第7話 水浴び
焼き魚を食べてお腹が膨れたところで、俺とオベリスクは、また川の方に向かった。別に川に用事があったわけではない。夜に食べる分の魚も十分足りている。
ただ先ほど魚を食べながら思ったのは、折角なら川の近くにテント場を移した方が、水や魚の調達にも便利が良いなと思ったのだ。もちろん川岸などまで行ってしまうと、増水した時に流されてしまう危険がある。川岸よりは幾分か高くなったところで、開けた場所がないかを探してみた。
これは元いた世界でも同じだが、不思議な事に森の中には、なぜか木の生えていない開けた場所があったりする。確か専門用語で『ギャップ』と言ったような気もするが、それができる理由は詳しくは知らない。
しばらく川近くで小高い部分を探し回って、少しだけ開けた場所を見つけた。野営地にはもってこいだろう。場所を見失わないように、そこから川の方を見て地形を頭の中に入れる。
川からテント場への経路は、今日だけで計三回通って藪漕ぎをしたおかげで、少しだけ草が刈られたり踏まれたりで、獣道のできかけのような感じになっている。迷う事は無いだろう。
とりあえずテント場の移動はまた明日にでもする事にして、来る道すがら拾っていた枝をロープでまとめる。
先ほど魚を確保するために川に入って、濡れてしまった衣類は昼飯時の焚火のおかげもあってかすっかり乾いていた。俺はそれを一枚ずつ脱いでいく。
「なんだ? なぜ服を脱ぐのだ? 余の体はまだそう言った行為には耐えられないぞ」
「何言ってるんだよ。水浴びだよ。さっきは服着たままだったからなんか気持ち悪いだろ? 風呂は当分は入れそうにないし」
そう言って俺は素っ裸になると川に飛び込んだ。日が出ているといっても川の水はけっこう冷たい。あまり長時間は浸かってられそうもない。オベリスクも俺の真似をして衣服を脱ぎ捨てると川の中に入って来た。
「なかなか冷たいな。どれ……」
そう言って彼女は河原の小石がかたまってある所に向かって呪文を唱える。
「イシツチ!!」
すると小石が動いて窪みのようなものができあがる。川からは溝でつながっていて水が流れてくると水溜まりができた。そうしてオベリスクは更に呪文を唱える。
「ホムラダマ!!」
その言葉とともに水たまりの上には火球が現れ、しばらくその場にとどまり水を焙る。しばらくして火球が沈下すると、オベリスクは水たまりに手を入れた。
「うん、こんなもんだろう」
水たまりの温度を確かめてから、そこにどぶんと浸かった。
「どうだケンローもこっちへ来ぬか? 気持ちいいぞ」
誘われるまま俺もお湯になった水たまりの方へと移動した」
「うん、確かにこれは良い湯加減だ。まるで温泉の露天風呂みたいだな。魔族は料理には興味ないという話だったけど、お風呂には入るんだな」
「そりゃそうだろう。こんな気持ちのいいものはやめられない」
一応キャンプ帰りに温泉に寄る事もあるので、シャンプーも石鹸も装備品の中に入ってはいるが、これもまた補給出来るあては無いので、温存すべきだろうと考え今も持ってきていない。
単に窪みに水を貯めただけなので、すぐに川の水も石の隙間から染み出て来て、お湯はあっという間に冷めてしまった。しかしその前にお湯を頭から被ったおかげで十分スッキリした。
「どうだ、焚火も面白いが魔法も便利な物だろう。まぁこの体なので大したことはできないがな」
オベリスクは得意気な顔をしてそう言った。
俺は持参した手拭いで体を拭いては絞るという行為を繰り返した。自分の体を拭き終わると、オベリスクの体も拭いてやろうとしたが、自分で出来ると言われて手拭いを奪われてしまった。
二人とも体を拭き終わったところで服を着る。まだ臭ってはいないがここで長く生活するのであれば、衣類もどうするかは考えなければいけないだろう。
すっきりとしたところで、湯上りの風を気持ちよく受けながら、ここへ来る前に拾った薪の束を持って二人でテント場まで戻った。
帰り道では、結構な太さと大きさの倒木の一部も引きずりながら持ち帰った。テント場について、俺はロープを木と木の間に張ると、そこに手拭いを引っ掛けて干した。
「さっき薪を結ぶのにも使っていたが、主の使うロープは何かこうキラキラと輝いているな」
「ああ、これはパラコードと言って軽いけどものすごく強いんだよ。材料は合成繊維と言ってこっちでいうと……油ってあるよね? そんな感じの物からできている」
「油と言うと灯りをとったりするとき使う奴だな。なるほど、それは錬金術みたいなものなのか?」
「ああ成る程、錬金術と言われれば確かにそれが近いのかもしれないな。油を原料にして色々なものが作れるんだ。そこのテントも俺の着ている服も似た様な材料だよ」
「主の世界は魔法大国みたいなものだな。それなのになぜお主は魔法を知らないのだ? いや、どうも知っている様ではあるな。主は本当に魔法が使えないのか?」
「俺達の世界では魔法は、想像上の産物だな。実際に使えるって人間は聞いた事が無い。しかしながら、一度に数十万人も殺せるような、それこそ魔法より恐ろしい兵器なんかも存在していたよ」
「そんな凄いものが作れるのに、主はこんな粗末な布の家に住んで、薪を拾って焚火をしているのか……全く分からんな……いや、焚火は楽しかったからそこは分かるか」
「少しの火は良いけど、多すぎる火は何も生まない……なんか誰かがそんな事を言ってたな」
※パラコードは元々パラシュート用に開発されたので、その名がついたようです。
丈夫だし、水にも強いので重宝します。色もバリエーション豊富で太さも色々あります。
個人的には3mm径が使い勝手がいいと思います。




