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第二十六話 バズる

 テストも解析作業も終わってやることがなくなった俺たちは、自然とトレーニングや動画撮影をする時間が増えた。アンノウンの解析まで残り一、二週間に迫ったところで、ついにそれは起こった。


「な、汝ら聞いてくれ!! ついに、ついに、我の動画がバズッたのである!!」

「何だって!? 一体何の動画がバズったんだ!!」

「前に投稿した『【才能よ開花せよ】中二病短歌選手権』がバズったのだ!!」


 中二病短歌選手権というのは、五七五七七の中に中二病っぽいワードを入れながら短歌を完成させるというものである。

 ちなみに十六夜が考えた中二病短歌は『我こそは 天を握りし 龍である おののじゅうよ 轟け龍よ』となっている。

 これをみんなもやってみてねというのがこの動画の趣旨であり、なんと有名な動画投稿者さんがこれを自分の動画で取り上げて実際にやってくれたらしい。そのおかげで動画の再生回数はうなぎのぼり、百万再生を超える大バズりとなったのであった。


「なっ? あたいの作戦は悪くなかっただろう? 【十六夜の中二病記録】っていうチャンネル名をしてんだから、そっち方面に振り切れるのもありだと思ったんだよ」

「まさか、小春先輩が一番活躍するとは思いもよりませんでしたよ。ですが、これでしばらく中二病ネタを擦り続ければ再生回数とチャンネル登録者を確保できそうですね」

「企画系をやりたいのであれば、中二病系というジャンルの中でやればいい話だからな。ここまで上手にいくとは俺は思わなかったよ」

「でも、このチャンネルは十六夜のものよ。どうするのかは十六夜に決定権があるわ。十六夜、どうする?」

「……うむ。これまで通りの企画をやりながら、中二病系の企画も同時進行していこうと思っているのである。皆の者、協力してくれぬか?」

「「「「「もちろん!!」」」」」


---


「まずは、youcubeのコミュニティでみんなの中二病短歌を募集し、それを動画で使わせてもらいながら、我が採点する動画を作ろうと思う」

「俺は異論無しだな。順当な方針だと思う。中二病系って言うのはどんな企画を他にするのか考えてんのか?」

「あらゆるものを中二病風に改造してみた、かっこいい技名選手権とかをやってみてもいいのかなと考えているのだ。これであるならば当分の間はやっていけるはずである」

「中二病トランプとか、中二病将棋とか、できそうなものはたくさんあるしな。全然ありだと思う。こっちの方向性はこれでいいと思う。問題はそれに合わせて投稿する通常の企画系の動画の方だな。最終的には中二病動画で入ってきた視聴者を企画系の動画に惹きつけることが大事だろう? 今までのよりも気合の入った動画が欲しいと思っている」

「しかし、あんまり気合を入れすぎては継続が難しくなるのではないでしょうか? 気合を入れるというよりは単純に興味を引きそうな動画を投稿するのが一番だと思いますよ」

「一応、企画のストックはまだあるのだが、心配ではあるな。この流れに乗れるかとなると難しいところである」

「じゃあ、日常の道具を武器みたいにレイアウトしてみたなんてのはいいんじゃねぇか? ちょうど、中二病と企画系の中間みたいな感じがしねぇか?」

「いいであるな。では、しばらくは長内と長門が言ったような動画を撮っていこうと考えている。次はその後であるな。ある程度時間が経ってしまえば、中二病系は使えないであるぞ」


 流行やバズッたものには賞味期限というものがある。食べ物と同じである一定の期間までしかおいしくないのだ。いつまでネタを擦り続けるのか、味がなくなってもガムを噛み続けるのか難しいところである。


「ショート動画とかはどうなの? 結構流行ってるわよね。これを機にやってみたらどうかしら?」

「ショート動画は我に向いていないゆえ、やろうとは思っていない。ショート動画は意外と才能が必要なのだ。それに、ショート動画で集めた視聴者が普通の動画を見てくれるとは限らないのである」


 ショート動画は一分に満たない動画のことで、普通の動画とは違うものに分類される。youcube利用者の目につきやすく、再生回数やチャンネル登録者が伸びやすい手段ではあるのだが、その後に自分の長い動画を見てくれるかと言われれば、その可能性は少ない。

 なぜならショート動画を見てチャンネル登録をしてくれた人はその人のショート動画を見たくて登録しているからだ。そして、ショート動画は普通の動画よりも広告単価が低く、お金を稼ぐ目的としては使えない。

 よって、諸刃の剣と考える人もいるくらいだ。十六夜はお金に執着をしていないので、そこは関係ないが、ショート動画というのはその人との相性というものがあるため、手を出しづらいのも事実である。


