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星屑のテオレム  作者: 柘植加太
第四話
32/41

因縁サンドイッチ

 重光といつひが出会ったのは小学二年生の頃だ。

 いつひはその頃担任を含めた学級全員からいじめを受けていて、七夕の短冊に「もういっかいいんせきがおちますように」と書いてますますいじめられるようような子どもだった。いじめの原因はクラスのボス格児童に目をつけられたところからなのだが、更に言えばボス格児童の親が「あそこは親がおかしい」と家庭で話していたことが大元だった。

 濡れ鼠のようになって帰って来るいつひに対し、母親のあさひは「祈りが足りないのね」と悲しそうな顔をするだけで具体的な行動は何一つ取らなかった。いつひ自身も祈りを強制されないだけマシだったのかもしれないが。

 九月の半ばだったか、十月を少し過ぎた頃だったか。とにかく、微妙な時期にいつひのクラスに転校してきたのが重光だった。当時から平均より非常に大きく、態度も不遜で子どもらしい可愛さなど皆無の重光に、クラスの面々はどう接していいか分からず数日間は腫れ物に触るようにしていた。重光は周囲と積極的に関わることは無く、授業への取り組みも非常に受け身的で、担任も扱いかねていたようにいつひは記憶している。大きくて無愛想だけど、無害。そんな評価が下されようとしていた。

 平穏が崩れたのは、ある日の給食後だった。

 いつひにとって給食の時間は地獄に等しい。いつひのお盆の上の料理はクラスの玩具となる。混ぜられ、ゴミを入れられ、唾液を垂らされ、それらを食べることを強制される。口を頑として開けないいつひの頭にはスープが浴びせられ、顔面には白飯やおかずが塗りたくられる。担任は「おいおい、あまり無茶苦茶をしちゃ駄目だぞ」と軽く注意するのみ。

 ただし、その日は違った。げらげらと下卑た笑いを響かせながらいつひにスープを浴びせた男子が鈍い音とともに、その場にくずおれた。車に轢かれた蛙のような姿勢でぴくぴくと痙攣している。騒然とする教室。銘々の視線が男子の背後に仁王立ちする重光に注がれる。重光が男子の脳天を殴りつけ、昏倒させたのだ。硬直しているクラスの面々をゆっくりと舐め回すように眺め終えた重光は「たべものであそびません」とだけ言うと、自身の席に戻って食事を再開した。その所作は先程の暴力からは想像もつかないほど綺麗だ。

 重光の気迫と独特の空気にクラスはすっかり大人しくなり、その日いつひはスープ以外を美味しく戴くことが出来たのだった。髪と服はびしょ濡れだったが、それを瑣末なことと思えるくらい、いつひには幸せな時間だった。


 ◆◆


「道路に落ちてる、からっからに乾いた蛙の轢死体あるじゃないすか。俺小さい頃、それ水浴びせたら生き返ると思ってたんスよ」

 湊叶が横にいる光汰に向けてぽつりぽつりと話しだした。眼の前にははしゃぐいつひと満更でも無さそうな重光がいる。

「その世界観で生きてるやつって居るんスね」

「武藤は、いや、本当にすごいなあ」

 光汰はしみじみと答えるが、何となく話が噛み合っていない気がする。長い息を吐いてから、そういえば大助はどうなったんだ、と後ろを振り返るといつの間にか居なくなっていた。通も姿を消しているから、通の能力で何処かに移動したのだろう。ややこしいやつが居なくなってよかった。

