【かの箱別ライン】04-02《月影ノヴァ①百郎ッさァん!!!!!!-B》
私、月影ノヴァ。
みんながよく知る誰かとは別の世界線を生きる、
よく似た他の誰かだって言ったら
笑う?
谷尻:そこが、またこの子の強みというか。
────そうですね、私ももう、かなり分かってきました。
谷尻:やっぱり?
────はい、まず「歌が天才」。
谷尻:うん(笑)
月影:いやいやそんなことは……………
────歌は天才なのよ、ノヴァちゃんは。
月影:いや、そんなこと……………たくさんいますし、天才的な歌を歌う方。
谷尻:君のさぁ、上10才下10才ぐらいの範囲の若手のシンガーの子ってさ、いっぱいいるわけじゃない。
月影:?はい。
谷尻:その中で自分と性別が同じで、タイプも似た感じの子っていうのも結構何人もいるでしょ?
月影:え。は、はい………………います。
谷尻:その中の誰かに歌で負けてる気、する?
────なるほど(笑)
月影:え、、、、、、、、え?
谷尻:「露出の多さ」とか「紅白立ったかどうか」とか「テレビ出演が」とかそういう付加価値じゃなく、歌の実力だけで見て。
────する?負けてる気。ノヴァちゃん。
月影:え。しない、ですけど………………
谷尻:それを天才っていうんだよ!(笑)
月影:えぇー………………
────で、この「謙虚さ」でしょ?
谷尻:そう。普通調子乗るぜ?ここまで歌が上手くて数字も回って、金も儲かってて、ファンも物凄い数いて。
────若かったらね?
谷尻:そう、若かったら。20代ってそういう年だもん。
月影:そうなんだ……………
────私も若い売れっ子アーティスト今まで大量にインタビューしてきたけど、九割乗ってるね。
月影:へぇ……………
────それで訳わかんないこと言ったりやったり、研鑽することを忘れてそのうちいなくなっちゃう。
月影:そうなんだ……………
谷尻:まあこの子の場合それはないわけじゃない?
────ないですね、ここまで落ち着いてて、自分に厳しいと。
谷尻:でしょ?でも目的意識がなくて血圧が低いタイプなのかと言えば、
────そうでもない。音楽に身を捧げてて、燃える情熱もあって、誰よりも音楽の未来を考えてる。
谷尻:でしょ?しかも音楽の本質やここ20年ぐらいの音楽界の歴史にも詳しいのよ、この人。
────そう、私もこの道長いけど、多分私よりずっと………………
谷尻:でしょ?しかも正論を弁えてて、理論も完璧。
────〝ぬんっ!〟てやる、気概もある。
谷尻:そう、根性あるし、闘争心もあるし、「答えは自分の中から自力で見つけ出すもの」っていう、若い世代の多くが失った精神性を持ってるよね。それも僕らと同じか、それ以上の水準で。
────端的に言って、
谷尻:うん。
────いないですよ、こんな子。
谷尻:そう、分かってくれた?
────はい……………ちょっとなかなか見たことない、長くこの仕事をやってても。
谷尻:うん。
────こんな全てを兼ね備えた子。少なくとも、ここ数十年の日本音楽界の歴史の中には、一人も……………
谷尻:でしょ?だから今日この場に呼んだんだよ。
────はい………………
月影:………………
谷尻:固まってるな(笑)
────どう?ノヴァちゃん。今の聞いて、自分ではどう思う?
月影:………………褒められ過ぎて、
谷尻:うん。
月影:心臓が痛い……………
────心臓が。
月影:はい………………ドンドコいってる………………
────ドンドコいってる……………?
月影:………………はい。
谷尻:で、この可愛らしいキャラね。
月影:もーーーーー!やめてください!
谷尻:普通これだけ完璧なタイプだともっと嫌な感じになるじゃない?
────はい。ちょっと安心出来ない感じと言うか、親しみにくい感じと言うか。
谷尻:そう。それがこのふわっふわのキャラだからね。これもあり得ない部分だよ。
────うん。キャラは大事ですからね。
谷尻:そう。アーティストもぶっちゃけ最後はそれだからね。
────人間性の部分でどれだけ愛されるかっていう……………
谷尻:そうそう。それで世間にも業界にも味方を多く作ったもん勝ち。
────それは、この子が特に優れている部分でもありますね。
谷尻:でしょ?
────もしかしたらそこが一番の武器かもしれない。
月影:………………
谷尻:なんか両手で顔覆ってるけど(笑)
────顔も美人だしね?
