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第二十一話 研究と戦闘の間で

 テスト週間は長い。今日でまだ二日目である。一日でも辛そうであった桜庭と長内は果たして耐えられるのだろうか。心配になった俺たちは心機一転。体を動かそうと思い、決闘場を借りたのであった。ありがたいことにテスト期間中でみんな勉強のため、しばらくの間貸し切り状態となった。


「ほおー、ここが決闘場か。初めて入ったが大きいな。こんなのが学園内にいくつもあれば、そりゃあ敷地もとんでもないものになるよな」

「我も入ったのは初めてであるな。実際に決闘することはないであろうから、決闘場の中央に来れたのは嬉しいものであるな。二人は普段からここで決闘しているのか?」

「そうだな。俺は二年生になってから生徒会の傘下に入ったようなものだから全然決闘していないが、夜月は結構決闘しているよな?」

「そうですね。やはり、周りの一年生から興味本位で挑まれることが多々あります。でも、一度として負けたことはありませんけどね」

「学園二位って、あの獅子王先輩を抑えての二位でしょ? それも生徒会長と戦って肉薄したなんて本当に凄いわ。うちはそんな話一度も聞いたことないもの」

「桜庭は随分と詳しいんだな。研究希望者なんて決闘関連の話はそんなに聞かないと思っていたが」

「た、たまたまよ。流石に研究希望者でもその二人は有名だもの。それに、うちの友人に詳しい人がいるの。だから、し、知ってただけよ」

「……」


 俺が研究希望者は何をしているか今まで知らなかったように、あちらもこちらのことなどほとんど知らない、興味がないだろう。桜庭は決闘場へ入ったときも初めて入ったような素振りは見せなかった。

 決闘希望者の決闘は他の希望者でも観戦することができる。桜庭は誰かの決闘を見るために訪れたことがあるのだろうな。


「さてと、体を動かすとしようじゃねぇか。久しぶりってわけじゃねぇが、人に見られながら体を動かすのは久しぶりだな」

「最近は護衛を終えてからの人が少ない時間帯にトレーニングしてますもんね。いくら護衛が任務と言えど、体が鈍っていては意味がありませんから」

「俺もやってみようかな。体を動かすのは久しぶりだが、魔力弾を放つぐらいはなんとかなるだろう」

「……」

「どうしたのであるか桜庭? 汝はトレーニングをやらないのか?」

「軽くであるなら審判や生徒会、教師は必要ない。何かあっても俺たちがなんとか言い訳するぞ」

「そ、そうなのね。そ、それなら、ちょっとだけ……」

「ちょっと待ったああああああああああああああ!!」

「うわ! 何よいきなり、うるさいわねって……どうしてあんたらがここにいるのよ」


 決闘場に颯爽と現れたのは男子二人、女子一人の三人組。桜庭が知っている相手ということは、いわずもがな研究希望者のメンバーなのだろう。


「おいおい、今この決闘場は貸し切りのはずだぞ。勝手に入ってもらっちゃ困るんだがな」

「そんなものあたいには関係ねぇよ。あたいが用事があんのはあんたらじゃなくて、そっちの三人組なんだからさ」


 赤髪のショートヘアーの女性が吊り上がった目で俺たちを牽制する。最初から攻撃的ってことは、この場合、性格が悪いとかより俺たちのことを厄介に思っている相手。狙い的にもまだアンノウンを諦めていない連中なのだろう。


「待ってくれ。俺は戦闘希望者の二年生、八雲隼人だ。いきなり突撃してもらっても困るんだ。今は決闘に向けた訓練を俺たちがしてるんだからよ」

「あたいは研究希望者の二年生、長門小春ながとこはるだ。決闘に向けた訓練だと? その割には楽しそうにお喋りしていた上に、みんなで戦おうとしていたじゃねぇか」

「研究希望者も交えて訓練すれば新たな課題が見えてくると思ったんだ。悪いな、決闘希望者にも色々あるんだよ。さっきも言ったが、今は俺たちの貸し切りなんだ。お引き取り願えないか?」