「『映画のポスターでありそうなもの選手権』とかどうですか? 中二病とは関係ないかもしれませんが、系統は似ている気がします」

「いい案ではあるが、我は顔出しをしていないゆえに、企画を生かしきれないような気がするであるな。一応候補には入れさせてもらうのだ」

「というか中二病短歌をやったんだから、中二病俳句をまずは入れるべきだろう。次の動画はこれでいいんじゃないか?」

「確かにそうであるな。灯台元暮らしとは正にこのことである。今週中には投稿できるように準備をしておこう」

「『【脱三日坊主】二日やって一日休憩を繰り返せば、永遠にできる説』とかはどうだ? かなり長い期間撮影しなければならないし、行う種目も難しくなってくるが」

「うむ、そのとおりであるな。しかし、企画としては悪くないと思うぞ。周年企画とかにしてみればいいかもしれぬな」

「『【甘口のその先へ】カレーって辛口にしか段階上がらないから、甘口方面の段階を上げてみた』とかもいいんじゃねぇか。やり方は分からねぇが、面白そうではあると思うぜ」

「いい考えであるな。どうやって甘口のその先に行くかは考えなければならないであるが、やってみる価値は十分にありそうである。そして、我は『【不快指数】体のどこが濡れているのが一番不快?』をやってみようと思う。これは、服の腕や襟、靴下などを濡らしてどこが一番不快指数が高いかを測るものである。皆のおかげで色んなことができそうであるな。チャンネル登録者十万人を目指して頑張ろうではないか!」


 俺たちは一致団結。皆が揃えて声を張り上げる。それから数日はアンノウンのことさえ忘れて、動画制作に取り掛かった。長門のスキルで持ち運びも楽になり、人数が増えたことで役割分担ができ、動画投稿の頻度が確実に上昇した。

 毎日投稿並みにここぞとばかりに畳み掛けていったのであった。そうして、アンノウンの解析まで十六夜の目算で一週間まで迫ったところでチャンネル登録者が五万人を超えた。


「我がyoucubeを始めて何年になるか覚えておらぬ。しかし、これだけは言える。かつてこれほどまでに我のyoucubeが盛況になったことはなかった。本当にみんなのおかげである。そして五月の下旬になった今日、ついにこの一か月の成果である収益が手に入ったのである。今日はこのお金を使ってパーティーをしようではないか!!」

「何を言ってんだ。ここまで来れたのは十六夜が一生懸命に頑張ってきたからだろ? もっと自分を褒めてやれよ。俺たちはただ、きっかけを与えたに過ぎない」

「あたいはチャンネル登録者が少ないころからの古参だからな。嬉しくもあるが、寂しくもある。だが、一言。本当におめでたいじゃねぇか」

「このまま頑張って夢だった銀の剣を獲得しましょうよ。まだまだ、これからですよ!」

「うちも協力するわ! 十六夜、このまま十万人まで突っ走っていきましょうよ!」

「広告の収益だって、お前の物なんだぞ。俺たちに使わず、撮影機材やパソコンを新調してもいいんだからな」


 企画系の動画である十六夜の動画時間は長い。よって、広告を二つ以上つけることができるため、広告の収益が多いのだ。十六夜の方針で広告は通常の数しかつけていないが、それでもここ最近の伸びと再生回数によって、高校生では容易に手に入らないほどのお金を手にすることができているのであった。


「いや、みんなで使おうではないか。アンノウンの解析も残り一週間に迫っている。長門は同じ研究希望者で出会うことも多いが、八雲と夜月は違う。二人は戦闘希望者であると共に、帝人から直接命令を下される優秀な生徒だ。これが終われば会う機会も少なくなるであろう。ゆえに、みんなで思い出を作ろうではないか。今日は我の奢りだ。近くの焼肉亭に食べに行かぬか?」

「……十六夜、お前」

「……そうですね。では、お言葉に甘えさせてもらいましょうか」

「それでいいのである。今日奢ったところですべて消えるような額ではないしな。本当にみんなのおかげである。これは我の命令だ。みんなで焼き肉を食べにいくぞ!」


 思えば十六夜から出会って一か月が経とうとしている。学園生活の三年間の中での一か月。短い方だろう。それでも、十六夜とみんなと築いた絆は決して浅くない。俺たちはこの短い一か月を生涯忘れないであろう。十六夜の言った通り、アンノウンが解析されれば、俺たちが出会う回数も少なくなる。ならば、残されたこの時間を精一杯楽しまなきゃな。

