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第三十七話 体育祭開幕

「生徒会長の天王寺帝人だ。みんな、おはよう。今日という日をこのような恵まれた天候で迎えられることを嬉しく思っている。まずは、体育祭の設営に関わったすべての者へ感謝を述べたい。みんなのおかげでこの体育祭を無事に行うことができる。本当にありがとう。また、この新しい体育祭に出場した選手のみんなにも感謝を申し上げる。先にも述べたように今年の体育祭は今までと違ったものとなっている。この改革が天岩学園の未来へより良い影響を与えることを心から願っている。体育祭はチームで戦う以上、勝ち負けが発生する。一つ一つの勝ちや負けに一喜一憂することもあるだろう。しかし、忘れないでくれたまえ。その感情を分かち合える仲間がいることを。一人一人がこの体育祭の主役であることを。持てる力を限界以上に発揮し、今日まで練習してきたその成果を私に見せてくれたまえ。楽しむことを優先するのもいいだろう。勝ちに執着するのもいいだろう。最後に一つ。これだけは覚えておいてくれたまえ。今日のこの体育祭というイベントを最高の仲間たちと最高の思い出にすることが大切であるということを。これで開会式の挨拶を終了する」


 外の空気は夏手前だというのに、冷たく静まり返っている。しかし、体は熱く血が滾っている。体中の細胞が叫びたがっている。それを必死に抑え、狼煙があげられるのを全員が息をのんで待っていた。


「副会長の綾辻沙奈だ。今回の体育祭の様子は多くのドローンを使って学園の生徒に音声付きで配信される。今回体育祭に参加しなかった、参加できなかった生徒に向けて、新しい体育祭がどのようなものか興味を持ってもらうためだ。また、ドローンによる中継は競技外の選手も見ることができる。リレーや魔力弾合戦、防衛作戦は会場が広すぎて競技の様子を見れないからな。それを見ながら応援するのは構わないが、競技に出ている選手と連絡を取って、相手の様子や居場所を伝えるのは反則行為だ。発覚すれば、その競技は負けと見なす。ルールに則って、体育祭を楽しんでくれ。私からは以上だ」

「よすよす、書記の東雲和馬だ。各チームは基本的にそれぞれへ割り当てられた決闘場で中継を見て欲しいかなー。前半は魔力弾合戦で終了だから、それまでは我慢してくれー。休憩をはさんで後半が始まり、最後は決闘で終わりだねー。最後の決闘だけは、みんなで一つの決闘場へ集まって観戦することになってるから把握しておいてくれー。そっちの方が盛り上がるからなー。それと、学食は混むことが想定されるから、各自カフェを使ったりして分散に協力をしてくれー。決闘場内での飲食は許可してあるから、弁当を買って食べるのもありだ。これで俺っちからは以上。みんな、この体育祭を楽しんでくれー」

「生徒会会計のー、三枝蓮司さえぐされんじだ。それぞれの競技はー、俺が解説役をする。実況はその他のメンバーがやる。てめぇら分かってっと思うが、帝人はこの体育祭の構想を考えてるがー、自分に有利になるような幼稚な真似はしていねぇ。変な勘繰りはすんじゃねぇぞこら。てなわけでー、第一種目のチェックポイントリレーを開催する。出場者は各自、決められた位置についておけ。これでー、生徒会からは以上だ。武運を祈ってんぞ」


 言葉使いが荒く、強面で眼鏡をかけたスポーツ刈りの男性が生徒会会計の三枝蓮司先輩だ。彼は研究希望者で三本の指に入るほど優秀で、様々な功績を残している。実は研究希望者でありながらも、スキルを使用時の魔力がシングル並みにあるというとんでもない方だ。

 しかし、滅多に戦うことはないと聞いている。怖い印象を受ける三枝先輩だが、かなり柔軟な思考の持ち主で臨機応変に対応してくれる上に、滅多なことでは怒らないそうだ。話を聞いている限りだと、今回は裏方に徹するみたいだな。


