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第六十八話 no one knows

「おはよう三人とも、夏休みに入ってからは初めてだな」

「うむ。確かにそのとおりである。みんな意外と用事があるみたいなのでな」

「そうですね。私は戦闘希望者の集まりだったり、夜月家のことがありましたから」

「うちはあんまり予定はなかったけど、長門が課題を今のうちにやっておけってうるさいから忙しかったのよね」

「去年の夏休みの終わりごろ、課題が全然終わっていないって泣きついてきたのはどこのどいつだよ。あたいは二度とごめんだかんな」


 一学期の休日はみんなでよく遊んでいたのだが、夏休みに入ると意外と予定がかみ合わず遊ぶ機会がなかった。そのため、俺と夜月、研究希望者の三人で久しぶりに集まろうということになったのだ。いつもはこのメンバーにプラスで小波がいるが、過保護な父親に実家へ帰ってきてくれと懇願されたみたいで仕方なく一足先に帰省した。


「今日はどうする? 何にも決めてなかったが、今からでも映画館に行くか?」

「いいですね。ちょうど見たい映画があったんですよ」

「それじゃあ行くであるか」

「いいわね、賛成」

「恋愛映画じゃなければ何でもいいぜ」


 十六夜の動画投稿の手伝いだけは前日から予定が決まっているが、今日みたいな感じで何で遊ぶかは大体がその日に決まる。観光地でのんびりすることもあれば、小波の家で遊ぶこともある。とにかくみんなで集まればそれだけで楽しい。それが俺たちであった。

 だというのに、今日はなんだか十六夜と桜庭の様子がおかしかった。自分でも気がつかないうちにため息をついてたり、どこか上の空であることが多かったのだ。気にしないようにしていた俺と夜月。だが、いつまでもそんな調子の二人。流石に気になって尋ねることにした。


「今日はどうしたんだ二人とも……楽しくなかったか?」

「いや、そんなことはないのである。とっても楽しかったのだ。気にするでない」

「本当に楽しかったのは事実よ。ちょっと色々考えることがあっただけ」

「それでも気になりますよ。二人揃って悩んでいるなんて、絶対何かあったのは間違いないじゃないですか」

「……もうゲロっちまったらどうなんだ? どう考えたって、一色いしきのことだろう?」

「一色……誰だそいつは?」


 桜庭は余計なことを言うなという目で長門を見ていたが、観念した十六夜がため息をついた後にゆっくりと口を開いた。


「汝らは研究希望者は三人で一組のことは知っているであろう?」

「はい、知ってますよ……でも、長内先輩が退学になったことで二人一組になったんですよね」

「そうである。しかし、夏休み直前になって連絡が入ったのだ。二学期から編入生がやってきて、その人が我らのグループに参加すると」

「それで、夏休みに入ってから三回ほど会ってみたのよ。その編入生の名前が一色直史いしきなおふみって言うの」

「その一色ってやつが性格に難ありって感じなのか?」

「有り体に言えばね。でも、全然悪い奴じゃないの。これからも一緒にやっていけるし、やっていきたいと思ってる」

「なのだが、あっちがどうも対人関係において壁を作っているのだ。仲良くしようと思ってもどこか一線を引かれている」

「涼風先生に聞いたら、そんな感じで前の学園でもいつも一人みたいだったから、今日みたいに楽しいことがあるとどうにかできないかなって思っちゃうの」


 一色直史。この学園に編入できたということは、持っている能力は相当なものなのだろう。けど、編入生と言えば黒島の件がある。自分の能力の高さに胡坐あぐらをかき、人一倍にプライドが高かった。

 話の流れ的に一色はそんな奴ではないということは分かるが、一体何がそこまで二人を困らせるのだろう。一人で行動することを好むやつもいると思うのだがな。


「八雲が不思議に思うのも分かるぜ。一人だって本人の意思なら別にいいだろって思ってんだろ? だけどよー、一色は何かちげぇんだよ。あたいも一度話したことがあるが、どこか自虐的で、一人でいないといけないって考えてる気がしてんだよ」