月影:もーやめてくださぃ………………
谷尻:そうだよね。なんか綺麗だし、カリスマ性のある顔立ちというか。
────たゆんとした大きな目の、たぬき顔美人。
月影:いや美人じゃないよ……………
谷尻:あー、たぬき顔っていうんだ?こういうタイプ。
────はい。目が丸くて大きくて、垂れてるタイプの。
谷尻:へぇ。
月影:もっとクール系が良かったんです。
────ん?
月影:もっとこう、釣り目でシュッとした感じで、身長も顔の形も全体的に縦長な感じの、クールビューティーな感じに生まれたかったんです。
谷尻:いやいや、ないものねだりだよそれは。
────絶対今の方が可愛いよ。
谷尻:うん。
月影:そ、そうかなぁ……………
────お姉さん完全に今の方が好みだな。
月影:え。そ、そう……………?
────うん。めちゃめちゃ可愛い。飼いたい。
月影:ほんと………………?
────うん。好きだよ?すごく。
月影:………………えへ、じゃー良かった、こっちの顔で………………
谷尻:いちゃいちゃすんな、仕事の場で(笑)
────で、仲間にも恵まれてるわけじゃないですか。
谷尻:ん?あ、そうそう。それだよね、それが一番強い。
────全部兼ね備えてて、とてつもなく強くて、しかも絶対倒れない………………
谷尻:僕らの世代にはあり得ないことだね。強ければ強い分、売れたら売れた分孤立して危うくなっていくものだから。
月影:私もそこは物凄く強みだと思ってて、本当に恵まれてると思ってます。
────そう?
月影:はい。正直、恐いもの何もないですから、メンバーの子達がいる限り。
谷尻:命だもんね?
月影:そう、命。私の全てで、全部の原動力で、絶対に替えの利かないもの……………
谷尻:この人の箱自体〝チームで勝つ〟がコンセプトなところがあるんだよね。
────そうなんですか?
月影:はい。実際それで……………というかそれだけで他所の箱に対抗出来ているようなもので。
谷尻:だから、ね?今回その仲間達を守るシェルターの役割をする事務所を作ったと。
────そうか、守らないと自分がそもそも、
月影:そう、成り立たないから。もちろん仲間として好きで大事で、っていうのもあるんですけど、私の場合仲間が活動者生命を担ってるところがあるから、それで。
────なるほど。友情とか正義感を超えたものが。
谷尻:そう、もっと切迫したものがね。
月影:そうなんです(笑)だから、今回のことは結構自分のためのエゴ的行動でしかなかったりします。
谷尻:でもねぇ?そのエゴのためにもまた何億もかけてねぇ?
月影:そうなんですよぉ…………これがまた痛い………………
────あぁそう、結構お金かかったの?
月影:はぃ……………(笑)
谷尻:かかるよそりゃあ……………色んな大人呼んで裏方仕事全部その人達に任せて、事業計画も練らせて、日々回させて……………大変だよ。色々かかるよそりゃあ……………
月影:かかりましたね、結構びっくりするぐらい。活動始めてから今までで、一番大変な出費だったかも………………
谷尻:ねぇ?そうだよねぇ………………?
月影:あ……………でも。今の出来たらカットで(笑)お金の話、あんまりよくないから……………
────きついんだ?
月影:え、まぁ………………はい(笑)
谷尻:…………………
────聞くところによると、事務所の経営も少し厳しい状態にあるとか………………
月影:え、まあ………………はぁ。
谷尻:…………………
────大丈夫よ?カットするから。
月影:あ、そうですか。じゃあ、まあ、そうですね…………………やっぱり今一番懐事情が厳しい時というか。
────うん。
谷尻:…………………
月影:私個人もそうですけど、事務所自体が全体的に…………さっきお話したリークとか、炎上とか、色々なトラブルで結構本気で事務所が傾き始めていて。
谷尻:そうだよねー……………いちリスナーとして見てても分かるもん、君んとこの事務所今大変なことになってるの。
月影:はい、もう、結構事務所創設以来の危機というか………………
────そう、大変ね?
月影:はい………………そんな中結構奮発して出しちゃったので、もう、なんだろう。
────うん。
谷尻:…………………
月影:作ったはいいけど、回らない、みたいな状況ですね。回していく資金が今後捻出出来るかどうか…………みたいな(笑)
────あ、そう?
