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覚え違い  作者: 砂たこ
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-1-

 神隠し、なんてものを信じてはいない。

 けれども、現実的に説明の付かない出来事というのは、確かにある。

 もし――何か不可解な経験、奇妙な記憶があるのなら、1つだけ忠告する。


 近づいちゃいけない。

 たとえ、どんなに興味を惹かれたとしても、忘れることだ。それが唯一の正解だ。


「……クラス会?」


 俺は、流れてきたコンビニ弁当の白米の上に焼肉を並べながら、隣の濱北望(はまきたのぞむ)に問い返す。


「会(かい)って程、堅苦しいもんじゃなくてさぁ。あの時の仲間7、8人で、ちょっと飲もうって話だよ」


 付け合わせのポテサラを入れた緑色のプラカップを、弁当の右上に器用に捩じ込みながら、彼はマスクとキャップの間の狐目をニヤリと細めた。


「俺のことなんか、覚えてないだろ」


「何言ってんだよ。お前のこと話したら、みんな会いたいって盛り上がってんだぞ」


 手前の新人バイトが、もたついている。弁当1個当たり、焼肉は6枚。白米が覗かないように、肉を広げて隙間なく敷くのだ。滞留する前に、こちらに数個引き寄せる。コンベア奥に設置したバットから肉を一掴みして、パパッと並べていく。


「まーた。見せ物なら勘弁してくれよ」


「いやいやいや。お前、急に転校しただろ? 秋の運動会、楽しみにしてたのに」


 バットに残る肉の量と、流れてくる弁当の数をチラと見比べる。大丈夫、足りそうだ。


「ああ……そうだな」


「よしっ、それじゃ日にち決まったら知らせるわ」


「おい、望」


「はい、『焼肉』終わり! 次『幕の内』150いくわよー!」


 生返事を、勝手に肯定と捉えられて慌てていると、コンベア先頭にいる社員のおばちゃんが、作業内容の変更を指示した。


「はーい」


 応えつつ、コンベアにアルコールを吹き掛けて拭く一方で、『焼肉』が入ったバットを片付ける。新人に指示を出しながら『幕の内』の具材をバットに集め、手早く準備する。規定量の白米だけを盛った弁当が、続々と流れて来たので、俺達は手元の作業に集中した。


ー*ー*ー*ー


 転勤族だった父のお陰で、俺には小学校と中学校で2校ずつ、母校がある。

 その内、小学2年から6年の夏までを過ごしたのが「朝陽(あさひ)小学校」だった。

 俺は運動神経が良く、足も速い方だったので、運動会の大トリ、6年生のリレー選手の一員に選ばれていた。


 夏休みも、ほとんど毎日朝練に励む程、運動会は地域挙げての一大イベントだったし、中でもリレーは花形競技だった。


 あの日――忘れもしない。夏休み最後の週末も、当然のように、暑くなる前の午前8時から、俺達は小学校のグラウンドに集合した。


「あれ、将太(ショータ)は?」


 リーダー格の一朗(イチロー)が準備運動を始めようとしたので、まだ仲間が欠けていることを指摘した。

 リレーの走者は4人だ。これに補欠が2人加わり、計6人で練習してきたのだ。


「まだ、島のばあちゃん家だって」


「え、何で? 昨日帰って来るんじゃなかったっけ?」


「台風だろ。進路変わったから、船出ないらしいぞ」


 頓狂な声を上げた知良(かずよし)の横で、屈伸しながら浩明(ひろあき)が突っ込む。


 進路を東寄りに変えた大型台風9号は、ちょうど週末に掛けて列島を縦断するらしい。朝陽村にも、今夜遅くに風雨の影響があるとか……お陰で、夏休み最後の日曜日は、ラジオ体操も朝練も中止が決まっていた。


「遥斗(はると)ぉ、ドリル終わってるかぁ?」


 準備運動の後は、グラウンドを軽く5周する。走り出してすぐに、左隣の知良が猫なで声で探りを入れてきた。


「うん、まぁ」


 夏休みも終盤のこのタイミング――後に続くセリフが分からない筈はない。


「はるー、絵日記はー?」


 右隣に並ぶと、浩明までが甘えたような声音を出した。


「えっ。描いてるけど……」


 反射的に応えて、しまったと後悔する。まさか絵日記まで、写すつもりなのか?


「じゃ、はるン家に昼から集合な?」


「えー」


 どうせ天気も荒れるし、予定もないけど、一応勿体ぶってみる。


「オレ、家で採れたスイカ持ってくから!」


「あ、ズルいぞ、浩(ひろ)! 僕もスイカって言おうとしたのに!」


「そんなん早いモン勝ちだろ!」


 朝陽村は、農業が主幹産業で、野菜の生産と果樹園を兼業する家がほとんどだ。地域住民の連帯は密だが、子ども達が自覚する程、自然の他には何にもない村である。


「いいよ、俺、スイカ好きだから」


「やったー!」


 うちはサラリーマンだから、朝練から帰ると自由時間が待っている。昼間のテレビは小学生には退屈だし、ネットはあっても、親の許可無しには繋げなかった。特別真面目だった訳ではない。宿題くらいしかすることがなかったのだ。

 村では、ほとんどの子ども達が、家の手伝いをさせられる。草むしりや収穫作業、農家の夏は、猫の手も借りたい忙しさだという。

 そんなクラスメイトの事情を知っていたから、俺はスイカの買収に甘んじた。


「じゃ、2時に遥斗ン家な!」


 知良と浩明だけかと思いきや、何故か望と一朗も遊びに来ることになった。

 朝練を10時過ぎに切り上げて、俺達はそれぞれの家に、ひとまず帰った。


ー*ー*ー*ー



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