「しかも、そうなってしまったかもしれない理由に心当たりしかないのである。本人が言いたくないことだと思うゆえ、我の口からは話せん」

「なるほど……一色先輩に特別な事情があるんですね。そのことが二人を悩ませているということですか」

「余計なお世話だと思ってるんだけどね。どうしても、ふと見せる全てを諦めたような目が放っておけなくさせるのよ」

「うーん、俺は一色とは面識がないから何とも言えんが、二人が悩んでいるなら力になりたいと思ってる。俺に手伝えることはないか?」

「一度会わせてみたらいいんじぇねぇのか? あたいたち三人だけではどうにもできなくても、みんなでなら解決できるかもしれねぇだろ」

「……悩ましいところであるが、このままではいつまでもこんな状態になってしまう我がいるのは目に見えている。すまぬが、もし一色を誘うことが出来たら会ってみてくれぬか?」

「分かった。無理やり誘おうとしなくてもいいからな。あくまで一色の意思で頼む」

「了解したわ」


 その日は映画を見て軽くショッピングをした後帰ることにした。二人だけで背負っていた問題をみんなで解決する。そのことに安堵したのか帰り道に二人がため息をつくことはなかった。

 とはいえ、あちらが乗り気でないならこの話はなしになる。そう思っていたが、意外なことに一色は了承してくれたらしい。一色との話し合いの場は明日に設けられることになった……ここまでは良かった。


「八雲先輩……申し訳ありません」

「気にするな。仕方がないだろう。そっちも重要な役目だ。頑張ってこい」

「はい、ありがとうございます。そちらは頼みましたよ……それじゃあ先輩、しばらくの間お別れですね」


 真極紅蓮が捕まったことで政府の闇の部分が露呈してしまった現在の日本。それに伴って、夜月家も色々と忙しくなっていた。夜月は父親である龍道さんから家業の手伝いを言い渡され、明日の朝一には帰省することになってしまった。

 そして話し合い当日。俺が十六夜の行きつけのカフェで待っていると、研究希望者組と一人の男性。それにメイドさんらしき人物がカフェに入ってきた。

 男性は深い緑色の髪で凛々しい顔立ちが特徴的だが、どことなく儚げな印象を与えるオーラを身に纏っている。女性は青緑色の髪とメイド服、それに頭にかぶったティアラが特徴的な美人ではあるが、どこか感情がない無機質な感じがするのはなぜだろうか。


「待たせたのだ八雲」

「いや、予定よりも早いくらいだぜ。それよりも君が一色か? 俺の名前は八雲隼人だ。よろしく頼むよ」

「ああ、俺の名前は一色直史だ。よろしく頼む」

「そちらのお姉さんは?」

「私は直史様にお仕えするロボットのティアと申します。ティアと言う名前は身に着けているティアラから直史様に名付けていただきました。よろしくお願いいたします」

「相変わらず余計なことをペラペラと。ティアは黙っていろ」

「ロボットだったのか。それにしては随分と人間に近い姿をしているんだな。言われるまで気が付かなかった」

「俺もだよ。最初にこいつを実家の蔵で見つけたときは事件性を疑ったほどだ。それが実はロボットで、触ると主に認証されるんなんて思ってもみなかった。ティアとの出会いはそんな感じだ。今日はこの場に呼んでくれて感謝するよ。俺は中々自分から動かないからな」

「本当にその通りです。もっと誰かと関わらないと駄目ですよ。だというのに……オーノーですね」

「黙っていろと言っただろうが。ふぅー、全く困ったものだ。そこで大人しくしていろ」


 首を触りながら鬱陶しそうにティアへ命令する一色。今のところ精巧なロボットが一緒にいるだけでおかしな点は何もない。本人も友好的だし、特殊な事情などないように感じる。唯一おかしな点があるとすれば、ロボットなのに主の命令を無視したりと、随分と自由なロボットがいたものだというところぐらいか。


