第七十話 獅子王柊一×恋愛=ポンコツ
スキルが使えない。それは俺たちが想像している以上の苦しみなのだろう。一色のスキルを一刻も早く解き明かしてあげたいと思っている。けど、それよりも最初に一色と仲良くなって打ち解けるのが大事だと思った俺たち。一色が背負ってきたものを、どうにかして軽くしてあげたかった。
そんな折に俺は柊一先輩に呼び出された。真極との問題が解決してから日が浅い。大事な要件かもしれないと構えていた俺であったが、言い渡された言葉に思わず絶句してしまった。
「隼人……デートって、どこに行けばいいんだ?」
「……」
「どうしたんだ隼人。何かおかしな点でもあったのか?」
「ああいや! 少し驚いたものでして……俺の記憶では柊一先輩のデートコースって、シングル座談会の時にある程度決まってませんでしたっけ? 確か、最上のデートコースである、魔道具ショップ、プロの決闘者の試合、一緒に鍛錬して一日を終えるという日程に賛同していたと思うんですが」
「そうだ。俺もそれでいいと思ってるんだ。だがな、今度同じ研究所出身の友人とデートをすることになってな。俺はいつも帝人に勝負を仕掛けているだろう? 新たな力を得た俺が勝負を仕掛けないことに疑問を覚えた帝人に何か用事があるのかを聞かれたんだ。そこでデートをする旨を伝えたら、一度隼人に相談した方がいいと言われてな。わざわざ迷惑をかける必要はないと他の生徒会の連中にも聞いたら、隼人に相談しろと言われたんだ。ということで、どういったデートコースがいいのか考えてくれるか? 参考にしたい」
……あの人たち、面倒ごとを完璧に俺に押し付けやがったな!
そりゃ、あのデートコースを聞いたら心配になるのも分かる。相手が戦闘希望者じゃない人ならますます心配になるだろう。だからと言って、俺にどうしろと言うんですか?
俺もデートなんて一回もしたことがないぞ……待てよ。三人寄れば文殊の知恵。五人揃えば最強と言う説がある。一色と仲良くなるいい機会だ。みんなで相談させてもらおう。
「ということで、『第一回、獅子王柊一のデートコースを考えようの会』を始めようと思います」
「あの完璧な獅子王先輩にそんな短所があると思わなかったわ……」
「どうも柊一先輩は恋愛が絡むとポンコツになっちゃうんだよな……我ながらどうしたものか心配だよ」
「デートコースを決めるって言われても、この中でデートしたことあるやついんのかよ?」
「うちは……黙秘権を行使します」
「そういや、あんたは前に経験ゼロって言ってたな」
「ちょっと! 人がせっかく黙っていたのに何でばらすのよ! 黙っていれば、デートしたことがある可能性も残ってたじゃない!」
「十六夜は結構もてるんじゃないのか? 先日の学園の聞き込み調査の時も女子に人気だっただろう?」
「我が言うのもなんだが、中学校の時も女子人気はあったと思うぞ。しかし、我は研究と動画投稿に明け暮れておったからな。誰かとデートをした経験はないのだ」
「もてるというのであれば、直史様もかなりもてていたじゃないですか?」
「また余計なことを……俺はお前がいつも隣にいるせいでロボットに恋している男と思われていたんだからな! 結局デートはしたことないぞ!」
まあ、ロボットとはいえこんな高性能で精密な上に美人がメイド服でずっと一色の傍にいるんだからな。何かあると思われても仕方のないことだとは思う。……あれ、もしかしなくてもこの中でデートをしたことがあるやつっていないのか。誰か一人はいると思ってたんだが。これはちょっと困ったな。
「俺もデートしたことないからな。みんな経験ゼロってことか。うーん、各々の理想のデートとか発表していくか?」
「流石に恥ずかしすぎんだろ! 公開処刑だそんなもんは! てか、理想のデートって言うんなら、八雲が咲耶との理想のデートを発表すればいいだろ?」
「それこそ公開処刑じゃねぇか! しかもどうせお前ら、女子の時だけに夜月にばらすだろうが! そんなことになったら夜月に一生にやにやされるぞ!」
「八雲はデートをする相手がいるのか。それなら、八雲のデートプランも一応みんなで考えていた方がいいんじゃないのか? 獅子王先輩と言う方のデートプランを考えるついでに」
「実際この中で一番デートをする可能性が高いのは八雲であるからな」
「そうよ。咲耶ちゃんを悲しませたらうちらが許さないんだからね。まずは、どんな場所に行くつもりか言って見なさいよ」
まずった。俺の不用意な発言からこんな流れになるとは。けど、夜月とのデートプランと言えば俺が一生悩んでいる問題でもある。ここでみんなに決めてもらうの悪くはない話だ。
「いいだろう。デートプランは正直決めれなかったが、どこに行きたいかだけは決まっている……その、最初のデートって水族館と映画館、どっちがいいんだ?」
「難しい質問が来やがったな。あたいは水族館かもしれねぇ。デートで映画館ってなれば恋愛映画が多いんじゃねぇのか? それは恥ずかしいから水族館を選ぶ」
