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『40歳OLと高校生、世間では“母子”、本当は恋人――バレたら即終了の年の差ラブコメ、始まります。』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
シーズン8.5《社会人8年目と2人の出世…家族5人編のその後と特別編 ~ 》
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第1話「春、変わらないもの」


春の空気は、少しだけ柔らかい。


東京の街が、冬の硬さをゆっくりほどいていくような季節。


その中心にある 代々木公園 は、すでに多くの人で賑わっていた。



桜の木の下。


レジャーシートの上に広げられた弁当箱。


春日井真希は、最後の一品をそっと置いた。


「これで全部」


少しだけ息を吐く。


横では結翔が待ちきれない様子で覗き込む。


「もう食べていい?」


「まだ。ちゃんと手洗った?」


「洗った!」


少し大げさな返事に、真希は小さく笑った。



悠真はその様子を見ながら、静かに座る。


周囲には会社の人間も何人か来ている。


だが、距離は絶妙に保たれていた。


あくまで“同じ場所にいるだけ”。


ここは、家族の時間だった。



「いただきます!」


子どもたちの声が揃う。


弁当の蓋が一斉に開く。


卵焼き、唐揚げ、彩りよく並んだ野菜。


どれも手作りだった。



「うまっ!」


結翔がすぐに声を上げる。


未来と莉嘉も夢中で箸を動かしている。


その様子を見て、悠真はふっと笑う。


「やっぱり真希の弁当は強いな」


真希は少しだけ目を細める。


「普通だよ」


「いや、普通じゃない」


そう言いながら、悠真は一口食べる。


そして、何も言わずに真希の方へ少しだけ近づいた。


軽く、頬に触れるだけのキス。


一瞬の出来事。


誰にも気づかれないくらい自然な動き。



真希は少しだけ驚いた顔をする。


「……外だよ?」


小さく囁く。


悠真は肩をすくめる。


「バレてない」


真希はため息をつきながらも、どこか少しだけ嬉しそうだった。



風が吹く。


桜の花びらが、ゆっくりと舞い落ちる。


子どもたちはそれを追いかけるように手を伸ばす。


その光景を見ながら、悠真はぽつりと言った。


「なあ」


「うん?」


真希は空を見上げたまま返す。


少し間を置いてから、悠真が言う。


「……子ども、もう一人とか」


その言葉は、軽いようで少しだけ重かった。



真希はすぐには答えない。


風の音だけが、間を埋める。


やがて小さく息を吐いた。


「……うーん」


そして、ゆっくりと悠真の方を見る。


「もうそろそろ、年齢的にね」


その言葉は、現実をちゃんと含んでいた。


「この歳でだと、高齢出産になるし」


真希は少しだけ笑う。


「それに」


視線を前に戻す。


子どもたちが楽しそうに笑っている。


「この子たちだけで、私は十分」



その言葉は、静かで、でも強かった。


悠真は少しだけ黙る。


そして頷く。


「そっか」


それ以上は聞かない。


それでいいと分かっていた。



真希は少しだけ身を寄せる。


そして今度は自分から、軽くキスをする。


短くて、優しいもの。


「ありがとう」


小さな声。



悠真は少しだけ笑う。


「何が?」


真希は目を細める。


「全部」


それ以上の説明はいらなかった。



桜の下。


家族の笑い声が続く。


特別なことは何もない。


でも、確かに満たされている時間。



仕事もある。


出世も続く。


忙しさも変わらない。


それでも――


この時間だけは、何にも代えられなかった。



春は、何かを始める季節と言われる。


けれど二人にとっては違った。


“変わらないもの”を、ちゃんと確かめる季節だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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