第17話 共鳴 ― ふたつの“想い” ―
第17話
共鳴 ― ふたつの“想い” ―
――現代日本・夕刻/オフィス――
夕方のオフィスは、すでに一日の熱を失っていた。
天井照明は間引かれ、広いフロアに残るのは、数えるほどの人影だけ。
雪乃は、デスクの上で書類を揃えながら、ちらりと匠を見た。
「企画が通って、良かったですね。」
その声には、期待と緊張が同居していた。
「あ、……ああ…」
匠は、公園で見た映像が気になっていたが、雪乃に悟られないように平静を装っていた。
「最初、部長に呼ばれて『またダメかぁ』って思ったけどな。ここまで来られたのは、雪乃が最後まで付き合ってくれたのと……部長が諦めずに信じてくれたおかげだ」
「……はい」
雪乃は一瞬だけ視線を落とし、すぐに顔を上げた。
「だから……今度のプレゼン、絶対成功させましょう!」
「そうだな。成功させよう……」
匠は、上の空だった。
「……積村さん……?」
雪乃は、心配そうに匠の顔を見ていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ大丈夫だ…」
「それじゃ……明日……」
「お、おぉ!明日な!」
「まずい…あの“映像”が気になり過ぎて心ここに非ずだ。」
「とりあえず企画の事と“映像”の事を伝えとくか…。」
鞄から、模型の《ヴレイヴァー》を取り出す。、
目を閉じ、意識を集中する。
(匠……聞こえるか?)
――反応が、ない。
「……あれ?」
(おい……匠‼)
その瞬間。
ヴレイヴァーの胸部が、強く、脈打つように光った。
「……っ⁉」
視界が歪む。
意識が、引きずり込まれる。
――モディアス王国・整備ドック(断片映像)――
天井。
照明。
慌ただしく動く、見覚えのあるピンクの髪。
「……ココル……?」
モニターに映る戦況。
量産ネンドールを庇い、必死に剣を振るうシルヴィ。
「……これは……」
ただ事ではない。
ジンクスは歯を食いしばる。
「匠は……どこだ……?」
そのとき。
意識の奥に、か細い“声”が触れた。
――……タス……ケテ……――
――……タ…クミヲ……――
――……タノ…ム……――
「……っ」
ジンクスは、はっと目を見開く。
「……この感覚……」
脳裏に浮かぶのは、白銀の機体。
「……カイザー……?」
――モディアス王国・整備ドック――
ココルは、戦況モニターを睨みつけていた。
「ダメじゃ……」
唇を噛む。
「このままでは……二人とも……」
そのとき。
解体され、静かに横たわっていた《カイザー》。
胸部に埋め込まれたマナストーンが、淡く――しかし確かに光を放った。
「……っ⁉」
次の瞬間。
ネンドール制作機のモニターに、見覚えのない完成図と設計図が展開される。
「こ、これは……?」
止める間もなく、制作機が自動起動。
ランナーに繋がれた新たな部品が、次々と排出されていく。
「……勝手に……?」
ココルは息を呑んだ。
「なんじゃ……これは……」
――現代日本・オフィス――
ジンクスは、額に汗を浮かべながら、呼吸を整えようとしている。
「はぁ、はぁ……そうか……」
かつて――
“消える前”に、密かに考えていた構想。
カイザーの、もう一つの改良案。
「……何の力かは分からねぇが……」
「……送れた……はずだ……」
――モディアス王国・戦闘区域――
「ヒャッヒャッヒャ!」
ギギの下卑た笑い声が、空を裂く。
「どうしたぁ、姉ちゃん?」
触手が、いやらしくうねる。
「そんなポンコツ庇ってないで、俺と遊ぼうぜぇ?」
アンジュは、荒い息を整え、剣を構えた。
「……ダメ……」
内心で呟く。
(匠を庇いながらじゃ……限界……)
胸に浮かぶ、ひとつの想い。
(匠……)
(……動いて……)
その瞬間。
量産機のコックピットが、ふっと明るくなった。
「……っ?」
モニターに映るのは――
剣を構え、前に立つシルヴィの背中。
「……シルヴィ……?」
「……アンジュ‼」
「このバカっ‼」
振り返らずに叫ぶ。
「……やっと起きたの⁉」
「……眠ってたわけじゃ…」
「分かってるわよ‼」
一瞬、視線が交わる。
「それより……」
「私たちで、コイツ倒すわよ‼」
匠は、静かに首を振った。
「……ごめん」
「“この子”じゃ……ダメなんだ」
アンジュは、一瞬だけ目を伏せ――
「……分かってる」
力強く、頷く。
「早く行って‼」
「……ありがとう‼」
シルヴィが前に出る。
量産機は踵を返し、王都へと向かった。
――モディアス王国・整備ドック――
量産機が、球体ポッドに戻り、帰還する。
匠は、開くのを待たず、飛び出した。
目の前には――
制作機から吐き出されたばかりの、新たな部品群。
「……ゴメン。待たせたね……」
その瞳には、迷いはない。
“創造主”としてではない。
“相棒”として。
匠は、静かに――
“新しいカイザー”へと手を伸ばした。
物語は、再び動き出す。
ふたつの世界、ふたつの想いが――
ひとつへと、共鳴する。
――つづく――