「いやー、ついにこの時が来たって感じですね。体が喜んでいるのを感じますよ。それでは、八雲先輩行ってきますね」

「おう、頑張れよな」


 夜月がリレーへ出場するために、その場を離れる。そして、夜月と入れ替わるようにして宮星がやってきた。


「……おはよう」

「おはよう宮星。昨日はあれから大丈夫だったか?」

「大丈夫。心配いらない。それよりも、その、あの……」

「ゆっくりでいいぞ。慌てなくていいからな」

「……うん、一緒に観戦したい」

「それぐらいならお安い御用だ。それじゃあ、決闘場へ行こうぜ」

「……分かった。一緒に行く」


 俺と宮星が一緒に決闘場へ向かう。その途中の出来事であった。


「うっ!! な、なんだ!?」


 背中に針でも刺されたかのようなちくりとした刺激を感じた。俺が急いで振り返ると、そこには何もいなかった。周りは決闘場へ向かう人しかおらず、俺に何かをしようとした痕跡は見当たらない。


「……八雲、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。悪寒というよりは殺意めいたものを感じたんだがな。俺の気のせいだったらしい。心配させて済まないな」


 再び歩き出す俺たち。ここ最近恨まれるような事件に巻き込まれたような覚えはない。流石に生徒会や先生たちの警戒も高まっている新しい体育祭で、事件を起こす輩はいないだろう。宮星と話をしている最中に俺は先ほどの体験を忘れてしまったのであった。


「……八雲……先輩?」


---


 決闘場へたどり着いた俺たちは、今回特別に用意された巨大なプロジェクタースクリーンに目を通す。そこには、三つの解像度の高い映像が分割してあり、こちらのチームと相手チーム、両方を映せるような上空からの視点があった。これなら両者の様子が一目瞭然で分かるだろう。向こう側の音声もばっちり聞こえてくる。

 こちらの第一走者は雷属性使いの三年生。相手は風属性使いの三年生のようだ。雷属性は瞬間的な速さはあるが、持続は難しい。属性を使ったダッシュと身体能力を強化したダッシュを交互に使うことになるだろう。

 一方、風属性は万能なのが強み。一つの特徴に特化した他の属性とは違い、風属性は他の五大属性の特徴を併せ持っている。そのかわり五大属性内では一位を取れない器用貧乏型ともいえる。それでも、速さだけでなく持続力もあるため常に風属性を使ったダッシュを使用することができる。短距離を繰り返す雷属性か、長距離を見据えた風属性か、勝負の行方はどうなるのか。


「あら、八雲様と宮星様じゃありませんの。おはようございますですわ」

「八雲と宮星か。中々に珍しい組み合わせだな」

「おはようございます、小波、獅子王先輩」

「……おはよう」

「いつのまにそんなに仲良くなったんですの? お二人は同じ競技ではなかったはずですわよね?」

「ちょっと色々あって意気投合したんだ。なっ、宮星?」

「……別にそこまで仲良くない。たまたま一緒にいるだけ」

「……宮星、俺たちも一緒に観戦しても問題ないか?」

「……問題ない」

「そうか、ありがとう」

「それじゃあ、わたくしがこちらに座らせて……」

「待て小波。これからの競技のことで八雲と話したいことがある。俺が八雲の隣でいいか?」

「あら、そうだったんですの? 構いませんわ」

「すまないな」


 獅子王先輩が隣に座る。魔力弾合戦の打ち合わせはたくさんしたし、天岩サバイバーについては一任されている。何か予想外のことがあったのかな。


「八雲、少し耳を貸せ」

「え? 分かりました。どうかしましたか?」

「宮星は決闘研究会のメンバーだ。ああは言ったが、誰かと一緒にいるところを見たことがない。お前が優しい奴なのは知っている。だが、夜月への説明をきちんと考えておけ」

「……りょ、了解しました。しっかりと心掛けておきます……」


 話があるというのは嘘で、女性である小波が俺の隣に座ろとしたのを遠回しに回避してくださったのか。一応、小波には黒島との再決闘の時に夜月一筋のことは教えているが、宮星の視点からじゃ分からないからな。本当に頭が上がらないぞ。


「それにしてもこの第一走者のバトル、どちらが勝つのかしら? 風属性使いの方も厄介ですの」

「五分五分じゃねぇか。風属性は柔軟さも持っているが、第一走者のコースはそこまで入り組んでいない。直線の場所もある分、雷属性も十分に強いと思うぞ」

「……私もそう思う。考えが同じ……うふふっ」

「ふぅー、八雲、耳を貸せ。俺は宮星があんなに嬉しそうに笑っているところを見たことがない。何をしたんだお前は」

「少しだけ……縁があったもので」

「夜月もそうだが、宮星も悲しませるんじゃない。いいな?」

「……は、はい」


 獅子王先輩からの圧が物凄い。正直、今までのどの戦いよりも緊張する。手足が固まって動かない。いや、分かってます。俺の優柔不断さが招いたことは。け、けど、今は体育祭に集中だ。しっかりと見ておかないと。