月影:はい、まぁ、厳しいですね。何とかここから立て直す方法を考えてかないと、みたいな感じで。
────辛いんだ?
月影:え?まぁ、はい、そうですね。結構………………
────うん………………辛い?
月影:………………え?は。はい………………?
────あそう。
谷尻:…………………
月影:………………?え、何?なんか……………
────…………………
谷尻:…………………
月影:百郎さんもなんか………………何?
────でもね、それもう大丈夫よ。
月影:はい………………大丈、夫………………?
谷尻:…………………
────解決したから。その、お金の問題。
月影:はい…………………えっ?
谷尻:…………………!
────うちが出すから、もう大丈夫よ。
月影:え………………えっ?
谷尻:きた?とうとう
────はい、きました(笑)
月影:え、何?どういう…………?
谷尻:やっぱさっき何かしてたのって、そういうことだったんだ?
────はい、まぁ。そういうことですね(笑)
月影:え……………?何が、どういう…………?
谷尻:あのね。
月影:はい……………?
────…………………
谷尻:この人の会社の『名足り。』っていうところはね、若い音楽家を育てる〝奨励枠〟みたいなものが昔からあるんだよ。
月影:は、い……………?
谷尻:君は今それに選ばれました(笑)
月影:えっ……………?
────…………………
谷尻:あれでしょ?さっきこの人、しばらく黙ってスマホいじってた時あったじゃん?
月影:あ、あの……………音楽談義してた時、
谷尻:うん。その時連絡したんでしょ?会社に
────はい(笑)
谷尻:で君を〝奨励枠〟に推挙した、と。
月影:え……………………え?
谷尻:うん。
月影:それって、つまりその、内容とかって、どういう……………?
────まずね、
月影:はい……………?
────今回の事務所設立にかかったコストがあるでしょう?
月影:え………………はい。
────10億か20億か分からないけど。
月影:え……………?
────でしょ?
月影:え……………4億、2千万、ちょっと……………
────あ……………そんなもん?
谷尻:いやいやいやいや(笑)
月影:え、はい……………
────それに5億上乗せした額を今日、個人事務所の方に振り込みます。
月影:え゛っっっ!!!!!!!!
谷尻:でたでた。でたよもう……………(笑)
────あとね、ノヴァちゃんがデビューから今までにリリースした楽曲って、結構いくつもあるでしょ?
月影:え……………あ、はい。ありま、す……………?
────あとライブも、結構何回もしてるでしょ。
月影:は、はい……………?
谷尻:高いんだよ、VTuberのライブって
────その全ての費用を今からこちらで立て替えて、個人事務所の方に支給します。
月影:えぇっ!!!!?
谷尻:もうほんっとに(笑)
────だから過去の分を全て遡って見積書をまとめて、送ってください。
月影:えっ嘘、嘘うそ………………
────急がなくていいのよ?欲しいタイミングで送ってもらえれば。
月影:う、嘘。嘘だよ、そんなの………………
谷尻:いやまだだよ。
月影:………………?
谷尻:………………で?その上でさらに………?
────今後の活動費も全額支給です。
月影:えぇっ!!!!!???
────何かでお金がかかるたびに明細を送ってもらえれば、都度支給していきます。
月影:えぇ………………
────何億、何兆かかろうと、あなたが引退するまで。
月影:………………う、嘘、
────あ、もしくは著しく人気を失うか、精神性を損なって正体を崩すか、薬物に溺れるか、原因不明の心不全で横死するか、等、するまで………………
谷尻:まあつまり、今のままであり続ける限り、永遠に。
月影:嘘だ、嘘だよ、そんなこと……………
────あ、忘れてました。あと。
谷尻:うん。
月影:………………?
────追加で7億の年棒が出ます。
月影:ひぃっ!!!!!????
谷尻:あぁ、あったね。それも
────はい。今言ったやつ全ての上に上乗せする形で………………もちろん今の事務所からもらってる分の上にも上乗せする形で、年棒が出るからね、ノヴァちゃん。
月影:ひっ、ひっ、ひぃ、………………ひぃぃ、い゛っ、い゛ぃ………………
谷尻:ああちょっと、危ないななんか。待とうかちょっと。
────可愛い、スカート全力で握りしめて。細い体でブルブル震えて。
谷尻:なんか、女子高の制服みたいな恰好だよね?