「じゃあ、いつになったら三人は、十六夜は一人になるってんだ。あたいが見るたびに十六夜は誰かと一緒にいるじゃねぇか。こっちもしびれを切らすってもんだ。こっちはこれでも騒ぎにならないように、五人が静かな場所へ行くまで待っていたんだぜ」

「おいおい、長門も研究希望者なら知ってんだろ? 今は大事な時期なんだ。そんな怪しい真似をされると穏便にすまなくなってしまうぞ。いいのか生徒会に連絡しても?」

「姉御! だから突撃すんのは駄目だっていったじゃないですか! あいつらは生徒会に任命された護衛ですって! なんかあったら、退学になるかもしれませんよ!」


 ソフトモヒカンの舎弟らしき男性が長門を諫める。長門は何かを言いたげにしているが、言葉へできずに唸っていた。


「うぬぬぬぬぬぬぬぬ……分かったよ。あたいらが悪かった。でもこっちも真剣なんだ。用件だけでも聞いちゃくれねぇか?」

「用件というのは何なんだ?」

「アンノウンを渡してほしいんだよ。アンノウンの正体を探す手掛かりはもう本体ぐらいしかねぇ。実際に触れあっていけば何か分かるってもんだろ」

「そいつは流石に無理だな。君たちも知っての通り、十六夜のスキルの関係上、十六夜の手から離れることは認められない。そんなことすれば、せっかく解析できるものが解析できなくなってしまう」

「じゃあ、桜庭と長内はどうしていんだよ。あんたらの目的は十六夜とアンノウンの護衛だろう? だったら二人はいらねぇはずだ。同じチームだからって理由だけじゃ、あたいは納得できねぇよ」

「桜庭と長内がいれば、護衛に役立つと思ったからだ。同じ希望者であるなら、二人のスキルも知っているんだろう? 二人がいるのは単純に任務遂行のために必要だと考えたからだ」

「それならあたいでもできる!」

「どういう意味だ?」

「あたいの方が二人よりも役に立てるって言いてぇんだよ。二人を雇うぐらいならあたいを雇っちゃくれねぇか?」

「八雲、こんなの考えるまでもないわよ。うちらだって役に立てるし、何より関係性も悪くないでしょ? 現状でも大丈夫なら、無理に変える必要はないわ」

「いや、関係性も大事かもしれねぇが、実力も大事なはずだろ? あたいの方が絶対に役に立てる」

「ふむ、どちらの意見も一理あるな……」

「ええ!? ちょっと八雲、メンバーを変えるとか言わないでしょうね?」

「それはあっちのチームの実力次第だな。あっちの方が有用だと思えば、メンバーを変えるのもやぶさかではないと考えている。だから、こうしよう。今から桜庭とその三人で一人ずつバトルをしてもらう」

「はあ!? なんでうちがそんなことしないといけないのよ!」


 桜庭が勢いよく突っかかってくる。今の状態でも大丈夫なのに、メンバー交代したくなければ戦えと言っているのだ。当たり前のことだろう。それでも俺は無視をして話を続ける。


「長内は索敵要因として必要だ。そのため、後は力の強いものが必要となる。確かに今の関係性は悪くないが、三人のうち一人でも桜庭より強かったら、その枠は桜庭でなくてもいいだろう?」

「いいね。あたいらはその案にのったぜ。あたいの方が有能だってところをみせてやんよ」

「じゃあ、決まりだな。そっちは桜庭と戦う一人目を決めてくれ」

「ちょっと八雲! まだうちが了承してないんだけど!」

「桜庭!」

「な、何よ?」

「思いっきりやれ。責任は俺が取る。信じているぞ」

「っ!! ……分かったわよ。やればいいんでしょやれば。その代わり、あいつらがどうなろうと知ったこっちゃないからね」

「おう、任せたぞ」


 桜庭が決闘場の中央の所定の位置まで歩いていく。迷いなく決闘における開始の位置まで歩いて行ったな。やはり、相当決闘場に足を運んでいることが伺える。相手は誰を一人目に選ぶか悩んでいるようであったが、先ほど長門に意見したソフトモヒカンの男に決まったようだ。

