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第18話 複合魔法

 その日もセシリアの特訓は続く。講義を始めてからまだ三日しか経っていないがセシリアは既に一つ目の魔法、火の矢(ファイヤー・アロー)の習得を済ませており次なる魔法、風の渦(トルネード・ウインド)の訓練を進めていた。


「良い感じだ。コツを掴んできたな」


 魔力量が増えてきたからだろうか、セシリアの使う魔法が安定性を増してきているのを感じる。


「先生の教え方が良いのですよ」


 セシリアは額の汗を拭いながら魔法練習の手を休めない。やはり、一つ出来るようになったことがプラスの方向に向かっているのだろう。彼女の目はまっすぐに前を向いて短杖の先に集中していた。


「そこまで! 休憩だ。休憩」


 数回の魔力切れを起こしたセシリアに俺は強制的に休憩をとらせる。そろそろ次の段階に進んでも良い頃だろう。


「俺のスパルタによく付いてきてくれたな。まだ早いと思っていたが気が変わった。今の魔法の先を特別に見せてやろう」


「以前、見せてくれた魔法ですか?」


「ほう、憶えていたか。火風弾(クロス・バレット)という魔法だ。今回は特別にその特性がよく見えるように魔法陣を可視化してやるからよく観察するといい」


 俺はそう告げると両手のひらを上にして右手には赤色の魔法陣を持つ火の矢を左手には緑色の魔法陣を持つ風の渦を発動させた。


「二つの魔法を同時に発動ですか!?」


「そうだ。どちらの魔法も初級の攻撃魔法だが、それらを併せると一つ上の威力を出すことが出来る」


 俺は両手のひらにある魔法を身体の前に併せると二つの魔法陣が重なり合い金色に輝く一つの魔法陣となる。


「これが火風弾(クロス・バレット)の魔法陣だ。本来ならば、この作業を身体の中にある魔力を練ることによって合成する。でなければ、敵を前にこんな時間のかかる合成なんて自殺行為だからな」


 俺の手のひら上に浮かぶ魔法陣をマジマジと見つめながらセシリアはため息をつく。


「これを身体の中で合成するなんて本当に出来るんでしょうか?」


「もっと実践的に覚えることも出来るぞ。ちょっと短杖を上に向けてみろ」


「え? こうですか?」


 セシリアは俺に言われるままに短杖を空に向かって指し示す。


「そのまま集中しているんだ。今から火風弾(クロス・バレット)の魔法陣を渡すからしっかり制御してみろ。気を抜くと爆発するぞ」


「ば、ば、爆発ですか!? そんな危ないもの渡さないでくださいよぉ!」


「上手く制御できれば魔法陣の構造も理解できるはずだ。そうすれば体内で魔法を合成する際にきっと助けになるだろう」


 俺はセシリアの短杖の上に魔法陣を乗せるように手渡していく。彼女は片手で扱っていた短杖を両手で握り、その先に舞い降りた魔法陣をじっと見つめながら身体に入り込んでいく情報に魂を揺さぶられている様子だ。


「少しだけ手助けしてやろう」


 俺はセシリアの短杖を持つ手に自分の手をそっと重ねて魔力の補充をしてやる。これで魔力枯渇による魔法暴走が起きる心配はないだろう。


「先生! なんだか分かったような気がします」


 セシリアがそう叫ぶと同時に短杖上にあった魔法陣が掻き消えた。おそらく彼女が魔法陣の構造を理解して体内に取り込んだのだろう。


「よし。なら的を見事に打ち抜いてみろ!」


 俺はそう言って十メートルほど先にある的を指す。距離的に命中させられるかは微妙だが、魔法を成功させることが重要なのだ。


「はい! 火風弾(クロス・バレット)


 ――バキバキバキ


 セシリアの放った魔法は確かに俺の指した的の方向へ飛んで行った。だが、魔法は的を大きく逸れて別の木に直撃するとその太い幹に大穴を開けて突き抜けていった。そして、穴で支えを失った大木は当然ながら倒れることになる。こちらに向かって……。


「きゃー。こっちに来ないでください!」


 倒れて来る大木に慌てるセシリア。こういった時にどう対処するかも教えておかないといけないな。


「騒いでないで倒木範囲外へ逃げるぞ」


 俺はセシリアの手を引っ張って倒木範囲から避難する。倒木時に破損した木の欠片や石れきが飛んで来ても大丈夫なように魔法障壁も張る。


 コツコツコツ


 予想通りに大きく巻き上がった土埃に小石が跳ね上げられて魔法障壁に弾かれる音がする。


「念の為に張った障壁が役に立ったようだ」


 俺が倒れた木とその衝撃が落ち着いたのを確認して息を吐く。そのすぐ傍から細い声が聞こえてきたので俺は声の方を見た。


「せ、先生。あの、そろそろ放して頂けますか?」


 そこには反射的に衝撃から庇う動作をした為に結果的に俺の腕でセシリアを抱きこむ形になっていたのだ。


「ん? ああ、もう大丈夫だ。怪我はないか?」


 なぜか顔を赤くしたセシリアだったが、危険回避にとった行動だけに俺は彼女の様子を気にせず倒れた大木の処理をする。


「とりあえず邪魔だから処分してしまおう」


 俺はそう言うと倒れた大木を魔法鞄の中に仕舞い込む。どうもこの魔法鞄はどんなに大きくても地面に突き刺さっていなければ入れることが出来るようだ。


「こんな大きなものでも入るのですね」


「ああ、そうみたいだな。正直言って今まで気にしたことが無かったからな」


「……もう先生のことで驚くのは疲れましたので何も言わないことにします」


 呆れた表情のセシリアは小さく溜息を吐くとそう告げたのだった。

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