────高校のね。
谷尻:あ、そうそう。高校の制服みたいな服。
────えぇ。でも全然似合ってて、可愛い……………
谷尻:うん……………しかし懐かしいわ、この反応(笑)
────同じですか、ご自身の時と。
谷尻:もう全く一緒だね。嘘だ嘘だって連呼してたし、過呼吸一歩手前だったし………………あと「オマエラ僕をどうする気だー!」って、怒ってたね、なんか。
────時代を感じますね。
谷尻:確かに(笑)あの頃は怒るのがステータスだった。
────確かにそうでした、あの時代は。
月影:………………
────フリーズしてますね………………(笑)
谷尻:うん(笑)
月影:………………
────だ、大丈夫かな?
谷尻:まぁ、ほんと嫌だけど、僕も全くこの通りにフリーズしたわ。昔ここで。
────そうですか。
谷尻:うん、でどうしていいか分かんなくて、その後「オラー!」って……………まぁこうなるよね、若い子がわけ分かんない額の金急にあげるなんて言われたら。
────ハメましたね?(笑)
谷尻:うん………………えっ?
────この子、ノヴァちゃんをうちの会社に売り込んで奨励枠をあてがうためにセッティングしましたね?今日この場を。
谷尻:いやいやいやいや………………何?(笑)それ。
────………………
谷尻:いやいやいやいや(笑)………………バレる?やっぱり。
────はい。途中から褒めちぎったりお金の話ちらつかせたりで、分かりやす過ぎました。「言わそうとしてんなぁ」って、思ってました。
谷尻:まあ………………下手か。僕はそういうのが。
────はい、下手ですね(笑)
月影:………………
谷尻:でもいいでしょ?この子。
────はい、とても。
谷尻:うん。
────迷いませんでした、自分の奨励枠を使うの。
谷尻:そう?
────はい。ありがとうございます、引き合わせてくれて。
谷尻:うん。でもあれでしょ?
────?はい。
谷尻:まさかVTuberに使うと思わなかったでしょ、一生に一回の文化奨励枠(笑)
────それは確かに(笑)
谷尻:普通もっと正統派に使うもんだもんな?(笑)
────そう……………(笑)でもそういう意味でもありがとうございます。
谷尻:うん。
────引き合わせてもらわなかったら気付けなかったと思うから。完全にノーマークだったし、VTuberとか。
谷尻:うん。まぁ、業界人よりは音楽家の方が早く目を付けだしてる感あるかな、こっちの界隈には。
────精進します。
谷尻:うん。
月影:………………
谷尻:でも、君もそっくりだよ。
────そっくり………………何がです?
谷尻:僕が昔この話を受けた時に、そこに座ってこの話を僕に伝えた人に。態度も、喋り方も、言葉選びも。
────えー……………そ、そうですか?
谷尻:君あれだろ、傾聴さんの弟子みたいなもんだろ。
────えっ……………
谷尻:でしょ?
────……………
谷尻:でしょ?
────分かる、もんですか……………
谷尻:うん、そっくりだもん仕事の仕方から話の振り方から、言ってることまで何もかも。さっき連絡したのもあの人にでしょ?
────……………はい。
谷尻:やっぱり。連絡から決定までが早過ぎたもんな。このフットワークの軽さはあの人以外あり得ない………………
────向こうも、気付いてましたよ。
谷尻:………………なに?
────「そこに谷尻くんがいるだろう」って、言ってました。この話持って来たのも彼だろ、って。
谷尻:………………やな人だね、昔から。
────はい、それはもう。完全に同意します。
谷尻:読んでんだよ、多分僕がこういう席を設けるのも、何十年も前から。
────はい、そんな感じでした。人間味がないというか、底意地が悪いと言うか。
谷尻:ね?ほんとに………………何してるの?あの人今。
────うちのデスクです。
谷尻:あ、編集長?まだ現場?
────ですね。
谷尻:へぇ……………
月影:………………あの。
────うん?ノヴァちゃん。
谷尻:ほら見ててみ?言うよ?
────?何をです?
谷尻:コ…………?コ…………?コス…………?
────?
月影:コストは……………?