 相手がぎこちなく、桜庭を見習って所定の位置まで歩いていく。こっちは一人で相手は三人。まずは、長門以外の二人で桜庭を消耗させて、疲れたところを長門が勝つという算段なのだろう。


「八雲先輩、大丈夫なんですか? 勝手に決闘なんて執り行って。後でどうなっても知りませんよ」

「いや、大丈夫である。我が帝人に確認したところ、特別に認めるとのことであった。後処理はいつもの決闘と同じようにするので大丈夫らしいぞ」

「流石十六夜、助かるよ。これで心置きなく、バトルを観戦できるな」

「全く八雲先輩も人が悪いですよね。最初からそのつもりで決闘の流れに持って行ったんですから」

「索敵は俺に任せといてくれ。今のところ、周りには誰もいない。このまま始めてもらっても大丈夫だ」

「了解した。……それでは、両者位置について。これより、バトルを行う。カウントダウンの後、始めの合図と共に開始する。五、四、三、二、一、始め!」

「俺は戦闘なんて詳しくないから、先にスキルを発動すんぜ。いくぜ! 【念力連動サイコリンク】!!」


 男の魔力が上昇する。流石に戦闘ランキングの上位に食い込めるほどの魔力はないが、スキルの内容次第でどうとでもなる。先に仕掛けたということは、このままスキルの内容も明らかにするはずだ。


「戦闘に詳しくないというより、研究希望者はお互いのスキルを知っているのである。ゆえに、初見殺しはほぼ通用しないのだ」

「なるほど、それでも長内先輩みたく戦闘に生かせないスキルではないってことなんですかね?」

「そうであるな。実際に戦闘したことがある訳ではないから分からんが、風間かざまのはかなり厄介なスキルであると思うぞ」


 風間と呼ばれる男が魔力弾を三発ほど撃った。魔力弾は突飛な方向に進んでおり、桜庭に当たることはない。しかし、桜庭は警戒している。一歩も動かず相手の様子を窺っているといった感じだ。


「ふぅー、おらよぉ!」


 叫んだ風間に合わせて魔力弾が軌道を変える。それぞれの魔力弾は放物線を描いて桜庭に襲い掛かる。桜庭は冷静に軌道を読んで魔力弾が当たる位置に魔力防御を張る。たちまち魔力弾は消えてしまった。


「ほぉー、魔力弾というより、物体を念力で操るスキルか。使い勝手の良さそうなスキルじゃないか」

「風間のスキルは念力の中でも操ることに特化したスキル。遠距離での戦いなら分が悪いであろうな」

「ですが、魔力量は明らかに双葉先輩の方が上です。そんなに怖がる必要はないと思いますよ」

「遠距離なら、お前のスキルを怖がる必要はない。このままいかせてもらうぜ!」

「遠距離ならね。さて、いつまでそんなことをさせてもらえるかしら!」


 桜庭が特大の魔力弾を放つ。風間が横方向に転がり込み、何とか回避する。……回避に専念してしまったということは、


「くそがっ! どんどん近づいてきやがる! 俺の集中力を魔力弾から逸らして、近づいてくるつもりか!」


 すかさず風間から放たれた魔力弾が自由自在に宙を動き回る。今回は魔力弾が消滅しないように桜庭の周りをいやらしい動きでうろついている。多くの魔力弾を操りながらも風間は次の魔力弾を生成していた。

 あの魔力弾の密度なら桜庭の集中防御を破れるかもしれない。この攻撃をいなせれば、近接戦闘に持っていけるかもしれないが、果たしてどうなるのやら。


「すぅー、はああああ!!」


 風間が特大の魔力弾を放つと共に、桜庭の周りを飛んでいた魔力弾が徐々に桜庭に近づく。全身防御を誘発しながら、凝縮させた魔力弾で薄くなった防御を破る気か。桜庭は全身防御をすると共に、右手を突き出す。小粒の魔力弾は全身防御でガードした。凝縮した魔力弾の方は……、


「……なっ! そ、そんなのありかよ!!」


 凝縮した魔力弾が桜庭の右手に触れた瞬間、吸い込まれるように小さくなって消えた。これが桜庭のスキル、【無抵抗ストロングゼロ】か。やっぱり桜庭は戦闘慣れしている。この機を逃すまいと桜庭が近接戦闘に持ち込む。向かい打つ風間は魔力弾を構えるが、桜庭に向かってではなく、地面に向かって撃ち放った。


(そういうことか。大丈夫か、桜庭!)


