された人や、その大切な人が悲しむことがないように、恋詠はたった一つの対価を申し出た。


「――言われるまでもない。魔王になるのが俺の目的だ。人間をどうこうするつもりはない」


 そんな恋詠の言葉に対し、デクスはさも当然のように応じる。


 自身の中にある悪魔という存在に対する偏見めいたイメージ、あるいは自分の提案など受け入れてくれないのではないかという不安を嘲笑うようなあっさりとした返答に毒気を抜かれた恋詠は、銀色の髪の悪魔に笑みを向ける。


「ありがとう」


「フン」

 恋詠の心からの感謝の言葉に、デクスは興味なさげな表情で小さく息を吐く。


「デクス様! 本当にこんな小娘を仲間に引き入れるおつもりですか!?」


「!?」

 その時、不意に聞こえた声に、恋詠は小さく目を瞠る。

 慌てて周囲を見回すが、今この部屋の中には恋詠とデクス、そしてリーゼ以外の人物は見当たらない。


「……『アルフ』」


 そんな中、デクスが小さく呟いて視線を向けると、恋詠もつられてそちらへ顔を向ける。


 デクスが見たのは、部屋の奥、恋詠の視線の死角になるところに立てられた一本の棒。

 そしてその上には、燕尾服を思わせる衣装に身を包んだフクロウのような見た目の生き物が止まっていた。


「フクロウ……?」


 黒い燕尾服の礼服に身を包み、口――というよりは嘴――の上にオシャレな黒いひげを生やした太眉

のフクロウに、恋詠の口から疑問交じりの声が零れる。


「フクロウとは失礼な。我輩は『アルフレッド・ステファン・イングレイ』。デクス様にお仕えする執事長であるぞ!」

 フクロウと呼ばれたことが癇に障ったらしく、「アルフレッド」と名乗ったフクロウは、恋詠に背を仰け反らせて得意気に名乗る。


「このフクロウも悪魔なの?」

 生まれて初めて見た、喋るフクロウに驚きながらも、恋詠は好奇心一杯という様子でデクシアに尋ねる。


「当然であろう! 我輩はこう見えてもデクス様にお仕えするれっきとした悪魔であるぞ! 間違っても使い魔などと同列に扱うなよ」

(こう見えてもって、そういう風に見えていない自覚があるんだな)

 アルフレッドの言葉に内心でそんな事を思いながらも、話がこじれると面倒なのでデクスは何も言わずにそのアルフレッドの言葉を聞き流す。


「悪魔って、色んな種族? がいるのね」

 人間に限りなく近い姿を持つ悪魔ばかりを見てきたため、あまりにもそれとかけ離れた姿を持つアルフに対して恋詠は率直な感想を漏らす。


「悪魔とは、この世界とは異なる異世界『魔界』に住まう存在の総称で他にも『魔族』など色々言われるが、まあ、一様に同じものだと思えばよい」

 例えるなら『悪魔』は『人間』。『魔族』は『人類』。魔族の方が括りとして大きいのだが、その意味する所はほぼ同じだ」


「はぁ」

 そんな自分に対し、簡潔に説明してくれたアルフの言葉に恋詠は納得したような声で呟く。

 だが、そんな恋詠の反応を見て取ったアルフは、うっかり話を逸らされてしまったことに気づいて声を上げる。


「そんなことよりも! デクス様! こんな娘を『スレイヴ』にして本当に良かったのですか?」


「スレイヴ?」


 フクロウの持つ静かなイメージとは対照的に、喋るオウムを思わせるような騒がしいアルフの口から発せられた聞きなれない言葉に、恋詠は怪訝な様子でデクスに尋ねる。


「お前のことだ」


「デクス様の『能力』によって悪魔にされた者の事をそう呼んでいるのだ」


 恋詠の問いにデクスとアルフが順に答える。

「ああ、なるほど」

 二人の言葉に納得して恋詠は呟く。


「お前はデクス様の僕なのだぞ。それを自覚し、最大限の礼節を持ってデクス様にお仕えしなければならないのだ! 分かっているのか!?」

「自覚って言われても……」

 恋詠はそんなデクスとアルフのやり取りを見ながら不満そうに呟く。


 確かに、デクスによって命を救われたのかもしれない。だが、元をただせば、そもそも自分はデクスによって殺されたのであり、完全に巻き込まれた側だ。

 麻衣を助けるため、人間に戻るために契約して部下になることも誓ったが、正直に言ってデクスを主人として仰ぐほど心酔しているわけではない恋詠にとって、アルフの言い分は受け入れがたいものだった。


「そう怒るな『アルフ』。話が先に進まないだろ」


「……は」

 説教をするような強い口調で話すフクロウの悪魔――アルフレッドこと「アルフ」に、デクスは溜息交じりに言う。

 自身の主に窘められたアルフは、不満そうにしながらもしぶしぶと言った様子で頷く。


「少しばかり口うるさいところはあるが、悪い奴じゃない。ほどほどにうまくやってくれ」

「……分かった」

 アルフの小言を少し黙らせたデクスの言葉に、恋詠は小さく頷く。

 その声音からやや不満と憤懣の感情が滲んでいるのは、先ほどのやり取りを思えばやむを得ないことだろう。


「取り合えず今日のところはこれで終わりだ。リーゼ。恋詠のことは任せる。レヴェンのところへ行ってから家に帰してやってくれ」


「かしこまりました」

 そんな中、デクスに恋詠を任されたリーゼは、メイドらしく美しい所作で一礼する。

 肩までの長さで切りそろえられた髪を翻らせたリーゼに連れられ、恋詠はデクスの執務室を後にするのだった。




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