第二十五話 小波紬の悩み
ようやくテストから解放された俺たち。アンノウンの解析作業もラストスパートを迎えていた。特級魔道具を勉強したことでアンノウンの解析スピードは上がり、これ以上に手掛かりとなるものは存在しないことを悟った俺たちはアンノウンを守ることに注力し始めた。
俺の予想ではアンノウンの解析間近、解析したその後に何者かによる襲撃があると思っている。このまま事件が起きないに越したことはないが、万が一のことを考えて俺たちは力をつけることにした。ちょうどいい機会なので、桜庭の戦闘希望者の件も含めて決闘研究会へ足を運ぶ形となった。
「ここが決闘研究会? 凄すぎるわね。うちらの研究施設とタメを張るくらいの充実さだわ。こんなのを一介の部活が保有していいものなの?」
「なんだかワクワクしてきたぜ。あたいも部活には入っていないから、研究希望者でも入れるってなら、入ってみてぇもんだけどな」
「今日はそこら辺の確認とみんなの戦力アップのためにやってきたんだ。多分大丈夫だと思うがな。帝人先輩が公表している予定的に獅子王先輩は戦っていないはずだから、部室にいるはずだ。すみません、八雲隼人というものですが、獅子王先輩はいらっしゃいますか?」
「部長ですか? ちょっと待っていてください。あちらの決闘場の方にいますので、声をかけてきます」
「どうも、ありがとうございます」
俺は獅子王先輩は帝人先輩に挑み続けているということしか知らない。普段はどんなことをしているのだろうか。決闘研究会の部長としての活動とかもされているのだろうか。
「八雲、New荒武の時以来だな。アフターケアまでご苦労だった。今はずっと寮の自室にいるのか?」
「そうですね。たまにうなされている声が聞こえるので、相当頑張ったんだと思います。元に戻ったら、どうか褒めてやってください」
「そうだな。New荒武は全部俺の責任だ。今度高い肉でも奢ってやるとしよう。それよりも、今日は何の用事があってきたんだ? いよいよ入部の決心がついたのか?」
「いえ、俺は今は帝人先輩の部下みたいなものですから、それは難しいですね。俺は入部できませんけど、見学者を二名ほど連れてきました」
「研究希望者二年生の長門小春だ。よろしく頼むぜ」
「け、研究希望者のさ、桜庭双葉です。どうか、よろしくお願いします」
「二人とも研究希望者か。道理で顔を見かけないと思った」
「決闘研究会は研究希望者の入部はお断りしていましたっけ?」
「いや、そんなことはない。戦闘が好きな奴なら大歓迎だ。ちょうど今から戦闘の訓練をしようとしていたところだ。お前たちも来るか?」
「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」
戦闘の訓練か。やっぱり獅子王先輩は部長らしいこともしているんだな。獅子王先輩直々に教えてもらえるなんて運が良かった。戦闘ランキングシングルに稽古をつけてもらう機会なんて滅多にないことだ……俺はいつも夜月とトレーニングをしているが。
「ここが決闘研究会の決闘場だ。ここは普通の決闘場と遜色ない上に、常に審判といったスタッフが在中している。本気で決闘することも可能だから、いつでも本気でバトルしてくれ」
「あら、八雲様と夜月様じゃありませんの。今日はどのようなご用件でこちらへ?」
「小波がいるなんて珍しいな。こっちは決闘研究会の見学者を連れてきたんだ。そっちは?」
「わたくしは……自分が成長するために決闘研究会の方にアドバイスをもらいに来たんですわ。そしたら、獅子王様が直々に教えてくださるという形になったんですの」
「なるほど……小波は今は戦闘ランキングはどのくらいなんだ?」
「初期のアドバンテージがあるため、百位以内には入れていませんが、学年で言えば五位以内には入っていますわ。上級生にもそれなりに勝てていますの」
「それなり、ですか。紬はそれなりじゃなくてもっと勝率を上げたいと考えているんですね」
「そのとおりですわ。わたくしはもっと勝ちたいんですの」
「……」
小波のスキルは【スぺ3返し】。相手のスキルをより高いレベルでコピーするというもの。どこまであがいても相手依存の能力。色んなスキルを持っている人がいるこの学園でそれなりに勝てているのはいい方だとは思うが、それ以上となると難しい話になってくるだろうな。
分かりやすいの
「なんだ八雲。小波にアドバイスをしたいというように見える。何かあるなら言ってやれ」
