第14話 セシリアとの再会
「――状況を整理してみましょう。申し訳ありませんが、正直にお答えください」
俺は男爵当主を前にしていながらも、あまりの不安要素の多さにコメカミを押さえながら質問をぶつける。全ては必要な情報なので少々不躾な質問も答えてもらうしかない。
「今、この領地で経理を担当している方を教えて頂けますか?」
「元々は専属の経理担当が居たのだが、財政不足により暇を出した。今は、私と妻が帳簿の確認をしている」
「そうですか。失礼ですが、男爵様と奥様は経理の勉強をされた経験はおありですよね?」
「ああ、一応な。学院では貴族の出であれば経理学は必須で学ぶことになっているからな。ただ、若い時に勉強したこともこの歳になると忘れたものも多くあってな。思ったようにいかないのだよ」
まあ、当然だろう。いくら学院で習うと言ってもずいぶん前の事であろうし、そもそも当主になってまで自らが経理をするなど普通ではありえないのだから。
「財政状況が悪いのは理解できますが、経理担当を辞めさせたのはあまり良い判断ではありませんでしたね。まあ、済んでしまったものは仕方ありません。別の方法を考えましょう」
俺はこの男爵領内で起こっている問題点をざっと頭の中で整理をして対処の優先順位を告げる。
「とにかく財政の立て直しが急務ですが、そもそも税が普通に入ってくれば最悪の状況は脱することが出来るでしょう。そのために先ずはこの地域で一番収穫量の多いムーギを荒らす魔獣狩りをしたいと思います」
「おお! 対処できるのか!?」
「本来は騎士団と共にと思っていたのですが、あてにならないようですので一人で見回りをしようと思います。ああ、そうだ。この家にセシリアというご令嬢がいらっしゃいますよね?」
「セシリアは確かに私の娘ですが、ご存じなのですか?」
学院に通っていた娘と勇者に同行していた賢者の俺に接点など思いつかない彼は率直に聞いてくる。
「王都からアビルボーザへ向かう乗合馬車でお会いしたのです」
「そうでしたか。すぐにここへ呼びましょう。おい、セシリアをここへ」
ドンスタン男爵が妻にセシリアを呼びに行かせる。雑用を言いつけるメイドも不足しているのだろう。
「――お呼びになりましたか。お父様」
数分後、メイド服を身に着けた赤髪の眼鏡をかけた女性が部屋に入ってくる。服装は違えど魔法の講義をしたセシリア本人であることは間違いなかった。
「お前に客だ。知り合いなのだろう?」
「わたくしの知り合いですか?」
そう言ってセシリアは俺の顔を見て思わず叫んでしまう。
「せ、先生! どうしてここに?」
「詳しくは省くが、新侯爵閣下からの依頼でこの男爵家領内に発生している魔獣被害の軽減をする為に派遣されて来たんだ。男爵家の名前を聞いてまさかとは思ったが本当にセシリア嬢の家だったとは驚いたよ」
「セシリア。この方が先生とはどういうことなんだい?」
「家に帰る途中の乗合馬車でご一緒させていただいたのですが、その際に盗賊に襲われて護衛が逃げ出す中でグラン先生が対処してくれました。その後で魔法についてお話を聞かせて頂いたのですが、素晴らしく豊富な知識でほんの数日間で学院に一年通ったと同等の知識を授けてくださったのです」
セシリアは俺の魔法講義に心酔したようにうっとりとした表情で父親に熱く語る。
「そうでしたか。それは娘が良い経験をさせていただいたようでありがとうございました」
「いや、そう大それたことはしていない。お嬢さんが優秀な魔術師の才能を持っていただけです」
俺は男爵にそう説明をしてからある提案を話し始めた。
「ドンスタン男爵様。セシリア嬢を俺に預けてみませんか?」
「娘を預けるとはどういうことでしょうか?」
「――この領内で起こっている問題を解決するには、とにかく人が足りないのは分かりますね? 足りない人を補うには金が必要だが、農作物の収穫はまだ先だし魔獣退治もままならないでは本末転倒だ。しかし、俺一人で全て対処するには無理がある。ならば、どうするか?」
俺は自らの理論を話して一度息を吐く。男爵当人がじっと考え込んでいたからだ。
「それで娘を鍛えようというわけか。しかし、当然ながら娘には剣術などは教えておらん。とても魔獣討伐に役立つとは思えないのだが」
「それはセシリア嬢が剣を握れば……の話ですよね? だが、俺は賢者の称号を持つ者。剣技よりも魔法技術を教える方が得意です。既にセシリア嬢に魔法の才能があることは明白。少しの訓練と実践を積めば王宮の魔術師団並にはすぐに成長するでしょう」
「ううむ……そうだな。貴殿がそう言うのなら信じてみても良いのかもしれん。だが、娘が承諾すればの話だ」
男爵はそう言うと娘のセシリアへ顔を向けて問いかける。
「セシリア。彼の言っていることを成し遂げようとすると多くの努力に加え、危険も伴うものとなるだろう。それでも彼の講義を受けてみる気があるか?」
「はい。お父様、わたくしが魔法の技術を磨くことで領政に貢献できるのならやりたいと考えます。グラン先生の元で勉強をする許可をください」
セシリアは男爵である父親の目を見ながらはっきりとそう宣言する。
「――わかった。お前の意思を尊重しよう。グラン殿、娘をどうかよろしく頼みます。そしてこの領地の領民を救って頂きたい」
男爵は爵位を持たない俺に深く頭をさげた。その姿に貴族の傲慢さは全く見えず、ただ自領の未来を案じているように見えたのだった。