 俺たちはみんなで近くの焼肉屋さんへ食べに行った。今まで色々ありながらも、その全てがなんとかなった。今日食べた焼肉は格別においしかった。長内が肉奉行をし、桜庭と長門が肉を取り合い、十六夜が野菜ばかりを注文する。夜月は冷麺やビビンバと言ったサイドメニューを食べまくり、俺が突っ込み役に回りながら、楽しくみんなを見守る。

 こんな楽しい日々がいつまでも続けば最高なんだけどな。でも、黒島の時と同様、いずれ楽しくない時がやってきてしまう。俺は、今日だけはその思いを胸の奥深くに隠し、素直にこの場を楽しむのであった。


---


「あ、見てみて! 今、流れ星が流れたわ!」

「我は海にはあまり出歩かないゆえ、自転車で行ける場所にこんな星見に最適な場所があるとは思わなかったである」


 焼肉を食べて満足した俺たちは、学園で自転車を借り、学園から少し遠いが蒼島よりは断然近い海岸へと赴いた。今日はどうやら流れ星が綺麗なようで俺たちは揃って海岸に寝そべる。


「流れ星か、何年ぶりだろうな。こんなきれいな星空はプラネタリウムで見た以来かもな」

「やっぱり、こういうのってロマンチックだよな。あたいもこういう雰囲気はとっても好きだぜ」

「流れ星と言えば願い事だよな。みんなは願い事とかないのか?」

「あるに決まっているでしょ。もちろん研究と戦闘よ」

「二つは欲張りではないのか。でも我も、研究と動画投稿活動ゆえ、人のことは言えないであるな」

「俺は、平和に楽しく暮らしていければそれでいい。でも、この数週間は悪くなかったさ」

「そうと決まれば、例の儀式をやるしかねぇだろ。あれがないと成立しねぇからな」

「例の儀式って言うのは?」

「流れ星が落ちる前に三回、願い事を唱えるんだよ。そうしねぇと、願い事が叶わねぇんだぜ。そら、来るぞ」

「「「「研究、戦闘、動画投稿、平和、楽しいこと、研究、戦闘、動画投稿、平和、楽しいこと、研究、戦闘、動画投稿、平和、楽しいこと……」」」」

「お前らもそっち側の人間なのか……全く、困ったもんだぜ」


 それこそ何かの儀式のように呪文を唱え続ける四人を余所に俺は空を見る。俺の願い事は何なんだろうな。最近忙しくて、何を叶えたいかはっきりしていない気がする。

 俺が唸りながら悩んでいる一方、俺の隣、一番端にいる夜月は流れ星なんてなんのその。寝ころびながら目を閉じて沈黙していた。


「夜月、寝てるのか?」

「いえ、寝てませんよ」

「そうか……夜月は相変わらず流れ星に興味がないよな。他のやつらを見ろよ。みんな願望まみれで凄いことになってるじゃねぇか。……今も願い事はないのか。帝人先輩に勝ちたいとかはどうなんだよ?」


 夜月と小学生のころ、流れ星を見に行ったことがある。幼いながらも俺は流れ星というものに興味があり、今では覚えていないような願い事を流れ星にお願いしていた。目をキラキラさせて流れ星を待っている俺とは対照的に当時の夜月も今のように目をつぶって沈黙していた。

 俺が『どうして目をつぶってるんだ?』と聞くと、『私には願い事などないので、別に流れ星には興味がありません。夜風に身を任せていた方がまだ気分がいいというものです』と答えていた。俺は『そうなのか、じゃあ俺も目を閉じるよ』と言った覚えがある。

 どうしてそんなことを言ったのかはっきりとは覚えていないが、何か夜月が孤独に見えてしまったからだと思う。一瞬目を見開いてこちらを見つめた夜月は『変な人ですね』と言って笑っていたのが印象的だった。なんてことはない、遠い子供の頃の思い出。あれから成長して俺たちは大きくなった。大人ではないけれど、色々なことを経験してきた。それでも、今の夜月には願い事がないのだろうか。


「いや、願い事はありますよ。昔とは違いますからね。でも、いいんです。別に流れ星を見る必要はないので」

「何でだ?」

「……願い事はもう叶っていますから。今はただ、この体中で感じていたいんです」

「夜風をか?」

「そう、夜風をです」

「じゃあ、俺も目を閉じるよ。俺にも願い事はあるけれど、流れ星に頼んじゃ駄目な願いだからな。自分の手で叶えないと意味がねぇから」

「……そうですか。願い事、叶うといいですね」

「ああ、ありがとよ」


 固く閉ざされた口。ほのかに香る海のにおい、夜月の香り。自分で叶えないといけないのはもちろん、俺も今はただ、体中で感じていたかった。誰にも言わなかった俺たちの願い事。しかし、夜月の願い事も、俺の願い事もいつかの遠い星だけは知っている。 

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