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奴隷商人とエルフさま  作者: 遊命月
第2章 幸せな奴隷の1日
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第15話 変わる者

「ありがとうございましたああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……つーかーれーたー!!」


 お店を後にした最後のお客さまに手を振りながら大声で見送ったトリイトさんは、流れるような動きで店の端に置いてあった大きな空の木箱に腰掛ける。

 背筋は丸まり両肩の力も抜けて頭に生えている獣の耳もペタンと倒れている。


「ちょっとトリイト! その木箱も片付けるんだから座らないで!」

「えー、少しは休ませてよネメシー」

「いつも私の目を盗んで楽してる癖に」

「それはいつもでしょー? 今日は本当に疲れたんだってばぁ。ねー、ライラ君?」


 店の奥から現れたネメシーさんが座っているトリイトさんを見つけて喝を入れようとしたけど、完全に疲れきっているらしくその声は右から左へ。

 ネメシーさんの小言も気にせずに話は僕へ振られた。


「そうですね。トリイトさん、凄く頑張ってくれましたし少し休憩にしましょうか? ちょうどお客さまもいないですし」

「さすがライラ君優しい! 大好き!」

「そうやってすぐ調子に乗る……ライラさんも甘やかさなくていいんですよ?」

「あはは……そうは言っても、トリイトさんは接客と商品の説明でよく凄く働いてくれましたし、それにネメシーさんだってずっと店内と倉庫を行き来して商品を運んでくれていたじゃないですか。今日はお客さまがとても多かったので助かりました! ですからネメシーさんも一休みしてください」

「うぅっ、そう言われると休まない訳にはいかないじゃないですか。ライラさん、ずるいです……」


 説得ってほど大げさじゃないけれどネメシーさんにも休んでもらう。

 本当に今日はこの二人が手伝ってくれて凄い助かった。


 人当たりの良いトリイトさんは店に来るお客さまの接客と商品説明、それも僕みたいなただの店員としてではなく一人の冒険者としての商品の使用感なんかも説明してくれていたからいつもよりも売れ行きが良く、僕も会計をしながら店内に響くトリイトさんの元気な声を聞いて良い勉強になった。

獣人ながらの俊敏さによって一人で大勢のお客さまの相手をしていたせいで仕事を失ってしまったネメシーさんには商品の品出しをお願いした。


 小柄なネメシーさんでもこの仕事はドワーフの彼女にとっては天職だったらしく、重い商品も軽々と運んでそれを棚へと並べてくれる、そのおかげでひっきりなしにお客さまが来店して商品を買っていかれても店内に商品が無くなる事はなくこれも売れ行きが良かった理由の一つだと思う。

 時々商品を運んでいる途中のネメシーさんにもお客様の声がかかるけど、それにトリイトさんはいち早く気がついてそのフォローに回る。

 だからネメシーさんは品出しに専念できるし、トリイトさんだって接客を続けられる。


 こういう細かくても連携が凄く上手いのが彼女達が冒険者としてずっとやっていけてる理由なのかな、なんて考えをしてしまう。

 けど冗談抜きで僕の仕事は会計ぐらいしかなく、申し訳なさを感じてしまう程に二人は頑張ってくれた。


「それにしても凄いねライラ君は。今までずっとこれを一人でやってきたんでしょ?」

「そんな事ないですよ! 本当に忙しい時はゲルジッドさんも手伝ってくれますし、今日なんてお二人が凄く頑張ってくれたおかげで助かりましたし、どうぐの違った使い方とか冒険者視点の説明なんて知らなかったので勉強になりました!」

