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覚え違い  作者: 砂たこ
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ー2ー

 望がセッティングした「飲み会」という名の同窓会は、男女取り混ぜて18人も集まった。名前を忘れかけていたヤツも、当時のあだ名を聞けば思い出せた。


「お前、望と同じ大学なんだって?」


「ああ」


 すっかり日焼けしたイチローが、俺の隣席の玲士(れいじ)がトイレに立った隙にスルリと座った。


「世の中、狭いなあ」


 妙に貫禄染みた雰囲気で、快活に笑う。確かに、大学の食堂で、望に声を掛けられた時、同じ感想を抱いたもんだ。


「お前、今、何やってんだよ?」


「見りゃ分かるだろ、実家継いでんだ。クラスの2/3は、地元で農家やってるよ」


 今回出席している中にも、イチローと同じように日焼けした顔が目立つ。田舎は若者離れの過疎化が加速していると聞いていたが、頑張ってるみたいだ。


「なぁ、ハル。今年、カズの……葬儀をするんだ。行方不明から7年だろ。8月の最後の週末、お前も来ないか?」


「あぁ……もう、そんなに経つのか」


 転校が多かったから、同窓会やクラス会の類いとは縁がないものと、端から期待していなかった。だから、今回の飲み会は、事の他嬉しかった。

 望と再会し、こうしてあの頃の仲間達と会ったのも、思えばカズが呼び寄せてくれたのかも知れない。


「分かった。行くよ」


「そうか。じゃ、ウチで良ければ泊まれよ。また飲もうぜ」


 相変わらず面倒見の良いイチローは、俺の背中をポンポンと叩くと、元の席に戻っていった。


ー*ー*ー*ー


 朝陽小時代のことが、俺の中で特別な思い出なのは、小中9年間の内、一番長く過ごしたから……だけではない。


 台風接近の予報が出ていた、夏休み最後の土曜の午後。リレーの練習を終えた仲間達は、俺の家に集合した。カズとヒロが宿題を写す傍ら、他の3人はテレビゲームに興じた。都会では珍しくもないゲーム機だが、朝陽村では持っている子どもは少なかった。


「遥斗ぉー、電話出てくれる?」


「うん」


 キッチンから母さんが呼ぶ。仲間達が帰った後、夕食の支度を始めている。俺はゲームを片付けて、今日の絵日記を描いていた。


「はい、信田(しだ)です」


「あ、遥斗君? うちの知良、遊びに行ったでしょ? まだ帰って来ないんだけど、お宅にいるのかしら?」


「え? いいえ。4時前には、皆と一緒に帰りました」


「……4時前?」


 カズのお母さんの声が弱くなる。壁の時計は、5時を過ぎている。

 仲間達は、風音が大きくなってきたので、雨が降り出さない内に帰宅した。カズの家は、ヒロと方向が近い。ウチからなら、歩いても15分かからずに着く筈だ。


「浩明君の所に訊いてみるわ。ありがとうね、遥斗君」


「はい。失礼します」


 受話器を置いて、もう一度時計を見上げる。ウチを出てから1時間――道草するにしても、遅すぎる。


「遥斗、誰から?」


 挽き肉の入ったガラスボウルを抱えたまま、母さんがキッチンから顔を覗かせる。今夜は、ハンバーグだな。


「カズのおばさん。まだ帰ってないんだって」


「えっ、まだ? 台風近いのに心配ねぇ」


「うん……」


 互いに不安な視線を交わすものの、それ以上どうしようもない。

 俺はテレビを点け、ニュースに合わせる。台風の予想進路は変わらないが、強風円が確実に近付いている。


 それでも、この時点では、ヒロの家に寄り道してるんじゃないか、カズのヤツ、おばさんに叱られるぞ――なんて軽く考えていた。


ー*ー*ー*ー


「……え?」


 ハンバーグが焼ける美味そうな匂いがリビングまで届いた頃、再び電話が鳴った。


「まだ、帰ってない?」


 もうすぐ6時になる。外は既に暗く、時折ベランダの窓ガラスをバラバラと大粒の雨が叩きつけている。

 電話の相手は、ヒロだ。


「3線道路の御堂前で分かれたんだ。アイツ、忘れ物したって言って。てっきり、お前ん家に引き返したんだって思ってた」


 ヒロの声が焦っている。良く知る田舎道だから、1人でも大丈夫だと思った。彼の判断は責められない。


「家には、何も忘れ物なんかないよ」


「だよな……。今、うちの親父とカズの父ちゃんで、辺りを探してみるって。多分、お前ん家にも行くと思う」


「イチローと望にも話したのか?」


「うん。来てないって」


「そうか」


『ヒロー、お巡りさんが話し聞きたいって!』


 電話口の奥から、彼のおばさんの呼び声がした。


「あ、うん! ハル、それじゃ」


 そそくさと受話器が置かれる。無機質な切電音を繰り返す受話器を置いて、立ち尽くす。暗雲に似た言い様のない不安は、もはや追い払えない。


 父さんが帰宅し、事情を話した。

 7時前に、朝陽村は強風域に突入した。ずぶ濡れになったお巡りさんや、カズのおじさん達が、入れ替わり立ち替わり我が家を訪れ、俺も話しを聞かれた。


「明日の朝、強風域を出たら、村中の捜索をするそうだ」


 すっかり遅くなった夕食をつつきながら、父さんが話す。テレビでは台風のニュースが流れ、隣県の増水した川の濁流が映っている。朝陽村にも小さな川がある。畑に水を引く用水路もある。万一、足を滑らせでもしたら――想像するだけでゾッとした。


「俺も行くよ」


「川が増水して危ないから、子どもはダメだ」


 父さんは、厳しい顔で首を振った。

 その夜は眠れなかった。夜通しうねり続ける風の音が、魔物の笑い声のように耳に付く。カズは、どこでどうしているんだろう。独り、嵐の中で震えているんだろうか。

 ただひたすら無事を祈ることしか出来ない自分が歯がゆくて、やるせなくて、悔し涙が滲んだ。



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