「おかしいだろ、手首切り落として平気な顔してんの」

 ぼそりと湊叶が独り言のように呟くと、光汰が低く呻き声を漏らした。

「むう。相馬とはもう一度話をしたほうがいいかもしれない」

「……話してもどうしようもないと思いますけど。あいつは。もう人格出来上がってんですもん。武藤も、……賀川も」

 きゃっきゃとはしゃぐいつひからは「世界中の絶望を集めましたよ」と言わんばかりだった先程の表情など想像もつかない。

「意味分かんなすぎて、腹減ってきました」

 ぼそ、と湊叶が呟く。それを聞いた光汰は「そうだな。ふむ、ファミレスか喫茶で作戦会議と洒落込むか」と満面の笑みを見せる。光汰も空腹だったようだ。

「ならボク、ベイダがいい! でっかいかき氷食べたい! あとあの豆!」

 いつひが手を上げながら話に割り込んできた。光汰が「耳聡いな!」と感嘆の声を上げてから「よし、じゃあみんなで行こう」といつひの少し後ろに立っている重光に視線をやった。重光は「イッヒーが行くから行くんですけどぉ」と不満げにこぼしていた。


 ◆◆


 大助の新しい棲家には、体育館のようなだだ広い地下空間がある。ただ、天井は低く、恐らく二メートル弱くらいしかない。身長一七〇センチ半ばの通でさえ圧迫感を感じる高さだ。引越し直後だからか、空間には何も置かれていない。そこに触手に覆われている大助とともに通は移動してきた。触手以外に何も気にする必要ないこの空間は今の状況にお誂え向きだった。

 通は大助の様子を窺う。蠢く触手の中に大助の顔がたまに窺えるが、瞼は閉じられており、やはり気を失っているようだ。

「たいすけぇ……」

 もちろん、その声に答える者はいない。頼れる人間は他に居らず、大助を助けられるのは自分しかいないのだ。けれど、一体どうすればいいのか見当もつかない。ゔ、と上ってきた吐き気を堪え、涙が滲む目元を掌で(こす)る。小さな子どものような仕草をする通の目の端で、大助が僅かに身動ぎした。

「大助っ!?」

 通は大助の身体に触れようと身を乗り出して手を伸ばす。侵入者を許さないとばかりにこちらを攻撃してくる触手を必死に払い除け、通はもう一度大助の名前を呼んだ。

 瞬間、大助の瞳が突如見開かれる。ぎょろ、とその瞳孔が通を捉えると同時、大助を覆っていた触手は鎮まり、その実体を消滅させていった。大助が背中を床に打ち付けないよう触手が完全に消え去る前に両腕を差し込む。確かな感触と重さに、通は大きく息を吐いた。よかった。多分、危機は去った、はずだ。

「大助……?」

 少し震えた声。大助は眩しそうに目を細めてから、「さっきからおれの名前しか言ってないな」と呟いた。平坦な口調。いつもの、通の前だけで見せる大助。

「っ、だって、」

 聞こえていたんだ、と胸の奥がじわりと熱くなる。「大助が、どうかなっちゃうかと、思って」

 緊張と使命感で何とか抑えられていた感情が堰を切ったように溢れ出す。気がつけば両の目からは涙が溢れて止まらなくなっていた。

「よかったあ」

 しゃくりあげながら大助に抱きつこうとすると「やめろ」と避けられる。ずび、と鼻水を啜り上げた通は「なんだよぉ、感動っぽいのに」と不満そうにこぼす。それから悪戯を思いついたような顔をして「あ」と声を上げる。

「もしかして、照れてる?」

「移動場所として此処を選んだことは褒められていいな」

 通のからかいには微塵の反応も見せなかった大助は周囲を見回してから通の頭に手をやった。一瞬驚いたように身体を硬直させた通だったが、そこに攻撃の意図はなく、ただ通の頭を優しく撫でるためだと分かるとその緊張を解いた。皮膚の厚い、硬い手のひら。

