第100話 想いが、世界を繋ぐ―ありがとう と さようなら…―
第100話 想いが、世界を繋ぐ
―ありがとう と さようなら…―
―現代日本・クリエイティブ・リンクス本社近くの公園-
夕刻。
オレンジ色に染まった高層ビル群の足元で、一本の巨大な樹が静かに佇んでいた。
その根元から少し離れたベンチに、一人の女性が座っている。
仙道雪乃。
仕事を終えた彼女は、ぼんやりと空を見上げていた。
雪乃「……積村さん、今日は会社に来なかったなぁ……」
小さく溜め息を吐く。
雪乃「ISURUGIの仕事が決まってから、会社に来る頻度……減ってきてるよね」
そして、
雪乃の脳裏に、先日の小料理屋での出来事が蘇る。
『積村さん……“匠”さん……』
その瞬間。
雪乃「かぁーーーっ……!」
顔が一気に赤くなる。
雪乃「酔いに任せて……告白しそうになっちゃった……」
両手で頬を押さえる。
雪乃「部長が入ってきて、言いそびれちゃったけど……」
「積村さん……私の“想い”に……気付いたかな……?」
恥ずかしそうに俯く。
その時だった。
雪乃「……ん?」
ふと、視界の端に…、
“何か”が光った。
雪乃「……なんだろう? あれ……」
雪乃はベンチから立ち上がり、光のある方へ歩いていく。
巨大樹の根元。
夕日とは明らかに違う…
淡い黄金色の光。
雪乃「……え?」
そこに落ちていたもの。
それは…
黄金に輝く、一つの果実だった。
雪乃「わぁ……綺麗……」
そっと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、
ふわっ……
甘く、優しい香りが鼻をくすぐった。
雪乃「それに……甘い薫り……」
上を見上げる。
巨大樹の枝葉は、夕日に染まりながら静かに揺れていた。
雪乃「この木から……落ちてきたのかな?」
そして…
雪乃の頬が、再び赤くなる。
雪乃「……これ、お守りにしようかな」
「私の“想い”が……実るように……」
雪乃は周囲を見回す。
誰もいない。
そのことを確認すると、
黄金の果実を、そっと鞄の中へ入れた。
その瞬間。
巨大樹の根元で…
ほんの一瞬。
淡い光が走った。
雪乃は気付かない。
ただ、何事もなかったかのように歩き出す。
…その鞄の中、
黄金の果実は、静かに輝き続けていた。
―モディアス王国・王都-
「おおおおおおおおおおおおおおおおおッ‼」
大広間を揺らす、大歓声。
その中を、
匠は壇上へと向かって歩いていた。
壇上には、王女ジュリア。
そして、アンジュとルイスが立っている。
ルイス「匠、しっかり!」
アンジュ「頑張って……」
匠「あ、ああ……!」
しかし、
匠の顔は、完全に引きつっていた。
匠(無理だ……!)
匠(こんな大勢の前で喋ったことなんて……一度もないよぉ…)
やがて、歓声が静まる。
ジュリアが一歩前へ出た。
ジュリア「この王国は、長きにわたりジャカランダによって苦しめられてきました。」
「しかし…!その脅威は、頼もしき戦士たちの手によって去りました」
「そして、その戦いにおいて多大なる功績を残した…」
ジュリアは匠を見る。
ジュリア「創造主・匠様より、皆様へお話をいただきます」
「……匠様。こちらへ」
ジュリアが手を差し出す。
匠「……!」
匠は顔を真っ赤にしながら、ぎこちなく前へ出た。
そして、
匠「ほ、本日は……」
「お、お日柄も良く……」
「み、皆様……お、お、お集まりいただき……」
沈黙。
匠「……」
民「おぉいっ! 創造主様ぁ!」
「肩っ苦しいぞぉーーーっ!」
わはははははははははッ!
