第20話 光属性なのに闇堕ちってどうなのかしら?
「あれれ〜?ひょっとしてあたしの事、忘れちゃってたりする?」
「レイライト……よね?」
目の前でケラケラと笑う、真紅の瞳以外は白一色の少女に対して私はなんとか喉から答えを絞り出した。
この子との再会は実に14年ぶりで、彼女が聖女として活動しているところを遠目で見た事がなければ、妹だと気付けなかったかもしれないわね。
「あぁ、よかった〜。レイだけが盛り上がってるんじゃないかと思ってちょっと恥ずかしかったんだぁ」
目の前の少女が喋り続けている間に私はさりげなくリリアーゼとロゼが寝ているテントを背後にするようにして位置取る。
声を上げて二人を起こす事も考えたけど、この子が何を目的に接触してきたかは分からないし、なるべく刺激はしたくない。
「むしろあなたが私の事を認識してる事の方が驚きなんだけど。情報だけ知ってたにしても、よく今の私の容姿を見て判断できたわね?」
そう、本来なら知ってる方がおかしいのよ。
だって彼女と私が顔を合わせた時、私はまだ2歳で彼女に至っては生まれたばかりだったのだから。
レイライト・バレスチカ。
私の不肖の妹であるリリアーゼと一緒に生まれてきた双子の片割れ。
私達のようなバレスチカ家特有の黒髪黒目ではなく、リリアーゼを反転させたような見た目のこの少女は光属性魔法への強い適性があり、生まれて早々国教であるミ・ラクル教の聖女として認定され、王都の神殿に引き取られていった。
そこで歴代最高の聖女として讃えられるまでに才能を開花させたレイライトは多くの人々を救済し、そんな彼女の存在は関わりが全くないとはいえ、同じバレスチカ家の人間である私にとっても大きな誇りだったわ。
だけど、その栄光も長くは続かなかった。
そのキッカケとなったのがあの事件。
今から1年ほど前、ミ・ラクル教の枢機卿が何者かに殺害され、それと同時にレイライトも行方を眩ませてしまう出来事があったの。
その後、グラント父さんがこの件で調査を始めて、のちにミ・ラクル教の上層部の人間を物理的に一掃(暗殺)した事から彼女の身に何か良くない事が起きたという推測はあったのだけれど……。
「んふふ〜、お姉ちゃんは分からなくてもレイは神殿を離れてからずっと、お姉ちゃんやお兄ちゃん、それにあの子の事も見てきたよぉ?ほら、こんな風に!」
「!?」
レイライトがパチンと指を鳴らした途端、彼女の姿があっという間に掻き消えてしまう。
動き出す素振りはなかったし、超スピードで見えないだとかそういう感じではなかったけど、一体どこに……。
「【光学迷彩】。光の屈折をコントロールして姿を隠す、レイのオリジナル魔法だよ。動くと解けちゃうから使い勝手は悪いんだけどね」
声だけが聞こえたかと思うと、レイライトが元いた場所からぬるりとまるで這い出てくるかのように彼女の姿が現れた。
光の屈折をコントロールしたと事もなげに彼女は言うけれど、とんでもない魔力操作能力ね……。
「それにね、ただ見てただけじゃないんだよ?聖女としてレイが使える魔法の中にさ、相手の感情を癒して安定させたり、方向性を変えればその逆もできる物があってね。……お姉ちゃん、レイが姿を消してから自分が怒りっぽくなったとか、そんな風に感じた事はなかった?」
「怒りっぽく?……まさか!」
そう言われてまず頭に浮かんだのは、半年ほど前に私がリリアーゼに対して強い苛立ちを感じ、下男二人に命じて彼女のお気に入りであるロゼを襲わせた事件だったわ。
事が終わった後にグレン兄さんから事情を聞かれた際にも指摘されたけれど、少し考えてみれば当時私がリリアーゼに対して憤りを感じていたとは言え、彼女への報復の為にあんな不確実で手緩い方法を取る筈がないのよ。
だって、事を起こすなら能力も人格も信用できない下男達に任せたりせず、私が自ら行動した方が確実だし、そもそもターゲットにはロゼではなくリリアーゼを選ぶもの。
何故ならロゼが害されたら犯人が私だとバレなかったとしても、リリアーゼが荒れ狂う事で私や兄さんに被害が及ぶのは考えるまでもない事で、だったらリリアーゼ本人を暗殺するという方向へと思考が行き着くのが自然よね。
やりたいかどうかは別として、無防備なリリアーゼを殺せるぐらいの力なら私にだってあるわ。
「お姉ちゃんかあの子、場合によってはメイドの子の誰かは死ぬと思ってたんだけどね。なのに感情が怒りの方向にブレたところでお姉ちゃんはあの子に直接危害を加えようとはしなかったし、あの子もお姉ちゃんを排除しようとはしなかった。姉妹仲が良くて羨ましいよ」
そう言うと、レイライトは本当に羨ましそうに私の顔を見つめてきた。
ただそれだけなら可愛らしい嫉妬だなとしか思わなかっただろうけど。
……今まで関わりがなかったとはいえ、この子は血を分けた肉親である私やリリアーゼが死ぬ事をなんとも思ってない。
それどころか積極的に害そうとまでしてきた。
そんな事実に背筋が薄ら寒くなる。
「でもいい物を見せてもらったし、レイは満足してるよ?お姉ちゃん、やっぱり綺麗な身体してるよね。さすがは貴族のお嬢様だなって感心したよ。あの子に責め立てられて泣いちゃった時の顔も可愛かったし、正直ちょっと見惚れちゃった」
「何を思い出してるのよ……」
うっとりとした表情で私がリリアーゼに蹂躙された時の事を思い返すレイライト。
何が悲しくて自分が実の妹に犯されているところをもう一人の実妹と未来の義妹、それに実の兄に鑑賞された上に評論までされなきゃいけないのかしら。
……流石にちょっと泣きたくなってきたわ。
「さてと、それじゃそろそろレイは行くね。おしゃべり楽しかったよ、お姉ちゃん」
クルリと反転して背を向けると、レイライトは7階層の階段へと歩みを進めて行く。
私は咄嗟に彼女を引き止めるか迷って……やめた。
あの子はたった一人でボスがいる9階層から降りてくるような実力者で、その上過去私達に危害を加えた実績もある。
機嫌を損ねて完全に敵対してしまうような事だけは避けないと……。
「あぁ、そうだ」
階段に差し掛かった直前にレイライトが後ろ手に手を組んだまま、上半身だけをこちらに傾けて振り返る。
「お姉ちゃん達にプレゼントを持ってきたのを忘れてたよ。万全の状態で受け取る為にも、そこの二人は早めに起こしておいた方がいいと思うよ」
そうして意味深な言葉だけ残すと、今度こそ彼女は階下へと降りて行った。
……プレゼント?
ドオン!!!
突如、地響きが鳴り響き大地が大きく揺れた。
その衝撃のあまりバランスを崩しそうになる。
レイライトが降りて行った反対側、ちょうど第9階層へと続く階段までの道。
このセーフティエリアにあってはならない物がいた。
そこに居たのは大きく、鮫のように大きく裂けた口に幾つもの鋭い牙、水色の鱗に覆われた5m超えの巨体、長い鉤爪に紫色の筋肉に覆われた巨大な翼。
第9階層ボス、【幻竜王シャーク・ドレイク】の姿があった。
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リリアーゼの妹だか姉だか微妙なレイライトちゃんの詳細な紹介は第2章の予定です。
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