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第三十一話 正体

 事件を解決した日の夜遅く。俺たち五人は生徒会長室に呼び出された。事件を解決した俺たちであったが、苦楽を共にした仲間の一人である長内が裏切り者であると判明した今、誰一人として元気はなかった。

 しかし、アンノウンが解明される前に行き場のない感情を断ち切るべきだと判断した俺たちは、事件の真相を知るために生徒会長室へ行くことに決めた。


「すまないね、こんな時間に。それでも、アンノウンが解明される前に君たちに事件の真相を話すべきだと思ったんだ」

「真相、ですか?」

「そうだ。まず、今回の事件の主犯格、水谷弾みずたにだん、不動琥太郎、小山田仗助、長内遊星はとある大企業の諜報員であることが判明した。水谷以外の三人は学生としてこの学園に入学し、この学園の情報を収集するのが目的だったらしい。そして、研究希望者の不動琥太郎によって特級魔道具アンノウンの存在が確認されてから、アンノウンを奪取することが最優先事項に変わったみたいだ」

「よくもまあ、こんな短時間で分かったものであるな。諜報員となれば口を割らないものだと思っていたのであるが」

「自白に適したスキルを持ったスペシャリストがこの学園の教師にはいるんだ。そのスキルのおかげだね。その他の残党も企業の手下であることが判明している。これで、大企業の手綱をこの学園が握ることができた。その企業がどうなるのかは理事長の対応次第だね」


 結局、よくある話の一つだな。敵の主犯格は諜報員で、上からの命令で動いただけ。特級魔道具を取得できれば、その他の企業や日本政府に対して強く出られる。欲をかいた結果、全てが壊滅し、危機的状況に陥る。自業自得だな。こんな話をするためにわざわざ夜遅くに傷心中の俺たちを呼び出したというのか。


「これで話は終わりでしょうか? それなら帰らせてもらってもよろしいですか? 今は……あまり気分が優れないもので」

「うん、終わりだ……と言いたいところだが、最後に一つだけしておかなければならない話がある。みんなは私のスキルは知っているかな?」

「【手札公開フルオープン】ですよね? それがどうしたんですか?」

「私のスキル、【手札公開フルオープン】は情報を公開すればするほど、身体能力と魔力が跳ね上がるというものなんだ。よって、秘密を抱えていると本来の力が発揮できなくてね。これは秘密にしといてくれと言われたのだが、私の力のために暴露させてもらうよ」

「……秘密というのは何なんですか?」

「一週間前の夜、長内くんは私に自白したんだ。自分はとある企業の諜報員で特級魔道具アンノウンを狙っているとね」

「「「「「っ!!」」」」」


 どういうことだ、長内が自白していただと。一体何が起こっている。


「そして、アンノウン解明前日に長内くん主導の元、夜月くんと桜庭くんを引き離し、隔離魔法で十六夜くんたち隔離した後、洗脳することもすべて話してくれた。三人の仲間の名前も大勢の人を使って逃げる作戦も全て話してくれていたんだ」

「で、ではなぜ、長内は俺のスキルを敵にばらしたんですか? そもそも、なんでそのまま捕まえなかったんですか? 長内のやっていることはちぐはぐじゃないですか?」

「最初は任務を遂行するつもりだったらしい。でも、途中で気が変わったそうだ。そして、その場で捕まえなかったのは八雲くんを信じていたから。八雲くんなら長内くんからの情報がなくとも、この事件に関わった全ての敵を捕まえる算段があると思ったんだ。だから、敵のままでいることを選択してもらった。八雲くんの作戦に支障が出ないようにね。もちろん、八雲くんの作戦が失敗したとしても敵を捕まえるための作戦をこちらも考えていた。使う機会はなかったがね」