大広間が一斉に笑いに包まれる。
アンジュ「ったく……何やってんのよ、あのバカ……」
ルイス「……」
ジュリア「匠様……」
その時。
匠の脳裏に、ココルの言葉が蘇った。
『“想い”を皆にぶつけてこいッ❗』
匠「…………」
匠は顔を上げる。
そして…
匠「お、俺は……っ❗」
その声が、大広間の隅々まで響き渡った。
笑い声が止まる。
数千もの視線が、一斉に匠へ向いた。
匠は一度、大きく息を吸う。
そして…、
ゆっくりと、前を見据えた。
匠「俺は……遠い世界の、小さな国から……この世界へ来ました…」
「そこは……戦争のない、平和な国でした。」
「毎日を普通に過ごして……」
「笑って……」
「飯を食って……」
「くだらないことで喧嘩して……」
「それでも、また笑って……」
匠の表情が、少しだけ柔らかくなる。
しかし、
次の瞬間。
匠「……そんな俺が、この世界で最初に見たものは――」
拳を握る。
匠「戦争でした。」
大広間が静まり返る。
匠「人が傷ついて……」
「大切な人を失って……」
「泣いて……」
「怒って……」
匠「……正直に言います」
匠は苦しそうに笑った。
匠「俺は……逃げたかった」
ざわ……。
民たちが息を呑む。
匠「怖かった…」
「俺は英雄なんかじゃない…」
「最初から強かったわけでもない…」
「誰かを救う覚悟なんて……最初から持っていたわけじゃない」
「何度も思いました」
「俺には、無理なんじゃないか…と」
匠は胸に手を当てる。
匠「……でも」
ゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、もう迷いはなかった。
匠「俺は……この世界で、たくさんの人に出会った…」
「俺を信じてくれる人がいた…」
「俺を支えてくれる人がいた…」
「倒れそうになった俺に……何度も手を差し伸べてくれた人がいた…」
そして…
匠「俺自身が……皆から勇気をもらった❗」
ココルの目に、涙が浮かぶ。
ジャワディは腕を組み、黙って匠を見つめる。
アンジュも、真っ直ぐに匠を見ていた。
匠「だから……俺は気付いたんです!」
一歩。
匠が前へ出る。
匠「俺が持っている力は…」
「誰かを傷つけるためだけの力じゃない…」
「奪うための力でもない…」
「戦うためだけの力でもない…」
匠「“希望”を……“想い”を……形にできる力なんだって!」
その瞬間、
匠の胸元にあるユグのペンダントが、
ふわっ……と
淡い光を灯した。
ユグ(……タクミ……)
匠「俺は、物を創ることができます!」
「新しいものを生み出すことができます!」
「だったら…」
匠は、大広間にいる全員を見渡した。
匠「俺は、その力で…」
「この世界に生きる人たちの“想い”を、繋いでいきたい!」
「誰かの笑顔が、誰かの勇気になるように!」
「誰かの願いが、誰かの明日へ繋がるように!」
そして…
匠の声が、さらに大きくなる。
匠「もう二度と……!」
「大切な人を失う悲しみを、繰り返さないために!」
静寂。
匠は拳を強く握り締める。
匠「俺は……俺にしかできないことをします!」
「俺の力で!」
「俺の“創る力”で!」
「この世界で生きる…」
一瞬、言葉を止める。
そして…
匠「皆の“想い”を……!」
匠「俺は、守ってみせますッ‼️」
――――――――――
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
大広間から音が消えた。
そして…
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ‼️‼️‼️」
爆発するような大歓声。
「創造主様ぁぁぁぁぁぁッ‼️」
「俺たちは、お前を信じるぞぉぉぉッ‼️」
「モディアス万歳ッ‼️」
「匠様、万歳ッ‼️」
兵士たちが拳を突き上げる。
子供たちが飛び跳ねる。
大人たちは涙を拭いながら、何度も何度も拍手を送る。
その歓声は、
王都全体へと響き渡っていった。
―医療室
モニター越しに、その光景を見つめているイリア。
その隣には、ベッドに横たわるアイザック。
イリア「……格好良いじゃん」
「創造主……」
眠ったままのアイザック…
その口元が、
ほんの僅かに、上がった。
ココル「……まったく」
涙を拭いながら、ココルは笑った。
ココル「匠らしい……わい」
ジャワディ「……ああ」
ジャワディも静かに頷く。
そして…
アンジュは誰よりも近くで、匠を見つめていた。
アンジュ「……うん」
涙ぐみながら、微笑む。
アンジュ「それでこそ……匠だよ」
匠は歓声の中、空を見上げた。
遥か彼方に広がる青い空。
その向こうには、
もう一つの世界がある。
匠「…………」
