第二十三話 不運で幸運
テスト期間に入ってから数日。来週の初めにはテストが控えている。特級魔道具の情報によって解析が少しでも進んだ俺たちはテスト勉強へ集中することになった。長門たちとの戦いやアンノウンの解析をしながらも、俺や夜月、十六夜は余裕を保ったままテストに突入できそうである。俺たち三人はだが……、
「あーもう無理! 疲れた! やりたくない! 寝るわ!」
「……俺を、俺を、解放してくれ……」
「駄目であるぞ。この問題が解けるまでは休憩は許さぬ。ここで足止めを食らっていては赤点は免れないぞ」
「この問題が解けたらしばらく休憩させてあげますから、頑張ってください」
「ほら、気になったことがあれば聞いてくれていい。同じ質問でも構わんぞ」
本当に今までどうやってきたのか分からないくらいに二人は全然問題が解けていなかった。授業中に寝ているというのは紛れもない真実なのだろう。ただ、荒武という男を見ている分だけ、俺には諦めない心があった。今後の二人のためにも、ここは心を鬼にしなければな。
「別に今やらなくてもいいのよ。今までは前日までに山を張っておいて、徹夜で覚えれば何とかなったんだから。こんなにちゃんと勉強しなくても大丈夫だわ」
「おお! 思いついたぞ! 十六夜、今度の動画の企画として『【火事場の馬鹿力】自分を追い込め選手権』をしようじゃないか! 俺が実験台になるから、今日の勉強はお開き……」
「長内、企画はしっかりと利用させてもらうぞ。もちろん、自分を追い込むのも我がやる」
「いや、長内も企画の登場人物になってもらおう。ちなみに追い込むのは今からでも構わないよな? おい、長内。今から五分以内にその問題解かないと、次の休憩なしにすんぞ」
「……俺が悪かった。頑張ります……頑張らせてください……」
「鬼畜の所業ですね八雲先輩。追いつめてるのには変わりないかと思いますが」
「それもそうだな。じゃあこの問題解けたら、値段の高いスイーツを奢ってやるよ。しっかりと頑張れ」
「何!? それは本当か!? よーし、頑張るぞおおおおおおお!!」
「『【重要なのは匙加減】飴と鞭選手権』も企画の候補に入れておいていいかもしれぬな……」
唯一救いなのは、なんやかんや言ってもしっかりと勉強をしてくれるところ。憎まれ口を叩きながらも、最終的には必ず大事なところは覚えてくれるし、今日のノルマはクリアしてくれている。二人は良く分かっていないだろうが、実はノルマは普通よりも高くしており、何か急用ができても余裕ができるくらいにはしている。
そのおかげでテスト期間中に色んなイベントが起こってもなんとかなっているのだ。テストは来週の初めだが、このままいけばテスト前日は一日休憩することができるだろう。これなら大丈夫……、
「よお八雲、久しぶりだな。今日もあたいの方から出向いてやったんだ。感謝してくれよな」
「……久しぶりだな、長門」
予定は未定。物事はそう簡単に上手く運べないものである。
「あら、久しぶりじゃない長門。何、あんた暇なの?」
「そうだな。あたいはあんたと違って勉強が得意なんでね。戦闘では勝てなくても、勉強ではあたいの圧勝だな」
「何よ。まさか、まだうちの代わりにチームに入ろうとしてんの? あんたも懲りないわね。もう一度勝負する?」
「ちげーよ。そんなこと考えてねぇっての。あたいはあんたに負けたんだ。あたいがあんたの代わりになれないことは納得しているさ」
良かった。やはり戦わせたのは間違いじゃなかったな。長門は何かと律儀な奴だ。タイマンで負けることになったら、落ち着いてくれると途中から思っていた。
「ありゃ、じゃあなんで長門はここへ来たんだ。解析を十六夜のチームに任せることには納得しているんじゃねぇのか?」
「ああ納得しているさ。十六夜のチームに任せることにはな?」
……駄目だこりゃ。嫌な予感しかしない。
「もしかしなくても私たちが護衛をしていることには納得していないということですか? あわよくば私たちの代わりになろうとしていますか?」