「解説のー、三枝だ。そろそろ始まんぞ。てめぇらー、盛り上がる準備はできてんだろうな? 体育祭が始まるその瞬間をー、見逃すんじゃねぇぞこら」 

「いよいよ始まりますの。こっちも緊張しますわ」

「さて、どちらが勝つのか見ものだな」

「……楽しみ」


 場内の全員が緊張の面持ちで見守る中、実況の声が聞こえる。手に汗が流れる。俺は服で汗を拭きとることもせずに、手を握りしめる。そして、


「それでは始まります。体育祭の第一種目、チェックポイントリレー。今、審判がカウントダウンを開始……ピストルが鳴った!! 始まりました!! 体育祭スタートです!!」


 場内に歓声が轟く。今まで抑圧された熱気が勢いよく解放された。口笛や拍手の音が聞こえる。皆、この時を待っていたのだ。


「さあ、それでは見ていきましょう。先頭を走るのは雷属性使いの赤チームです。これはやはり、雷属性の赤チームの方が有利ということでしょうか?」

「最初は直線だ。そんなら雷属性に分がある。しかしー、最初のチェックポイントは逆コの字型の中。曲がり角を使ったり、持続面から長期的に見れば、白チームがすぐに追いついてくんぞこら」


 三枝先輩の言う通り、徐々に追い上げてくる相手チーム。だが、こちらも当日のコースは確認している。曲がり角で雷属性が切れるように、スキルのインターバルを調整している。曲がり角が終わってしまえば、すぐにまた直線距離となる。


「おーっと! 赤チーム、再び白チームを突き放した!」

「コースをよく把握していんな。よほど練習したんじゃねぇのか。やるじゃねぇかよ、おい」


 チェックポイントはチェックポイントエリアと言われる半径五メートル地点のエリアに入れば、通過したと認められる。早速一つ目のチェックポイントをこちらのチームが通過した。次のチェックポイントはエの字型の右側の凹みにある。一旦逆コの字型からエの字型の上を通り、右側の凹みに入らなければならない。

 入り組んではいるが、直線の箇所も多い。こちらのチームは追いつかれながらも、直線で相手を突き放すのが続く。第二チェックポイントもこちらが優勢で通過した。次のチェックポイントは少し離れた場所にあるL字の角の部分。その後も第二走者の位置までは直線だけとなる。直線距離が多いということは、普通に考えれば雷属性の方が有利ではあるが、


「第三チェックポイントも赤チームが最初に通過したー! この後は直線のみ。最初にたどり着くのは赤チームか!? いや、おーっと、これはどういうことでしょうか。赤チームの選手の動きが遅くなっております!」

「短距離走で百メートルを何十回も走るのとー、長距離走で四キロメートル走るのは別物だってことだ」

「ですが、差は開いていますの。追い抜かれることはありませんわね」

「追いつかれる可能性は十分にあるがな。二人の想定したとおり、同着になるだろう」


 こちらのチームの先輩は玉のような汗を額に浮かべ、歯を食いしばりながらスキルを発動している。相当きついことが伺える。第二走者にタッチする直前になって相手チームに追いつかれる。両者、なんとか最後の力を振り絞り、ほぼ同時に第二走者にタッチした。


「ここで第二走者にバトンが受け継がれる! 今回は両者ともに風属性使い! 今調べたところによると、戦闘ランキングもほとんど変わりません。これは互角の戦いになるか!?」

「多分そうだろうな。第二走者のコースはさっきよりも入り組んでいるだけでー、ショートカットコースがほとんどねぇ。こっからは根競べだぞこら」


 力関係の優劣がはっきりしていない二人の戦いは、第三チェックポイントを過ぎても続いた。最後の直線で二人の叫ぶ声が聞こえる。そして、そのまま同着で第三走者にタッチをした。


「後は僕たちに任せてください。【情報遮断データパージ】。色消えろ、音止まれ」


 瞬間、物凄い魔力が夕凪先輩から溢れ出る。その魔力を身体強化に使い、夕凪先輩は疾風の如し、相手を置き去りして校内を駆け抜ける。一方、相手も何もしていなかったわけではない。空に大きな虹がかかり、障害物を越えてチェックポイントまで一直線に虹が掛かる。やや遅れて、その虹の上を走り出した。