「小波、お前のスキルをここにいるみんなにばらすことになるが、大丈夫か?」
「ええ、構いませんわ。すでに出回っていますもの」
「分かった。小波の弱点は結構あるんだが、一番分かりやすいのは俺だよな。俺の【不調で絶好調】をより高いレベルでコピーしたところで小波自身が調子が悪くないとスキルが発動できない。条件系のスキルには弱いところがある。それと、俺の【不調で絶好調】をコピーしたところで、俺の【進んで戻れ】まではコピーできない。一度にコピーできるのは一つまでだろう? マルチホルダーに弱いのも一つの弱点だろうな」
「仮に八雲先輩と戦うことを知っていて、あらかじめ体調を悪くしてきたとしても、先輩が【不調で絶好調】を発動しないと無意味に終わりますもんね」
「それに、相手へ先にスキルを発動させないとコピーできない。あまりにも相手への依存が高すぎる。結局のところ、基礎を鍛えて自分の魔力だけでもっと戦えるようになった方がいいだろうな」
「良く分かってるじゃないか。小波、そういうことだ。小波のスキルはネタが割れたら通用しない初見殺し性能が高いスキルでもあるが、お前の熟練度次第でどうにかできるスキルでもある。基礎的なことをもっと極めてみろというのが第一の感想だ」
「……自分でも分かっていることでしたが、そこまではっきりと分かってしまうものなんですのね。獅子王様の言う通り、わたくしの熟練度が大切なスキルだと思っておりますわ。しかも、同じ相手と戦うほど不利になるスキルだということも把握しておりますの」
小波のスキルは悪いところばかりじゃない。相手よりも高いレベルでコピーすることができるので、力関係では絶対に勝つことができる。その強みを生かした戦い方が最も大事だろう。しかし、力で押し切るというのは同時に攻撃の方法が単調になるということである。
同じ相手とバトルをしていけば、こちらのやり口を全て見切られてしまう可能性も高い。力が強いという利点があったとしても、最終的には技術が大事な難しいスキルという評価に落ち着いてしまう。
「へぇー、面白そうなスキルじゃねぇの。だが、弱点はまだあると思うぜ。あたいと戦えばそれが分かるはずだ。部長さんもあたいのスキルがどんなのかも見たいだろうし、紬、軽く一戦交えねぇか?」
「よろしいですの? よろしければ、ぜひともお願いしたいですわ」
「こっちとしても見学者の力量やスキルを見れるのはありがたい。それではやってもらおうか。一発相手に食らわせたら、それで終わりだ。いいな?」
「はいですわ」「いいぜ」
小波と長門が決闘場の所定の位置に立つ。開始の合図は獅子王先輩が行うみたいだ。
「それでは、始めの合図でバトルを開始する。よーい、始め!」
「一発勝負で終わるってんなら、出し惜しみはなしだ! 【紅一点】!!」
長門が小さな石の破片を飛ばす。それは大きくなると岩の破片となって小波に襲い掛かる。対する小波は避けるのでもなく、岩を壊すのでもなく、何かに戸惑っている様子であった。
「【スぺ3返し】!! なっ! このスキルはどういう仕組みですの!? くっ、避けるしかなさそうですわ!!」
「おらよっと!!」
「しまった!!」
避ける地点をあらかじめ予想していた長門が頭に魔力を集中させ、相手の注意を引きつけた後に下段蹴りに切り替え、小波の体を横からとらえた。前回の勝負で桜庭に仕掛けた攻撃がそのまま決まった形となった。
「まあ、あたいのスキルが分からなくてあせるだろうし、当然避ける選択肢しかないよな。ってことであたいの勝ちでいいか?」
「……とても悔しいですが、わたくしの負けでございますね」
「長門と言ったか、面白いスキルを持っているじゃないか。研究希望者と聞いていたが、バトルの筋も悪くない。むしろ、戦闘希望者でも通用するぐらいだ。八雲、お前は毎度毎度面白い人材を連れてくるな」
「たまたまですよ。それに、みんなが頑張ってるだけですから。それはそうと小波、今ので決定的な弱点が発覚したな。普通はあの場面避けることをもっと早く選択するべきだが、小波は向かい打つことを前提としていた。自分の方がパワーが高いために力負けすることはないと思ったんだろう。初見のスキルにやられてしまうのは仕方がない。しかし、小波は相手のスキルをコピーしたスキルで相殺することを狙いすぎている。相手のスキルが今みたいに分からなければ、スキルの能力を遺憾なく発揮することはできない。また、スキルの仕組みが分かりづらい相手にも弱いというのが弱点の一つだな」