「いや、ちょっとちげーな。夜月が護衛をすることには納得しているさ。だって、聞いた話だとこの学園で生徒会長に次いで強いんだろう。だったら、文句は一つもねぇさ」
「……と言いますと、俺には納得してねぇってことか?」
「そりゃそうだろうよ。あたいが聞いた話によると、八雲という男は学園で最下位だっていうじゃねぇか。そんなあんたが十六夜の護衛をしている。あたいが納得できると思うか?」
「思わねぇよ。分かった、今から決闘場を予約するから俺とタイマンでバトルをしようぜ。それで俺が勝ったら、俺のことを認めちゃくれねぇか?」
「駄目だ」
「何でだよ!! 俺が弱いから納得してないんじゃねぇのかよ!!」
「聞いた話によると、最下位なのに学園で九位以内に入れるほどの魔力を持ってるっていうじゃねぇか。しかも、あんたは戦闘希望者であたいは研究希望者。もしそれが本当なら、桜庭よりも勝ち目がないだろう」
「じゃあ俺にどうしろって言うんだよ」
「簡単な話さ。決闘以外のことで勝負する」
「なんだって?」
「あんたは多分強い。しかし、それは限定的だ。あんたが十六夜の護衛に採用されたのは力の強さだけじゃねぇと考えている。あたいとの交渉から考えるに、ある程度の強さを持っていて、自衛ができるブレインだから採用されたんじゃねぇかとな」
「つまり、自衛をできる強さを持っている長門が、その他のことで俺よりも有用であったと証明できれば俺の代わりになれるってことか? 駄目だな。俺たちの今の関係性は悪くない。無理して長門に代わる必要はねぇんだよ」
「あれ? 確か八雲は、うちがそういってたのにも関わらず、無理して長門たちと戦わせたと思うんだけど……気のせいだったかしら?」
「気のせいじゃないですね」
「気のせいではないな」
「確かにそう言ってたであるな」
「……お前ら」
桜庭が満面の笑みで追い詰め、その他が同調する。戦えたことは嬉しかったが、無理やりだったことには納得してないということか。みんなからしてもあの件は俺が悪いと思ってるだろうしな。そりゃそうだよな。ふぃー、俺も覚悟を決めるしかないのか。
「分かった、分かったよ。じゃあ俺は何で勝負すればいいんだ?」
「そうだな。まずは、あたいよりも頭が良いことを証明してもらうぞ。十六夜、あんたは勉強が得意だったよな? いくつかテスト範囲の中から問題を作って採点しちゃくれねぇか? それでどっちが上か決めようぜ」
「承知した。我が今から問題を作るゆえ、しばしの間待って欲しい。夜月、二人は頼んでも大丈夫であるか?」
「はい、任せてください」
「「うええー」」
密かに休憩できると思っていた二人が気の抜けた声を出す。十六夜はそんな二人をよそにせっせと問題を作っていく。
「よし、できたぞ。いろんな教科から全部で二十問の百点満点。時間は二十分。部分点なしの完答である。それでは、始め!!」
俺と長門が一斉に取り掛かる。長門はしたり顔をして問題を解いているが、俺は表情を一切崩さずに問題を解いていく。長門の方からも俺の方からもシャーペンのすらすらとした音が聞こえてくる。
だが、長門と俺の手が一緒のタイミングで止まった。それは数学の証明の問題であった。まさか、証明の問題を入れてくれるとは。十六夜も相当に勉強が出来る方だよな。俺は一瞬手が止まったが、すぐさまに問題へ取り掛かる。長門の方からも音が聞こえてくるが、先ほどまでのスムーズさはない。
「十六夜、終わったぞ」
「っ!! マジかよ!!」
気が付けば俺は証明を終了し、十六夜に採点をお願いしていた。証明の後の問題も全て解いた後、見直しも一通り終わらした。採点基準がしっかりとしていれば満点は取れているだろう。
「十六夜、あたいも終わったぞ!!」
「うむ、八雲の採点が終わったら長門のも採点するゆえ、しばし待っていてくれ」
「ふぅー、これで解き終わる時間は八雲の方が早かったが、あたいの方も自信はあるんでね。このバトル勝たせてもらうよ」
「まあ、結果を見れば分かるさ」
お互いに緊迫した時間が流れる。十六夜の採点する音だけが響き渡っている感じがする。やや時間が経ってから十六夜が赤ペンを置いた。
