祠と筋肉と破壊神と――ジジイ「お、オメェあの祠を壊したんか!? あの、破壊神が封印された……千年何者にも破れず如何なる攻撃も弾き返し核の威力にも耐えうる究極堅牢の祠を……しかも素手で!!」
「ウム」
「……!! ハア、ハアッ……そんな、まさかっ……っ、も、もう一度、聞くぞ……オメェ……オメェ!!」
そこに直立するは、遠くから見れば大岩の如し、近くで見ればそびえ立つ山の如し、筋骨隆々の大男――そんな怪物じみた巨漢を前に、老人が今一度、問う。
「あの、破壊神が封印された……千年何者にも破れず如何なる攻撃も弾き返し、核の威力にも耐えうると噂される、究極堅牢の祠を……壊したんか!? しかも! 素手で!!?」
「ウム」
「そんな、そんなバカなっ……あの祠は破壊を防ぐため、敵意を向けるだけで対象に呪いを及ぼし、一説によれば即死すら及ぼすというのに……そんな祠を!!?」
「……………………」
「更には防御のみならず、現代科学の粋を集めて補強され、近寄る者を瞬きの間にハチの巣に、触れれば爆発によるカウンターを喰らわせ、もはや周辺は荒野と化すほどの攻撃能力を有す……あの、祠をっ!!?」
「……………………」
「ハアッ、ハアッ……ハアーッ、ハアーッ……っ、ゴクリッ……」
「……………………」
「――――更にッ!!!」
「フンッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「ヒッヒイイイイッ!? 拳の一撃で大地を割るとは、何と恐ろしい膂力!?」
なんか黙っていたらどんどん足されていきそうだな、と察したかのように一撃を繰り出した大男は、さすが、と言えよう。
さて、大男の一撃に老人が腰を抜かしていると――その時。
『……ククッ、アハハッ……どうやら封印が解かれたようね――?』
「!? ヒッ……あ、あれは……千年前に祠に封印された、破壊神!?」
中空に浮かぶは、見目は麗しき美女、されど起伏に富んだ肢体は、明らかに人ならざる巨躯――破壊神と呼ばれし存在が、とうとう現世に顕現した――!
「あ、ああっ、もうおしまいじゃア……千年の封印が、破られてしまった……世界はもはや、滅ぶしかない……!」
『ウフフ、わかってるじゃない♪ さあそれじゃ、まずは手始めに、有象無象の人間どもを始末して……あらっ?』
「……………………」
が、人並外れた筋肉隆々の巨漢が、地上より破壊神と真っ向から対峙する。
人間の身でありながら、破壊神たる美女と、あまり遜色のない体躯というのも異常ではある……が。
「ハアッ、ハアッ……か、勝てるわけがない……いくら何でも、破壊神を相手に人間が、太刀打ちできるわけがないィィィ……もう世界は終わりじゃあァァァ……!!」
そう、老人が危惧する通りであろう、相手は人外の理を持ちし存在。
それでも、嗚呼、それでも、大男は人間を守るため、立ちはだかるというのか!
片や世界を滅ぼす力を持ち、千年の眠りから覚め――祠に封印されていた破壊神。
片やただの人間に過ぎぬ、筋骨隆々なだけの――祠を(素手で)破壊した大男。
この戦いが、どのような結末を迎えるなど、分からない。
――全く全然これっぽっちも分からない――!