「このスキル。相手は気をつけろと言った一年生の大空和晴ですね?」

「ああ、やつは障害物を無視できるだけでなく、足も速くなる。第二、第三チェックポイントが高い講義棟の上にあるこのコースにおいては最強だろう」

「……夕凪も負けていない」

「そうですわ。障害物のせいで遠回りを余儀なくされていますが、スピードは圧倒的に夕凪様の方が上ですの」


 大空が虹を降りてくるころには、曲がり角から夕凪先輩が姿を見せていた。夕凪先輩の方が早くチェックポイントを通過する。しかし、ここからが問題だ。


「さあ、出ました! 今回のリレーの一番の難所。高い講義棟の上にあるチェックポイントだ。今回は上へ登れるように土属性使いの協力を得て、サポートとなる地形をつくり、大きな階段のようになっている。魔力による身体強化を使えば、一段ずつ登れるだろうが、その間スピードは強制的に減速する。両チーム、この難所をどう攻略する!?」

「白チームは【雨後の空を跨ぐレインボーウォーク】で直接屋上まで登れるがー、赤チームはどうすんだ?」

「空を飛べたり、歩けるスキル持ちは俺たちのチームには火属性使いしかいない。仕方がないとはいえ、これは厳しいな」

「……大丈夫八雲。奥の手がある」

「奥の手、ですの?」

「すぐに分かる。よく見ておけ」


 虹をかけて登り始める大空に対して、夕凪先輩は力一杯足に魔力をためている。まさか……跳ぶつもりなのか、屋上まで!?


「色消えろ、音止まれ、闇染まれ……はあっ!!」


 地面が陥没すると同時に勢いよく跳びあがる。その軌跡もまるで虹の様に青空へと架け橋を作っている。そのまま数十メートルもあろう講義棟の屋上まで跳躍した。着地は流石に失敗して転んでしまうが、すぐに立ち上がりチェックポイントまで猛スピードで走り出した。


「嘘だろ、おい!?」


 映像に大空の驚きの表情と声が聞こえる。流石の荒業に場内からもどよめきの声が聞こえてきた。


「夕凪先輩の【情報遮断データパージ】は、感覚を遮断するほど魔力と身体能力が上がりますよね? ここまでの魔力と身体能力、一体何を遮断したんですか?」

「……簡単なこと。視覚を一時的に遮断した」

「え? 視覚を遮断して屋上まで跳んだんですの!? いったいどれほどの練習と根性があるんですのよ!?」

「決闘では聴覚を遮断した上で視覚を遮断するのは余りにも無謀すぎるため、よほどのことがない限り決闘では使ったことがない。しかし、ここの跳躍だけは別の話だ。経験と度胸さえあれば、それでいいからな」


 立て続けに大空も屋上にたどり着く。大空も中々に速いが、差はどんどん広がっていく。第二と第三チェックポイントを先に通過したのは夕凪先輩であった。


「これは速いぞ赤チーム!! ですが、流石の身体能力と魔力でも、数十メートルの高さから降りれば、甚大なダメージを食らいます。その後の直線は走れないでしょう。ゆえに赤チームの夕凪選手。今回の種目用に造られた地形の階段を選択。得意のスピードが落ちてしまった」

「とはいえー、降りればしばらくはまた直線になる。どう頑張っても、三十秒に近いほどの差が出るだろうぜ」


 夕凪先輩が下りたときに、ようやく大空が虹を降り始める。虹を滑り降りるにしても、時間の差は埋まらないだろう。最後の直線で一気に引き離す夕凪先輩。余裕を持ちながら夜月へと繋いだ。


「後は頼みましたよ!!」

「任せてください!! 【正義の鉄槌ジャガーノート】!!」


 夜月がスキルを発動。夕凪先輩が大跳躍したほどの魔力が溢れ出る。今はチームの勝利のために頑張るという正義がついている。夜月が地面を蹴ると、一瞬で数十メートルも移動し、辺りに風を巻き起こしていた。


「何だこのスピードは!? ドローンが追い付けません!? 映像は定点カメラでお送りします!! 最後のコースは直線距離で四キロメートル。流石は戦闘ランキング二位!! これは流石に赤チームの勝ちか!?」