「それではお互いの点数を発表する。まずは長門から、長門の点数は九十五点だ」
「くっ! やっぱりあの証明では駄目だったか。それでも、あたいの勝ちは揺るがないはずさ」
「次に八雲の点数を発表する。八雲の点数は百点満点だ。おめでとう、この勝負、八雲の勝ちである」
「な、なんだと!? ちょっと八雲の回答用紙を見せてみろ!」
長門が俺の回答用紙を舐めるように見回す。次第に長門の顔が曇っていき、ゆっくりと回答用紙を十六夜に返した。
「……確かに、八雲の勝ちだ。証明も文句のつけようがねぇ。あたいが十六夜に問題を作らせたのも、メンバー変更の対象にならない十六夜なら不正をしないと思ったからだ。仕方ねぇが、あんたの方が上だってことを認めてやるよ。ただ、一つだけ教え欲しい。なんであんたは勉強が得意なんだ。噂では、勉強が嫌いだって話だったんだぜ」
「あー、俺はいつか誰かに勉強は嫌いだって言ったことはあるぜ。それでも得意ではあるんだ。不運なことにな。ったく、そんな話どこから聞いたのやら。というか、長門も自分の得意分野に持ち込もうとしてるじゃねぇか」
「ど、どうしてもアンノウンの本体に触れたかったんだよ。だってあんたら、先日会議室に入っていっただろう。あれは、アンノウンに関する手掛かりを何か見つけたってことじゃねぇのかよ。それがどうしても悔しくて……だが、負けは負けだ。あたいは素直に受け入れるぜ」
「待った。俺は勉強に関しては戦闘以上に得意分野なんだよ。戦闘ランキングが最下位ってことは、勉強だけで進級したってことだからな。俺は勉強は学年でも一位か二位かぐらいのもんなんだぞ。したがって、正直勉強って言われた時点で出来レースみたいなものだったんだ。長門、他の分野で勝負しないか? もし、その分野で俺に勝つことができたら、長門だけ俺たちのチームに加わることを認めてやる」
「……う、嬉しいが、施しは受けねぇ。ざ、残念だが、辞退させてもらう」
「そこで、長門が加入するための条件をもう一つ増やすことにする。長門はyoucubeを知っているか?」
「知ってるさ。あたいも良く見てるし、十六夜が動画投稿をしてんのも知ってる。チャンネル登録してるかんな」
「なら話は早い。十六夜の動画投稿を手伝ってほしい。俺たちは撮影のためにいつも大荷物を背負って移動してるんだ。でも、長門のスキル、【紅一点】なら持ち運びを楽にできるだろ。力を貸してくれないか」
「そ、そんなことでいいならいくらでも貸してやるよ。……まずは、八雲に勝ってからだけどな」
「その通りだな。みんな、異論はないか?」
「我はないな。正直、我のせいではあるが、動画撮影のたびにあの大荷物は我も困っていた。手伝ってくれるなら我は嬉しい」
「私も同感ですね。それに、小春先輩のスキルは必ず役に立つ場面が来ると思いますから。なんならアンノウンを小さくして、持ち運びやすくすることも可能でしょうし」
「うちも大丈夫よ。長門は悪い奴じゃないし、うちよりも頭は切れるやつだと思っているから。反対する理由が思いつかないわ」
「……俺は正直、これ以上人数を増やすのはどうかと思うが、みんなが賛成ならそれに従うさ。俺もそれ以外に反対する理由がないしな」
「というわけで勝負しようぜ、勝負。内容は長門が決めていいからよ」
「ふっ、負けて悔しい思いをしても知らねぇんだからな!」
……これで役者は大体揃っただろう。今回の場合、少数精鋭よりも人数が多い方が有利な場面が必ず来るはずだからな。そんな場面にならないことを心の底から願ってるぜ、みんな。
「よし、勝負の続きをしよう。審判は十六夜に任せる」
「承知した。夜月!」
「はい、ようこそお二人とも、地獄の勉強会へ。先程から全然手が進んでいないのはちゃんと知っていますからね?」
「「ふええええーーん!!」」
「うし、それじゃあ今度も頭を使ったバトルにすんぜ。次はNGワードゲームだ!!」
「……」
「……八雲先輩、とりあえずこの勝負ではなくて、その次の勝負で小春先輩に勝ってもらうように頑張りましょう」
