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第15話 初めての講義

「――講義はこの建物を使用するといい。傍らに宿泊できる部屋もあるので問題はないだろう」


 男爵は屋敷の敷地内にある本来使用人が使う施設に案内してそう告げる。話によると使用人も全盛期の二割ほどしか残っていないそうだ。セシリアはメイド服から魔法学院で来ていた制服に着替えてから講義を受ける準備をしていた。どうやら、制服を着ると勉強のスイッチが入って効率が上がるのだそうだ。


「どうせ退学した学院ですからね。王都で着ていたら問題になるかも知れないですけど、ここで着ていても誰も指摘しないですよね」


 そう言って笑うセシリアだったが、やはり学院生活には未練があるのだろう。せめて、この場では学院では習得出来ない魔法を教えてあげようと思う。


「セシリア嬢。この領地の経営状態が厳しいのは理解出来ているだろう。その理由は多岐に渡るものだ。それを全て改善するには多大な努力が必要となるだろう。これから君が覚えなければならない事は学院に三年間通っても到底習得出来ないものだ。それをたった数カ月で叩き込むつもりでいるが覚悟は出来ているか?」


 俺の言っていることは脅しではない。本当に今の財政では近い将来、男爵家は没落してしまうのは確定事項だ。そうさせないために問題を順に解決していく必要がある。それをやるのは当事者である男爵本人かもしくはその代理が出来る者、つまりこの場ではセシリア嬢しか居ない。


「はい。覚悟は決まっています。どんな過酷な教えも絶対にやりきるつもりですのでよろしくお願いします」


 セシリアはその赤く長い髪を後ろできゅっと束ねると、俺の前に両膝をついて礼をした。


「――それで、何から始めたら良いのでしょうか? 財政の見直しなどは専門の知識が必要なので少し時間がかかるかもしれません」


「ああ。それについてはドンスタン男爵へ依頼している。財政が厳しいのは理解できるが財務の専門職はきちんと雇うようにとな。だから、帳簿の方はセシリア嬢がすぐに対応する必要はない。まあ、今後余裕が出れば勉強しておくと良いのは間違いないだろう」


「では、最初は何を?」


「今、この領地内で起きている最大の問題は何か分かるか?」


「そうですね。農地を荒らす魔獣でしょうか?」


「正解だ。この領地は広大な農地から採れる農産物の税収によって運営されている。もちろん、税収先はそれだけではないが農産物の額に比べれば微々たるものだ。だから、緊急で対応すべきは魔獣被害の軽減だ」


「ちょっと待ってください。私の使える魔法はご存じですよね? 初歩の生活魔法レベルじゃあ魔獣はおろか、ネズミだって殺せないですよ」


「まあ、そうだな。今のセシリア嬢の魔法だけだと無理だろうな。だが、これから教えることをきちんと理解出来たなら一週間ほどあればこの辺りを徘徊している魔獣程度は楽に倒せるようになる」


 俺は試しに一つの魔法を発動させて準備していた的に向けて放つ。


火風弾(クロス・バレット)


 ドン!


 俺の放った魔法が的に命中し、的は粉々に砕け散る。威力としては申し分ないはずで小型の魔獣程度なら一撃で仕留められるだろう。


「そ、そ、そんな威力の魔法なんて無理ですよ!」


「最初から諦めていたら出来るものも出来なくなるぞ。どんな事でもやるのではなかったのか?」


 俺の指摘に服の裾をギュッと掴んだセシリアは唇を噛んでから答える。


「そうでした。試す前に出来ないなんて言っている暇はわたくしにはありませんでしたね」


「そうだ。さっきも言ったが、学院でのんびりお気楽に学んでいるとは思うなよ。セシリア嬢の成長と領地の没落、どちらが早いかを天秤にかけているようなものだからな」


 厳しいことを言うようだが、領地のことは領主一族が解決すべきことだから。


◇◇◇


「いいか? これから教えることは学院で教えている常識とはかけ離れているかもしれない。だが、常識の範囲内でやっていては安全だが時間がかかりすぎる。わかるな?」


「はい。グラン先生のやり方で構いませんのでご教授願います」


 セシリアの返事を聞いた俺はにやりと笑みを浮かべて彼女の両手を取る。


「では、最初に魔力の増強を行う。心を落ち着かせてゆっくりと息をするように魔力を受け入れるようにしろ」


 セシリアが頷くのを確認した俺は両手から体内に持つ魔力をセシリアへと流し込む。この方法は俺がエルフの血を引いているために出来る修練方法だ。普通の人族が持つ魔力量を一とした場合、俺の体内にはその数十倍の魔力がある。それを彼女に移すわけだが、容量を超えて押し込んだとてそう簡単に定着するものでもない。俺は一定の量の魔力を流し込むと一度手を放す。


「どうだ? 魔力酔いをしてはいないか?」


 大量の魔力を流し込まれたセシリアは乗り物酔いと同じような感覚で青い顔をしている。許容量を超えた魔力を流し込まれたのだ。そうなって当然のことだった。


「少しだけ気分が優れないです」


「魔力を無理矢理に押し込んだ状態だからな。とにかく慣れてもらうしかない」


 俺はそう言って次の説明に入る。


「いいか? 結局のところ魔法の発動はイメージだ。学院では正確な詠唱をすることによって魔法は発動されると教えられているだろう?」


「はい。そう教えられていました。まだ、初歩の魔法だけでしたが」


「確かにそれも半分は正解なんだが、魔法とは自らの体内にある魔力を変換して外部に放つ現象を言う。その際にどういった形で放出させるかをきちんとイメージすることが大切なんだよ。それを補うのが詠唱ってわけだ。だから、逆にイメージがしっかりしていれば詠唱を省略しても魔法は発動する」


 俺はそう言って詠唱をせずに光の球(ライト・ボール)をセシリアの目の前に作り出したのだった。

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