谷尻:ほら、全く一緒だから(笑)
────まあまあ(笑)
谷尻:これも20年前にこのタイミングで言ったから、僕ここに座って(笑)
月影:条件というか、代わりに私がしなければならないことって…………
────ないのよ、ノヴァちゃん。
月影:な………………そんなこと、あるわけ、
谷尻:ないんだな、これが。
月影:ヘ、ヘッドハンティングとか、そういうことでしょう?これって………………
谷尻:いやいや。
月影:私、仲間が命だから移動は無理です。変化にも、弱いし………………
────や、うち、メディア編集だから。ないのよ、タレント囲う部署とか。
谷尻:変化なんかされちゃ困るよねぇ?むしろ今のままいってくれないと。
────そう、今のノヴァちゃんに投資するわけですから。
月影:じゃ、じゃあ、絶対ド、ドドドッドッド、
谷尻:…………………うん。
月影:ドッキリ、だ。絶対。絶対、そう………………
谷尻:嘘じゃないし、ドッキリでもないよ。
月影:う、、、、嘘嘘、、、、
谷尻:こんなもんだよ、どこでも上の方っていうのは。
────まぁ確かに、それはそうですね。
谷尻:下の方は苦しいけど、本物になったらどこまでも無限に門戸は開かれる。そういうもんだよ、芸能って。
────いわゆる、あの〝ぬんっ!〟てやつ…………(笑)
谷尻:そうそう。適性があって、自分の人生投げ打ってて、最後に〝ぬんっ!〟までやったら誰だって本物になれるし、当たり前に結果も出れば、無限に門戸も開かれる……………所詮その程度の甘い世界ですよ。
月影:………………
────確認だけど、受ける?この話。受ける意志はある?
月影:あ、はい………………ある、あるりぃ………………ます、けど。
────うん。
月影:あの、会社の人達に確認しないと………………
────あ、そっか。やっぱり何でもまずは確認しなきゃだもんね?
月影:は、はい………………
────ママに。
月影:はい………………はっ!?
谷尻:マぁマ(笑)
────赤ちゃんだもんねぇ、まだ。
月影:ちゃ、茶化さないでください!まだわけ、分かってないんだから………………
────うん、ごめんね?
月影:お姉さんやだ、ドS過ぎ。さっきから、ずっと………………
────あら、嫌われちゃった?
月影:おっぱいもあんなに強調して、攻撃してくる………………
谷尻:なんか、シャツ窮屈そうだよねぇ?ボタンがはち切れそう………………もう1サイズか2サイズ上でもいいような。
月影:はい………………
────………………………ウ゛っウ゛ん、(咳払い)
谷尻:あれなんじゃないの?おっぱいを強調するのはドMの方なんじゃないの?
月影:いや、あの出し方は私に見せつけて〝おらおら、〟ってやってきてる感じ……………
────そ、バカな小娘を引っ掛けるためにやってるの。
月影:もぉーーーやぁーーーーだ!
────汚い声を出さない。出資する以上その声帯を粗末に扱ったら許さないわよ?
谷尻:……………ふぅん。
────大丈夫よ、あなたの事務所ぐらいだったらすぐ話つくから。
谷尻:あ、そう?いけそう?すぐ
────はい。小さな事務所ですし、歴も浅いし、多分周りに関係を築いてなくてバックに何もついてませんね。
谷尻:あ、そう。
────はい。
谷尻:一応、年商350億とか、売り上げる会社、なんだけどね……………
────所詮それだけですね。多分中身はガッタガタです。
谷尻:まぁ、そうか。だから内部情報のリークとか不祥事とか、色々起こってるわけで……………
────この後空いてるでしょ?ノヴァちゃん
月影:は、はい。
────この足で一緒にお宅の会社にいこう。そしたらお姉さん、五分で話つけるから。
谷尻:パワープレイだなぁ、相変わらず……………
月影:え、待って……………?分かんない、よく……………まだ頭、ふわふわしてるから……………
────うん。で、それが済んだら軽く食事でもしましょう。空いてるでしょ?その後も。
月影:え……………
────いいでしょ?食事ぐらいは。
月影:え、はい……………それは、全く、全然……………
────それが済んだら、頭ふわっふわの状態のお前を、ぐっちゃぐちゃに抱くわ。
月影:えっ……………?
────めっちゃくちゃにして、一回壊すわ、お前のことを。
月影:えっ……………えっ?