「……そうだな。手を抜いたらばれるだろうし、何とか勝ってもらうバトルを考えてもらわねぇとな……」
当然のごとく、NGワードゲームは前回と同じ作戦で俺の勝ちとなった。その後も、パズルゲームやなぞなぞ、ひらめき問題といった色んな種類のゲームを行った。それでも、残念なことに全てが俺の嫌いなタイプのゲームだったため、俺が勝ってしまい、夕方になっても決着がつかずにいた。
「……おかしいだろ!! 八雲、なんであんたはそんなに万能なのさ!! もうはっきり聞くぞ! あんたの苦手なものって何!?」
「音楽関係はほとんど苦手だ」
「分かった! それならカラオケの点数勝負をしようぜ! 今からカラオケ屋にいくぞ!!」
「すまん、カラオケは得意なんだ……すまん」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……仕方ねぇ。あんまり見せたい特技ではないんだが、ドラムで勝負しようぜ」
「っ!! いいだろう、のった!! なんでドラムが得意なのを隠しておきたいんだ?」
「あたいみたいなガサツっぽい女が音楽関係得意とかイメージに合わないだろうが?」
「そんなの気にしなくていいだろ。俺はかっこいいと思うぞ」
「そ、そうかよ。……ありがとよ」
「……八雲、後で夜月に怒られないようにな」
「どういう意味だよだよ十六夜!!」
そうして何とか長門が俺に勝つことができ、無事に長門のチーム加入が決まったのであった。長くバトルをやりすぎた俺たちはその場で解散し、長門は寮へ変えるために、俺は十六夜を生徒会へ送るために別行動をとることになった。
「十六夜、すまない。ここまで長引くとは思わなかった」
「別に気にするでない。面白いものを見れたと思っているぞ。……その、八雲、嫌だったら答えなくても結構なのだが、一つだけ質問をしてもよいか?」
「なんだ、急に改まって、どうした?」
「八雲には【不調で絶好調】と【進んで戻れ】とは別に常時発動型のスキルがあるのではないか? それも、今までの長門とのバトルに関係するような」
「……はぁー、どこで気づいた」
「途中からである。長門が指定したバトルはどれも嫌そうな顔をしていたのに、その全てで好成績を収めていたからである」
「流石、研究希望者だな、よく見てるよ。このスキルは夜月にも打ち明けていないからここだけの秘密にしておけよ」
「うむ、絶対に守って見せるぞ」
「俺には俺が嫌いなものほど得意になってしまう。いわば、嫌いなものでは力を百パーセント発揮しやすくなるスキル、【不運で幸運】というものがある。勉強や戦闘が嫌いでもコツをつかんでしまって得意になってしまうのはこのスキルのせいなんだ。これは魔力が上昇しない代わりに常時発動型でな、もはや体質となっているんだ。俺はこいつのせいで楽をしている卑怯なやつなんだ。だから、俺は俺に自信が持てねぇ。一年間スキルを使わなかったのも、常に卑怯な人間がさらに不真面目なスキルを使ってしまったら、夜月の隣には立っちゃいけねぇと思ったから。亡き父親との約束を果たすために今はなりふり構わずスキルを使ってるがな」
「……そうであったか。大事なことを話してくれてありがとうである。だがな、八雲、卑怯なんてことはないぞ。嫌いなものほど得意ということは、汝は夜月の隣に立てる人間に、勉強や戦闘が出来る人間になるために常に嫌なことへ立ち向かっているということであろう? それのどこが卑怯なのだ。汝は立派な人間であるぞ」
「……初めて誰かに話したが、そんな風に言われるとは思いもしなかったぜ。ったく、もっと扱いやすいスキルだったら良かったのによお。このせいで俺の好きなバンド関係は全然得意になれないしな」
「それは不運であるな」
「全くだ……十六夜、どうして俺のスキルを知るために【知識欲】を使わなかった。十六夜が興味を持ってスキルを発動すれば、すぐに分かったことだろう?」
「馬鹿者、親友の秘密を勝手に暴くような真似をするわけがないであろう」
「分かってる。聞いてみただけさ。ありがとな、親友」
「うむ」