~~~~ 10秒後 ~~~~
『ひっ、ひいいいっ……ま、参りましたぁ……世界なんて滅ぼしたりしませんから、見逃してください~~~……』
「ウム」
どうなるのか本当に、全く全然これっぽっちも分からなかった戦いだが、結果のみを言えば大男の勝利と相成った。具体的に言えば、拳圧のみで天空の積乱雲を吹き飛ばして見せた時点で、破壊神は腰を抜かして少女のように震えている。
千年間も祠の封印を破れなかった破壊神と、素手で祠を壊した大男とでは、勝負の結果は火を見るよりも明らかであっただろう(火のように熱い手のひら返し)。
さて、かといって放っておけば世界を滅ぼしかねない、そんな破壊神に――しかし大男はそれ以上に追撃などせず、岩石の如し拳を下した。
すると、老人が。
「!? な、なぜです、なぜトドメを刺さんのです!? ハッ、まさか……破壊神などの血で大地を穢すなど、耐えられぬとか、そういう……!?」
「……………………」
「!? ち、違うのですかな!? では……なぜ、なぜなのです!?」
「……………………」
「な、なぜです、なぜお答えにならぬっ……ま、まさか……この恐るべき破壊神に、温情などかけるおつもりで――!?」
「ウム」
「なるほどなるほど、会話の仕方が分かってきたぞい♪」
楽しんでんじゃないよジジイ。
……さて、それはともかく、温情をかけられるなどと聞いて、少女のように震えていた人ならざる破壊神が、大男に恐る恐る問いかける。
『……あ、あ、あの……ほ、本当にわたしのこと、倒したりしないんですか?』
「ウム」
『あ、あわわ……あの、でも何で、その……わたし、自分で言うのも何ですけど、破壊神なんですよ? まあアナタに負けちゃいましたけど……いいんです?』
「…………ウム」
『な、なんでそんな、わたしなんかを……破壊神なんて、忌み嫌われて当然の存在なのに……な、なんで、ですかっ?』
「……ウムぅ」
倒されないなら倒されないで、逆に不安がる破壊神と、寡黙な大男――
に、老人が言葉を告げた。
「もしや、この破壊神が美しいから……惚れてしまったとか、そういう話で?」
『……は!? な、なに言って……そんなわけないでしょジジイ! そ、そうですよね? ……あれ?』
「………………」
『あ、あの、何で黙って……いえまあ、ほぼ黙り気味でしたけど。……ま、まさか、その……本当に?』
おずおずと、けれど微かに頬を赤らめ、美しき破壊神が問いかける、と。
山のような大男は――その岩石の如き全身を、ほんのりと赤熱させて呟く。
「……う、ウム」(赤面)
『……!! ぁ、ぇ……そ、そうなん、ですかっ……』
「ヒューーーッ!! ヘイヘイご両人、お熱いのう~~~!?」
『ジジイうっせぇ!! ……あ、えと、その……』
つい破壊神味(?)が出てしまうも、彼女がもじもじしていると――大男は無造作に背を向け、ずしん、ずしん、と人間味に欠ける足音を鳴らし、遠ざかっていく。
『えっ、あの、どちらへ……まさか、もう行かれるのですか?』
「ウム」
『っ。……あ、あの! なら、どうかわたしも……連れて行ってください! わたしのような破壊神と、対等どころか……力一つで圧倒できる存在なんて、あなたしかおりません! わ、わたし……一緒にゆきたいです!』
「………………」
暫しの沈黙、固唾を呑んで返事を待つ破壊神――彼女にとっては千年の永劫とも思える、ほんの短い時を経て、大男は答えた。
「ウム」
『……! あ……ありがとうございます! では……参りましょう!』
「ふぉっふぉ、やれやれ、仕方ないのう? 賑やかな旅になりそうじゃ♪」
『なんでジジイもついてくる気なんだよ。変なこと叫んでただけだろジジイ』
「ふぉっふぉ、そうは言うが……わしがおらんで、この御仁と、どうコミュニケーションを取るつもりじゃ? 寡黙な方じゃ、〝ウム〟と〝フン〟以外は発するまい……わしがおればスムーズじゃて、そうでしょう?」
「………………」
老人……もうジジイでいいや。ジジイの問いかけに、大男は――
「……べつn」
「ウッウワアアアアアアアア!! シャッ、シャベッタァァァァァ!!!」
「………………」
『ジジイうっせぇ!! ああもう、何なのコイツ、意味わかんないんですけど!』
「………………」
こうして、時は乱世――という訳では別にないが。
祠を(素手で)破壊した大男と。
千年の封印から解き放たれた、破壊神の美女。
そして、ジジイの――奇妙な三人の旅が。
始まるかどうかは、全く全然これっぽっちも、分からないが。
まあとにかく。
「フンッッッッッッッッ!!!!!!!!」
『キャーーーッ!? 大地が裂けて、水が流れ込んで、新たな河が生まれたんですけどーーーっ!?』
「ヒッヒイイイ!? 恐ろしや、恐るべき……筋肉の奇跡じゃあああ!!!」
……彼らが奇特な連中である、それだけは、疑いようはないだろう!
~ 筋肉★End ~
すまん(謝意★)