谷尻:乱れたなぁ、『名足り。』も。
────好きなんです、精神的ダメージを負って頭ふわっふわの状態の若い女をぐっちゃぐちゃに犯すのが。
谷尻:うん、分かった分かった。こっちに向かって言わなくていい。
────涙で濡れそぼったぐしょぐしょの顔をバックで犯しながらべろべろ舐め回して……………
谷尻:いや怖い!なんだ、なんなんだ君。
────いいでしょ?抱かれたいでしょ?お姉さんに。ノヴァちゃん。
月影:お姉さん……………そんな、
────うん。
谷尻:……………
月影:そんなことされたら、私、
────うん、うん。
谷尻:……………
月影:生まれ変わっちゃう、よ……………
────……………
谷尻:……………
月影:生まれ変わって、別の人間になっちゃう……………
────生まれ変わるのよ、ノヴァちゃん。
谷尻:……………
月影:ノヴァ、生まれ、変わる……………
────そう、明日の朝には、もう別の人間に、なっているのよ……………
谷尻:……………はぁ、
月影:おねえ、さん……………
────うん。
月影:行こう?早く。うちのバカな会社ブッ潰しに。それから……………
────うん。
月影:壊して?ノヴァのこと。
────うん。
月影:そして……………ちょうだい?新しい、ノヴァを
────うん。
月影:早く、ベッドの、中で……………
────行こっか?
月影:うん……………手、繋ぐ……………
────うん……………
谷尻:ちょっといいかな?
────はい。
月影:はい、神様。
谷尻:水を差すようで申し訳ないんだけど。
────いえ、とんでもございません。
月影:なんでも仰ってください、神様。
谷尻:あの、まぁ。さっきの奨励金の話の後じゃ、ちょっとショボい話にはなってしまうんだけど。
月影:……………?はい。
────……………
谷尻:僕からも、君にちょっとあげたいものがあって。
月影:えっ……………?
────……………
谷尻:まずは、あの、あれだね。版権の類、全部。僕が持ってる全ての。
月影:……………え?
────……………
谷尻:さっき『新世界』『ボクって誰なんだい?』とか話に出たけど、そういう僕に版権がある楽曲を、全部君に渡します。『青山トップテラス』とか、ご自身の中で大きいって言ってくれたけど、それも含めて、全部。
月影:……………?
────……………
谷尻:まあ僕に版権のある物って楽曲だけじゃなくて、絵とか書籍とか映像とか、あとは物件とかも活動に絡んでいくつか所有してたりするんだけど、それも全て。君に譲ります。
月影:え、待って?百郎さん、何言って……………
────待って。
月影:えっ?
────待って。聞いてあげて?最後まで。
月影:えぇ……………?
谷尻:あとは、まあ結構でかいのがレーベルだね。僕、一つそれ持ってて、日頃結構重宝してるんだけど、それもあげます。
月影:え……………
────……………
谷尻:この前君が作った個人事務所、多分まだ仕組みが出来上がってなくて、まともに回るようになるまで結構時間がかかると思うんだよね。でもこっちのレーベルをそのまま、居抜きみたいな形で使ってもらえれば大幅にショートカット出来ると思うし。
月影:……………
────……………
谷尻:もちろん人員もそのまま付けます。彼等も仕事が必要だし、業界につてが多い人も中にはいるから、人脈を広げたり、業界の大きな流れにリーチするための一助にしてください。
月影:……………
────……………
谷尻:まあ、お金……………と言うか資産もね?これも出来ることなら君にあげたいんだけど、これはさすがにうちのメンバー達に。彼らには世話になりっぱなしだったし、せめてもの感謝と、お詫びのしるしに……………まあさっき聞いた通り、君は一生金に困ることはないわけだし。
月影:……………
────……………
谷尻:まあ、こんなとこかな?凄く量も多いし、ややこしい作業になるからどちらかと言うと僕の裏にいるスタッフと、君の個人事務所にいるスタッフのやり取りの話になってくるけど……………
月影:……………ま、待って?待って?百郎さん。
────……………
谷尻:……………うん。
月影:……………何、言ってるの…………?いらない…………そんなのいらないよ?私…………
────……………
谷尻:まぁ……………もらってくれよ、突飛なお願いなのは分かってるけどさ。
月影:い、いらないよ!『新世界』も『ボクって誰なんだい?』も、もちろん、『青山トップテラス』だって、私大好きだけど、その所有権が欲しいなんて全然思わないよ!
谷尻:……………
月影:どの曲も、全部……………全部全部、百郎さんが歌わなきゃ意味がないじゃない!あの……………冬の夜に!犬が遠吠えするみたいな声で!
谷尻:……………
────……………
月影:事務所は回らないし、業界に人脈もないけど、それは、直接助けてくれたら……………
谷尻:……………
────……………
月影:私、「業界のお兄ちゃんになってください」って、言おうと思ってた。これが終わった後、帰る前に。おこがましいけど、恐ろしいけど、勇気を、出して……………
谷尻:……………
────……………ホテルに、行く前にね?