「うちは映画館がいいかも。映画を見ているときは話せないけど、前後で話題を提供しやすいでしょ? 恋愛映画がいやなら、他のにすればいいだけだし。どんな映画を見るかでまず盛り上がると思わない?」
「獅子王先輩も八雲も相手は幼馴染である。気心の知れた相手なら好みに合わせて決めるのも良いのではないか?」
「幼馴染なのか。というか夜月と言えば有名な名家じゃないか。凄い相手と幼馴染になったもんだな」
「たまたま縁があってな。ちなみに幼馴染は負けフラグが立っているとか言ったら、俺は泣いちゃうから言わないでくれ」
「言わないのであるぞそんなこと。ちなみに我は水族館であるな。水族館は無難であると思うぞ。相手を誘いやすい上に、話題に困ることもない。映画館では相手の顔を見れぬが、水族館では喜んでいる顔を見放題である。それに、服のお洒落を存分に発揮できる。雰囲気も良くて距離も縮めやすいと思うのである。初デートなら水族館一択であるな」
「十六夜は本当にしっかりしている。俺も十六夜の意見に賛成だ」
「私もです。初デートは水族館がよろしいかと思います。ただし、相手の好みによっては動物園や音楽ライブ、スポーツ観戦もいいと思います」
確かにその通りだ。夜月は動物や魚が好きだからな。映画館よりは水族館や動物園の方がいいか。それにお互いが戦闘希望者なら、プロの決闘を見るというのも悪い選択肢ではないのか。
相手の好みを聞き出すという点で見れば、まずは水族館に行ってお互いの趣味を話し合ったりするのもいいかもしれん。俺は夜月のことを知っているが、柊一先輩が相手のことを知っているとは限らないもんな。よし、柊一先輩への提案は水族館にしよう。
「でだ。ここからが一番悩むんだが、水族館をデートプランに入れたときって、その日はどういった予定にすればいいんだ?」
「水族館って滞在時間を自由に決められるけど、そんなに長く滞在する場所でもないわよね。映画館ならそこからウィンドウショッピングとかでいいけれど」
「水族館は場所によっては他のレジャー施設が併設されているところも多いと思うのだ。ゆえに、どこの水族館に一緒に行くかが重要ではないのか?」
「場所や時間によっては水族館からのナイトシアターとかできるがな」
「それは車がないと難しくねぇか? 学生なら夜遅くまではいられねぇしよ」
「昼から水族館に行かれるのでしたら、まずは昼ご飯を一緒に食べてそこから水族館に行かれてはどうですか? 水族館の後は最寄りのショッピングモールのカフェで休憩して、そこからウィンドウショッピングをするのが無難ではないかと思われます」
「「「「……」」」」
気持ちは分かるぞ。俺たち、ロボットに負けたんだよな。デートコースという大事な勝負所で負けてしまったんだよな。いいんだ、ロボットはロボットでも大切な仲間のティアが言ってくれたんだ。潔く従おうぜ。
「デートコースはティアが言ったのを参考にさせてもらおう。これを獅子王先輩に伝えて話は終わりだな」
「いやー、ひとまず決まって良かったのだ。戦闘希望者ではない女の子に魔道具ショップとか鍛錬とか言われても困るだけであるからな」
「でも、獅子王先輩の幼馴染ってことは少なくともあっちは獅子王先輩のことが好きなんじゃないかしら? だったら好きな人とならどこでもいいっていうタイプかもしれないけどね」
「結局、どこに行こうが好きな人となら楽しいってことさ。後は成功することを祈っとこうぜ」
「なあ、一つ思ったんだが、獅子王先輩と言う人は女性の機微に疎いんじゃないか? そこは大丈夫なのか?」
「……怖いこと言うなよ。流石の柊一先輩でも一般常識くらいはあるだろ。確か今は帝人先輩と戦っていないはずだ。少し電話してみるか」
柊一先輩のデートプランをみんなで考えることは許可を得ている。俺が電話を掛けるとすぐに繋がった。
「獅子王柊一だ。どうかしたのか隼人? 俺の相談したことで何か問題が発生したのか?」
「デートプランは決まったんですが、ちょっといくつか質問したいことがありまして。まずは、この場にいるみんなにも聞こえるようにスピーカーにしてもいいですか?」
「構わない。それで問題と言うのは何だ?」
「デートの盛り上がりが最高潮に達したとき、柊一先輩と相手が夜景が綺麗なところへ一緒に行ったとします。そこで相手が『今夜は月が綺麗ですね』と言ったら何と返しますか?」
「うん? もしかして、君は月のことが好きなのか? いつか月旅行に行ける日が来るといいな……こういうことじゃないのか?」
俺たちは静かに天井を仰ぐ。この言葉の返しに正しい答えがあるとは思わない。それでも、それは違うということだけは分かる。聞いておいて良かったという安堵と同時に、これからどうなってしまうんだろうという不安が一気に襲い掛かってくる。
