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閑話④「帰る場所があるということ」


 日曜日、夕方。


 真希の実家の玄関の前。


「……なんか、ちょっと緊張するね」


 真希が小さく笑う。


「分かる」


 悠真も頷く。


 たった一泊二日。


 それだけなのに——


 “戻る”という感覚が、少しだけ特別に感じる。



 ガラッ、と扉を開ける。


「ただいまー!」


 声を出すと、すぐに反応が返ってきた。


「ママー!!」


 結翔が走ってくる。


 勢いよく、真希に飛びつく。


「うわっ、ちょっと……!」


 驚きながらも、しっかり抱き止める。


 その重さと温もりが、じんわりと伝わる。


「さみしかったー!」


「……うん、ごめんね」


 頭を撫でながら、優しく言う。



 双子も、よちよちと近づいてくる。


「ママ……」


「はいはい、こっちおいで」


 しゃがんで、二人まとめて抱き寄せる。


 小さな手が、服をぎゅっと掴む。



 その光景を、少し離れたところから悠真が見ていた。


 胸の奥が、少しだけ熱くなる。


 ——ああ、これが。


 “帰る場所”なんだな、と。



「はいはい、おかえり」


 真希の母が、キッチンから顔を出す。


「お世話になりました」


 悠真が頭を下げる。


「いいのよ。たまにはこういうのも必要でしょ」


 さらっと言う。


 全部分かっているような顔で。



「楽しかった?」


 母が聞く。


 真希は少しだけ照れながら頷く。


「……うん」


「そう、よかった」


 それ以上は聞かない。


 それが、ちょうどいい距離。



 帰り道。


 5人で並んで歩く。


 久しぶりの“全員集合”。



「ねえねえ、きょうね!」


 結翔が楽しそうに話し始める。


 実家での出来事を、全部伝えたいらしい。


「それでね、それでね——」


「うんうん、ちゃんと聞いてる」


 真希が笑いながら応じる。



 双子も、何かを伝えようとしている。


 言葉にならない声。


 でも、それがまた愛おしい。



 その横で。


 悠真は、少しだけ後ろから全体を見ていた。


 賑やかな声。


 バラバラに動く小さな影。


 そして、その中心にいる真希。



 ふと、目が合う。


 真希が、ほんの一瞬だけこちらを見る。


 そして——


 小さく、笑う。



 その笑顔で、全部分かる。


 言葉にしなくても。


 ちゃんと、同じ場所にいる。



 家に着く。


 玄関を開ける。



「ただいま」


「ただいまー!」


 声が重なる。



「おかえり」


 悠真が言う。


 その言葉には、自然と力がこもっていた。



 靴を脱ぎ、リビングへ。


 少し散らかった空間。


 でも、それが“いつもの家”。



「なんか……落ち着くね」


 真希がぽつりと呟く。


「……だな」


 悠真も同意する。



 荷物を置き、子どもたちはすぐに遊び始める。


 いつも通りの光景。



 でも——


 ほんの少しだけ、違う。



 真希がキッチンに立つと、


 悠真も自然にその横に来る。


「何やる?」


「……じゃあ、これお願い」


「了解」



 言葉は短い。


 でも、噛み合っている。



 結翔が、それをじっと見ている。


 少し前とは違う空気に、気づいているように。


 そして——


 安心したように、また遊びに戻る。



 夜。


 子どもたちを寝かしつけたあと。



 リビングに、二人。



「……戻ったね」


 真希が言う。


「うん」


 悠真が頷く。



「でもさ」


「うん?」


「前と同じじゃない気がする」



 少しだけ、考えてから。


 悠真が答える。


「……前より、ちゃんとしてるかもな」


「……それ、いいね」



 沈黙。


 でも、心地いい。



 そっと、距離が近づく。


 肩が触れる。


 手が、自然に重なる。



「……また行こうね」


 真希が言う。


「……ああ」



 “ふたりの時間”も。


 “家族の時間”も。


 どちらも大事にする。



 それが、今の二人の選んだ形。



 帰る場所があるから、


 また、どこへでも行ける。



 そして——


 何度でも、戻ってこられる。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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