ほんの一瞬。
匠の左目に、青い光が灯る。
その奥に、
僅かに、紫色の光が重なった。
匠「……俺は……」
その言葉は、歓声に掻き消された。
しかし、
王都から遠く離れた場所。
巨大樹の根元で…
黄金の光が、一度だけ瞬いた。
まるで…
匠の言葉に、応えるかのように…。
―現代日本・ISURUGI本社-
同じ頃。
匠――いや、
“匠”の姿で生きるジンクス”は、会議室にいた。
テーブルの上には、三枚のデザイン画。
ホビー誌担当者「本誌に掲載する基本体は、この三種類で決まりですね…」
「ナイト」
「アーチャー」
「忍者」
匠「ええ……この三種類で…」
担当者「積村さんは、数ある案の中から“忍者”を推していましたね?」
匠「ははは……」
少し照れながら頬を掻く。
匠「子供の頃に……憧れていたんです。」
担当者「子供の頃に?」
匠「ええ」
「ピンチの時に突然現れて……」
「敵を倒したかと思ったら…」
「疾風のように去っていく……」
匠「あの姿が……格好良くて」
担当者「……ピンチの時に助けてくれた……?」
匠「……!」
しまった…
匠(やべっ……! あっちの世界の話だった‼)
匠「と……いう夢を、子供の頃によく見ていたので……あは、ははは……」
担当者「そ、そうでしたか……」
担当者は苦笑しながらデザイン画を見る。
担当者「しかし、“忍者”は面白いですよ」
「回避力を高くして、素早い攻撃を得意とする…」
「他のパーツとの組み合わせ次第で、戦略の幅もかなり広がりますね!」
匠「……はい」
担当者「そして…」
別のデザイン画を指差す。
担当者「聖獣タイプは、“ドラゴン”“ユニコーン”“セイレーン”の三種類で決定ですね。」
匠「……」
匠は、静かにデザイン画を見つめる。
ドラゴン。
ユニコーン。
セイレーン。
匠の脳裏には、
モディアス王国の仲間たち。
戦い。
笑顔。
そして、
もう一人の“自分”
担当者「では早速、このデザインを各メーカーに出して、模型サンプルを製作してもらいましょう!」
「その時は、私も積村さんの“手捌き”を見させていただきますよ!」
「編集長が、物凄く感動したと言っていましたから」
匠「あはは……」
「分かりました…」
そう言って、匠は、六枚のデザイン画を見つめた。
その時、
テーブルの下。
匠のポケットの中にある、
あの“黒いマナストーン”が、
ほんの僅かに、熱を帯びた。
匠「……?」
しかし、
匠は、その異変に気付かない。
一方、
―モディアス王国・匠の部屋-
祝賀祭が終わった夜。
窓の外から聞こえていた歓声も、今は遠い。
匠はベッドに腰掛け、昼間の演説を思い返していた。
匠「いやぁ……緊張したなぁ……」
『なかなか立派だったぞ』
匠「カイザー……」
部屋の隅に置かれたカイザーから、落ち着いた声が返ってくる。
カイザー『これで王国の結束は、より強固になった…』
『そして、王都の民たちにも平和が戻った…』
少し間を置いて…
カイザー『……束の間の平和であるがな。』
匠「……あぁ」
匠は、窓の外を見る。
戦争は終わった。
ジャカランダも、ディアヴロも、倒した。
王都には笑顔が戻った。
それでも…、
匠の心には、ひとつだけ引っ掛かっているものがあった。
匠(あの声……)
黒龍との戦いの中で聞いた、あの謎の声。
匠(あれは……一体……)
コン……コン……
匠「……!」
考え込んでいた匠は、慌てて顔を上げた。
匠「は、はい!」
ガチャ……
扉が開く。
匠「……ん?」
そこに立っていたのは…、
パイロットスーツ姿のアンジュだった。
匠「アンジュ?」
「出撃命令なんて出てないのに……その格好……」
アンジュ「ああ……これ?」
少し照れたように笑う。
アンジュ「うん。ちょっとね……模擬戦をやってたのよ。」
匠「模擬戦かぁ……」
匠は懐かしそうに笑った。
匠「懐かしいなぁ…」
「アレはホント……死ぬかと思ったよ…」
アンジュ「ふふっ……そうね」
「初めて模擬戦をやった時のアンタの顔…」
「傑作だったわよ…(笑)」
匠「何だよ! からかいに来たのかよ!」
アンジュ「…………」
笑っていたアンジュの表情が…、
ほんの少しだけ変わった。
匠「……アンジュ?」
次の瞬間。
ギュッ…
匠「……えっ?」
アンジュが、匠を抱き締めた。
匠「ア、アンジュ……?」
突然のことに、匠の身体が完全に硬直する。
アンジュ「……アンタは、強くなった」
「見違えるほどにね……」
匠「…………」
アンジュ「この王国を……救ってくれて…」
「ありがとう……」
匠「……あ、あぁ……」
短い沈黙…
アンジュ「……うん♡」
アンジュは匠から離れる。
そして…、
いつもの笑顔を見せた。
だが…
次の瞬間。
ドシュッ!!
