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第9話 天才整備士、ココル

第9話

天才整備士、ココル

――モディアス王国・中央ドック――

 重厚な金属音が、ドック全体を震わせていた。

 クレーンの駆動音。

 整備兵たちの怒号。

 着艦誘導灯の警告音。

 巨大戦艦イプシロンハーツが、ゆっくりと接岸していく。

「帰ってきたぞー!」

「生きてたな!」

「次は勝てよ!」

 歓声と野次が入り混じり、張り詰めていた空気が一気に緩む。

 匠はデッキの端に立ち、その光景を少し離れた場所から見つめていた。

(……戦場から戻るって、こういう空気なんだ)

 生還を祝う声。

 安堵と興奮が入り混じった、独特の熱。

 まだ、自分はこの輪の中心にはいない。

 だが――背を向ける気も、もうなかった。

「こら! ぼーっとするでない!」

 背後から飛んできた、老人の言葉遣いで

よく通る声。

 振り向いた瞬間、匠は言葉を失う。

 無造作に束ねられた、鮮やかなピンク色の巻き毛。

 肩には、体よりも大きなスパナ。

 そして何より――

 “カイザー”を見る、その目。

 鋭く、冷静で、まるで内部構造まで透かして見ているかのようだった。

「……お前さんが、新たな“創造主”かの?」

 値踏みするような視線が、匠を射抜く。

「あ、えっと……はい。

 積村、匠です」

「ほう……」

 女性は興味なさそうに鼻を鳴らした。

「わしはココル。

 ココル・トワイスキーじゃ。

 この中央ドックの整備は、全部わしが預かっとる」

(――トワイスキー?)

 白髪白ひげの老神官、ノブロコフの顔が脳裏をよぎる。

 血縁か。

 それとも、ただの偶然か。

 だが、それ以上に引っかかるものがあった。

(……この人、見てる)

 外装ではない。

 内部。

 設計思想そのものを。

 ジンクスが言っていた。

“ムカつくほど天才な整備士”。

 その言葉の意味が、ようやく腑に落ちる。

 ココルの視線が、匠の抱えるカイザーへ落ちる。

「それは……お前さんが作った、という話じゃったな?」

「……はい」

 一瞬。

 ココルの表情が、ほんのわずかに変わった。

「ほう……」

「な、何か……おかしいですか?」

 次の瞬間――

「おかしいに決まっとるじゃろうが!」

 即答だった。

「設計思想と実戦運用が、まるで噛み合っとらん」

「……!」

 ココルはカイザーの装甲を、コン、と軽く叩く。

「全部が“良い子”すぎるんじゃ」

 胸に、ずしりと重いものが落ちた。

「お前さんの“理想”に近づき過ぎて、

 中身が“空っぽ”になっておる」

 その言葉は――

 アンジュの叱責とも。

 ジンクスの忠告とも。

 不思議なほど重なっていた。

「お前さんはの」

 ココルは振り返らず、淡々と続ける。

「“戦える機体”を作りたいんかの?」

 一拍。

「それとも――」

 ほんの一瞬の沈黙。

「“一緒に戦う相棒”を作りたいんかの?」

 胸が、強く鳴った。

 考えるよりも早く、言葉が口を突いて出る。

「……後者、です」

 即答だった。

 数秒の沈黙。

 ドックの騒音が、やけに遠く感じられる。

 そして――

「ははっ」

 ココルが、心底楽しそうに笑った。

「よう言うた。

 その顔で、それを言うか」

 スパナを肩に担ぎ直し、匠の方へ振り返る。

「ほいじゃ」

 にやりと、口角を上げた。

「一回、全部壊すかの」

「……え?」

「フレームも、思想も、癖も」

 軽い口調とは裏腹に、その言葉は重い。

「再設計じゃ。

 本気でやるなら――覚悟せい」

 匠は、腕の中のカイザーを見つめた。

 怖さは、確かにある。

 今まで積み上げてきたものを、

 自分の手で壊すという選択。

 だが――

(……でも)

 胸の奥で、何かが静かに燃え始めていた。

(今度こそ、“作品”じゃない)

(“相棒”を、作る)

 ドックの奥で、

 新たな歯車が、確かに回り始めていた。

 創造主と、天才整備士。

 二つの才能が交わるとき、

 カイザーは本当の意味で生まれ変わる。

――つづく――

挿絵(By みてみん)

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