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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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聖女様は言った

作者: 闇しぃ太郎
掲載日:2026/06/15

※お久しぶりの闇しぃ太郎作品です。

※苦手な方は申し訳ありません。


リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。


「明日の卒業パーティでは、私をエスコートしてくれるんですよね?」


 ふわふわとした金髪に、青い瞳の美少女が満面の笑みを浮かべた。

 私たちは王宮の中庭を歩いていた。


 彼女の後ろには王太子、次期騎士団長候補、宰相候補、次期魔当主と噂されている人物までいる。

 そして、大神官の息子である私も。


 その可愛らしい仕草に、王子は真っ先に頷いた。


「もちろんだ。私以外に君を触れさせない」


 小首を傾げて、少女は後ろに佇む私たち四人を見る。

 私を除く彼らは、一瞬だけ口を開いて、ゆっくりと閉じた。

 そして、低い声が順々に答えていった。

 苦々しげに聴こえるのは私の内面を反映しているのだろうか。


「ええ。我々はいつも通りです」

「祝福致します」

「えーー!マリア嬉しい〜!じゃあ、あの聖女をやっつけてくれるの?」


 その言葉に、少女は歓喜の声を上げた。

「もちろんだ!マリアを排するように仕向けるとは許せん……」

「ええ、勿論ですね」

「………。」


 聖女。

 本来なら国に崇められ、私も彼女を崇拝するべきだった。

 しかし、王子とマリアたちは古臭いと一蹴して、断罪するつもりだ。


 無能な神官の私は黙るしかない――が、殿下たちは違うようだ。

 今も、卒業パーティでの計画について話し合っている。

 熱の入れようが凄い。


(聖女を廃して……本当にいいのだろうか。しかし、マリアは望んでいる)


 背筋が冷えて、何かに追われているような焦燥感が襲う。

 大丈夫……。大丈夫なはずだ。

 思わず爪が拳に食い込んでしまう。


 しかし。


 なぜか私は、その輪には入れない。

 マリアは、私たちを平等だと言うけれど……。

 きっと優先順位はあるのだろう。


 それが、私の平凡な一日の始まりだった。



 ◇◇◇



 神殿の一角、古びた古書が置かれた場所で、彼は一冊の本を手に取った。


 部屋の隅に追いやられたそれは、手に取ると重く、風化した跡が残っている。


「随分と古い本だな」


 興味を持ち、椅子に座ってページをめくる。

 最初に目に入ったのは、著者の問いだった。


『私は間違っていたのだろうか』


 本の中では、聖女の粛清が淡々と進められる。

 始まりは、王子による婚約破棄の騒動からだった。

 聖女は、それを受け入れたらしい。

 

 ――しかし。

 王族の金銭感覚のずれ、貴族たちの横暴、神殿による寄付金の横領。

 それを機に、次々と明るみになっていったようだ。

 

 それらが、順に詳しく書き記されていた。

 怒った民衆は声をあげた。

 公表した聖女は、それを黙って見ている。


 私は続きが気になり、さらに読み進めていく。


『著者は、すべてが正しいと信じて、ペンを取っていた。そう。最初はそのはずだった』


 最初の違和感は、流通が止まったことだった。

 商人が国を離れていく。

 物がない。

 食料が不足している。


 誰もが気づきながら、目をそらした。

 己の手で引き起こしたことだと、わかっていたからだ。


 誰かが叫んだ。

 隣国に助けてもらおう!


 しかし、隣国が手を差し伸べることはなかった。

 それは、占領という形で現れた。


 国は、配給の食料でしか生きていけなくなる。

 次々と隣国の人間が入り込み、踏み荒らしていった。

 私はただ、それを見ているしかなかった。


「大丈夫です。これも神が望んだ結果でしょう」


 聖女様は言った。


 ある時、痩せ細った妊婦が縋るように尋ねた。


「私はこの子を産んでいいのでしょうか。未来はありますか」


 聖女様は、その手を取り、言った。


「大丈夫。神はすべてを受け入れてくれています」


 私は、その言葉を聞いた。

 あの時の妊婦の顔が、忘れられない。



 兵士の暴力も横行していた。

 誰も止められる人間はいない。

 今日も少年が殴られ、息も絶え絶えになっている。


 聖女様は少年の手を取った。

 助からないのは明らかだったが、その表情はいつもと変わらない。


「僕は……大人になったら……になりたかった……」

「大丈夫。神様はあなたを見守っていますよ」


 聖女様は言った。


 私は思わず、口元に手を当てた。

 積み重なっていたものが、溢れそうだった。


 ◇◇◇


 背筋に、冷たいものが流れた。

 ……これは。

 パタリと本を閉じる。


 外では、かつて自分も加わっていた集団の、軽やかな笑い声がする。

 マリアの明るい調子に、王子の朗らかな声に思わず身震いをした。

 明日、人を破滅させるというのに。

 

 しかも、それが――。


 図書室の一角で、「現在」の聖女と目が合った。

 ――いつから、そこに?


「大丈夫ですよ」


 穏やかな声で告げられる。

 それは、私に向けられた言葉だった。


 彼女は会釈して、通り過ぎていく。

 私は、暗い図書室に一人取り残され、思わず呟いた。

 外の光はここまでは届かない。


「私は、どうすればいいだろう」


 その問いは、消えなかった。

最近、『くっ!闇の力が……!』だったので投稿させていただきました。

ゾワッときていただけましたでしょうか。

最近少し闇が深めです(笑)


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

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