匠「グホォッ⁉️」
強烈な拳が、匠の腹へ突き刺さる。
匠「こ、このぉ……!」
腹を押さえて蹲る匠。
アンジュ「ははっ♪」
「隙がありすぎぃ♡」
匠「な、何なんだよ……お前は……!」
アンジュ「それじゃあね……匠…」
バタン……
扉が閉じる。
匠「いてててて……」
腹を押さえながら、匠は閉じられた扉を見る。
匠「……まったく……」
だが…
その顔には、僅かな笑みが浮かんでいた。
―モディアス王国・中央整備ドック-
巨大な整備ドックの中央。
そこには…、
巨大化したシルヴィ・アンジュが、静かに佇んでいた。
アンジュは、その巨体を見上げる。
アンジュ「……シルヴィ…」
「皆を……守ってあげてね…」
「今まで……ありがとう…」
シルヴィ・アンジュ「…………」
アンジュは振り返る。
そして…、
一度も振り返らず、整備ドックを後にした。
誰もいない廊下。
足音だけが、静かに響く。
コツ……コツ……。
アンジュは、ただ真っ直ぐ前を見て歩く。
アンジュ「今の王国なら……」
「きっと……勝ってくれる…」
「そして……私を……」
その瞬間。
アンジュの脳裏に…、
遠い昔の光景が蘇った。
……
―モディアス王国・王宮-
まだ幼かったジンクス。
ジュリア。
そして…
ジョーンズ・ハーティスと、その妻ジェシカ。
その傍らには、小さなアンジュがいた。
ジンクス「へへっ! 何なんだよ、アイツ!」
「いつも親父の後ろに隠れやがって!」
「なぁ、ジュリアも見てみろよ!」
ジュリア「…………」
ゴチンッ!!
ジンクス「いってぇぇぇっ!!」
ジョーンズ「コラッ! くそボウズ!」
「男は、常に“女子”に優しくせにゃならんぞ!」
「そんなんじゃ、女子にモテんぞ!」
ジンクス「いてて……」
「モテなくても、かまわねぇよ……くそオヤジ…」
ジョーンズ「ったく……」
「ほら、アンジュも俺の後ろに隠れてばかりいないで、二人と遊びなさい」
しかし…
アンジュはジョーンズの背中から出ようとしない。
ジョーンズ「ったく、しょうがねぇなぁ……」
ビリ……ビリビリ……。
ジョーンズは、自分のマントの端を千切り始めた。
アンジュ「……?」
ジョーンズは千切った布を両手で包む。
瞳を閉じる。
すると…、
指の隙間から、淡い光が溢れ出した。
アンジュ「……!」
ジョーンズが手を開く。
そこには…、
綺麗な真紅のリボンがあった。
アンジュ「……わぁ……」
ジョーンズはアンジュの長い髪を優しく束ね、そのリボンを結ぶ。
ジョーンズ「よし!」
「うん! こっちの方が可愛いな!」
アンジュ「…………」
ジョーンズ「アンジュ」
「これは“勇気の印”で…、」
「そして、“家族”の証だ」
「大事にしろよ…?」
アンジュ「……あ、ありがとう……」
「お父さん……」
ジョーンズ「おうっ!」
ジョーンズは、顔をくしゃくしゃにして笑った。
そして…、
アンジュの頭を、優しく撫でる。
その光景を見ていたジュリアが…、
ジュリア「……い、いいなぁ……」
ジェシカ「ふふっ……」
今度はジェシカがジュリアの髪に、水色のリボンを結んだ。
ジュリア「……わぁ……」
「ありがとう、お母様……」
ジンクス「なんだよぉ!」
「ずるいぞ!」
「なぁなぁ! 俺には何もないのかよ!」
ジョーンズ「お前には……」
「ほれっ!」
パシッ!