 通を撫で終えた大助は立ち上がると「腹が減ったな」と腹部をさすった。通が「シュークリームなら冷蔵庫にあるぜ」と得意げに笑う。

「そういう気分じゃない。今は、ラーメンとか食べたい」

「さっき食べてたじゃん」

「通が急に呼び出すから全然食べられなかった」

 むす、と頬を少し膨らませる大助はまるで甘えん坊の弟のようで、こうなると通は兄貴風なんかを吹かそうとしてしまう。通は末っ子だから、姉の真似だ。

「仕方ないな〜。作ってあげよっか?」

「通が作ると野菜入れるだろ。嫌」

「だって大助野菜食べないじゃん。俺より全然食べなくてビビる……あー、分かった分かった、入れない入れない。今日は入れない」

 拗ねた目でこちらを睨んでくる大助に両手を上げて肩を竦める。こんな我儘で小さな子どものような大助を見られる──見せてくれるのは、自分だけなのだ。


 ◆◆


 資産家の息子である重光と健啖家の光汰が居るなら無敵、といつひはデフォルトが特盛サイズで有名な喫茶店、ベイダコーヒーで好きなものを好きなだけ頼んだ。たちまち机の上が巨大な食べ物で埋め尽くされていく。素行が悪そうな男子二人とスマホ片手に配信でも始めそうな軽薄な雰囲気の若者一人。この状況に店員は眉を顰めるも、「壮観だなあ」と目を輝かせている赤髪の偉丈夫を見ると安心して立ち去るのであった。

「羽澄くんって、毎日これくらい食べてそうだけど。お、えびうま」

 エビカツバーガーにかぶりつきながらいつひ。お手拭きと一緒に貰える豆はいつひが全員分をかっぱらって食べた。豆山賊である。大きなハンバーガーを六口ほどで綺麗に平らげた光汰が「外食でこんなに頼むことはないな」と笑った。「武藤の家はお金持ちなんだな」

 アイスコーヒーを飲んでいた重光が光汰に視線を送る。敵意はないが、故に感情の読めない瞳だった。光汰が「ああ、なんだかあまり良くない話題だな。すまない」と首を横に振った。

「武藤くん()ってお金持ちだし、お父さんとお祖父ちゃんが武藤くんに激甘でさ、小学校のときなんか雨降ったら黒塗りの高級車で昇降口まで送ってもらってたんだよ。いつも持ち物はぴかぴかだし、家、見たことある? 城だよ。武藤くんの部屋がボクんちくらいの広さだよ」

 今度はソフトクリームを口に運びながらいつひが言う。「俺の部屋のがもうちょいデカいと思う」とナチュラルに失礼なことを呟いた重光は机の下でいつひに足を踏んづけられていた。

「とんだドラ息子だな」

 湊叶が呆れて吐き捨てるように呟いたのを光汰が「こら」と嗜める。

「武藤って兄弟いたことねぇの?」

 兄弟や家族の有無を聞くことは佐波沼では気を使うことではある。先の隕石災害で亡くなっていたとなれば居た堪れない空気になることもあるため触れないことが多いのだが、重光になら大丈夫だろうと踏んだ湊叶は敢えて尋ねた。あの王様っぷりはきっと一人っ子だろう。喧しい妹がいる湊叶の偏見である。

「兄貴が居た」

 重光が淡々と返した言葉は湊叶の予想とは違ったものだった。それも、光汰の方をじっと見ながら答えるのだ。いつひが「なんかいつもと感じ違うね」と目を瞬かせている。前に話を振ったときはもっとどうでも良さそうだったのに。それこそ、こちらの居心地が悪くなるくらいに。

「そうか。武藤も辛い思いをしているんだな」

「捨てられたお前よりはマシだ」

 目を伏せた光汰に対し、や重光はやはり淡白な調子で返す。光汰は笑顔を作ろうとして失敗したような顔を浮かべた。

「……捨てられたわけじゃないぞ」

「お前も全部忘れてんだし、ちょうどいいんじゃね」

 光汰は本当に困ったように眉尻を下げた。自分が家族のことを忘れてしまったから、家族は迎えに来なかったのかもしれない。幼い頃、記憶が戻るようにと何度も壁に打ち付けた額が痛んだ。

