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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第3章 デジャブのような登場
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◆26 誘い

◆26 誘い



「おかえり」


「……ただいま」


 6時間目が終わり、そのまま寄り道せず明は帰宅。

 どこにでもありそうな普通の玄関を開けた先には、まるでラスボスかのように腕を組み待ち構えていた“テンシ”がいた。

 半分忘れかけていた存在がいきなり現れたことに、明は虚を突かれる。

 

「突っ立ってないで、入りなよ」


 だが、そんな明を無視して“テンシ”は組んだ腕を解き、手招きをする。

 自分家なのに、不法侵入で得体のしれない“テンシ”に従い、中へと入る。

 少し遅れて、支えを失った重たい扉ががガチャンと音をたてて閉まった。


「やーやー、お疲れ様。学生さんはいつもいつも大変だねー。で、いきなりで申し訳ないんだけど、お話がありましてー。ちょっと時間がないからね。あ、あと面倒だから、説明省くよ」


 真夜中にした自己紹介の時のようにべらべらと流れる言葉を、受け取りつつリビングへと足を運ぶ明。

 その後ろについていきながら、まだ口を動かす“テンシ”

 

「まあ、時間がないって言っても刻一刻を争うってわけじゃないし」


 自分の世界へと浸かる“テンシ”の言葉に微妙に頭が付いていけず、分からないままなんとなくで言葉を拾い続ける明。


「ほら、なんて言ったっけ? 明ちゃんが嫌いな先生」


「西? ……それがどうしたの」


 会ってまだ一日すら経過していない“テンシ”にいきなり『ちゃん』づけで呼ばれたことに少し眉をひそめつつも、訊ねられた名前を答える。


「そうそれ」


 人をそれ呼ばわり。


「そいつ消したいよね?」


「は?」


 肩から鞄を下ろし、床へと置こうとした右手が開かれ、どさりと重力に従い落ちた。

 いきなりすぎる急展開な言葉。

 頭が理解することをやめ、フリーズしてしまう。

 固まった明に苦笑しつつ、もう一度口を開いた。


「消したいよね」


 クエスチョンマークのつけられていない言葉。

 さすがに2回目の言葉で、なんとなくだが今いる自分の立場を理解する明。


「ああ、とは言っても、本当に消すわけじゃない。存在を残したまま、外部の絶対的な力で二度と視界に入らないようにするだけ」


「絶対……」


「そう、偶然も奇跡もなにもない。絶対」


「ふーん。……それで?」


「それで? うれしくないの? おいしいお話だと思うけど」


 “テンシ”は自分が予想した明の反応と大分ずれがあることに驚く。

 だが、結局明は明であった。


「いや、おいしいよ。それなら罪悪感とかなさそうだし。でも……」


「でも?」


 やっぱりそういう系は嫌だ? と首をひねる“テンシ”

 明はくすりと笑い、目を細めて言った。


「代償は何?」


 斜め上を行った言葉に今度は“テンシ”が虚を突かれる。

 なぜそんなことを、と表情が語る。

 だが、すぐに表情を笑みに変える。


「誰から?」


「聞いたわけじゃないよ。ただ、こんなぶっとんだおいしい話には代償はつきものでしょ?」


 肩をすくめながら、すらすらと言ってのける明。


「ああ、漫画? いいの? 社会的に漫画の意見を人生に組み込んでも」


「漫画で人生変える人とかめずらしくないでしょ。スポーツものとかとくに。適当だけど」


「ふーん」


「それに、今の光景がファンタジーだからね。漫画で適応しないと」


 明の目には、外に出れはどこにでもいそうな格好をした普通の人間に見える存在が、羽もなしに空中に浮く光景が広がっていた。




***




 場所は変わって、2人が出会った場所である明の部屋。

 制服姿から部屋着にチェンジした明は、ただいま“テンシ”とにらめっこ中。


「チェカと同じであんたも頑固だね。天使って全員そうなの?」


 不機嫌な顔で、ベッドに腰かけた明が思うままを述べた。


「ははは、違うよ。人間と同じでいろんなのがいるよ。まあ、似てるのは同じ波動だからかもしれないけど」


 明に対して、目の前にくるくる回る座椅子に足をのばして座る“テンシ”が乾いた笑いで返す。

 が、流れた言葉の一点に、明が止まる。


「同じ波動?」


「あれ、もしかして知らない?」


「いや知ってるけど」


 ちょこっとだけ、と付け足す。


「同じ波動って、どういうことだよ」


「だから、そのままだけど」


 明の言葉の意味が汲み取れず、目をぱちぱちさせながら答える。

 だが、何も分かっていない“テンシ”へと声を2つくらい上げる。


「会話としておかしいだろ。チェカとお前の話をしてるのに、なんでいきなり私とチェカの波動が一緒とかになるんだよ」


「ん? ……ああ、なるほどなるほど。私ちょっとうっかりしてた、ごめーん」


 ようやく合点がいったのか、顔にテヘペロんちょ、とふざけたことが書かれた表情をする“テンシ”