「どうして……どうして長内は自白したのであるか? 大企業の諜報員なのだぞ? 気が変わったぐらいで裏切るようなことはできないはずだ!! 一体どうして……」

「……長内くんはね、孤児なんだよ。小さいころに親に捨てられたらしいんだ。それで、そのスキルの有用性から大企業に拾われて、諜報員として育ったそうだ。長内くんは平和な日常を求めていた。諜報員として生きるしかなかった自分の人生を悔やんでいたよ。そんな中、彼は見つけたんだ。君たちと一緒に過ごしていくうちに、騒がしくも楽しくて平和な日常を、大切な仲間を見つけたんだ。君たちに秘密にしたかったのは、君たちを騙していた罪悪感があったから。最後は君たちを裏切った敵として終わりたかったから。それがこの謎の答えだと思っている。ちなみに、長内くんが自白した一週間前の夜は、ちょうど流れ星が綺麗な夜だったと記憶している。その日に何かあったのではないかね?」


 俺たちは思い出す。一週間前のことを。みんなで焼き肉を食べたことを。一緒に流れ星を見たことを。この一か月間の思い出がポツポツと湧き出てくる。気が付けば皆、下を向いて俯いていた。


「これで私の話は終わりだ。気分の優れない中、呼び出して悪かったね」

「いえ、大事なお話をしていただき、ありがとうございました!!」

「感謝されるようなことはしていない。私の能力のために話しただけさ。……余計な一言を言わせてもらうと、いつまでも俯いていては、流れ星は見られないよ。それでは、また明日」


 あの日見た流れ星。あのときのみんなの気持ちは一つだった。俺は、俺たちは前を向いて歩いて行ける。俺たちはどれだけ遠く離れていても同じ星を見上げることができる。またいつか、みんなで一緒に遊べることを願うばかりである。


---


 翌日、俺たちの元には笑顔が戻っていた。みんなで頑張ってアンノウンを解析してきた。その解明の瞬間は笑顔で迎えたいと思ったから。そして、俺たちが待ちに待ったその瞬間はついに訪れた。


「皆の者!! ようやく、このときが訪れたのである。アンノウンの正体を解明する銃弾の装填が準備されたのである!!」

「「「「おおー!!」」」」


 早速生徒会長室へ赴く俺たち。生徒会長は昨日と変わらない慈愛に満ちた瞳で俺たちを迎え入れてくれた。


「昨日ぶりだね。どうだい、気分は良くなったかな?」

「はい、おかげさまでバッチリです!!」

「それは何よりだ。今日、ここにみんなで再び訪れたということは、準備が整ったと考えてもいいのかね?」

「うむ、装填の準備ができたのである。久しぶりにお目見えであるな。踊れ、【知識欲ディザイア】!!」


 十六夜の掛け声とともに出現した漆黒の銃。その側面に彫られた溝は今までにないくらい赤く光っており、禍々しいオーラを内包していた。


「久しぶりに見たけど、凄い魔力量ね。一体、どんな謎が待っているのか楽しみだわ」

「流石にあたいもどきどきしてきた。こんな瞬間に立ち会えることは滅多にねぇだろうからな」

「それでは、十六夜くん。お願いできるかな?」

「任せるのだ帝人。いくぞ、【知識欲ディザイア】。その全てを飲み込め!!」


 銃の溝にある赤い光が一段と輝きを増し、どんどん銃口の中に吸い込まれていく。全ての赤い光が吸い込まれた銃口は獣の鋭い眼光のごとく、赤い光を輝かせていた。いよいよ俺も緊張してきた。あの夜月でさえ顔がこわばっている。


「十六夜! 約束、覚えてるよな。絶対に俺たちにもその正体を教えてくれよな!!」

「当たり前である。それでは……行くであるぞ!! 暴き出せ、【知識欲ディザイア】!!」


 十六夜が大きく叫ぶと共に銃声が生徒会長室に鳴り響く。みんなが固唾を飲んで見守る。数秒立った後、十六夜の重たい口が開き、言葉が発せられた。


「……う、嘘であるよな。そんなことがありえるはずがないのだ!! だが、我の【知識欲ディザイア】が間違えることなどあるはずもない……これは本当であるというのか!?」

