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第27話 心眼 ―背中合わせの“想い”―

第27話

心眼 ―背中合わせの“想い”―

――アラベスク・マウザー甲板――

乾いた風が、甲板の床を撫でていく。

その中央――

匠とアンジュは、互いに膝に手をつき、肩で息をしていた。

挿絵(By みてみん)

「……っ、はぁ……はぁ……」

呼吸は荒い。

だが、その“質”は、数日前とは明らかに違う。

アンジュが、顔を上げる。

汗に濡れた前髪の奥、鋭い視線が匠を射抜いた。

アンジュ

「……アンタ、本当に匠なの?」

一拍。

「模擬戦の時とは……まるで別人じゃない……」

匠は、苦笑を浮かべる。

「……正直、俺も驚いてる」

息を整えながら、言葉を紡ぐ。

「こんな短期間で……ここまで動けるなんて……」

ほんの数日前まで――

噛み合わなかった呼吸。

ぶつかるだけだった動き。

だが今は違う。

まだ未完成でありながらも――

確かに、“揃い始めている”。

その証が、ここにあった。

――パンッ!

乾いた音が、空気を裂く。

アイザック

「はい、そこまで」

軽く手を叩き、歩み寄る。

「少し休憩しよう」

匠は、その場に仰向けに倒れ込んだ。

視界いっぱいに、青空が広がる。

流れる雲。

ゆっくりと、時間がほどけていく。

(……少しは……)

腕を伸ばす。

空を掴むように。

(リンクスと……)

(長く“繋がれる”ようになったかな……)

胸の奥に、わずかな確信があった。

――――

アイザック

「さて……次に進もうか」

匠とアンジュが、同時に顔を上げる。

嫌な予感…。

アイザックは、静かに微笑んだ。

アイザック

「アンジュ」

「――『龍虎の型』は、覚えているかい?」

アンジュは、わずかに眉を寄せる。

アンジュ

「ええ……“基本の型”は」

「……嫌というほど、叩き込まれたわ」

アイザック

「なら、問題ない」

その一言。

次の瞬間――

二人を背中合わせに立たせた。

「……え?」

アンジュ

「……?」

カチャリ――

冷たい金属音。

手首。

足首。

重厚な“枷”が、背中合わせのまま、お互いの四肢に容赦なく嵌められる。

ズシリと、重みが身体を引き下げた。

挿絵(By みてみん)

アンジュ

「ちょっと待って!」

「何するつもりよ‼」

アイザックは、楽しげに肩をすくめる。

アイザック

「簡単なことさ」

一歩、下がる。

二人を観察するように。

アイザック

「今度は――“視覚”に頼らない」

「……視覚?」

アイザック

「そう」

指先で、小さな鍵を揺らす。

「――“心の目”で、動く」

一拍。

「“心眼”だ」

沈黙。

風が、強くなる。

アンジュが、舌打ちを一つ。

アンジュ

「……悪趣味」

アイザック

「褒め言葉として受け取ろう」

だが次の瞬間。

その声音が、わずかに低くなる。

アイザック

「……今の君たちには、これが必要だ」

アンジュは、一瞬だけ視線を落とす。

そして――

小さく、息を吐いた。

アンジュ

「……分かったわ」

アイザックは頷く。

アイザック

「アンジュ」

「最初はゆっくりでいい」

「匠君に、『龍虎の型』の“流れ”を教えてあげてくれ」

「――“言葉”と“呼吸”で」

アンジュ

「……匠」

背中越し。

声が、近い。

「準備はいい?」

「……ああ」

背中に触れる体温。

わずかな、呼吸の上下。

(……近い)

だが、不思議と――嫌ではない。

アンジュ

「いい?」

「まず“龍”」

静かな声。

導く声。

アンジュ

「足の運びは、水面の波紋みたいに」

「力まず、円を描くように」

「……円……」

アンジュ

「呼吸を合わせる」

「吸って……」

「……吸って……」

アンジュ

「吐いて」

「……吐く……」

重なる。

呼吸が。

背中越しに、相手の存在が“形”を持つ。

アンジュ

「次は“虎”」

わずかな緊張。

アンジュ

「私が、一歩踏み出す」

「その“気配”を――」

「背中で受け取って」

――スッ。

微細な重心移動。

だが確かに、伝わる。

「……今……?」

アンジュ

「そう」

「それが“合ってる”」

一拍。

アンジュ

「目で見るな」

「背中で“聞いて”!」

匠は――

ゆっくりと目を閉じた。

視界を、捨てる。

その瞬間。

世界が、近づいた。

風。

音。

空気の流れ。

アンジュの呼吸。

すべてが、輪郭を持って迫ってくる。

(……見えなくても……)

(……分かる)

足が動く。

自然に。

無理なく。

アンジュ

「……いいわ」

「そのまま」

動きが、滑らかになる。

ぶつからない。

迷わない。

ただ、流れる。

時間が、溶ける。

――夕刻。

影が、長く伸びる。

それでも二人は、動き続けていた。

鼓動。

呼吸。

筋肉の収縮。

すべてが、背中越しに伝わる。

もはや――

“二人”ではない。

“ひとつの流れ”だった。

少し離れた場所で。

アイザックが、静かに頷く。

アイザック

「……なるほど」

「ようやくだ」

腕を組む。

その目は、確信していた。

アイザック

「“背中を預ける”位置に来た」

その言葉。

二人の呼吸が――完全に重なる。

言葉はいらない。

視界もいらない。

ただ――

“そこにいる”と分かる。

匠の足が、動く。

アンジュと、完全に一致して。

ズレがない。

迷いもない。

アイザックが、小さく笑う。

アイザック

「一日でここまでとは……」

「2人は、なかなか相性がいい…。」

わずかに目を細める。

「……少し、嫉妬するよ…」

だが。

その表情が、引き締まる。

アイザック

「だが――まだだ」

声が、空気を引き締める。

アイザック

「合格には届かない」

一拍。

「では、――次へ進める」

その言葉と同時に。

二人の動きが、止まる。

背中合わせのまま。

静かに、息を整える。

もう――

離れていても不安はない。

“繋がっている”と分かるから。

――その瞬間。

ウィーン‼ ウィーン‼

警報。

甲板を震わせる、緊急音。

空気が一変する。

《敵影多数接近中――!》

匠・アンジュ

「「……い、いま⁉」」

同時に空を見上げた。

風が、強く吹き抜ける。

2人の鼓動は、激しくも同じリズムを刻んでいた。

――つづく――

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