第19話 生き別れの家族は大体生きてるのがお約束よね
△△(side:アクアル)
「暇だわ」
パタン、と読んでいた娯楽小説を閉じ、野外用の椅子に腰掛けながら冷めてしまったコーヒーを啜る。
ダンジョンに入ってから5日目。
現在私達は第8階層のセーフティエリアにいるわ。
ロゼのレベル上げの為に来たダンジョン探索も私が春休みの間手伝うという約束の関係上、明日が最終日となる。
あと数時間経ったらテントの中で休んでいるリリアーゼとロゼを起こし、レベル上げの成果として9階層のボスを倒したら帰還する手筈となっているのだけれど。
「やっぱり天才……ってやつなのかしらね」
音を立てないようにしてテントの中を覗き込む。
そこに居るのはつい先程まで一生懸命自◯に勤しんでいた私の実妹、リリアーゼ・バレスチカ。
彼女は今、先生……じゃなくて最近増えた義理の妹、ロゼ・バレスチカの腕に縋り付いて、まるで天使のような笑顔を浮かべて寝入っていた。
見た目だけは完全完璧な深層の令嬢にしか見えないこの少女があんな奇天烈な作戦を考案したという事実にどうにも現実感が追いついてこない。
だけどそれ同時にアレを思い付くのもまた、普段から常識外れの奇人染みた言動を繰り返すこの子しかあり得ないだろうとも思う。
三日目から実行されたリリアーゼの立てた作戦は常軌を逸した物だったわ。
彼女は第4階層のボスである溶岩魔人を倒した後、あろうことかその場にテントを立て、野外用の机と椅子を設置してくつろぎ始めたの。
正直どうかしてる。
普通、ボスというのは挑む前に入念な準備をして、倒す事ができたらドロップ品を回収してすぐに帰還するか、それともその先に進むかの2択となっているわ。
にも関わらず、この子は溶岩魔人が復活するまでその場で待ち続け、復活した直後にまた倒すというサイクルを完成させた。
させてしまった。
その結果が30分置きに復活し、即座に倒される溶岩魔人と残された大量のドロップ品の山だったわ。
本来高難度ダンジョンのボスはAランク冒険者が複数名で挑んでも命懸けになる強敵で、当然そのドロップ品は高額で取引されている。
今は全て収納鞄に収めてはあるけれど、これを全て売ればバレスチカ子爵領(王都へと続く道中にある中程度の規模の宿場町)の税収数年分ぐらいにはなるんじゃないかしら?
3人で等分するにしても、一介の学生である私が持つにはあまりにも過ぎた額よね……。
そしてもう一つ。
元々レベルが低かったロゼは当然として私やリリアーゼのレベルも凄まじい速度で上がっていった。
これほどの速度でレベルが上がった事による成長の痛みを受け続けるのは、それこそ冒険者の資格をとってからの数日間以来の事だったわ。
急激な早さでレベルが上がった事で、最初は炎属性である溶岩魔人と対立属性にある私の水属性魔法で弱らせてからリリアーゼが倒すというローテーションを取っていたものの、途中から私一人だけで倒せるようになってしまった。
今の私ならリリアーゼやグラント父さんのいる域、Sランクにだって手が届くかもしれない。
ロゼの成長も目覚ましかった。
対内魔法に完全に特化している彼女はもはやリリアーゼ以上の身体能力を発揮できるようになっている。
もちろん実戦経験のなさから実際に対外魔法なしの組み手試合をしたとしても、リリアーゼが勝つだろうけど。
最後にリリアーゼ。
私の見立てが間違っていなければ彼女の力は既に王国騎士団団長である父さんをも超えている。
この子はここまで過剰に強くなる事で一体何をなそうとしているのか。
私では想像が付かないような事情でもあるのかもしれない。
もし仮に今のリリアーゼに比肩しうる存在がいるとすれば、キングダム王国の国教たるミ・ラクル教、そこで歴代最高の聖女として崇められ、そして姿を眩ましてしまったあの子ぐらいかしらね。
彼女は今、生きているのだろうか。
無事でいてくれたらいいな、とは思う。
だって彼女は––––
––––カツン。
……え?
第9階層へと続く階段、そこから普通ならあり得ない物音、いや、足音が響いた。
異常すぎる事態に心臓が早鐘のように脈立つ。
––––カツン、カツン。
この音が魔物によって引き起こされている物である事はあり得ない。
だってこの部屋から次の部屋に続く階段まではセーフティエリアとなっているのだから。
だとすれば、階段を一段ずつ降りてくるこの足音は人間の物だという事になる。
––––カツン、カツン、カツン。
それもあり得ない。
だって、足音の数は一人分だけだもの。
となれば上から降りてくる人物はたった一人で第9階層のボスを倒したという事になってしまう。
第9階層のボスはかつてバレスチカ家の人間が4人がかりで倒した相手だ。
レベルが上がり、更なる力を得たリリアーゼだって、一人で倒せるかは分からない。
––––カツン!
思考が混乱する最中、ついに足音の主がこの部屋まで降りてきてしまった。
その人物は脇目も振らずに私の前まで歩いてきたわ。
「久しぶりだね、アクアルお姉ちゃん」
形の良い桜色の唇が、私の名を呼んだ。
目の前に現れたその少女の視線を私は真正面から受け止める。
絹のように真っ白で艶のある長い髪に、透明感のある瑞々しい白い肌、真紅に染められた大きく綺麗な瞳。
装飾の多いホワイトロリータのドレスに加えて白タイツ、白のブーツに身を包んだその姿はまるで御伽話に出てくる天使のように感じられた。
「なかなか来てくれないから、こっちから会いに来ちゃった」
そう言って悪戯が成功したかのように朗らかに笑う、美しい少女。
その笑みはどことなくこちらを見下しているように感じられ、まるですぐ側で呑気に寝こけている妹をそっくり反転させたような、そんな印象を受けた。
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お姉様はあの夜以降、圧倒的な攻め能力(戦闘ではない)を持つロゼに対して畏怖の念を抱いています。
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