月影:そう、ホテルに、行く、前に……………
谷尻:……………
月影:そうして、これから先困った時に頼らせてください、って。それで、それでお話を聞いてくれたらよかっただけなのに……………どうして、
谷尻:……………
────……………
月影:どうしてこんな変なことするの?私のこと、なんだと思ってるの?
谷尻:……………
────……………
月影:ねえ、百郎さん!!!!!!
谷尻:出来ない、君の言うことを、僕は全部。
────……………
月影:えっ……………
谷尻:「冬の夜に聞こえる犬の遠吠えみたいな声」……………まあ僕は、「氷床がきしむような声」って自負してるんだけど、その声で君が好きな僕の曲を歌うことは出来ないし、君がこの先困った時に助けになってやることも、話を聞いてやることも出来ない。頼まれたって、「業界のお兄ちゃん」になってやることも、出来ない。
────……………
月影:えっ……………何?どうし、て……………
谷尻:もうすぐ死ぬから。
月影:えっ……………
────……………
谷尻:もうすぐ死ぬんだ、僕。病気で。
月影:……………
────……………
谷尻:だから、何も出来ない、君のために。
月影:……………
────……………
谷尻:君が音楽史を変えるところも、見られない。その過程で君を助けて、君の一助になることも、出来ない。
月影:……………
────……………
谷尻:だからさ、悔しいから、自分の持ってる物全部君に叩きつけて、無理矢理君の〝キャンバス〟に乗ろうと思ったんだ。何色でもいい、どんな汚い色でも、紛れて、ほとんど見えない、薄くて小さな色でもいい……………だから今日、この席も用意したんだ。
月影:……………
────……………
谷尻:そしたらさ、君……………君さ、もう20年も前に僕のことを〝キャンバス〟に乗せてくれたって言うじゃない。僕さ、それ、それもうほんと、嬉し過ぎてさ。
月影:……………
────……………
谷尻:やっぱりさ、大変なことも多かったけど、本当にきつかったけど、この仕事、やってて良かったって思うよね。やっぱり、この人生しかなかったなって。
月影:……………
────……………
谷尻:だってさ、僕の何かが、君みたいな人の何分の一かを作ったんだぜ?君みたいな超人の……………音楽を担う人間の、最高到達点の。
月影:……………
────……………
谷尻:もう、何も思い遺すことはないし、怖いものも何もない。君の〝キャンバス〟に乗れたのなら、僕の人生にそれ以上はない。
月影:……………
────……………
谷尻:だからまあ、ついでの話にはなってしまうんだけど、僕が活動に使ってたものも、出来れば全部、引き継いでもらえれば……………
月影:嘘。嘘だ、そんなの
谷尻:……………
────嘘じゃないのよ、ノヴァちゃん。
月影:嘘だよ。百郎さん、大袈裟だし、打たれ弱いところあるから……………あれでしょ?数日前にちょっと悪い診断が出たのを、大袈裟に騒いでるだけ、なんでしょ……………?
谷尻:……………
────ノヴァちゃん。
月影:嘘だよ!こんなの!
────嘘じゃない。業界の、上の方では有名な話なのよ。
月影:えっ……………
谷尻:……………
────随分前に裏で公表されて、みんな知ってる話。この人と同格以上か……………それこそ、あなたの武道館ライブに行っていたような人達は、みんな。
月影:……………
谷尻:……………
────……………
月影:……………
谷尻:……………
月影:……………お金。お金、たくさん、ある。あり、ます。
谷尻:……………
────……………
月影:お姉さんが、たくさん、くれる、から。だから。だからそれで、一緒に病院、行きましょう。
谷尻:……………
────……………
月影:海外の、病院も、全部。ねぇ。
谷尻:……………
────やることはやったのよ。お金も、うちが十分出した……………
月影:百郎さん!嫌だ!百郎さん!!!!!
────ノヴァちゃん!
谷尻:……………
月影:嫌!これからだもんトリライトニングも!百郎さんも!
────ノヴァちゃん!
谷尻:……………
月影:これからもっと面白くなるのに!なんで!
────ノヴァちゃん!!!