ジンクス「……?」
手渡されたのは、一つのマナストーン。
ジョーンズ「俺が見つけたマナストーンだ」
「大事にしろよ!くそボウズ」
ジョーンズは、悪戯っぽくジンクスに微笑んだ。
ジンクス「やったぁっ!」
「これで俺たち“兄妹”だな!」
「仲良くしようぜ、アンジュ! ジュリア!」
アンジュ「……うん」
ジュリア「……うん」
ジョーンズ「ったく……現金なボウズだぜ…」
ははは……。
遠い日の笑い声。
それは…、
今のアンジュにとって、かけがえのない宝物だった。
………
アンジュ「…………」
廊下を歩きながら、アンジュは俯く。
アンジュ「な、何なのよ……」
「今さら……こんなこと…思い出すなんて…」
皆との思い出が、次々と蘇ってくる。
笑顔。
涙。
戦い。
仲間。
家族。
そして…、
匠。
アンジュ「…………」
唇を噛み締める。
アンジュ「…い、…いや…だ…」
「…うぐっ…ぅ…」
声が震える。
「……皆と、離れたくない…のに…」
「嫌だよ……」
「ずぅっと……傍に…居たいのに…」
涙が頬を伝う。
アンジュは、震える手で…、
髪を束ねていた真紅のリボンを解いた。
皆との思い出を断ち切るように…
するり……
リボンが床へ落ちる。
アンジュ「…………」
拾わない。
ただ、
振り返らずに泣きながら歩いていく。
その背中は、啜り泣く声と共に闇の向こうへ消えていった。
―現代日本・オフィス近くの公園-
仕事を終えた仙道雪乃は、いつものベンチに座っていた。
雪乃「……積村さん、遅いなぁ」
今日は、匠から近況を話したいと連絡をもらっていた。
その時…
トン…
肩を叩かれた。
雪乃「積村さ…」
振り返る。
雪乃「……っ!」
そこに立っていたのは…、
泉川是清だった。
以前の端正な姿は、もうない。
乱れた髪。
伸びた髭。
疲れ切った目。
まるで、別人だった。
雪乃「……課長?」
泉川「ゆ……“雪乃ちゃん”……」
「こ、ここで何してるの……?」
雪乃は警戒する。
雪乃「…な…何ですか?」
そのまま立ち去ろうとした瞬間、
ガシッ!
両肩を掴まれる。
雪乃「きゃっ!」
泉川「お願いだ!」
「僕を……匿ってくれ!」
雪乃「……え?」
泉川「お願いだ、雪乃ちゃん!」
「僕は……追われてるんだ!」
「このままじゃ……殺される!」
雪乃「な、何を言ってるんですか!」
泉川「頼む!」
雪乃「離してください!」
その瞬間、
公園の入口。
一人の男が、足早に近づいてきた。
その手には…、
鈍く光るナイフ。
男「…………」
同じ頃。
匠も公園へ向かっていた。
匠「やべぇ……遅れたぁ……」
「雪乃、怒ってるよなぁ……俺から連絡しておいて…」
公園の入口に差し掛かった、その時。
匠「……ん?」
遠くに見える、大樹。
その根元。
誰かがいる。
匠「……雪乃?」
そして…、
匠「……っ!」
雪乃を押さえ込む泉川。
匠「雪乃ぉっ!!」
走り出す。
しかし、
別の方向から、一人の男が二人へ向かって走っている。
その手には、
ナイフ。
匠「……っ!」
匠「おいっ!」
「逃げろぉぉぉっ!!」
声は届かない。
男はナイフを振り上げる。
泉川へ向かって、
一直線に突っ込んでいく。
匠「……くそっ!!」
走る。
(間に合え…)
(間に合ってくれ…)
男の腕が振り下ろされる。
その瞬間、
匠「うおおおおおッ!!」
ドシュッ!!