「今日はどうして俺たちと一緒に行動しようと思ったんだ? 普段から一人で行動していると聞いていたものだから」

「……自分を変えたかったのかもしれないな……いや、本当の自分を見つけられる気がしたんだ。八雲は俺のことについて何か知っているか?」

「名前と編入生ってことと、一人で行動しているってことだけだ」

「そうか……十六夜と桜庭はいい奴らだな。前の学園の奴らはお構いなしに話しまくってたからな」

「そいつらが異常なだけである。我は友人の事情をそう簡単に話しなどしない」

「私もよ。別に話したくなかったら話さなくてもいいんだからね」

「構わない。無理やりじゃない。俺が話したいから話すことにする。八雲、俺はな……スキルが使えないんだ」

「え? ……スキルが使えないだって? それは……スキルの発動条件が難しすぎるってことか?」

「いや、そうじゃない……分からないんだ。みんなも、俺すらも俺のスキルの能力が何か分からないんだ。分からないから発動できない。誰も俺のスキルを知らないことから【no one knows】。略して【ノーノー】と今まで呼ばれている」


 俺の口から息が漏れ、開いた口が塞がらなくなる。あまりにも衝撃的のことで次の言葉を失ってしまった。スキル。それは魔力と同じように全ての人間に宿っているもの。小学生になる頃には自分にどんなスキルが宿っているのかは自然と分かるようになる。

 俺も自分に【不調で絶好調ダウナーズハイ】という難しいスキルがあることはその頃には分かっていた。スキルを持たない人間と言うのは聞いたことがない。スキルがあるのは確実だと思う。


「……自分の中に、スキルが眠っている感覚はあるのか?」

「それすらも分からない。周りの人が自分のスキルに気づく頃になっても俺だけ何も分からなかった。スキルの詳細どころか、自分にスキルがあるのかさえ。俺の中にスキルが本当にあるのかは、神のみぞ知るってやつだな。だが、魔力は持っているからな、多分あるんだろうとは思う。俺が研究職を目指すようになったのは……自分の中に本当にスキルがあるのかを確認するためだ」

「さっき言った本当の自分を見つけられるかもしれないというのは、自分のスキルが分かるかもしれないということか?」

「そうだ。俺はずっと一人でいることを選んできた。スキルが分からない俺は、どこに行ってもどこか除け者にされているように思えたから。実際に除け者にされたわけじゃない。でも、俺の心がどうしてもみんなとは違うという事実を感じてしまったんだ。そんな俺をずっと気にかけてくれる教師がいてな。その人の助言で、俺は天岩学園に編入することを決めたんだ。日本一の学園であるなら何か分かるかもしれないってな。それからは何か機会があれば、普段とは違うことをやってみようと思ったんだ。それが今日の誘いに乗っかった理由さ」

「そのように考えて行動に移されたこと、誠に嬉しく思います。直史様はもっと何も考えずに自由にやればいいんですよ」

「ふんっ、ロボットのお前に何が分かる。言ってしまえば、全てはただの気まぐれだ。どうせ俺のスキルなんて分かることはないだろう。今回行動したのだって、普段と違うことをやって何も分からなければ、それ以降はずっと一人でいいということを確認するためだ」


 みんなの言った通りだ。どこか自虐的で、自分のスキルなんて絶対に分かることがないだろうって思っている。だというのに研究職を目指したり、普段とは違う行動を取ったりしている。

 一色は諦める理由が欲しいんだ。結局自分のスキルなんてどう頑張っても分からないってことを証明したいんだ。でもよ、その感情の中には……本当は自分にもスキルがあるんだっていうことに期待している感情も含まれているんじゃないのかよ。