「おっしゃるとおりですわね。わたくしの中では常にスキルの出力では相手に勝っているという考えが根付いているために、攻撃や反撃の仕方が単調になっていますわ。もっと考えて攻撃しないといけませんの」
ちなみに決闘には関係ないが、小波のスキルにはもう一つ致命的な弱点がある。それが発覚するときが来るのかは分からないが、発覚した後にどう成長していくかは見ものだな。ただ、最初にも述べた通り、決闘には関係なく、当面は大丈夫だろうから今は言う必要もないだろう。
「それで、あたいのスキルは何か分かったかい? 短時間で相手のスキルを把握するのも重要なことだと思うぜ」
「物体を大きくするスキルでしょうか? わたくしには長門様が飛ばされた破片が突如大きくなったように感じましたもの」
「いや、違うな。大きくなった後の瓦礫は元々どこかにあったように思える形をしていた。長門のスキルは物体を小さくするスキルといったところだな。さっきのはスキルを解除することで元の大きさに戻したのだろう。研究希望者らしい便利なスキルだな」
「正解だぜ。流石部長さんだな。あたいが意識を失ったとしても、元の大きさに戻ることはねぇから安心してくれていいぜ」
「どうやら読みも甘いようですわね。もっと精進しないといけませんの」
「私も最初は紬と同じように考えていましたから、そこまで悲観することはないですよ。初見で見破った八雲先輩と獅子王先輩が異常なだけです」
「だが、その見破る能力が夜月よりも大事なのも事実。自分で分かっているならそれでいい」
相手の力を予測しておくのは決闘では大事なことだ。俺と夜月が小波との初戦の時にカウンター系のスキルだと予測していたように。実は戦いは決闘をする前から始まっているのだ。
ある程度予測を立て、実際に相手の動きを見てから考えを固めていく。これが決闘においては重要な要素の一つだ。もちろん、見当違いであったときも考慮して、対応できるようにしておかなければならない。
「紬ちゃんって言ったかしら? うちは研究希望者二年生の桜庭双葉よ。じゃあ、次はうちの力量を試すのも含めて、うちのスキルを見破る練習をしない? 多分、あなたの役に立てるだろうから」
「桜庭様……ありがとうございますですわ。それでは、よろしくお願いしますの」
「ええ、任せて頂戴」
「ルールはさっきと同じだ。相手に一発食らわせたら終わり。それでは、始めの合図でバトルを開始する。よーい、始め!」
「今度はこっちが先ですわ!」
先手必勝、小波が距離を詰めて近接戦闘に持ち込む。桜庭は何もしてこない。ここで考えるべきは二つ。相手が近接戦闘で優位に働くスキルなのか、それとも自分と同じカウンター系のスキルなのか。
どちらにせよ、どちらもスキルを発動していない。小波のブラフを交えた猛攻が始まるだろう。小波が左手に魔力を凝縮させて、相手の注意を引く。そして、左手で攻撃すると思わせて他の攻撃方法に移ろうとしたその瞬間だった。
「……これは」
「紬の動きが止まりましたね」
小波は魔力を凝縮させたまま動かない。いや、動けないといった様子であった。その表情からは焦りを感じられる。
「小波はどうしたのだ? まさか、桜庭のスキルの内容に気づいたのであるか?」
「感じ取ってはいるだろうな。今の攻撃の瞬間、桜庭の目線は魔力を凝縮させた左手ではなく、小波が実際に攻撃しようとした右手を見ていた。魔力によるブラフが通用しないことを悟ったのだろう。加えて、どこから攻撃しても負ける未来が視えているんだと思う。ゆえに、動けないんだ。ここからどう動いても不利になる未来しか想像がつかない。相手が動くのを待つしかないんだ」
「今の一瞬でそれが分かる八雲も凄いな。長門から戦闘ランキング最下位と聞いた時は驚いたが、小波と同じで強さが限定的なだけで弱くはないということなんだな。改めて理解したよ」
「俺の【不調で絶好調】は基本使えないからな。残りの期間でみんなに見せる機会はないと思うぜ」
「……そうか、それは残念だな」
止まった状態で膠着してから数秒。小波は相手の動きを見ながら、この状況を打開できる策を練っている。しかし、先に動いたのは有意な状態にあるはずの桜庭の方だった。
「うちがスキルを使わないと、これ以上進みそうにないわね。今日はあなたにとって実りのあるバトルをするのが目的だもの。うちのスキルを見せてあげる。【無抵抗】」
「くっ!! 【スぺ3返し】!!」
