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奴隷商人とエルフさま  作者: 遊命月
第1章 見習い商人の小さな冒険
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第4話 金ならあると、彼女は笑う

 このエルフの女の子はどうやら他人との距離をあまり気にしないようだ。

 おかしいなぁ、エルフってプライドが高くて自分より下の者を、例えば僕みたいな人間を見下すようなイメージ。

 全部本からの知識だけど。


「まぁそんな訳でさ、君もこのどうぐ屋の店員なら私に物を売るべきだと思うんだよね」

「はぁ、何をお求めで?」

「固い」

「はい?」

「ライラは固いってば、もっと気楽にいこうよ! 例えばほら、向こうのお店みたいにさ!」


 ほら、と彼女は向かいにある飲食店を指差した。

 未だに満員のようで慌ただしく店員さん達が右往左往している。

 今日何回僕はあのお店を見るのだろうか。


「えっと、僕にどうしろと?」

「だーかーらー、他人行事なのは良くないよーって事! もっとこう笑顔でさ、いらっしゃませ! ご注文はお決まりでしょうか? って聞かないと」


 営業スマイルを真似た彼女の笑顔。

 容姿端麗のそれは僕の頬に熱をおびさせるには充分過ぎた。

 僕のイメージとは違っていても、見た目と性格が恐ろしいぐらいに反していてもそれでもこれだけは言えるだろう。

 美しいエルフの笑顔は凶器だ。


「ほーら、やって! やって!」

「は、はい?」

「何事も挑戦だよ! 大丈夫! お手本見せたから、君なら出来るよ!」

「僕の何を知っているんですか貴女は」

「えー何、出来ないの? もう一回お手本見せようか?」

「……やります」


 僕が照れている事を分かっててやっているんじゃないだろうかこのエルフは。

 黙っていれば凄く知的に見えるから、そうも思えるんだけど、口を開くとこれだからどうか分からないけど。


「はーい、ガランガラーン。こんにちはー!」

「い、いらっしゃいませー」


 何故店員の僕が店員の真似をしながら接客をしているんだろうか。

 それにうちの店に来店を知らせるベルは無い。


「えっと、その……ご、ご注文は?」


 多分僕の笑顔はとてもぎこちないものになっているだろう。

 今笑顔を作ろうとすると、どうしてもついさっきの彼女の笑顔が脳裏に浮かんでしまうのだ。


「とりあえずこの店にある回復系のアイテム全部頂戴!!」

「は、はーい。分かりまし……はぁっ!?」


 どんな男でも必ず振り返ってしまいそうな笑顔で彼女はとんでもない事を口にする。

 もう本当にこの子が何を考えているのか僕には分からなくなってきた。

 練習でする客層の設定ではないでしょ。


「おー! 良いよライラその反応! やれば出来る子だね!」

「……これは演技じゃなくて素です」


 この店の商品を全部くれ、みたいな台詞聞いたの初めてだもの。

 それも自分が実際に言われたら誰だって驚くって。

 これもしかして僕の反応が見たかっただけじゃないよね?


「はぁ、冗談でも止めてくださいよ心臓に悪いので」

「ヤダなー、冗談じゃないよ?」

「……はい?」


 ため息を吐き出して心を落ち着かせる間を一切与えてもらえない。

 はたして僕の心がドキッと鼓動を乱したのはその言葉のせいか、はたまたこの短時間で何度も見せる笑顔のせいか。

 安心して。そう彼女は言葉を挟んでから。


「金ならある!」

「…………」


 自信満々に彼女は胸を張りそう宣言した。

 彼女の強調された胸が左側だけブレストプレートによって左右の形が違うとか、そんな事を考えてしまったんじゃないだろうか。

 いつもの僕なら。

 けど、絶句するしかなかった。

 どうして彼女は僕のエルフって言う理想像をこう容易く壊していくのだろう。

 僕が幻想を追っているのは当然分かるし、現実と比べるのもおこがましいだろう。

 だけど、だけど…!エルフである彼女の口から『金ならある』なんて言葉を聞きたくなかったよ!

今 後、別のエルフのお客様が訪れた時にどう接していいか分からなくなるからさ!

 僕が働き出してから君が最初のエルフだけど!


