◆25 お弁当は意外とおいしかった。
◆25 お弁当は意外とおいしかった。
4時間目終了の鐘がなる。
号令が終わり、教室の空気は一変する。
はやい話が、昼食の時間になったからだ。
弁当箱を持って廊下へと移動する姿や机を移動させる姿。
明を含めた3人は後者のほう。
いつものように3人でかたまり、弁当を広げる。
「あーあ、さらに寒くなったよね」
「ストーブの近くの席の人がうらやましいです」
「日直回ったからすぐ席替えするだろうね」
「来週の月曜日ですかね?」
「道徳だしね」
由奈と沙耶がおかずを口に運びながら、いつものように会話が流れる。
TVの話、テスト勉強の話、部活の話……。
シンプルな世界に生きる、いや生きていた明にはあまりついていきづらい話。
そんなものが目の前で繰り広げられるのが、いつもの光景。
もちろん2人だけの世界であり、明はそこに存在するだけ――なんてことはない。
ふつうに混じっていた。
別に合わせようとはしていないし、2人も無理に合わせようとはしていない。
ただ相槌をうちリアクションを取るだけだとしても、それも立派な会話だ。
それができるようになっただけでも成長もんだ。
まあ、少し修正すると、最近は受け答えもできるようになった。
口下手ではないのだ。
ただ、人との距離を測れない、つまり人づきあいがうまくない。
小学校時代はこれといった友達はいなかったからだ。
人づきあいが今以上に本当に下手で、しゃべる相手がいただけでも拍手ものだろう。
が、中学にあがる際、引っ越したために、しゃべる相手すらいない状況。
社会的に死んだなと自分に笑った。
だがその日の帰り道、由奈と沙耶に話しかけられた。
ものすごく嬉しかったのは内緒だ。
さて、短い回想はこのへんで終わろう。
戻って昼休み――。
「もーらい♪」
ななめ前から不意に伸びてきた箸に反応できず、弁当箱に入っていた卵焼きが窃盗にあう。
「あ……」
遅れてこぼれる一文字。
「由奈さん、欲しいのなら一言断ってからでないと」
「ふっふっふ、油断しておる明が悪のでおじゃる」
わけのわからないキャラに変身する由奈。
そんな姿にあきれ顔の沙耶。
明がそんな2人を見て小さく笑う。
「よかったら、沙耶も食べる?」
差し出す弁当箱。
沙耶はちょっと戸惑いつつも、頂きますと小さく遠慮がち箸を伸ばした。
「うわっ、なにこれ」
驚いた声をあげる由奈。
その声に明の頬がひきつる。
もしかしたらたまに入ってる、あきらかに味見のされていないヘンテコリンな物質。
たとえば、魚臭いマヨネーズ味のまっずい卵焼きとか。(過去に体験済み)
「ご、ごめん。不味かった!? マジで吐き出していいよ。たまに入ってることあるんだけど、すっごいまずいおかず。まじでそんなもん食べさせてごめん。お、お茶飲む?」
あわてた声が教室中に広がる。
わずかに集まる視線。
だが、そんなに気にもしていられる状態ではなかった。
血の気がどんどん引いていく。
だが、由奈の口から出た返しの言葉、予想をぶん殴るものだった。
「いやいや、逆だよ。おいしすぎ。ふつうにびっくりした」
WHAT? そんな文が頭の中で流れる。
「そ、そう。無理しなくても……」
「無理してないしてない!! 自分でも食べてみなよ!」
「本当ですね。とってもおしいです。おせじ抜きでこの卵焼きおいしいです」
2人に言われるがまま、卵焼きを口に入れる。
おいしかった。
今まで食べたものの中で。
明は今まで外食なので、ちょっとお高いパスタや肉を食べたが、そんなものと今食べた卵焼きは、おいしさの次元が違った。
おいしい、という4文字ではたして表していいのか、それすらも疑問になる代物だった。
「なにこれ……」
かってに口から言葉がこぼれた。
食べたことなかった。
こんなもの知らなかった。
母親の味ではなかった。
明の母親は、料理の腕はふつうよりやや劣っていた。
ひどい時は本当にひどい。
もちろん、もう長く料理を作っているので、まずいのはあまり食卓には出なくなった。
お弁当にもあまり入らなくなっていた。
だからこそ、人に弁当の中身をあげるということがどれだけ危険行為が忘れていた。
が、今日の弁当はどうだ。
普通以上どころの話ではない。
完全にこれは母親が作ったものではないと、明はわかった。
では、誰が――。
ふと、朝の光景が流れる。
手渡しされた弁当箱。
あの“テンシ”に。
チェカと同じように、夜中に不法侵入してきたあいつ。
今日の朝、全力疾走する私についてきて、HR中に見えないことをいいことに空中で爆笑していたあいつ。
もしかして、あいつが――。
いやでもまて、天使は料理は……
「どうしたの明? 卵焼きのおいしさにフリーズしちゃった? たしかにそんぐらいおいしかったけど」
「へ! あ、いや。うん。ごめん。自分でもびっくりして」
頭の中でぐるぐる渦巻いていた映像が弾け消え、我に戻る。
が、そんな態度に沙耶が、あれ? と首をひねる。
「明さんもびっくりしているということは、いつもこの味ではないんですか?」
「言われてみれば、明が驚くのは変だよね」
「う、うん。うちのお母さんはその、あんまり上手じゃない。これは――」
まとまっていない頭で、動くがままに口を動かしたが、はと気づく。
なんて言えばいいのか。
家族でもないあの“テンシ”を。
まさかバカ正直に、夜中に入ってきた天使が親切にも私のために作ってくれた、などと言うわけにいかない。
言葉のつまった明に、首を傾ける由奈と沙耶。
まずいと気づき、頭をフル回転させそれっぽい嘘を作る。
「母さんの代わりに、知り合いのお姉さんが気をつかって作ってくれたんだよ」
「へー、いいな。こんなおいしい料理が作れる人ってことは、彼氏いたり?」
「なんでいきなりそんな話に飛ぶんですか。まったく由奈さんは好きですね」
「えー、いいじゃん」
「いないと思うよ彼氏」
天使だし。
いや、天使でもそういうのいてもおかしくないかもしれないけど、なんかあの“テンシ”はいなさそうだし。うん、いないと思う。
勝手に決めつける。
「なんだー。デートとかそういうの知りたかったのにー」
「その人はいくつなんですか」
人じゃないけどね。
と、心の中でツッコミを入れる。
「20ぐらい……かな」
適当ですけど。
正直、天使の年齢って何百歳ってイメージがある。
「若いですね」
見た目がね。
実年齢もそうかもしれないけどね。
「何してる人なの」
天使です、とか言うわけないだろ! と自分に叫ぶ。
話題を変えなければと、冷汗をかけながら頭を動かす。
「えっと知らないや。……そういえば由奈ってお姉ちゃんいたよね。20ぐらいの」
「うん、20……3だっけ?」
「自分の姉の年齢ぐらい覚えといてくださいよ」
「えー。沙耶は一人っ子だっけ?」
「ええ。明さんもですよね」
「うん」
「姉妹がいるの私だけか」
話題がうまく切り替わりほっと胸をなでおろす明。
そのまま、いつものように会話が弾み、いつものように昼休みが終わりを告げた。
本当に更新ほったらかしにしてしまいすみませんでした。
これから先、よくあると思います。
できるだけがんばりたいと思います。
四か月以上も放置しておいて、なにをいうんだという話ですが。
次話の投稿予定は、今月中を目指しています。