「十六夜、大丈夫か!? 意識はしっかりしているか!?」

「……うむ、大丈夫である。アンノウンの正体についてもみんなに話すことができるのだ。ただ……あまりにも、信じられぬのだ」

「一体、アンノウンの正体は……何だったんですか?」

「……アンノウンの正体、それは……何らかの方法で未来から送られてきた我のスキル【知識欲ディザイア】である」

「え? な、何を言ってるんだ?」

「だから、我の持っているこの漆黒の銃と全く同一のものが、この箱の中には入っているのだ。どうやって物質化に成功し、未来から送ってきたかは分からない。ただ、一つ言えることは……この箱の中にある【知識欲ディザイア】にも銃弾が装填されているということなのだ……」

「銃弾が……装填されている……! ま、待てよ十六夜!! 十六夜の【知識欲ディザイア】は解明しようとしている謎が大きいほど、蓄積される魔力が多くなるんだったよな!? つまり、それは!!」

「特級魔道具ほどの魔力を有しているこの【知識欲ディザイア】が解明してしまった謎は、世界をひっくり返してしまうであろうな……」

「ど、どうしますか天王寺先輩? うちのスキルを使えば、箱の中身を確認できると思いますが……」

「……うーん、流石に危険すぎるね。この箱はまごうことなきパンドラの箱だった。いくら十六夜くんのスキルであったとしても、世界を揺るがしかねない秘密を抱えた特級魔道具であることには違いない。全員、この件は秘密にしておいてくれたまえ。対処は天岩学園総出で考えることにする。これでいいかな?」


 この場にいる誰もが首を縦に振るしかなかった。かくして、とんでもない結末を迎えたアンノウンの解析は、これにて幕を閉じた。


---


 『【JP-No.5-a】特級魔道アンノウン→【JP-No.5-b】特級魔道具ディザイア』

 アンノウンは西暦XX年に崎宮の天岩学園で発見された特級魔道具である。上級魔道具の箱に閉じ込められており、最初は正体が分からないためアンノウンとして記録された。後に十六夜蒼大のスキル【知識欲ディザイア】によって解明される。

 その正体は未来から送られてきた十六夜蒼大のスキル【知識欲ディザイア】であった。どのような形で物質化に成功し、過去に送ってきたかは分からない。しかし、十六夜が天岩学園に在籍している時期に天岩学園へ送られてきたため、偶然この時代の天岩学園へ送られてきたわけではないと推測される。

 【知識欲ディザイア】は解明しようとしている謎が大きいほど、魔力を蓄積するという性質を有しており、未来から送られてきた【知識欲ディザイア】は特級魔道具ほどの魔力を保持している。さらに、【知識欲ディザイア】には弾丸が既に装填されており、発射できる状態になっている。

 つまり、【知識欲ディザイア】はこの世界を揺るがすほどの謎の答えを持っており、その答えは世界を大混乱に落としかねない。人間のスキルが特級魔道具になりえる可能性を持つことを証明できる特級魔道具であること。【知識欲ディザイア】が保有している真実の危険性から、崎宮で厳重に保管することに決定された。


---


「いやー、まさか正体が十六夜先輩のスキルとは思いませんでしたね」

「こればっかりは流石に予想できなかったな」


 任務を遂行した俺たちは、久しぶりに永い眠りから復活したという荒武のお見舞いに行くことにした。あれから俺たちは別れてしまったが、休日には小波も含めて六人で遊ぶことが多くなった。十六夜は動画投稿を頑張っているし、他のみんなは戦闘にお熱になっている。任務が終わったとしても俺たちの付き合いは終わらない。この一か月でかけがえのない仲間を手にすることができたのであった。

 それでも、たまに思い出すことがある。あの日見た流れ星を。長内の存在を。大丈夫、俺たちはまた一緒になれる。またゼロからやり直せばいいだけなのだから。


「荒武先輩はどうなっているんですかね? なんせ、最後に見たのはテスト終わりにぶっ倒れたところでしたから」

「獅子王先輩曰く、なんとかなったそうだ。獅子王先輩の謝罪も快く受け入れてくれたそうだぞ。『おかげで、地球の真実にまた一歩近づけた気がします。ご指導いただきありがとうございました』ってさ」