「……ありえませんわ。これ、何キロくらい出てるんですの?」

「百五十キロ以上は出てるんじゃないのか。まさに超人だな」

「……獅子王も頑張れば出せる」

「まあな。本気を出せば俺もできるが、夜月は最大出力ではないだろ?」

「そうですね。相手が悪人とかならば、もっと出せるんでしょうけど、今回の場合は違いますからね」

「そして、ここでようやく白チームが最終ランナーにバトンタッチした!! その差は三十秒弱。これはどうなるだろうか!? ……と言いたいところだけど、会長の勝ちだね」

「おい、最後まで実況しやがれ馬鹿野郎が。まあー、流石に俺も会長が勝つと思うぜ。夜月も見事なもんというか化け物クラスだがー、最大出力を出せてないと見た。それじゃあ会長には……勝てねぇぞこら」

「すみません帝人先輩!!」

「よく頑張った。後は任せたまえ。【手札公開フルオープン】」


 帝人先輩がスキルを発動する。……俺は夜月を信じている。夜月が勝つと信じている。それでも、この魔力の量は、


「反則だろうがよ……」


 それはまるで太陽。眩いほどの魔力が溢れ出る帝人先輩が地面を踏み込む。地面が陥没したかと思うと、会長はすでにドローンの映像の遥か彼方に映っていた。いつかの新体力テストで帝人先輩の最高速度を話したことがある。それは、直線距離で亜音速手前。今まさに、夜月の背後からとてつもないほどの魔力を有した新幹線が迫っていた。


「ただいま、ゴールを正面と横からとらえたドローンの映像に切り替わりました。正面からの映像を見てみましょう」


 車のメーターの最高の表示が時速百八十キロぐらい。それに近いほどのスピードを出して夜月がゴールへ向かっているが、相手は新幹線。どう頑張っても勝てはしない。


「うああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 夜月の悲鳴にも似た雄たけびが聞こえる。必死に自分を鼓舞し、先にゴールまでたどり着こうとする。だが、残り百五十メートルと言った地点で、帝人先輩に追い抜かれてしまった。


「試合終了ーーー!! 勝者はなんと白チーム!! 勝利した白チームは五十ポイントを獲得します。これでスコアは0対50になった。試合はまだまだ始まったばかりだ!! 両チームとも頑張ってくれ!!」


 映像と音声が途切れる。俺たちは圧倒的な化け物の蹂躙をただただ見ることしかできなかった。


「流石に……チートですわ。夜月様よりも速い選手はこちらのチームにはいませんもの」

「あっちのチームにもだ。帝人くらいしかいないだろうな。しかし、あれでもほんの少しだけキレがなかったように思える。何か秘密の作戦を抱えているかもしれない。全員、気をつけろ」

「ふぅー、これは帝人先輩を褒めるしかないだろう。みんな、心配するな。俺が絶対にこのチームを勝たせて見せる」

「……ううん八雲、それは違う。次の種目で私が勝つ。あなたは頑張らなくていい」

「宮星……頼んだぜ!!」

「……任せて」

「安心しろ。場内の雰囲気も悪くない。逆にここで帝人を使ったことで、自分たちが帝人と当たらないことに安堵しているみたいだ。それに、流石にあれは仕方がないと割り切っている。それでも、負けが続くと士気が下がる。宮星、頼んだぞ」

「……まあ、ほどほどに。……八雲、ちょっと話がある」

「うん、どうした?」

「……次の種目で最後まで残ったら、頭を撫でて欲しい」

「……ふぁい!?」

 

 おいおいおいおい、夜月の頭も撫でたことないんだぞ。流石にそんなことできるわけない。というかどうやってやればいいのか分からん。俺は女性経験なんてないんだぞ……、


(「夜月もそうだが、宮星も悲しませるんじゃない。いいな?」)


 俺の頭の中に獅子王先輩の声がこだまする。……俺が招いた出来事だ。最後まで責任はとる。


「分かった。好きなだけ撫でてやるよ」

「嬉しい。とても嬉しい。頑張る。でも、恥ずかしい。【真夜中を告げる者ミッドナイトクロック】」

「ああちょっと待てって! ……行っちゃったな」

「……八雲。その、なんだ、頑張れ」

「……ありがとうございます」


 こんな歯切れの悪い獅子王先輩は見たことがない。魔力遺跡や体育祭よりも難しい問題が、俺の頭を悩ますのであった。

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