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第四十六話 最強

 荒武のとんでもない荒業によって引き分けに終わった防衛作戦二回戦目。次はついに最後の種目である決闘だ。最後の決闘は両チームが一つの決闘場へ集まって応援するため、俺たちは場所を決闘を行う決闘場へ移していた。


「帝人は絶対にここで来るだろうな。夜月、準備は万全か?」

「はい、たくさん鍛えましたのでばっちりです。天王寺先輩だろうと負けるつもりはありませんよ」

「分かった。俺は審判にこちらの出場者を伝えるために少しここを離れる」


 勝っているチームの人物を見て、負けているチームは誰が決闘に出るのかを選べる。だとしても、帝人先輩ならここで出場するだろう。自分が勝って、俺が出場しないといけない状態へ持ち込むために。


「只今、勝っている白チームの出場者が発表されました。白チームの出場者は……天王寺帝人ーーーーー!!」


 場内に歓声とどよめきが入り混じる。絶対にここは勝つという気迫をみんな感じているのだろう。


「続けて、白チームの出場者を見た上での、赤チームの出場者を発表します。赤チームの出場者は……夜月咲耶ーーーーーー!!」


 場内に大歓声が溢れる。戦闘ランキング一位と二位の戦い。そう簡単にお目にかかれるものではない。この体育際だから実現できた試合だと言っても過言ではないくらいだ。帝人先輩と夜月が決闘場の始まりの位置へ歩を進める。ゆっくりと歩いている二人の足元からずっしりとした重たい足音が聞こえる気がする。

 ……これは、それぞれが保持する魔力の大きさ。まるで、一つの惑星が歩いてるかのような巨大な存在感。目を引き付ける引力。隠しても隠し切れない力の強さが二人の体から溢れ出ていた。最後の決闘においては実況と解説は存在しない。二人のバトルをそのまま目に焼き付けろということだろう。審判が二人が所定の位置に着いたのを確認。大きく深呼吸をする。


「それでは、赤チーム、夜月咲耶と、白チーム、天王寺帝人の決闘を開始したいと思います。カウントダウンを開始します。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、始め!!」


 それは、審判の開始の合図と同時であった。決闘場の真ん中で二つの拳がぶつかり合う。響き渡る音、吹き荒れる風、身を揺らす衝撃。二人の元から衝撃波が生まれる。体が二人の間に吸い込まれるように動く。まさに、最強と最強のぶつかり合い。試合開始からほんの数秒で、誰しもが異次元の戦いであることを自覚する。

 場内が静まり返ると同時に二人が拳の打ち合いに転じる。ラッシュとラッシュの猛攻。攻撃こそが最大の防御ともいわんばかりにノーガードで拳を打ち込む。そこには魔力によるブラフなんてものはない。いや、する暇がない。撃ち合わなければ負ける。二人の拳が激突し、場内が震える。二人の攻撃の余波によって、辺りの地面が壊れていく。そして、再びぶつかる両者のストレート。誰しもが目を離せずにいた。


「流石夜月くんだね。入学式の時よりもずっと成長している」

「そのまま天王寺先輩を超えるかもしれませんよ? まだまだこんなものじゃありませんよね?」

「もちろんだとも。それでは少しだけ本気を出させてもらおう」


 二人の姿が消える。俺たちの目に映るのは、二人が攻撃するその瞬間のみ。場所を変えながら相手の死角を突いて攻撃しようとする夜月。目にも止まらないその速さに帝人先輩がついていく。一秒ごとに繰り返される、衝撃と轟音に俺たちは黙って見つめることしかできずにいた。皆、この歴史的な試合を一瞬たりとも見逃したくないからだ。

 だが、どれだけの人がこのバトルを目で追えているのだろうか。余りの速さに驚くこともできずに見ることしかできない俺たち。現れては消え、現れては消えを繰り返す二人の戦いは、一体どれほどの時間が流れているのだろうか。俺たちにとっては一瞬の出来事が二人にとってはそうではない。流れている時間が違うのではないかと思えるほどの超次元のバトル。どっちが勝ってもおかしくはない。


「ふぅー、本当に素晴らしいね夜月くん。速さも力も判断力も全てに磨きがかかっている。君の体術と魔力は、君が出せる上限に行きついてる。完璧に近いと言ってもいい」

「ですが、あなたに勝てないと意味がありません。上限でも勝てないというのであれば、限界を超えるまでです」

「ふふふふ、君は分かっていないな。今の君に足りないものを。私が全力で教えてあげよう。『右から殴る』」


 帝人先輩がそう宣言し終わったときには、夜月の右からパンチを打ち込んでいた。特大の魔力で防ぎきる夜月。それでも体がぐらつく。帝人先輩の攻撃が少しだけギアが上がった。今のが帝人先輩の【手札公開フルオープン】の強いところ。

