第8話 継ぐ者、創る者
いつも『ダブル・クリエイター』をお読みいただき、ありがとうございます。
第8話は、戦闘回ではありません。
けれど物語にとって、とても重要な“継承”の回です。
アンジュの過去。
ジンクスの想い。
そして匠がこれから背負うもの。
「創る者」は、ひとりでは成り立たない。
誰かの意志を継ぎ、誰かの想いを受け取り、初めて前へ進める。
今回のテーマは――
継ぐ者、創る者。
そしてラストでは、新たなキーパーソンの影が。
どうぞお楽しみください。
第8話
継ぐ者、創る者
――モディアス王国戦艦・ラボ内――
艦内ラボの一角。
積村匠は、作業台の上に置かれた〈D-カイザー〉の模型を前に、静かに息を吐いた。
金属光沢を再現した小さな装甲。自らの手で組み上げた、縮尺モデル。
その向かい側――
地球のオフィス。
ジンクスもまた、デスクに置かれた〈ヴレイヴァー〉の模型を見下ろし、椅子に深く腰掛けている。
二人は“模型”を介して向き合っていた。
通信回線を通じて、言葉だけでなく、思考や感覚までも共有するかのように。
「そうかぁ……」
ジンクスが、少し間の抜けた声を出す。
「アンジュに、こっぴどくやられたかぁ……」
匠は苦笑し、肩をすくめた。
「うん……まあ、当然なんだけどさ」
一拍。
言いづらそうに、続ける。
「それに……アンジュは、ジンクスが“消されたのは、私のせいだ”って思ってる」
ジンクスの視線が、わずかに鋭くなる。
「だから、責任を感じて……余計に厳しくなってるんじゃないかなって」
「責任……?」
「『私があのクソガキにやられなかったら、
ジンクスは前に出なくて済んだ』って……」
一瞬、空気が凍りついた。
そして――
「ハッハッハ!」
ジンクスは腹を抱え、大声で笑った。
「生意気なこと言うようになったじゃねぇか、アンジュも!」
「え……?」
匠は目を瞬かせる。
だが、笑いはすぐに収まった。
ジンクスの声が、静かに落ち着く。
「……それも、あるんだろうがな」
椅子の背にもたれ、天井を見上げる。
「アイツ、幼い頃に戦争で両親を亡くしてる。
戦争孤児だった」
「……!」
「先代のハーティス――俺の親父が引き取ったんだ。
俺とジュリアと、血は違うが、兄妹みたいに育った」
淡々と語られる過去。
だが、その奥に滲むものは、決して軽くない。
「……その後だ」
ジンクスは、静かに続ける。
「引き取ってくれた親父も、お袋も、前の戦争で亡くしてな」
匠は、言葉を失った。
「俺より、相当落ち込んでたよ。
……それでも、必死に前を向いてた」
小さく鼻で息を吐く。
「これ以上、大切な人がいなくなるのに、
耐えられねぇんだろうな、アンジュは」
匠は、ゆっくりと頷いた。
「……そうだったんだ」
「念動力を身につけてからはな」
ジンクスの視線が、遠くを見つめる。
「今の匠みたいに、シミュレーター室に籠りっきりだった。
俺の厳しい特訓にも、黙って耐えながらな」
「……」
「守れる“盾”になるためだ」
静かな声。
「仲間を。
大切な人たちを、守るために」
一拍、間を置いて。
「“ラストウォール”って名乗るようになったのは、
その頃からだ」
匠の胸が、強く締めつけられる。
守るために、強くなる。
失わないために、壁になる。
「……だから、あんなに厳しいんだね」
「ああ」
ジンクスは、ふっと笑った。
「アイツなりの、不器用な守り方さ」
短い沈黙。
匠は、作業台の模型に視線を落とす。
自分は、何のために創るのか。
強さのためか。
名声のためか。
違う。
守るためだ。
生き残るためだ。
「――で」
ジンクスが、話題を切り替える。
「カイザーの改良案は?
何か、掴めたのか?」
匠は少し考え、正直に答えた。
「まだ、はっきり形にはなってないけど……
試してみたいことは、見つかった」
数値じゃない。
スペックでもない。
パイロットと機体が、感覚で繋がる構造。
“ひとつ”になるための設計。
「そうか」
ジンクスは満足そうに頷く。
「だったら、王国に着いたら一度、ココルを訪ねてみな」
「ココル……?」
「ああ」
ジンクスはニヤリと笑う。
「ムカつくほど天才な、整備士だ」
――モディアス王国・上空――
巨大戦艦が、帰還軌道に入る。
夕陽を反射しながら、ゆっくりとドックへ降下していくその姿。
王都では歓声が湧き上がり、人々が空を指差していた。
その喧騒の中――
ひときわ小柄な影が、空を見上げている。
体よりも大きなスパナを肩に担ぎ、
ピンク色の巻き毛を揺らした女性。
「……やぁっと、帰ってきたの……」
甘い声色。
だがその瞳は、まるで別物だった。
機体の状態を想像し、損傷箇所を予測し、
内部構造まで透かし見るような鋭い視線。
可愛らしい外見とは裏腹に――
それは、獲物を前にした職人の目。
匠が“創る者”ならば。
彼女は、“継ぎ、整え、極める者”。
新たな出会いが、
D-カイザーをさらなる高みへ導くのか。
それとも――
嵐の気配は、すぐそこまで迫っている。
継ぐ者と、創る者。
二つの才能が交わる時、
運命の歯車は大きく動き始める。
――つづく――
第8話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回はジンクスとアンジュの過去に触れる回でした。
アンジュがなぜ“ラストウォール”を名乗るのか。
なぜあれほど厳しく、そして守ろうとするのか。
強さの裏には、必ず理由があります。
そして匠は今、
「才能」ではなく「意志」を受け取り始めました。
守るために創る。
生き残るために進化する。
その流れの先に現れるのが――
次回、本格登場となる天才整備士ココルです。
創る者と、整える者。
この出会いが、D-カイザーをどう変えるのか。
ブックマーク・評価・感想、本当に励みになっています。
ここから物語はもう一段ギアが上がります。
それでは、次話でお会いしましょう。