桜庭の魔力が上昇したのを見て、小波もスキルを使う。それでも、桜庭が優位な状態では桜庭はスキルの内容を見せない。このままどう立ち回るのか。俺が思考に時間を割いている間に桜庭が動き出していた。自分のスキルよりも出力が高いことなどお構いなしに近接戦闘を仕掛けていく。小波は桜庭のスキルを予測できていたのか、迫りくる手をはじき返し、決して体には触れさせない。
だが、体術とブラフの見極めが上手い桜庭の方が徐々に小波を押している。……そうか、桜庭のスキルも小波の弱点なのか。いくら出力が上になろうと、【無抵抗】で魔力を抑えてしまえば関係ない。同じスキルで出力による差がなくなれば、どっちが相手に触れられるかの体術勝負になる。これは小波が相当不利だな。
「駄目ですの!! もちそうにねぇーですわ!」
小波が体勢を崩してでも無理やり後方に大きくジャンプをして桜庭から大きく距離をとる。桜庭が魔力弾を生成する。このパターンは……、
「なっ!! どこに向かって撃ってますの!? って地面が!?」
魔力弾で着地の隙を狩るのではなく、【無抵抗】で小波が着地する地面を壊れやすくし、着地自体を失敗させる。勝敗は既に決まったようなものであった。土煙がなくなったときには桜庭が小波の腕をつかんでいた。
「……思ったとおり、魔力を練ることができませんわ。はぁー、わたくしの負けですわね」
「相手のスキルの内容も弱点も分かったうえで、うちのスキルはばれてないんだもの。勝てなきゃ困るわ」
「ですが、こう何度も負けが続くと少々響きますわね。対戦してくださり、ありがとうございますですわ」
「……桜庭、こいつは強いな。こんな逸材が研究希望者に隠れているとはな。これだからバトルは面白い。桜庭は今の状態でも五十以内には楽勝に入れるだろうな。なんならシングル手前にいてもおかしくないぐらいだ。荒武だけじゃなく、八雲にも褒美を渡さないと釣り合いが取れないな」
「気にしなくても大丈夫ですよ。俺や夜月が勝手に部室を使えるだけでも十分すぎるくらいですから。それよりも、これで新たな課題が見つかりましたね」
「そうですね。紬は近距離戦闘だけではなくて、中距離や遠距離といったあらゆるレンジで相手に圧をかける、スキルを先に出させる方法を模索しないといけませんね。近距離でどうしてもいきたいというのであれば、止めはしませんが」
「いえ、近距離戦闘にこだわりすぎず、色んな方法を模索しようと思いますの。ちょっと、夜月様との戦闘のイメージに影響されすぎているようですもの。今日は本当にありがとうございましたですわ」
「待て、小波。話はまだ終わっていない。色んな方法を模索するにしても近距離戦闘をおろそかにしていいという理由にはならないだろうが」
「では、今から何をするんですの?」
「俺と戦え。全く、どいつもこいつも熱いバトルをしやがって、滾らせてくれるじゃないか。俺も我慢が出来ん。今すぐにやるぞ、覚悟はいいな?」
「……上等ですの。わたくしもこのまま負けっぱなしで終わる訳にはいかねぇですわ!」
「その意気だ小波。八雲、開始の合図をしてくれ!」
「分かりました。ルールは獅子王先輩に任せます。それでは、始めの合図でバトルを開始する。よーい、始め!」
「小波! ルールは簡単だ。俺が満足するか、お前が戦闘不能になるまで、いいか?」
「いいですわ!! 来るなら来やがれってんですの!! それにあなたが戦闘不能になるまでという条件も付けくわえてくださいまし!!」
「いいな、その思い、バトルで発散させてみろ!! 【夜明けを待つ人】!!」
獅子王先輩の魔力が上昇する。冬に出る白い吐息のように口から煙を吐き出す。獅子王先輩は火属性の頂点。その白い息は体があったまっている証拠。そして、その魔力はシングルの中でも別格。
この魔力の量は帝人先輩と夜月しか見たことがない。これが長きにわたって帝人先輩と渡り合ってきた男の姿。かっこよすぎるじゃねぇか。
「……流石といったところですわね。ですが、こちらも負けるつもりはねぇですわよ。【スぺ3返し】!!」
小波の魔力も上昇する。獅子王先輩と同じように口から煙を吐き出し、準備を万全にする。見ているもの誰もが手を握りしめる。そして、その瞬間は突如として現れた。
「おりゃああっ!!」
「はあっ!!」
二人が同時に動き出す。どちらも手や足から炎を噴き出して加速する。出力の高い小波の方がやや速いか。けれども、獅子王さん強さの秘訣はスキルの練度にある。
