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第27話 新産業の提案

「――ぷはあっ! 搾りたてのエールがこんなに美味いものだとは知らなかった。こいつはこの村の大きな武器になるだろうに観光に力を入れたりはしないのか?」


 俺は村長のジンが準備したエールを一気にあおって素直な感想を漏らす。その表情は満面の笑みを浮かべている。


「ご満足いただけで私も嬉しいです。この特別なエールはこの村でしか味わえないのですが、なにぶん畑の面積とは対照的に小さな村ですので観光客を呼び寄せるには何もかもが足りない状態です」


 確かにジンの言うように広大な畑に対して農作業を担う村人が住むだけの家があるのみで宿屋も十人ほどしか泊まれず食堂もそう多くを捌けるだけの広さも人員も足りていないのは明白だった。


「非常にもったいない状況だが、多くの観光客が来たら来たで問題も多く発生するだろう。今の村人に出来ることで別の産業なり収益化出来るものを見つける方が良いのかもしれないな」


「村としましてもムーギの栽培とエールの醸造だけでは村の収入としては足りないのが現実です。そんな状態での魔獣被害が拍車をかけて圧迫しておりましたので少しは落ち着いて別の仕事を見つけたいと考えております」


 二杯目のエールを口にしながらジンの話を聞いていた俺はある事を思い出して提案をする。それは捕まえた魔獣を保存食に加工して売り出すことだった。


「なんと!? 魔獣を加工して保存食に? そんな事が出来るのですか?」


「問題なく出来るぞ。ただし、少しだけ準備するものがあるがな」


「それは、どういったものでしょうか?」


「加工専用の魔道具だ。魔獣狩りは村で自警団を組織するかギルドに頼んで定期的に傭兵を雇えばいいだろう。だが、商業ギルドで売ってもらうとするなら高度な品質管理を求められるからな。誰が作っても同じ基準の品物が出来なければ高値での取引はしてくれないだろう」


「その魔道具ってどこで手に入るものなのでしょうか?」


 俺とジンの話を聞いていたセシリアが興味深そうに問いかけてくる。厄介者の魔獣がお金になるのならば領内の運営に役立てられると考えたのだろう。


「どこにも売っていないぞ」


「え? じゃあどうやって手に入れるのでしょうか?」


「売ってはいないが、手に入れる方法ならある」


 俺はそう言って魔法鞄からいくつかの素材を取り出していく。セシリアとジンは俺の意図がわからずに黙って俺の行動を注視している。


「――これくらいでいいか」


 必要素材と錬金釜を取り出した俺はテーブルの上に置いた錬金釜の中に素材を入れていく。傍ではセシリアが色々と聞きたそうな顔をしているが、錬金の邪魔をするつもりは無いようで口を押さえて質問を我慢しているのが見えた。


「よく見ていろ。面白いものを見せてやるからな」


 俺はそう言って錬金の口上を唱えながら錬金釜に魔力を注ぎ込む。ある一定量の魔力を注ぎ込んだ時、取り出した魔力棒で錬金釜の中をぐるぐると掻き混ぜる。


「ぐーるぐる」


 俺は錬金釜の中を確認し、魔力の色を見ながら追加で魔力を流し込む。やがて赤かった魔力が透明となり青に変わったタイミングで俺は魔力の注入を止めた。


「それで完成なのですか?」


「一応な。形が落ち着くまで少し時間がかかるから一休みしてから取り出すことになるぞ」


 俺が息を吐いて追加で持って来てくれた三杯目のエールを手に取ると今度はゆっくりと味わうように飲み干したのだった。


「――そろそろいいか」


 三十分ほど経過した頃、俺は椅子から立ち上がり錬金釜の中を覗き込むとおもむろに手を突っ込み何かを取り出した。それは見た目ただの箱にしか見えず、一見しただけではこれが魔道具であるとは思えないものだった。


「それが魔道具なのですか?」


「ああ、そうだ。ちゃんと使えるか確認してみるとしよう」


 俺はそう言って魔法鞄から仕留めてしまっていた小型の魔角猪を一頭取り出す。今までの行動で俺の持つ鞄が魔法鞄であることはジンも分かっていただろうが、まさか鞄から小型とはいえ魔角猪がまるまる一頭出てくれば驚くのも無理はないだろう。ジンは腰を抜かしたように床に尻餅をついてしまう。


「魔角猪?」


 俺は驚くジンに魔獣が死んでいることを伝え、別のテーブルにシートを引いて魔法で防水加工を施すとその上で手早く解体作業をする。長く生きていると色々なスキルが身に付いて獣の解体などお手の物となっていたのだ。


「素晴らしい手際ですね」


 解体作業など恐らく初めて見たであろうセシリアだったが、怖いや気持ち悪いなどの発言は一切なく、真剣に俺の手さばきを称賛してくれる。これは思ったよりも肝が据わっていると俺は感心した。


「これで良し。不要な箇所はあとで処分するとして布で包んで仕舞っておこう」


 解体を終えて綺麗に並べられた魔獣の肉はぼんやりと光を帯びたように輝いている。


「この光ってなんなのでしょうか?」


 初めて見る魔獣の肉にセシリアは興味津々に釘付けとなっている。


「それが魔獣肉の特徴である魔力膜だ」


「魔力膜?」


「そうだ。魔力を持った魔獣は体内に魔素を抱えているが、その魔素が身体の血液を循環する際に魔力膜となってその肉に染み込んでいく。そのために通常の獣よりも身体能力が飛躍的に向上しているんだ。そして、この魔力膜に覆われた肉は俺たちみたいな魔導士に欠かせない魔力回復に最適で上手くいけば魔力量の上限を増やせる可能性もある」


「それって、今わたくしが一番欲しているものではないですか?」


「まあ、そうなるな。だから試してみる気があるか? 俺自身はそうだったが、元々生命力の強いエルフとの混血だからな。純粋な人族が摂取した場合、どんな効果があるか検証してみたいんだ。なに、心配するな。腹を下しても俺がすぐに治療してやるから」


「わたくしが実験台なのですか!?」


 あからさまに動揺するセシリアだったが、脳内討論の末にしぶしぶだがうなずいて了承したのだった。

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