 魔力弾によって壊れる地面。飛び散った床の破片が急激に軌道を変える。風間はスキルによって床の破片を操ったのだ。床の破片を集中防御で防いでる間に、もう一度魔力弾を叩きこむつもりなのだろう。


「はぁー、【無抵抗ストロングゼロ】」


 桜庭のスキルは触れた物体の抵抗を失くす。薄い魔力だけで床の破片を防ぎ切り、その後の魔力弾の追撃も全て防ぎ切った。そして、風間のような操作系スキルの弱点。それは操るのに意識を取られすぎて、近接戦闘がおろそかになること。うろたえた風間の腕を桜庭が掴む。


「待て!! ……降参だ」


 魔力を練ることのできなくなった風間が降参する。風間も戦闘能力は大したものであったが、桜庭があまりにも強すぎた。


「勝者、桜庭双葉!」

「ふぅー。まずは一勝ね。次は誰が来るの? 誰が来てもぶちのめすだけなんだけどね」

「ま、風間は桜庭相手によくやったと褒めるべきだよね。次は白井しらい、あんたの番」

「あんたの番って、僕が行くんですか!? 無理無理無理無理無理!! 今の戦い見てどうやったら僕が勝てると思ったんですか!?」

「それでも、多少は魔力を使わすことができるじゃねぇか。無理でも何でもいいから、がむしゃらにやってみろよ。そうしたらあたいが決着をつけてやる」

「……まあ、姐さんに歯向かうことなんてできないですからね。分かりましたよ。姐さんだけでも解析できるようにしてみせますよ」


 白井が所定の位置までやってくる。気迫もやる気も全然感じられないところを見ると、戦闘向けのスキルではないのだろう。しかし、スキル発動時の魔力が高ければなんとかなる。夜月並みの動きができるかどうかは別問題ではあるが。


「それでは、両者位置について。これより、二回戦目のバトルを行う。カウントダウンの後、始めの合図と共に開始する。五、四、三、二、一、始め!」

「ねぇ白井。うちの前に立つなんて度胸があるじゃない? 本当にあんたのスキルでどうにかなると思っているわけ?」

「無理に決まってますよ! でも、姐さんには逆らえませんから。なんとかやるしかないでしょう」

「あんたのスキル、【未知案内ミステリーツアー】じゃあ勝負にならないでしょう。確か、初めて訪れた場所でもなんとなく周辺のマップが理解できるっていうスキルだったと思うのだけれど、本当にそれでどうにかなるの? それともあんた、マルチホルダーなの?」

「どうにかなるわけないじゃないですか!! マルチホルダーでもありませんよ!! どうにかするしかないんですよ!! 本当にお手柔らかにお願いしますよ」

「それはあんた次第でしょ。あんたが本気で攻撃するなら手加減はしない。もう、試合は始まってるの。こっちからいくわよ」

「はぁー、仕方ない。姐さんに失望されるよりはマシか。もう……どうにでもなれええええええええええ!!!」


 白井がスキルを発動する。こちらも風間と同じく、戦闘希望者の上位に食い込めるほどの魔力は持っていない。戦闘向けのスキルでもない白井はがむしゃらに魔力弾を放ちまくる。勘のいい人はみんな分かっていると思うが、それでは桜庭にかすり傷一つ負わせられない。魔力弾は桜庭の魔力壁に触れた瞬間、小さくなって消えていった。

 桜庭がなんでもない通学路を歩くかのごとく、いつもの道を散歩するかの如く、余裕な態度で白井に近づいていく。


「へぇー、ちゃんと攻撃してくるんだね。それは、うちにぶん殴られたいってことでいいのかな? 普通の怪我じゃすまないかもよー。魔力を封じた上で殴るから、骨の数本は折れるかもしれないわねー」