 自分の次の行動を公開することによって、魔力と身体能力を上昇させる技。帝人先輩のスキルの公開条件には二つある。一つ目は、複数人に公開すること。二つ目は一人に公開し、そのものに対してスキルを使うこと。前者は誰に対してもスキルを使えるが、後者は公開した本人へしかスキルが発動できない。しかし、この決闘においてはそれでいいのである。戦う相手は公開する本人しかいないのだから。


「まだまだ、負けるつもりはありませんよ!!」

「前回はこれで決着がついたのだが、今の夜月くんにはこれだけでは駄目なようだね。『左から殴る』」


 宣言すると同時に物凄い勢いで夜月に迫る帝人先輩。何だ。ちょっとおかしい。情報を公開したはずなのに、出力が上がるどころか少し落ちている気がする。違う。そうじゃない。出力が落ちたということは本当の情報を公開せずに秘密を作ったということ。今の発言はブラフだ!

 だが、瞬きでもしようものなら即座に試合が終了する超スピードのバトルの中で、そんな些細な変化に一瞬で気が付くのは難しい。左をガードしようとした夜月に対して、右から殴りつける帝人先輩。夜月が自分の過ちに気付くも手遅れ。魔力による集中防御でどうにかガードする夜月であったが、右からのフックが胴体に直撃する。夜月は踏ん張れずにぶっ飛ばされ、地面を転がっていった。

 このバトルにおいて、少しでもダメージ負うようであれば、その速さについていけなくなる。夜月の敗北は決定的に思われた。ところが、夜月は平然とした素振りで立ち上がる。ダメージは受けているはずだ。平気なわけがない。夜月は帝人先輩へ近づくと、何やら話を始めた。


「……負けるわけにはいかないんですよ。約束しましたから。絶対に勝つって約束しましたから。……本当に嫌なんですよ。いつもあの人は私の隣に立てれる人なのかを気にしている。違う、逆なんですよ。あの人が私の隣に立てるかじゃない! 私があの人の隣に立てるかなんだ!! 負けるわけにはいかない! あの人は……私のものだから!!」


 刹那、夜月の魔力が跳ね上がる。その輝きは夜空に浮かぶ満月のよう。儚くもあり、強い光でもある。夜月から漏れ出た魔力がびりびりと音を鳴らして弾け飛ぶ。今、俺たちはとんでもない瞬間を目の当たりにしているかもしれない。


「私に足りないもの。それは気持ちだったんですね。教えていただきありがとうございます。感情が爆発すれば爆発するほど、身体能力と魔力が跳ね上がるスキル。これが私の【私だけの正義ドレッドノート】です」

「はははははははは!! やはり君を八雲くんに同行させたのは正解だった。思う存分、戦おうじゃないか」


 夜月の姿が消える。次の瞬間には帝人先輩と撃ち合っているが、先ほどのように帝人先輩はついて行けていない。目で追って迎撃するので精一杯だ。色んな方向から帝人先輩を強襲する夜月。場内のみんなは目を疑っていた。あの最強である天王寺帝人が押されている。

 帝人先輩は守りに徹するも徐々にガードが緩くなってきている。帝人先輩の身体能力と魔力を以てしても、この攻撃の嵐を防ぎきることができない。そして、夜月のストレートが炸裂する。手を交差して魔力を集中。しかし、受けきれずに後退させられる。地面を引きずりながら後ろに下がらされた帝人先輩。帝人先輩の手はびりびりとしびれるように震えていた。


「まさかここまでだとは思わなかった。今の君は間違いなく、世界でも十本の指に数えられるほどの強さになっている。本当に嬉しいよ」

「天王寺先輩のおかげですよ。あなたのおかげで強くなることが出来ました。今度は私が教える番になりますかね?」

「……いや、その必要はないみたいだ。本当に嬉しいんだよ。君がここまで強くなったこと。そして……私がまだまだ強くなれること。その両方がね」

「……どういうことですか?」

「私は今、新しいスキルに目覚めた。新しいスキルの名は【設定難易度鬼レベルクレイジー】。自ら自分の行動に制限をかけることで身体能力と魔力が跳ね上がるという能力だ。私が自分に課す制限は足を使った攻撃はしないこと。加えて、次の一撃で最後にすること。私の新しいスキルも、私が自分に課した制限も……公開したよ」


 それは同時だった。帝人先輩の攻撃が当たる瞬間と音が発生する瞬間。帝人先輩の速度は音速に匹敵していた。夜月は本当に頑張っていた。誰しもが最強の座が入れ替わることを予感していた。しかし、決闘場内にいる全員が目撃したのは、学園最強の男が、世界最強の男になる、その瞬間であった。 

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