「……何で武藤が会長のこと知ってんだよ」

 光汰に隕石災害以前の記憶がないこと、家族含め誰一人光汰を迎えに来なかったこと。この話を光汰がわざわざ自分からすることは殆ど無い。聞かれれば答えているが、わざわざ楽しくない過去の話を光汰が人に押し付けたりはしない。

「どこかで聞いたんだろう。別に隠していることではないからな」

 重光が答えを返すよりも先に、光汰が薄い笑みを浮かべて言う。

「ボクも人づてに聞いたことはあったけど……。武藤くんがそれを覚えてるのにはびっくりした」

 いつひは重光の様子をちらちらと窺いながら呟いた。自身の言葉が周囲の動揺を誘っているとは微塵も思っていないのか、気にしていないのか、重光はマイペースに食事を進めている。しかし光汰があまりにもこちらを見つめるのが気に障ったようで、「きもい」と一言呟くとテーブルの伝票を奪うように取って店から出ていってしまった。

「何か、久しぶりに変だったな武藤くん」

「いつも頭イカれてるだろアイツは」

 いつひと湊叶は次に光汰に視線を移した。重光が席を立ってから、光汰は無心で机の上の料理を食べていた。「食事」という名の単純作業のようだ。顔を見合わせたいつひと湊叶は「今は触れないほうがいい」と言う見解を一致させた。

「もー、みんな暑さでやられちゃってんの」

 いつひの本日のお目当て、山のようなかき氷を口に運びながら呟く。完熟マンゴーのねっとりとした甘さが氷で流されていく。色が自分の髪色と似ていることもあって、いつひはマンゴーが好きだった。初めはテンポよく食べていたいつひだったが、次第に舌がかじかんできてスプーンを持つ手の動きが鈍る。

「ちょっと寒くなってきた。桜庭くん冷たいの得意でしょ」

 まだ四分の一も減っていないかき氷をいつひは斜め向かいの湊叶の前にすべらせる。

「はぁ? 自分で食えっての──」

 当然突き返そうとした湊叶の横から手がぬっと伸び、いつひの食べ残しであるかき氷を引き取っていった。光汰である。まだ難しい顔をしてはいるが、心此処にあらず、といった調子では無くなっている。氷の山を一気に食べ崩した光汰ははたと手を止める。何か切り出しそうな雰囲気に、いつひと湊叶は固唾をのんで光汰を見守った。

「……もしかして、武藤は俺のことがとても気になっているのかな……」

 果たして、光汰から放たれた言葉に二人が一気に脱力したのは言うまでもない。目配せし合う二人に一人困惑顔の光汰が「何かおかしいかい?」と首を傾げる。

「あまり人に興味を持たない武藤が、俺のことは覚えてくれているなんて光栄なことじゃないか。……言い方は少しキツかったけれど、俺に興味を持ってくれていると思うとなんだか嬉しくなってくるな」

 話しているうちに顔が綻んでくる始末。さっきまでの放心状態が嘘のようだ。いつひが湊叶に意地悪そうな視線を送りながら「羽澄くんも結構オカシイよね」と囁いた。否定しきれないのか、湊叶はバツが悪そうに口ごもる。

「──ふう、よく食べた」

「わ、全部食べちゃってる」

 いつひの驚いた声を受け、照れくさそうに光汰は「とても美味しかった」とはにかんだ。湊叶が「会長って食べるのめちゃ綺麗っすよね」と欠片も残っていない皿を覗き込みながら呟いた。

「食べるの綺麗ってそういうことなの──うわぐぇっ」

 湊叶の言葉にツッコミを入れながら、机の上に置いたスマホの通知を処理していたいつひが唐突に奇声を発する。湊叶と光汰が揃っていつひの視線を釘付けにしているスマホの画面に注目した。そこには「五月女からの招待状」があるではないか。「招待状」というのは比喩などではなく、黒い背景に白で茨のような縁で装飾が施され、その中央には赤い文字で『親愛なる佐波沼の皆様へ』とあった。スクロールするといかにも中二が書きましたと言った調子の──恐らく明治文学リスペクトと思われる文体である──文章が長々と綴られていた。いつひのメッセージに五月女は「いいだろう。日時は添付を参照してくれ」と返信してきたので添えられたURLを踏んだところ、この画面である。SDRsのサイトも手が込んでいたし、こういう作業が好きな人間なのかもしれない。

