第8話 薪
昼食時はそこらにあった枝で焚火をした。火の付きはいいのだが、一度燃えるとガンガン燃えてあっという間に燃え尽きてしまう。短時間の調理時はそれでもいいが、夜にする焚火でそれはせわしないし味気ない。そこはやはり太くて火もちのいい薪が欲しくなる。それで川に行った帰りに太めの倒木の一部分を持ち帰ってきたのだ。
この太さになると鉈ではどうにもならない。俺はのこぎりで切断を始めた。三十cmぐらいの長さの小さな丸太を切り出していく感じだ。拾ってきた木は直径が二十cmぐらいなので、格別太いという程でもない。しかしこれを切断するのには俺の持っている折り畳み式ののこぎりではかなりの労力を要した。一つ切り出すだけで、せっかく先ほど水浴びをしたばかりなのに、額から汗が滝の様に吹き出て来た。
見かねたオベリスクが
「その長さに切ればいいんだろう?」
そう言って木に向かって人差し指をさすと上から下に指を振った。木材は豆腐を切るように三十cm位の長さに次ぎ次ぎと切断されていった。
「凄いな、初級魔法でもそんな事が出来るんだ」
「風呂沸かして、丸太を切る位出来無なければ、結界の外に出ればすぐに死んでしまうだろう。いや、結界の中であっても熊でも出たら終わりだ」
「熊?! ここには熊もいるのかい?!」
驚く俺にオベリスクは笑う。
「嘘、嘘、このあたりでは熊の匂いはしないな。しかしケンローは弱すぎだな。熊でそこまでビビるのか? 熊なんかオークであれば一撃で倒すぞ」
「まじか……結界の外に出たらそんなやつらがたくさんいるのかい? そりゃ海に行くのは難しそうだな……」
「そうだな、ここらで一番強い動物はなんだろうな? オオカミやライオンもいないからイノシシぐらいか?」
俺にとってはイノシシも十分な難敵だ。正面切って戦って勝てる気はしない。これはもしかして、俺の人生は今詰んでいるのかもしれないなと思った。この結界とやらの外には出られそうにない事は分かった。しかしここで魚だけを食べて残りの一生を終えるというのは、どうにも悲しい話だ。
考えても仕方がないので、俺は今オベリスクが切り出したくれた丸太を一個地面に置いた。そうしてその上にもう一つ置く。そうしてテントから斧を取り出して来た。
「あ、それ斧じゃないか?! オークも使ってる武器だぞ。しかしまたえらく小さいな……」
オベリスクは一瞬驚いた素振りを見せたが、それもすぐに収まってしまった。確かに武器になりそうなキャンプの装備品ではこれが一番攻撃力はありそうだが、ハンドアックスという小ぶりなものなので、オークどころか熊にも敵わないだろう。いや、イノシシでも無理だ。
「丸太を薪にするには、鉈でも難しいからね」
そうして俺は斧を振りかぶると、一撃で丸太を一刀両断にした。真っ二つに割れた丸太は左右に飛んだ。そう、こう見えて俺は中学高校と剣道部だったので、死ぬほど素振りをした甲斐あって、斧での薪割は滅法得意なのだ。先ほどは熊の件でちょっと馬鹿にされた感じだったので、俺は得意気にオベリスクの方を見た。彼女は驚く事も無くじっとこちらを見ていた。考えてみるとそれはそうだ、彼女は魔法を使えば、縦でも横でも丸太を切断して薪の大きさに切り揃えるなど朝飯前だろう。
俺は気を取り直して、また新たに丸太をセットした。すると後ろから彼女が声をかけてきた。
「それ面白そうだな。余にもやらせてくれないか?」
いい傾向だ、薪割は簡単に見えて結構難しい。まずはちゃんと丸太の中心を狙わなければいけないし、振り下ろす軌道も丸太に対して垂直でなければ綺麗に割ることができない。きっと八歳児の肉体ではうまくできない事だろう。
「もちろんいいよ。でも重いから怪我しないようにね」
そう言って俺は斧をオベリスクに渡した。
「お、結構重いんだな。なるほどこれは鉄製か」
そう言ってからオベリスクは先ほど俺がセットした丸太の前に立った。そうして斧を振りかぶる。よろけて転びそうになったらすぐに助けられる様に俺はその後ろで待機した。
『スパーンッ!!』
予想に反して、もの凄く良い音を立てて薪は真っ二つに割れてしまった。いや、それどころか、勢い余って台座にしていた下の丸太までもが真っ二つになった。斧の先端は地面に突き刺さっていた。
「これは気持ちが良いな」
そう感想を漏らすオベリスクに、俺は動揺を悟られないように落ち着いた風を装って話す。
「駄目だよ土台まで切ったら。斧の刃が痛むだろう?」
「ああ、それは失礼をした。軽く振っただけなのに力の加減が難しいな」
俺はオベリスクの外見にすっかり騙されていたのかもしれない。八歳の女の子に見えるが魔王の血族なのだ。面倒臭いとは言っていたが何だったら結界の外にいる、その熊をも一撃で倒すというオークともやり合えるのだ。その力が魔法だけのはずがない。ゲームに出てくるボスキャラも、魔法だけでなく近接戦闘もこなすものが殆どだ。魔王ともなればかなりの強さだろう。
木材は縦に割る分には簡単ですが、横方向に切るにはのこぎりが必須です。
なので薪を現地調達する人はのこぎりも持っていきましょう。
折り畳み式のものが300円ぐらいから売ってます。
落ちている枝でも焚火はできますが、暇なしにくべないといけないので落ち着きません^^;。