 桜庭が悪い顔をしながら、白井に詰め寄っていく。白井の呼吸がどんどん荒くなる。魔力弾の質もどんどん悪くなる。桜庭が数メートルまで近づいたところで白井は攻撃の手を止めた。


「む、無理だああああああああ!! 降参、降参します!! 姐さん、ごめんなさーーい!!」


 後ろに振り返った白井は脱兎の如し。そのまま長門たちをも追い越して、決闘場の外へと逃げてしまった。


「勝者、桜庭双葉!」

「はぁー、あんにゃろう、あそこまで逃げなくてもいいだろうに。降参するにしても気合がたりねぇよ。気合が」

「まあ姉御。白井にしては頑張った方だと思いますぜ。これで多少は相手の魔力を消耗させたはずです」

「多少はな。もっと削ってくれたほうが嬉しかったが、いいぜ。白井は頑張った。後はあたいがなんとかしよう」

「桜庭、休憩しなくても大丈夫か? 流石に三連戦はきついだろう」

「いや、このままでいいわ。ようやくギアも上がってきたところだもの。この調子を崩したくない」


 戦闘能力やスキルだけでない。性格も戦闘希望者よりだ。やはり惜しいな、このまま研究希望者にしておくには。もったないないか、そうではないかは俺が決めることじゃない。だけど、少なくとも桜庭は戦闘をしたがっている。どうにかできないものだろうか。


「ちょっと、どうしたのよ八雲。長門はとっくに所定の位置についてるわよ。うちのことを気遣ってくれるのは嬉しいけど、本当に休憩はいらないわ」

「すまん、分かった。それでは、両者位置について。これより、最終戦のバトルを行う。カウントダウンの後、始めの合図と共に開始する。五、四、三、二、一、始め!」

「まさか、桜庭とやりあう日が来るとは夢にも思わなかったよ。あんたのことは強い奴だってあたいは認めていたかんな。悪いが、今日のところはあたいが勝たせてもらうぜ。こっちも諦めきれねぇんでな!」

「うちもよ。長門と戦う日が来るなんて夢にも思わなかった。八雲には感謝しないといけないわね。研究希望者の中ではうちに次いで強いと思っていたから」

「次いでじゃなくて、あたいが一番だ。それを今日、証明してやんよ!」


 二人がお互いに走り始める。桜庭のスキルを知りながら近接戦闘を選ぶとは、長門も近接系のスキルなのか?


「はああああああああああああああああああ!!」

「おりゃあああああああああああああああああ!!」


 二人が衝突する。桜庭は相手の体を掴もうと、色んな角度から手を忍び込ませようとする。対する長門は捕まれないように必死で手を振り払っていた。一瞬触れ合うだけなら魔力の無効化は行われない。桜庭のスキルを理解したいい戦い方だ。

 気になるのは長門のスキル。さばけていても長門が防戦一方なことには変わりない。ここからどう仕掛けていく?


「おらあああ!!」


 長門が頭に魔力を集中させる。頭を振りかぶって頭突きの構えを見せる。桜庭は受けの姿勢を見せるが、長門が途中で蹴りに攻撃を変えた。魔力によるブラフも扱えるのか。かなりのやり手だな。だが、あいては桜庭だ。


「くっ!! 読まれてんのかよ!!」

「やっぱり、強い奴はそう簡単に掴ませてもらえないわね。今蹴っていたら確実だったのに」

「はぁー、単純な近接戦闘では分が悪いか。しゃあないね。分かっていたことさ。【紅一点ミニマムダイス】!!」


 長門が小さい何かを投げた次の瞬間、桜庭の目の前に大きな金属の塊が現れた。桜庭はスキルでなんとか金属の塊を破壊するも、その間に死角へ入った長門から蹴りを一発もらう。なんとか魔力で防御を固めていたみたいで直撃は避けているようであった。