 だが、そんなことで引き下がらない明。


「どーうっかりが転んだら、そうなるんだよ」


 こいつ馬鹿、と決めつけたあきれ顔で会話を延ばす。


「んー。まあいっか、別にばらしても。あのね、私もあなたと同じ波動の持ち主なんだよーん」


 まるで真剣みのない態度にちょいとキレ始めつつある明。


「……誤魔化しとかいいよ」


「あれ、本当なんだけど」


 明の溜めた声に微妙に焦りをみせる“テンシ”


「チェカが一人につき天使一体とかいってだけど」


「むー、それが嘘かもしれないのに、目の前にいる私をうそつき呼ばわりですか」


「お前よりは、……信用できるし」


 いきなり消えて一か月放置されてるけど、という言葉を無理やり頭から出す。


「あっそ。まあ、どっちも嘘ついてないよ。お一人様一体限定なのも、私が明ちゃんと一緒なのも」


 めんどくさそうにこたえる“テンシ”

 いつのまにか、ふざけた態度が飛ばされていた。


「矛盾するだろ」


「私は特別なの」


「証拠は?」


「証拠って……。あ、料理できる」


 ぽんっ、と手を打ちながら答える。

 

「あ、」


 明は知っていた。

 チェカが、天使が、料理が存在的にできないことを。

 なるほど、と自分で納得すると同時に、今日の昼放課のことを思い出す。

 今言うかと少し悩んでから、口へと流した。

 まったくもって、今言うタイミングではないのだが。


「弁当美味しかった。ありがとう」


「おっといきなりの変化球。喜んでくれてなによりだけど」


 突然のありがとう。

 さすがにこの流れに驚く。

 だが、喜んでくれたことがよほどうれしいのか、先ほどまで見せていた、どこかツンとした表情が消えていた。


「で、戻すけど」


 ばっさりと空気を断つかのように、手を打った。


「えー」


「代償ってなに?」


「だーかーらー、ないよ」


「あるけど内緒にしてました、っていう顔をさっきしてたでしょ」


 目を細める明。


「違うし、明ちゃんの会話に乗っただけだし」


「言え」


「ない」


「じゃあ仮にあったとして」


「仮もなにもない!」


「じゃあ、なんでさっき『誰から』なんて言ったの?」


「……」


 ぐ、っと黙ってしまう。

 実を言うとさきほどからずっとこれを繰り返していたのだ。

 もう何十回、似たような会話を回し続けてた。

 そして、折れたのは“テンシ”だった。

 少し目玉をきょろきょろと動かす。

 言う内容をまとめているのだろう。


「いや、んー。じゃあ言うけど、広めないでね」


 目力と一緒に訴える“テンシ”

 やっと観念したか、と明が心の中で息を吐く。


「何?」


「今回やろうとしてるのは、契約で動くことだから、普通なら代償を頂くんだよ」


 ほら、と口からこぼす明。

 だかその2文字を否定するように、でも! と、声をあげる。


「・・・・・・でも、まだ私明ちゃんとリンクしてないし」


「してないの?」


「うん」


 していたと思い込んでいた明は、その告白になぜという疑問が浮かび上がるが、質問するよりも前に会話が流れる。


「だからでかい契約は必然的にできないし、どう転んでも明が代償を払うことはないの」


「じゃあ、私が払わない分誰が?」


 なぜより、目の前にあるそちらのほうを優先し聞いた。


「べつに人からもらわなければいけないルールじゃないし、今回のは」


「つまり物を納めようって話・・・・・・」


「そういうこと。これあんまり知られてないし、頻繁に使われたら使えなくなるから、広めたらだめだよ」


 改めて広めるなと言いつけるセリフ。

 だが知られていないそれをなぜ――――。


「なんでお前知ってんの?」


「博識だからー」


「嘘くさい」


 ひどっ、と声を漏らす“テンシ”

 まあ頭よくないけどね、と続けた。


「知ってるのは代償が重くならないように、ものすごく探した結果だよ。こんなぎりぎりになっちゃったのも、大変だったからで」


「ギリギリ?」


 明は帰宅したときに交わした会話をぼやけてはいるが、思い出す。


「そーなんだよ。期限付き。今日じゃないと、いつ来るかわからない次を待たなきゃならなくなるよ」


「それを早く言え」


「言ったよ。早くしないと、って。でも着替えるとか言って放置するし、そんで代償は? って繰り返すし」


「・・・・・・」


 さすがに黙る明。


「で、どうするこの話。10分くらいなら待てるよ。気持ちが揺らいでたら意味ないからね」


「いや、いい」


「そう。なら――。乗るならこの手をとって。今度は触れれるよ」


 明の手は、冷たいその手の上へと乗せられた。

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