「……一色はさあ、『だるまさんが転ぶ国と転ばない国』って知っているか?」

「知っている。有名な童話の一つだろう。それがどうしたんだ?」


 『だるまさんが転ぶ国と転ばない国』。これは日本に伝わる童話の一つだ。昔あるところに二つの国があった。一つの国では毎日正午になるとだるまさんが転び、もう一つの国ではだるまさんがいるが絶対に転ぶことがない。そして、だるまさんが転んだ時に外で動いている者がいればその国には災いが訪れる。

 ある時、だるまさんが転ぶ国の男がだるまさんが転ばない国へ移住した。絶対にだるまさんが転ばない国。男は安心して暮らせると思っていた。しかし、男はすぐに不自由なはずのだるまさんが転ばない国へ戻っていった。物語の最後は男の言葉で締めくくられる。『だるまさんが転ぶタイミングが分かっていないと落ち着かない』と。


「一色はこのお話のこと、どう思う?」

「どう思うって言われてもな。確かこのお話は、どれだけ不自由でも予定されたことが起こる世界の方がいいという話だった気がする。俺はそうは思わない。どう考えても絶対にだるまさんが転ばない世界の方がいいと思うがな」

「直史様、違いますよ」

「うん? どういうことだティア? 何が違うって言うんだ?」

「それは童話向けに修正されたお話です。これが書かれた原本の物語は違います。男がだるまさんがいない国へ戻っていったあと、絶対にだるまさんが転ばない国は滅んでしまうんです……だるまさんが転んだことによって。このお話が書かれた元の意味は、絶対などこの世には存在しないということなのです。八雲様もそうおっしゃりたいんじゃないでしょうか?」

「驚いた。その通りだよ。一色は多分諦めてる。絶対に俺のスキルが分かることは無いって。でも、そんなことはないんだ。絶対なんて言葉は時に、いとも容易く覆される。この夏休み、探してみないか? 一色にもスキルがあるんだってこと。一色が良ければ、俺たちは協力する」

「……」


 一色が首を触りながら下を向いて黙り込む。俺たちは一色の次の言葉を固唾を飲んで見守る。


「無理しなくてもいいぞ。それに、答えは今じゃなくてもいい」

「……八雲、俺が集団行動を避けているのはもう一つ理由がある。俺はずっと【ノーノー】と言われて蔑まれてきた。家族は優しかったし、教師も優しかった。俺に声をかけてくれる生徒もたくさんいた。だが、中にはそうじゃない連中もいる。俺と一緒にいることで、【ノーノー】と関わっている連中と言う評価をお前たちも受けてしまう。それでもいいのか?」

「……ふぅー、一色、そういえば俺のことを全く話していなかったな。俺はこの学園のランキングで最下位の男なんだよ。一年生の時はずっと負けっぱなしで、最弱、最下位と呼ばれてきた。けど、そんな俺と一緒に行動してくれる奴はいた。今でも最下位だけどこんなにも友人がいる。俺は、俺たちは気にしない。さっきの話の手前、絶対って言葉は使えないけどよ。俺たちのことを信じるかどうかは一色が決めてくれ」

「俺は……」

「全く素直じゃないですね。本当は直史様も心のどこかで信じてみたい気持ちがあるのでしょう? 八雲様たちのことを、自分にスキルがあることを。それなのにうじうじと悩んで、本当にオーノーですね」

「ティアは相変わらずうざったいが……ティアの言うとおりだな。俺は、八雲を、みんなを、自分にスキルがあることを信じてみたい。だから、協力してくれないか?」

「ああ、任せとけ!」


 俺の声を合図にみんなが頷く。一色は照れているのか首を触りながらそっぽを向いた。


「それにしても驚きましたね。あれだけ誰かと一緒に行動することは絶対にないっておっしゃていたのに」

「うるさいなティア……たまたま何かの拍子に、だるまさんが転んだんだよ」

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