「……これは、物体を大きくするスキルですか?」

「……いや、逆だ。物体を小さくスキルで、今のはスキルを解除したのだろう」

「流石八雲、ご名答である。長門のスキルは【紅一点ミニマムダイス】。触れた物体を小さくして持ち運ぶことができるスキルである。小さくなると、その分軽くなるので戦闘以外でも便利なスキルであるぞ」

「双葉先輩なら、避けるという選択肢以外にも壊すという選択肢が存在しますが、中々に厄介なスキルですね。小さくなっているのも金属の塊だけとは限りませんから」


 確かにその通りだ。俺が長門のスキルで桜庭を対策するなら、まずはガソリン缶を小さくしておく。それを壊した桜庭がガソリンをかぶり、火を放てば相手を燃やすことができる。桜庭のスキルは魔力や物体に対してだけなので、炎までは消すことはできない。これは大変なことになるかもしれないな。


「十六夜、今すぐ生徒会に連絡して治癒の教師と水属性使いを呼んでくれないだろうか?」

「八雲先輩……ちょっと引きますよ。考えることがえげつないですって。どうせ、液体と炎にはスキルが発動しないとか考えたんでしょうが、本当に褒めていいのやら分かりませんよ」

「大丈夫だ。長門は卑怯な奴ではない。三番手になったのも、他の二人でギアを上げた桜庭と戦いたかったからだ。基本的には鉄の塊やらしか使わないと思うぞ。長門はそんな悪人ではない」

「悪かったな、悪人で。俺はどうも最悪の事態を考えてしまうんだよ。俺は長門のことを知らねぇから」

「長所でもあるとは思うんですけどね。ほら、二人のバトルが続いてますよ」


 再び掴みにいく桜庭。だが、近接戦闘で押された長門はそう簡単に近寄らせない。ポケットから二つのものを取り出して、まずは一つ目を投げた。それは巨大化すると鉄の塊になり桜庭に襲い掛かる。もう一度、桜庭が壊そうとする直前で、長門が二つ目の物体を投げた。それは巨大化するとバランスボールとなり、桜庭の拳と鉄の塊に挟まれたことで桜庭を押し返した。

 桜庭のスキルでバランスボールは壊れたものの、桜庭の体勢を崩せれば十分だろう。間髪入れずに長門が物体を体勢の崩れた桜庭の上空へぶちまける。スキルが解除されると、鉄の塊が瓦礫のように桜庭に襲い掛かった。桜庭は全身防御をしながら、降ってくる鉄の塊を次々と砕いていく。いつの間にやら桜庭の足元は鉄くずが積もって、ゴミ捨て場のようになっていた。


「おい、長門も中々にえげつない考え方してるじゃねぇかよ。桜庭じゃなかったら最悪死んでんぞ」

「桜庭を信用しているのであろうな。こうでもしないと桜庭の体力を削れないと考えているからこそ、実行しているはずだ」

「今ので手持ちの物体はかなり使ったと思うので、次で決着がつきそうですけどね。どうするんでしょうか?」

「大丈夫だ。俺たちも桜庭を信じよう」


 長門が再び物体を手にする。ここで、このバトルで初めて桜庭が魔力弾を生成する。魔力弾を放つ桜庭。魔力弾は長門に向けてではなく、その手前の地面へと放出された。不思議に思った長門の対応が遅れた瞬間、長門のいる場所を含めた地面が陥没した。長門の体勢が崩れる。距離を詰める桜庭。倒れ込んだ長門が立ち上がったときには腕を桜庭に掴まれていた。


「これで終わりね。降参すれば?」

「……いや、降参はしねぇぞ。遠慮せずに一発ぶち込むといい」

「分かったわ。それじゃあ、遠慮なく。いかせてもらうわ!!」


 桜庭をしっかりと見据える長門。殴られる覚悟はしているんだろうな。その覚悟は大事だが、むやみやたらと怪我されても困るんでね。


「桜庭!! 長門!! これで終わりだ!! 桜庭の方が強いのは今のを見て分かった。二人には悪いが、ここで止めさせてもらう」

「ふっ、仕方ないわね。審判がそう言うなら終わりにしましょう」

「全く、余計なことを。あたいはまだ諦めねぇからな」

「いいわよ、勝手にしなさい。アンノウンの正体を掴むのはうちらだから」

「その威勢がいつまで続くかな。おい、おまえら今日は終いだ。後処理は任せて帰るぞ」

「「へい!!」」


 言葉を交わした二人はそれぞれのチームの元へ帰っていく。桜庭が打ち負かしたことで、長門たちも少しは納得してくれるだろう。桜庭の力量も見ることができたしな。これで俺も決心することができた。


