聖女様は言った
※お久しぶりの闇しぃ太郎作品です。
※苦手な方は申し訳ありません。
リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。
「明日の卒業パーティでは、私をエスコートしてくれるんですよね?」
ふわふわとした金髪に、青い瞳の美少女が満面の笑みを浮かべた。
私たちは王宮の中庭を歩いていた。
彼女の後ろには王太子、次期騎士団長候補、宰相候補、次期魔当主と噂されている人物までいる。
そして、大神官の息子である私も。
その可愛らしい仕草に、王子は真っ先に頷いた。
「もちろんだ。私以外に君を触れさせない」
小首を傾げて、少女は後ろに佇む私たち四人を見る。
私を除く彼らは、一瞬だけ口を開いて、ゆっくりと閉じた。
そして、低い声が順々に答えていった。
苦々しげに聴こえるのは私の内面を反映しているのだろうか。
「ええ。我々はいつも通りです」
「祝福致します」
「えーー!マリア嬉しい〜!じゃあ、あの聖女をやっつけてくれるの?」
その言葉に、少女は歓喜の声を上げた。
「もちろんだ!マリアを排するように仕向けるとは許せん……」
「ええ、勿論ですね」
「………。」
聖女。
本来なら国に崇められ、私も彼女を崇拝するべきだった。
しかし、王子とマリアたちは古臭いと一蹴して、断罪するつもりだ。
無能な神官の私は黙るしかない――が、殿下たちは違うようだ。
今も、卒業パーティでの計画について話し合っている。
熱の入れようが凄い。
(聖女を廃して……本当にいいのだろうか。しかし、マリアは望んでいる)
背筋が冷えて、何かに追われているような焦燥感が襲う。
大丈夫……。大丈夫なはずだ。
思わず爪が拳に食い込んでしまう。
しかし。
なぜか私は、その輪には入れない。
マリアは、私たちを平等だと言うけれど……。
きっと優先順位はあるのだろう。
それが、私の平凡な一日の始まりだった。
◇◇◇
神殿の一角、古びた古書が置かれた場所で、彼は一冊の本を手に取った。
部屋の隅に追いやられたそれは、手に取ると重く、風化した跡が残っている。
「随分と古い本だな」
興味を持ち、椅子に座ってページをめくる。
最初に目に入ったのは、著者の問いだった。
『私は間違っていたのだろうか』
本の中では、聖女の粛清が淡々と進められる。
始まりは、王子による婚約破棄の騒動からだった。
聖女は、それを受け入れたらしい。
――しかし。
王族の金銭感覚のずれ、貴族たちの横暴、神殿による寄付金の横領。
それを機に、次々と明るみになっていったようだ。
それらが、順に詳しく書き記されていた。
怒った民衆は声をあげた。
公表した聖女は、それを黙って見ている。
私は続きが気になり、さらに読み進めていく。
『著者は、すべてが正しいと信じて、ペンを取っていた。そう。最初はそのはずだった』
最初の違和感は、流通が止まったことだった。
商人が国を離れていく。
物がない。
食料が不足している。
誰もが気づきながら、目をそらした。
己の手で引き起こしたことだと、わかっていたからだ。
誰かが叫んだ。
隣国に助けてもらおう!
しかし、隣国が手を差し伸べることはなかった。
それは、占領という形で現れた。
国は、配給の食料でしか生きていけなくなる。
次々と隣国の人間が入り込み、踏み荒らしていった。
私はただ、それを見ているしかなかった。
「大丈夫です。これも神が望んだ結果でしょう」
聖女様は言った。
ある時、痩せ細った妊婦が縋るように尋ねた。
「私はこの子を産んでいいのでしょうか。未来はありますか」
聖女様は、その手を取り、言った。
「大丈夫。神はすべてを受け入れてくれています」
私は、その言葉を聞いた。
あの時の妊婦の顔が、忘れられない。
兵士の暴力も横行していた。
誰も止められる人間はいない。
今日も少年が殴られ、息も絶え絶えになっている。
聖女様は少年の手を取った。
助からないのは明らかだったが、その表情はいつもと変わらない。
「僕は……大人になったら……になりたかった……」
「大丈夫。神様はあなたを見守っていますよ」
聖女様は言った。
私は思わず、口元に手を当てた。
積み重なっていたものが、溢れそうだった。
◇◇◇
背筋に、冷たいものが流れた。
……これは。
パタリと本を閉じる。
外では、かつて自分も加わっていた集団の、軽やかな笑い声がする。
マリアの明るい調子に、王子の朗らかな声に思わず身震いをした。
明日、人を破滅させるというのに。
しかも、それが――。
図書室の一角で、「現在」の聖女と目が合った。
――いつから、そこに?
「大丈夫ですよ」
穏やかな声で告げられる。
それは、私に向けられた言葉だった。
彼女は会釈して、通り過ぎていく。
私は、暗い図書室に一人取り残され、思わず呟いた。
外の光はここまでは届かない。
「私は、どうすればいいだろう」
その問いは、消えなかった。
最近、『くっ!闇の力が……!』だったので投稿させていただきました。
ゾワッときていただけましたでしょうか。
最近少し闇が深めです(笑)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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