二人が衝突する寸前で獅子王さんが手から爆撃を放ち宙に浮く。そのまま左手でもう一度爆撃を放ち急回転。その勢いのまま右手で小波を殴りつける。魔力と腕でガードする小波であったが、あまりの威力に耐えられず、ぶっ飛ばされる。
「な、なんだあの身のこなしは!? どうなってやがる!? 本当に火属性なんだよな!?」
「火属性だ。だが、獅子王先輩は俺たちにも想像できない努力の末に、火属性でありながら雷属性の瞬間的な速さと水属性の柔軟さに加え、土属性の防御までを手に入れた完璧超人さ」
小波が転がりながらもなんとか態勢を整える。対する獅子王先輩は物凄い勢いで魔力を手に凝縮させ、惑星のような魔力弾を生成し、小波に向けて解き放った。小波は向かい打つ構え。同じスキルでも出力は上だと考えているのだろう。小波が炎の壁を作り続け、相殺を試みる。しかし、
「ど、どうしてですの!? 勢いが止まりませんわ!?」
同じスキルでも獅子王先輩は魔力の収束速度や密度、質のレベルが小波よりも優れている。そうして生まれた獅子王先輩の炎は相手の魔力を削り取るとまで言われている。どの攻撃も生半可な防御で防げるものではない。技術力の差が出力の壁を越えて、小波に攻撃しようとしていた。
「まっけねぇですわああああああ!!」
小波も負けじと質や密度を高める。そうして魔力弾を相殺することに成功した小波であったが、防御をするのに意識を使いすぎた。気が付けば、獅子王先輩はこの地上から姿を消していた。そう、獅子王先輩は小波に見せようとしているのだ。小波も使った技の進化版。火属性の神髄を。
「上ですの!?」
小波が上を見上げたとき、既に降下が始まっていた。獅子王先輩は右手を折り曲げながら上に、左手を折り曲げながら下に向ける。そうして、右手、左手、右手のようにそれぞれの手から交互に爆撃を放つ。
すると、獅子王先輩は物凄い勢いで回転をし、勢いを保ったまま小波の元まで回転しながら急降下する。さらに、タイミングよく右足を伸ばし、最後にもう一度爆撃で勢いを増す。ありえないほどの威力を持ったかかと落としが小波に炸裂した。
「どりゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
「はああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
足を踏ん張り、手を交差させ、ありったけの魔力でガードする小波。それでもすぐにガードは崩れ、小波は地面へと勢いよく打ち付けられるのであった。決闘場を揺らすほどの大きな衝撃。地面は陥没し、隕石でも落ちたかのような跡を残す。その中心で倒れていた小波が体を起こそうとするが、踏ん張ることが出来ず、膝をついてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、こ、降参ですわ……」
「これをやられて意識を保っているとはな。お前は今でも十分に強い。この調子で訓練に励め」
「ふふっ、あ、ありがとう、ございますですわ」
「医療班の方、すぐに処置をお願いする」
陥没した地面から小波を引き上げた獅子王先輩が医療班に引き渡す。時間が経てば、すぐに元気になるだろう。
「獅子王先輩、ちょっとやりすぎなんじゃないですか? 小波に近接戦闘教えるとか言って、獅子王先輩が戦いたくなっただけでしょう?」
「もちろんだ。だが、火属性の基礎的な扱い方は叩き込んだはずだ。これで、俺以外の火属性使いに負けることはないだろう。それに、魔力の収束速度、質や密度がいかに大事かも教えられたはずだ。これからもっと伸びるだろう」
「ちょっと、私も滾ってしまったかもしれません。獅子王先輩、私とも一戦やりませんか?」
「上等だ……と言いたいところだが、今日の俺は帝人やその他と戦いすぎた。今の敵討ちという大義がある状態での夜月とのバトルは自殺行為もいいところだろう。流石にもっと万全な状態の時に戦うさ。すまんな」
「いえ、私も万全な状態の獅子王先輩と戦いたいので、その時まで我慢しますよ。今日はありがとうございました」
「それはこちらのセリフだ。長門と桜庭、必要ならばいつでもこの部室に来い。俺たち決闘研究会はお前たちを歓迎する」
「「ありがとうございます」」
みんなを鍛えるという目的は果たせなかったが、桜庭と長門を決闘研究会へ繋げるという目的は達成できた。後は桜庭を戦闘希望者と研究希望者で両立できるようにしなければな。生徒会の方には既に打診している。いい返事が来ることを願うばかりだ。