ナイフが…
匠の胸へ突き刺さった。
泉川「……っ!?」
雪乃「……えっ……?」
匠「…………」
数秒…
何が起きたのか…
誰も理解できなかった。
ポタ……
ポタ……
匠「……痛ぇ……」
胸元から、血が滲む。
匠は傷口を強く押さえた。
泉川「……は……はぁ……」
その場に腰を落とす泉川。
雪乃「つ、積村さん……?」
匠「…………」
雪乃「積村さんっ!!」
その時。
公園を通りかかった人々が異変に気付く。
「きゃあああああっ!!」
「誰か! 人が刺されてる!!」
「救急車を呼んで!!」
ナイフを持った男は、
その場から走り去っていった。
匠「…………」
視界が…
…ぼやける。
身体から力が抜ける。
ドサッ……
匠は、大樹の根元へ倒れ込んだ。
匠「お、俺……」
「……死ぬのか……?」
雪乃「積村さんっ!!」
雪乃は匠の胸元を両手で必死に押さえる。
雪乃「いや……!」
「お願い……!」
「誰か……!」
「誰か、助けてください!!」
「積村さぁぁぁぁぁん!!」
その叫び声が、公園中に響き渡った。
そして…、
匠の意識が、
ゆっくりと…
闇へ沈んでいく。
最後に見えたもの。
それは…
頭上に広がる巨大樹…
その枝葉の隙間から見える、
夕暮れの空。
そして…
大樹の根元で…、
黄金色の光が、静かに脈動していた。
雪乃「いやぁーーーーーっ❗」
――――――――――
-つづく-
ここまで「ダブル・クリエイター」を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
今回で、ついに第100話まで辿り着くことができました。
最初は、まさかここまで長く物語を続けることになるとは思っていませんでした。
匠とジンクス。
二つの世界。
創造主という存在。
そして、たくさんの仲間たち。
気が付けば、私自身もこの世界の先に何が待っているのか、ワクワクしながら物語を書いています。
第100話では、モディアス王国で匠が自分の「創る力」に新しい意味を見つけ、そして現代日本では、もう一人の匠――ジンクスが新しい「創造」を始めました。
一見、別々に進んでいる二つの物語ですが……
実は少しずつ、同じ場所へ向かっています。
ここから先、二つの世界がどのように繋がっていくのか。
次なる戦いの予感がする匠。
凶刃に倒れる匠。
王国を去ったアンジュ。
巨大樹。
黄金の果実。
黒いマナストーン。
そして、まだ姿を見せていない“何か”。
これらが、これから少しずつ繋がっていきます。
…ですが、
ここで一度、少しだけ投稿をお休みさせていただこうと思います。
第100話という大きな節目まで来た今、これからの物語をもう一度じっくり整理し、今後の展開をしっかり組み立てたいと思っています。
せっかくここまで積み重ねてきた物語なので、勢いだけで先へ進むのではなく、匠たちの物語を最後まで大切に描いていきたいと思っています。
楽しみにしてくださっている皆様には、少しお待たせしてしまうことになりますが……
必ず、続きを書きます。
次に投稿するときは、
第101話。
新たな物語の幕開けです。
それまでの間、ぜひ第1話からもう一度読み返していただけたら嬉しいです。
「あれ? この場面って……」
「この言葉、もしかして……」
そんな発見が、これからの物語に繋がるかもしれません。
最後になりますが、
ここまで読んでくださった皆様。
感想や応援をくださった皆様。
そして、今このあとがきを読んでくださっている皆様。
本当にありがとうございます。
物語は、まだ終わりません。
匠とジンクス。
二人の創造主が、それぞれの世界で歩き始めた先にあるもの。
その続きを、また皆様にお届けできる日まで…
少しだけ、お時間をください。
それでは、
第101話で、またお会いしましょう。
「ダブル・クリエイター」
まだまだ、ここからです。
では、また。