「えーと、他の質問に移りますね。例えば、冬にデートをするとします。相手の手が空いていて、『冬だから手が冷たいね』と言ったとします。その子は手袋を持っていません。獅子王先輩はどうしますか?」
「ほら、手を出せ。俺の火属性のスキルで温めてやる。どうだこの炎は、温かいだろう? ……違うのか?」
「ちょっと一旦相談するので保留にしますね」
「分かった。時間はあるから、適当に待っておく」
俺が保留ボタンを押すと、静かなカフェ内に保留音が無慈悲に響き渡る。
「なあ、今のってありだと思うか?」
「我は正直かっこいいと思うぞ。だが、実際は手を繋ぐが正解であろうな」
「流石に不正解ではないかと思われます。二人で一緒に焚火の炎で暖を取るようなものとは訳が違うと思います」
「うちも手を繋いでほしいわね。でも、この質問は難しい問題だったかもしれないわよ」
「もっと簡単な問題の方がいいんじゃないのか? 多分この人、恋愛が絡むと変な方向に気遣いが行くと思っている」
「そうだな。もっと簡単にしよう。柊一先輩、相談が終わりました。質問の続きをさせてもらいますね」
「ああ分かった」
「水族館や動物園とかに行くと、歩き回って結構疲れますよね。相手が疲れてそうだったらどうしますか?」
「体力の鍛え方や疲れない歩き方を教えてやる。今度一緒に鍛錬するか? ……合ってるんだよな?」
「……えーと、カフェとかで休憩しようと誘ってみてください。相手が疲れてるとかじゃなくて、自分が疲れているからカフェで休みたいという感じで」
「俺は歩き回って疲れることなんてないぞ?」
「……そこをどうにか我慢して疲れた風を装ってください。自然にですよ。ちょっと練習してみてください」
「あー、何だか疲れたなー。足の感じがおかしい気がするぞー。チョットキュウケイスルカ?」
問答無用で保留ボタンを押す俺。この人は駄目だ。一体どうすればいいんだ。何から教えたらいいのか分からないとかいうレベルだぞ。本当に恨むからな帝人先輩!
「おっと、すみません。間違えて保留ボタンを押してしまいました。もう少しだけ付き合ってもらってもいいですか?」
「問題ない。俺のことを思ってのことだろう。続けてくれ」
「一応ですよ、馬鹿にしているとかではないですよ……2月14日って何の日か分かりますか?」
「2月14日? ……決闘記念日とかか?」
嘘だよなー……嘘だと言ってくれよ柊一先輩!!
この日にどれだけの男性が弄ばれてきたと思ってるんだ!!
全国の男性が一年で一番そわそわする日なんだぞ!!
「違います。正解はバレンタインデーです。基本的には、女性が気になっている男性に向けてチョコを渡す日となっています」
「そうだったのか。道理でやけにこの日は女性からチョコをもらうことが多いと思っていたんだ。謎が解けた。ありがとう隼人」
「ち、ちなみに3月14日は何の日か知ってますか?」
「……トレーニング記念日」
「……すぅー、はぁーーーー。この日が何の日かは宿題にしようと思います。自分で調べてみてください。それと、今の一連の俺とのやり取りを生徒会の人たちに話してきてください。多分、柊一先輩のためになると思います」
「そうか、分かった。色々と助かった。デートプランについては後程聞くことにする。それではまたな」
「……良し!! 話は終わりだ! 後は生徒会の人たちがなんとかしてくれるだろう! ちょっと疲れたな、追加でスイーツでも頼むか!」
一致団結。この日俺たち五人と一体は初めて心が通じた気がした。運ばれてくるスイーツ。失われた気力と糖分を全力で補給していく。このままみんなでカラオケまで行こうかと言う話になったとき、突如として俺の携帯が振動した。相手を確認すると、帝人先輩だった。
「……おかけになった電話番号は現在使われていないかもしれません。どうされますか?」
「仕方がないが、八雲隼人くんの進級を諦めるしかないね」
「こちら八雲隼人です。一体どのようなご用件でしょうか?」
「実は先ほど生徒会で新たな問題が発生してね。その問題を八雲くんたちに解決してほしいと思うんだ」
「……用件は?」
「君たちで柊一くんのための恋愛問題集を作って欲しい。満点を取れるまで続けるように。このままでは悲しい事件が起こりかねない。安心したまえ。報酬は必ず用意する。飛び切りの報酬を用意しておくから頼んだよ」
「先に仕掛けたのはそちらだと思うのですが……」
「八雲くん、君との一連の話を聞いた生徒会のメンバー。特に小鳥遊くんと和馬くんと蓮司くんの笑いのツボに入ってしまって、仕事の効率が落ちてしまったんだ。お互いに両成敗ということで、問題の解決だけはそちらでやってくれないか?」
「分かりました……申し訳ありませんでした」
「いや、こちらも申し訳ないと思っている。お互いとんだ災難だったね。共に乗り越えていこう」
今日と合わせて二日間。獅子王柊一の特別補習が行われることになった(後日聞いた話によると、柊一先輩のデートは大成功に終わったらしい)。