「桜庭、見事な戦いだった。最後は地続きになっている相手の地面の抵抗を失くして、魔力弾を当てることで陥没させたな?」

「良く分かってるじゃない。流石は八雲ね。……信じてくれてありがとう」

「おーい、決闘場に数人向かってくるぞ。多分、生徒会のメンバーや決闘場のスタッフだと思う。後処理は任せて、今日は解散しないか?」

「そうであるな。しっかりと気分転換をすることはできた。明日からもまた頑張ろうではないか」

「あっ、ちなみに双葉先輩と長内先輩はしっかりと勉強してくださいね。今の時間を取り返すほどの頑張りを勉強でも見せてください」

「……勘弁してよ」


---


 すぐに解散した後、時間が経過してから俺はいつものカフェとは違う店舗のカフェに桜庭を呼び出した。この時間であればご飯時のため、カフェ内の人数も少ない。俺と夜月が四人組のテーブルで待っていると、桜庭の姿が見えた。


「よお桜庭。さっきぶりだな」

「さっきぶりって、八雲が呼びだしたんじゃないの。何、もしかしてうちだけ特別補習とか?」

「そんなんじゃないさ、ただ一つだけこの場で質問をしておきたかったんだ。今日のバトルは楽しかったか?」

「……! た、楽しくなんてないわ。ただ言われたからやっただけ。いい迷惑よ」

「桜庭、ちょっと失礼!」


 俺は左手に魔力を集中させておきながら、右手のジャブをしようとする。


「え? って、ちょっと待った!!」


 桜庭は魔力が集中した俺の左手ではなく、ジャブをしようとした俺の右手をしっかりと掴んだ。


「……やっぱりな。桜庭には魔力によるブラフが通じにくい。それは桜庭が魔力ではなくて、筋肉の動きを見ているからだ。戦闘においてそれは大事なこと。桜庭、もう一度聞くぞ。今日のバトルは楽しかったか?」

「……嘘。嘘よ! た、楽しかったわよ。だって、うちは戦闘するのも謎を解明するのと同じくらい好きだから……」

「双葉先輩はどうしたいですか?」

「どうしたいって咲耶ちゃん、うちは迷った挙句に研究希望者を選んだ、それだけの話よ」

「戦闘はこれからもしたくないのか? 楽しかったんじゃないのか?」

「楽しかったわよ。戦闘も解明も同じくらい好きって言ってるでしょ! うちにどうすればいいって言うのよ!」

「簡単な話だ。どっちもやればいい」

「え?」

「研究希望者でありながら、戦闘希望者にもなればいい。どちらにも属せばいいことだ。桜庭の戦闘力の高さとあの生徒会長であれば、認めてくれると思うぞ」

「そ、そんなこと可能なの?」

「可能かどうかは俺の腕の見せ所だ。後は桜庭の気持ち次第ってことさ」

「……うちは研究も戦闘もどっちもしたい。だから、どうかお願いします」

「よし、任せてくれ。悪いようにはならないはずだ。桜庭は部活には入っているのか?」

「いえ、入ってないわよ」

「それなら、何かあっても決闘研究会に入れるようにしておく。決闘研究会は研究希望者とか関係なしにバトルが好きな奴を歓迎しているからな。どっちかは必ず実現させてやるから期待して待っておいてくれ」

「……八雲」

「何だ?」

「ありがとう……これからもよろしく頼むわ!!」

「ああ、よろしく頼む」


 俺と桜庭が拳を合わせる。夜月が温かい目でこちらを見つめる。ああ、俺が何とかして見せるさ。大事なもんは何一つ零したくないからな。

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