「なんか怖いですね。変なスイッチを入れたんじゃないですか?」

「そうでないことを祈るよ。俺はNew荒武なんて二度と見たくないからな」


 俺たちが男子寮の前に到着する。スマホでメッセージを入れるとこちらへやってきてくれるそうだ。しばらく待っていると、元気そうな荒武がこちらへ近づいてきた。


「荒武! もう動いても大丈夫なのか?」

「久しぶりだね、八雲くん、夜月くん。うん、もう大丈夫だよ。その節はお世話になったね」

「いや、俺と獅子王先輩が原因だからな。荒武はよく頑張ったよ」

「荒武先輩が元気そうで何よりです。本当に心配でしたから」

「そうなのかい? 実はお世話になったことは覚えてるけど、当時の自分の様子は覚えていなくてね。柊一さんが思い出さなくてもいいっていうからそのままでいるんだけど、大丈夫なのかな?」

「大丈夫です。何も思い出さなくてもいいんです。今の荒武先輩でいてください」

「そうなのかい? それならそうするとしよう。そっちは会長に頼まれた任務は無事に終わったのかい?」

「……まあ、なんとかなったさ。おかげさまで三年生にも進学できる可能性が上がったぜ。そういえば、獅子王先輩によると、地球の真実に一歩近づいたんだろう? 当時の様子を覚えていないなら、何に近づいたんだ?」

「ああ、それはね。とある特級魔道具の正体だよ」

「「はい?」」


 俺と夜月が顔を見合わす。お互いが勢いよく首を振る。いくら親友だろうと、特級魔道具の情報は教えていないはずだ。荒武は一体何を言ってるんだろうか……なんだか、とても怖くなってきたぞ。


「特級魔道の正体って、一体どこで見たんだ?」

「夢の中だよ。僕がここ数日間で見た夢に出てきたんだ。とある箱の姿をした魔道具がいきなり喋り始めてね。『俺を笑わすことが出来たら、箱の中身にある特級魔道具の正体を教えてやろう』って言ってきたんだ。それで僕は色々と悩みながらも、ついには『もしもバッハが恐竜だったら、クラシックじゃなくてジュラシックだね』って言ったら笑ってくれたんだ。そしたら教えてくれたんだよ。箱の中身の正体をね」

「ち、ちなみにその魔道具さんは正体は何だって言ってたんですか?」

「うん? それはね、『箱の中身の正体は特級魔道具ディザイアだ!』って言ってたよ。本当だったら凄いよね? うん、どうしたの二人とも、顔が引きつっているよ?」

「「……」」

「どうしちゃったんだ、いきなり黙り込んで。何か気に障るようなことを言ったかな? それでね、この夢には続きがあるんだ。今度は箱が開いて中から銃が出てきてね。『我の名前は特級魔道具ディザイア。我を笑かすことが出来たら、この世の真実を教えてやる』って言ったんだ。それで僕が……」

「ストーーーーーーーーーーップ!! ストップだ荒武!! ……そ、そんな荒唐無稽な話、他所よそでやると怖がられるぞ。頼むから……頼むから!! その話は自分の中だけに留めておいてくれ」

「うん、それもそうだね。こんな訳の分からない話でみんなを怖がらせてはいけないからね。この話は誰にも話さないことにするよ。それじゃあ、僕は決闘研究会のみんなへ挨拶をしてくるよ。また明日の授業で会おう!」


 笑顔で別れの挨拶をして遠ざかっていく荒武。俺たちは同時にため息をついて、その場に膝から崩れ落ちる。


「や、や、八雲先輩……」

「な、なんだ夜月?」

「この世で一番危険なのは、特級魔道具ではなく、荒武先輩かもしれませんね……」

「だな……」


 この世で一番知ってはいけない謎とは人間の頭の中であり、荒武颯という男の正体なのかもしれない。

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