「そうは言っても店長さんが店内で働いている所をあまり見ないですよ? 特にライラさんがこのお店に来てからは特に」

「あー、そう言えばそうだね。あの店長は何してんの? 今日も見ないし」

「ゲルジッドさんですか? 確かに今日は忙しくて見ていないような気が……」


 今日は朝早くにトリイトさんとネメシーさんにプレゼントを貰って、気づいたら開店時間になっていてしまい今までずっと忙しかった。

いつも開店準備は僕がして、ゲルジッドさんは後から店に現れるから流石にもう起きているとは思うけど。


「お? なんだ? 客がいなくなったら俺の陰口か? 良いのか? 泣くぞ?」

「え?」

「お?」

「あれ?」


 噂をすると影がさすなんて言葉があるけれど、その言葉のとおり影の中から突然ゲルジッドさんの声がした。

 しかし姿は見えない、けど確かに声はした。


「何だ今度は無視か? 本気で泣いても良いって事だよな?」


 僕達三人の視線が全てある一点へと向けられる。

 その声の発生場所は店の端にあった大きな空の木箱の中。

 つまりトリイトさんが座っている箱からだ。


「うっぎゃああああああああああっ!?」

「トリイト!?」

「え!? げ、ゲルジッドさん!?」

「おー、いてて! ずっと同じ姿勢ってのも疲れるなぁ。歳かな俺も」


 お尻の下から声がした瞬間、トリイトさんの耳は逆立ち叫び声を上げてその場から飛び上がった。

 そのすぐ後に何事も無かったかのように木箱から姿を現したゲルジッドさんは体をほぐす為にストレッチを始めた。


「ず、ずっとって、本当にそこにずっといたんですか!?」

「んー? おう、新人バイトの二人がしっかり働いてるか確認するために朝からずっとな」

「うわっ!? キモッ! キモイ! 気持ち悪いこの人!!」

「おいおい言い方を変えても全部意味同じじゃねぇかよ。言っておくけど人一倍感情豊かだからな? 流石にずっと罵声を浴びたら本気で泣くよ?」

「店長さん、流石の私もそれは無理です。うん、本当に無理」

「俺が悪いの? 先にこの中にいたの俺なのに、その後に座ってきたの嬢ちゃんなのに」

「ゲルジッドさん、そこじゃなくてずっと隠れていた事に問題があると思うんですけど……それにいくら木箱の中とはいえ女性の真下から声をかけるのはどうかと」

「ライラお前もか!? くそっ、ここ俺の店なのに敵しかいねぇ!」

「ラーイーラーくぅん! 私汚されちゃったよぅ! だからお嫁に貰ってぇ!」

「ええええええええっ!? と、トリイトさん!?」

「あっズルい! だったら私もお願いしますライラさん!」

「ネメシーさんも!? なんでっ!?」


 僕含めたこの場にいた全員がゲルジッドさんに非難の言葉を浴びせる。

 それに対するゲルジッドさんも少なからずショックを受けたようだけど何故か矛先は僕へ。

 トリイトさんが飛びついてきて、それに続くようにネメシーさんも抱きついてくる。

 柔らかい…じゃなくて! こんなこと昔もあった気がするんだけど!


「おーおー、モテモテだねライラこの野郎。だがお父さんは結婚なんて認めないからな! ライラが欲しければせめて安定した職を持てこの浮浪者共が!!」


「ゲルジッドさんまで!? 何言ってるんですか!?」

「むっ!? ちょっと聞いたネメシー?」

「はい! しっかりと聞きましたよトリイト!」

「え? え?」


 何故かゲルジッドさんまで妙な悪乗りをする。

 どうぐ屋の店長が、冒険者で大事なお客さまに浮浪者なんて言っちゃ駄目だと思うんですけど!

 それにカチンときた2人が僕から離れてゲルジッドさんに対峙してしまう。


「今の言葉は聞き捨てならないなぁ変態店長!」


 ゲルジッドさんを指差すついでに罵倒するトリイトさん。


「それは違うと真っ向から否定させてもらいますよドスケベ店長さん!」


 それに続くネメシーさんは丁寧な汚い言葉でゲルジッドさんを罵倒する。


「言っておくけど冒険者で浮浪者なんてものは過去の話! 今の私達には明確な職と目的、それに大義名分がある!」

「そうは言っても生活に劇的な変化はなく、外に出れば今も野宿で2人旅。それなのに危険は減らないどころかむしろ増えました!」

「それでもどんなに過酷になろうとも私達は夢を諦めない!」

「だって世界には私達の助けを待っている方達がいるのですから!」

「そう! 私達は困っている誰かを助ける救世主!」

「その名は各地に轟き正義は味方し悪は怯える!」

「獣人のトリイト!」

「ドワーフのネメシー!」

「二人合わせて!」

「超一流賞金稼ぎ! トリイト&ネメシー!!」


 昼下がりのどうぐ屋でいつかと同じように一糸乱れぬ口上の後に華麗に決めポーズを決める二人。

 え、ていうか待って、ちょっと待って、え?

 賞金、稼ぎ?


「どういう事ですかっ!?」

「うぇっ? ライラ君?」

「どうしてライラさんが驚くんですか?」

「驚きますよ! え!? 何!? どういう事!? 僕聞いてないんですけど!? 賞金稼ぎってなんですか!? 二人は冒険者じゃないんですか!?」

「んー、あー、転職したの! どうも賞金稼ぎのトリイトです」

「同じく賞金稼ぎのネメシーです」

「今更自己紹介しても遅いです!! どうして言ってくれなかったんですか!?」

「だって、心配させたくなかったし」

「そりゃしますよ! だって確実に自分から危険に向かう職じゃないですか!!」

「確かに、そうなんですが。理由、聞きます?」

「え? あ、はい…聞かせてくれるなら是非」


 突然変わった雰囲気に僕は少しだけ怯んでしまう。

 それと一緒に、踏み込みすぎてしまったのではと思いながらも理由が知りたいのでお願いをする。


「んー、そうだねぇ。やっぱりいくら実力があったって私たちは冒険者だったからねー」


 頬を指で掻きながらトリイトさんが口を開く。


「それと同じように、私たちは女でもありました」


 そしてそれに続くネメシーさん。


「例えばいくら冒険者として名が売れたって、世間からはやっぱり良い目では見られないんだよ。私たちも結構有名にはなったつもりだったんだけどさ、それが逆に嫉妬の目で見られたりね。知らない人から見たら色んな場所を転々としているだけなのに自分より稼ぎが良いとか、そういうの。まぁそれは冒険者ってより、一般の関係の無い他人だけどね。だから別に畑違いですって気にしてない……っていうのは嘘だけどそこまで気にはならなかったかな」