「エルフ、ですよね?」

「えー何? またぁ? しょうがないなぁ、ライラは物好きなんだからー」


 彼女はお客様であり、僕は商人だ。

 この関係だけはどう頑張っても変えられない。

 だから商人である僕がお客様である彼女を怒らせるなんて事はしてはいけない。

 それを分かっていながらこうしてかなり失礼な事を言ってしまうのは彼女に毒されてきたからなのだろう。

 そんな僕の言葉に彼女はまた身を乗り出して、整いすぎている美貌を横に耳を向ける。

 僕が耳を触りたいとまた思われてしまったようだ。


「物好きでもないですし、触りたい訳でもないですから」

「えー、好きなんじゃないの? 私の耳」

「誤解を生むので止めてください」

「あぁ! 耳なら誰のでも良いんだね!」

「そこまで僕を耳好きにしたいんですか!?」


 笑顔で変な納得をしないでください。

 他にお客様がいなくて本当に良かった。


「恥ずかしがらなくても誰だって好きなものの一つや二つはあるし、別に私は気にしないよ!」

「それは慰めているつもりで結局は僕を耳好きに……はぁ、もう良いですよそれで」

「最初から素直になれば良いのにー」


 長い人生の中にはこうした妥協というのが必要なのかもしれない。

 多分このまま続けていれば本気で日が暮れてしまいそうだから。

 満足そうに笑う彼女を僕は二つの意味で無視する事にする。


「……それで、この店にある回復系のアイテムを全て欲しい。ですよね? 本気ですよね?」

「あぁうんそうそう! 店にあるものあるだけ持ってこーい! ってやつだよ!!」

「……分かりました。少々お待ちください」

「ライラ、また演技が固くなってるよー?」


 彼女に一度頭を下げて僕は店の奥にある倉庫へ向かう。

 背中越しに何か聞こえてきたけどそれも無視。

 どうぐ屋ライオックは2階建て、1階の半分がお店で半分が倉庫、2階は居住空間になっているよくある普通のどうぐ屋の造り。

 倉庫とは言っても薄汚いものじゃなくて店頭には並んでいない商品が木箱に詰められて保管されているんだ。

 痛みやすいものは手前に、長持ちするものは奥に。

 その倉庫の一番手前、一つの木箱を両手で抱えて僕は彼女の待つ店頭へと戻る。


「お待たせしましたー」

「それなりに待ったよー! ……って、なにこれ?」


 カウンターの上に置かれた木箱を見て彼女は目を細めた。

 考え事をして何も喋らないと、顔の半分が前髪に隠れているっていうのもあって凄くミステリアスな雰囲気が彼女から発せられる。

 口を開けば一気にそれが壊れてしまうんだけどね。


「この店にある回復系のアイテム、全部です」

「え? これ、やくそう……だけ?」

「はい。申し訳ありませんが本日は他の商品が売れに売れてしまって、それしか残っていないんですよ。ですから、ゲルジッドさんが仕入れに出ているんですよ」

「ほうほう、てっきりこの店が潰れるのかと思ったよ! けどさ、わざわざ木箱を持ってこなくても説明してくれれば良かったのに」

「だって口で説明しても素直に納得してくれないでしょう?」

「うん!」


 嬉しそうに大きく彼女は頷く。

 見た目との差というかギャップがとても激しく、直視するのも難しい。

 彼女の考えがちょっとだけ分かってきて、僕も少しだけ嬉しくなった。


「じゃあそれなら3日ぐらいで良いよね!」

「は、はい?」

「んー?ゲルの奴が仕入れに出てるんでしょ? だから3日後ぐらいにまた来るよ」

「え? ゲルジッドさんならいつも仕入れはその日の内に終わらせてきますけど?」


 商品の仕入れは全部ゲルジッドさんの仕事、っていうよりも僕はまだ店の番しか任せてもらえてない。

 ただこの一月、お世辞抜きでも繁盛しているって胸を張って言えるこの店では何回も商品の仕入れにゲルジッドさんが出かけている。

 それもどんなに品数が多くても絶対にその日の夕飯までには帰ってくるんだ。

 いつか僕が商品の仕入れを任せてもらえたとして同じようにこなせるのか、今からちょっと不安でもある。


「あはは、ライラも鬼だね! じゃあ明日ゲルが仕入れてきたアイテム全部、私が持ってっちゃうよ?」

「え? ……あ!」


 彼女に笑われてようやく僕は自分の失敗に気がついた。

 普通のお客様なら今日の内に予約してもらえば明日には渡すことができるけど、彼女はこの店の回復系のアイテム全てを欲しがっているんだ。

 そうなれば明日はすぐに店を閉める事になってしまうし、ゲルジッドさんにだって負担をかけてしまう。


「……み、3日後でお願いします」

「お願いされましょう!」


 自分の間違いを認めるっていうのは少なからず恥ずかしいもので、僕は熱くなった頬を隠すように深く頭を下げる。


「それじゃまた3日後にまた来るからね!」

「へ? あ、はい! ありがとうございました!」

「うーん、やっぱり固いなぁ。ライラはもうちょっと肩の力とか抜いた方が良いね! 例えば語尾をのばすとか」

「ははは、努力して……みますー」

「あ、良いね! 今の良かったよ! じゃ、またねー!!」

「あ、ありがとうございましたー!」


 何度も何度も大きく手を振りながら彼女は店を後にする。

 彼女の姿が見えなくなったのを確認し、僕はカウンターの座席に脱力する。

 流麗で神秘的な見た目とは完全に逆で、何と言うか……親しみやすい人、いやエルフだった。

 彼女がいなくなって静かになった店内はまるで嵐が過ぎ去ったような。

 気疲れなのか、達成感なのか、妙な感覚だ。

 ただそれぐらい彼女は……あ。


「……名前聞くの忘れてた」

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