表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

真夜中の訪問者-4ー

 

ずかずかと音を立てて、宿屋の休憩室スペースに、入って来たのは、大層、ご立腹状態のおろしだった。


おろしの目力の強い、大きな黒目は、激しく、目にうつるみんじを、非難している。


一緒に居た、蓮が、そそくさと、華の方に移動した。


ひそひそと、互いの置かれた状況を、伝え合う、蓮と華。二人は、おろし達を、その動向を見守っている。


「ちょっと、君! あたしの許しなしに、内情をそこのお客様に、話したでしょ!!」


「いっけね、忘れてた。そう言えば、今のオレ達は、情報共有が、可能なんだっけ? はは。オレの、思考、そちらにもれてたんだね。ごめんごめん」


まったくわるびれも無く、みんじは、へらへら笑いながら、一応、謝っている。


「はぁ。相変わらず、嫌な奴。あたしの嫌がる事しかしないんだから。性格が違うのだから、仕方ないけれどね」


あきれ果てたおろしが、みんじの肩を、ぽんと、叩いた。


事情を聞かされた、華は、何かを言い掛けて、みんじに目で、せいされた。


「あと数匹、術式のこもった蜘蛛を、退治したら、元の時間に戻るわ。本日のあたし達の仕事も、おしまいよ」


丸椅子に浅く座ると、おろしが、ひと息入れた。


「ミルクジュースを飲むって事は、まだ、客の相手をしなくても、良いんだな」


皮肉っぽい言い方。

冷たくて刺刺とげとげしい。


「そうね。普通は、この宿屋で、働く、少女達は、『春を売る』事もある。だけど、あたしの立ち位置は、用心棒や、雑用係だから。その辺は、免除かな。今のところは」


如何にもやる気無さそうに、そして、どうでも、良さそうに、吐き捨てるおろしに、みんじが、怖い顔をした。


「学生の本分は勉強。そんなみだらな行為は、絶対させません」


「は? 本気で言っているの?? 学費や食費を稼ぐ為に、からだを差し出す、同僚も、数人、居るけれどね。彼女達は、仕事にプライドを持ち、とても、キレイよ」


きっぱりと、美しい顔で言ってのけた、おろしが、制服の襟を正した。背筋を伸ばして、みんじに、なおも、強く迫った。


「ふぅ。みんじは、死にかけたせいか、まるで、『別人』になったみたいだね。以前はもっと、思いやりあふれる、良い奴だったのに。死線をくぐると、変わるんだね」


あたしは、残りの小蜘蛛をやっつけてくるから。


そう言い残すと、おろしが、居なくなった。


時間の止まっていた、宿屋の空間は、もう時期、普通に、戻る。


聞いてた話と違うな。

いぶかしんだ華が、落ち込むみんじに、近寄った。


「主従関係を結ぶと、ごく、まれに、心の声が漏れる時があるんだ。だけど、どういう訳か、彼女は今でも、『割下 みんじ』は、生きていると、信じている。そう。召喚した事実を、忘れているんだよ」


別人格だと、言い切ったのは、おろしが、一種の記憶障害に、なっているからだ。


つまり、事故死した、みんじの『死』を、はなから受け入れていないのだ。


「良いんだ。結果がどうあれ、オレはみんじとして生きる。主の大切な幼なじみは、守らないとな。まだ、記憶から消すには、忍びないだろ」


複雑な事情。

みんじの振りを続ける、彼が、おろしのあとを追いかけて、休憩室スペースから、居なくなった。


「召喚した瞬間を、覚えていないんだね。おろしさんは」


丸椅子に、ストンと腰掛けた、蓮が、華からの話を、きちんと、飲み込んで、整理した。


「死を受け入れるのは、しんどいよ。オレも、宮須 アンナを思うと、涙が出てくる」


「どうしたって、死者の記憶は、美化されるもの。逆に言えば、アンナは、貴方に好かれて、とても光栄でしょうね。いつまでも、胸の真ん中で、あり続けるんだもの。まるで、生きているみたいに」


半べそかいた華に、蓮が、ハンカチを渡した。


ようやく、長い夜が、終わりそうだ。

休憩室スペースの窓に、冬の朝日が、顔をのぞかせた。


時を狂わせた、宿屋の空間は、間もなく元に戻る。


すみれ色の目に、やわらかな陽光をうつし、華が、蓮をじっと見た。


「かなわないな。蓮の方が、ずっとずっと、大人だ」


「精神年齢的には、ね。私だって、記憶によみがえった、アンナを思い返すと、泣けてくるもの。大切な友達なら、なおのこと。素直に泣ける、華が、うらやましいわ」


そこは、感情豊かだと、言ってくれよ。


情けない姿を、蓮に見られて、今更、華が、恥ずかしくなった。


「この宿屋にだって『深淵しんえん』は、あるのよね。私達が、養われていた施設と、大差無いかもよ。つくづく、嫌になるわね」


反吐へどが出る。


上品な顔をしかめた蓮が、小さく言葉にした。


「大丈夫だろ。オレの見た限り、あの人はきっと、この宿屋のり方を変えると思うぜ? 目に炎を宿していたからな」


「ええ。私も、おろしさんならいつか、この宿屋の『春を終わらせる』と思うわ。単なる予感だけれどね」


くさい台詞を吐く、華に、ふふと笑いながら、二人が、仕事を終わらせてきた、おろしとみんじに、お疲れ様と感謝の気持ちを込めて、深く、一礼した。


カチン。


止まっていた時は、動き始めた。


宿屋に、朝が訪れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