「ですが同業、同じ冒険者からの声は無視できませんでした。やはり冒険者が世間から荒くれ者と思われる原因の一つが、腕っ節に自慢のある男性が多いという事でしょうか。私たちの知り合いにも女性の冒険者はいますけど、男性と比べるとその数は圧倒的に少ないです。ですからトリイトと同じように私たちのような女性だけの冒険者が名を上げると決まって言われてしまうんですよ、女の癖に、と。別にそれだけなら良いんですが、単細胞な頭をしている冒険者の方って同じように強さを持っている異性にはどうしても惹かれてしまうようで、求婚してくる方や無理やり言い寄ってくる方もかなりいました」


「流石の私たちもそのダブルパンチには参っちゃってねー、さぁどうしようかと悩んだんだよ」

「解決したのは本当に小さな出来事ですが、悩んだ期間は長かったんですよ」


「それで悩みに悩みぬいて、あるきっかけがあって私たちは賞金稼ぎの道に入ることを決めたんだ。最初に言った冒険者の悩みの一つを解決できるからね。確かに今までは向こうも私たちもお互いの事を知らなかったからね、冒険者と普通に生活している人。それを分かってもらう職って事でちょうど良かったんだよ、賞金稼ぎは。普通に生活している人が魔獣だったり極悪人だったり、とにかく自分の力では解決できない何かに困っている。それを助けることで言い方は悪いけど私たちはお金を貰って生きていけるし、相手も冒険者だった時とは違った目で、尊敬と感謝の視線で私たちを見てくれるからね。さっきは軽く強がって見せたけど、それだけでも大分楽になったんだぁ」


「そしてやはり賞金稼ぎというぐらいですから、賞金が掛かった何かがいるんですよ。それは多くの方の手に負えないからお金が発生するんです。私たちが解決するものの賞金が高ければ高いほど、私たち自身の実力も簡単に周囲に知らせる事ができるんです!女の癖になんて言われなくなりました、自分の実力さえも知らない単細胞にも言い寄られなくもなりました。まぁ、ちょっとやり過ぎて普通の冒険者からも少し怖がられてしまっているんですが、昔に比べればマシです」


「そんな訳で無事私たちは賞金稼ぎとして成功したって事」

「確かに危険な事ばかりですが困っている誰かを助けられた時の達成感は素晴らしいんです」

「…………」


 心からの想いを込めて二人は話してくれた。

 どうしよう、何て言ったら良いんだろう。

 返す言葉が見つからない。

 三年前、このお店で働き出してから最初に出会った二人は冒険者として世界へ旅立って、だけどやはり世間の目、周囲の目というのは厳しくて、それに悩んで悩んで出した答えが賞金稼ぎ。

 絶対に危険は増えたのだろう。

 だけどそのおかげで、危険だからこそ彼女達は救われたのかもしれない。

 それは僕に話してくれた二人の、今の笑顔を見れば誰だって分かる筈だ。

 けどだから、僕は何を言って良いのかが分からない。

 二人は自分たちの問題を自分たちで悩んでそして解決した。

 自分達の力だけで何かを変えられた、変われた彼女達に、僕がかけられる言葉なんてあるのだろうか。

 ……いや、そうじゃない。

 二人はこうして辛い事も含めて自分の想いを伝えてくれたんだ。

 それに対する答えを、綺麗な言葉を探して、それを口にして何になるっていうんだ。

 下手でも、拙くても僕の言葉で、感じたことを伝えないといけない。


「えっと! その……ごめんなさい!!」


 そう言って僕は頭を下げる。


「ライラ君!?」

「ライラさん!?」


 すぐに頭を上げる。

 そして言うんだ、しっかりと、相手の目を見て。


「お二人の気持ちも考えないで、僕だけの感情で深くまで聞き込んでしまって本当にごめんなさい!ですが、お二人の話を聞いて、その、とても立派だと思いました! あの、えっと上手く言えないんですけど、その、知ったような事を言うなって思うかもしれないんですけど! お二人がいたから救われた方が大勢いらっしゃると思うんです! それはとても素晴らしいと思いました! けど、でも! お二人が危険な目にあってしまうのは正直、とても心配です! 僕はその、商人ですからこうしてどうぐを売ってささやかなお手伝いしかできないんですけど、あの……どうか死なないでください!! そしてまたこのお店に来てください! お客さまとしてでも、手伝いとしてでも良いので!その……お願いします!!」


 そうしてもう一度、頭を下げた。

 伝わった、のだろうか?

 自分でも途中から何を言いたいのかが分からなくなって、だけど言いたい事は全部言えた、つもりだ。

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