月影:嫌!お姉さん……………嫌、嫌、嫌……………
────ノヴァちゃん……………
月影:嫌、嫌、……………嫌、だ……………助、けて……………
────ノヴァちゃん……………
谷尻:……………
月影:……………ウッ、……………ウッ、ウッ、
────……………
谷尻:……………
月影:ウゥ、……………ウッ、……………
────……………あの、
谷尻:……………うん。
────引き取ります、あと。
谷尻:あ、そう?
────はい。お体に障りますから、今日はこのへんで。
谷尻:そっか……………うん。じゃあ、頼みます。
────はい。
谷尻:あとさ。
────はい?
谷尻:いい感じに進めといてくれないかな?レーベルとか、版権の件とか。
────……………
谷尻:助けになると思うんだよね、この子の。この子なら、いい感じに扱ってくれるとも思うし。
────……………
谷尻:ね?
────……………こういう、選択なんですね。
谷尻:ん?……………うん、まあそうだね。
────……………
谷尻:……………
────……………デスクが、
谷尻:え……………うん、
────……………傾聴が、よく言ってました。
谷尻:うん……………?
────谷尻くんが、僕の最高傑作だ、って。
谷尻:……………
────僕が携わって大きくした中で、一番の人物だ、って。彼みたいなのに出会えるからこの仕事にも、僕らみたいな存在にも意味があるんだ、って……………
谷尻:……………
────本当によく、言ってました。この15年か、それ以上、何度も何度も、常日頃……………
谷尻:よく言うよ。金投げるだけ投げてろくに会ってもくれなかったくせに。
────……………
谷尻:お礼の一つもろくに、させてくれなかった……………くせ、に……………
────……………大丈夫ですか。ちょっと顔色が、優れないような。
谷尻:うん……………帰るわ。なんか冷え込んできたし……………
────あ、はい……………ノヴァちゃん?谷尻さん帰るって。
月影:ウゥッ、ウッ、ウッ、……………百郎、さん……………
────ほら、しっかりして、ノヴァちゃん。
月影:ウ゛ーーーーッ、ウッ、ウッ、……………
────もう、
谷尻:こんな取り乱す?普通。
────え?
谷尻:初対面だぜ?今日
────まあ、ファンだとこんなものだと思います。推しのこういう……………
谷尻:訃報を聞いたりすると?
────え、……………まぁ、はい。そういう……………
谷尻:ふぅん。
月影:ウッ、ウッ、ウゥーーーーッ、ウッ、ウッ、……………
────……………
谷尻:……………
月影:ウゥーーーーッ、ウッ、ウッ、……………
────……………
谷尻:……………ノヴァちゃん、あれやってよ。
月影:ヴゥッ、ウッ、ウゥッ、ヴッ、ヴッ、……………
────……………?
谷尻:ほら、『ノヴァちゃんは~?』『今日も~?』……………
────……………?
月影:ウ゛ーーーッ、ウ゛ッ、ウ゛ッ、
谷尻:やってくんないと。ほら。『ノヴァちゃんは~?』
────……………
月影:ウ゛ッ、ウ゛ッ、ウ゛ッ、
谷尻:『今日も~?』……………
────ノヴァちゃん。
月影:ででっ、でっ、でぎ、ないっ、今、出来るわげ、な゛っいっ、
────ノヴァちゃん。
月影:酷過ぎっ、る゛っ、ごんな゛、時゛っ、に゛っ、
────……………?
谷尻:やってくんないと。これで最後かも知れないのに。
月影:………う゛っ、…………う゛っ、………
────……………
谷尻:ね?はい、『ノヴァちゃんは~?』『今日も~?』……………
月影:…………………じっ…………………『幸゛あ゛わぜぇ~』…………………
谷尻:そう!
────……………
月影:ア゛っ、ア゛っ、ア゛っ、
谷尻:幸せでいて、笑っていてくれないと。それが君の〝色〟なんだから。
月影:ア゛ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!んァ、ア゛、ア゛ーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!
谷尻:ずっと叩きつけてないと、それを、君の〝キャンバス〟に。それで描かないと、自分の絵を。
月影:ア゛ーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!あ゛、あ゛、あ゛、ア゛ーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!
────……………
谷尻:だから、笑っ、……………て、ノヴァ、ちゃん……………き君、らし、く……………
────……………!!
月影:!?ひゃ、百郎、さん……………?
────きゅ、救急車……………
谷尻:もう、僕には、見え、てる……………君の、描く、絵、が……………未来、……………が……………
月影:嫌………………嫌………………
────救急車ァーーーーーーー!!!!!!!
月影:百郎さァーーーーーーーーーッん!!!!!!!