「ややこしいときに訳の分からん返信してくるなっての!」

 いつひの勝手で急な提案に応じたのにこの言われ様。流石に不憫である。

「この人厨二病拗らせてるんだよなあ。総能研で育ったみたいなこと言ってたし、娑婆のことあまりご存知ないのかな」

 ぶつぶつとぼやいたいつひは文章を読み解こうとするが数回スクロールをしたところで「鬱陶し〜〜! 桜庭くん読んで! ボクこういう文章嫌いなんだよね」と喚きながらスマホを湊叶に渡した。湊叶がぶつぶつと文句をこぼしながらもそれに応じる。

「要するに『来週末駅前のモールで会おう』だってよ」

「それだけ? めちゃくちゃ長ったらしくなかった?」

「それだけ。あー、『良いものを見せて差し上げよう』的なことも書いてたな。あとは中身のないポエム」

「そういう才能かな。相馬くんに転送して……っと。んでも、来るのかなあ。なんか大変そうだったじゃん?」

 気のない世間話をするようにいつひが言う。湊叶は無意識に顔を歪めていた。あの惨状の当事者であるというのに。いつひのその態度からは全くそうは思えない。友人──いつひと重光の関係はそう言った言葉で表せるものでは無いようにも思えたが──の落とされた腕を拾ったんだぞ、と確認したくもなる。

「それ言ったら、お前と武藤も大概だろ」

「確かに。武藤くんがあの後全然平気そうだったから忘れちゃってた」

 ぽん、といつひの掌と拳が小気味いい音を立てる。「あまりに武藤と賀川の二人がいつも通りすぎて、話題に出すことも憚られていたが……。実は気になっていたんだ。あれは、一体どういうことだい?」と僅かに身を乗り出した光汰がいつひの目をまっすぐに見つめて言う。

「分かんない。ボクに分かるのは武藤くんが規格外ってことくらいかな」

 神妙な顔で頷くいつひだが、そこに説得力は存在しない。その場のなんとも言えない空気を感じ取ったのか、考えを巡らせるように視線を右から左に動かすと「昔から怪我の治りは早いけど。星憑きだってことを考慮してもね」と続けた。フォローのつもりだったのだろうが、湊叶と光汰は微妙な顔で目配せし合った。

「怪我とかいうレベルじゃなかっただろ。ありゃ損壊だよ、損壊」

「星憑きなんだし、不思議なことも起こるよ。桜庭くんだってこの前ゲーセンでCGみたいなバトルしてたじゃん」

「それとは次元が違うだろ。つーか、さっきも様子おかしかったし、実はやべーんじゃねえの」

「う゛」いつひは唇を噛んで固まった。思うところがあるようだ。「だったらどうしよう」

 口元に手を当てたいつひはそわそわと落ち着き無さそうに立ち上がる。

「心配になってきた」

「おーおー。追いかけてやれ」

 追い払うかのように手を振る湊叶に一瞬不満げな目線を送ったいつひだったが、とは言え重光が心配なのは本当らしく「なんかヤな態度っ!」と言い捨てるようにしてその場を席を後にしたのだった。

 いつひがばたばたと店の外を駆けて行くのを眺めた湊叶は一息つくと「常人の理解の範疇超えてるっすね。武藤と賀川は。あ、相馬も」と呟いた。机の上に並ぶ料理をすべて平らげ、丁寧に手を合わせた光汰が「ふふ。そういう湊叶はいつだって皆を理解しようとしていて、とても素敵だと思うよ」と微笑む。

 どうしてこういうことを臆面もなく言えるのか。湊叶はむず痒そうな顔で「どうもっす」と返した。

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