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第十六話 生徒会長

 黒島との再決闘に勝った次週の初め。俺と夜月は生徒会長室へと呼ばれることになった。なぜ夜月まで呼ばれているのかは分からない。それもこれも全部生徒会長に聞けば分かることだろう。

 生徒会長室とは文字通り、生徒会長のためだけの部屋である。通常の雑務は生徒会室にいるその他の生徒会メンバーによって対処されるので、生徒会長室に用事があっていくことは滅多にない。

 そこで生徒会長が何をしているのか、なぜ生徒会長だけ別室なのかは知らない。この学園における生徒の長になったものへ与えられる特権の一つなのかもしれない。


「どうして私まで呼ばれたんでしょうかね? 黒島先輩への件では全く活躍していないのに」

「それが不思議なんだよな。話は十中八九、黒島の顛末だと思っているが、妙に引っかかる」

「どちらにせよ悪いことはしていないんですから胸を張って行きましょうよ」

「それもそうだな。何なら、特別豪華な報酬とか用意されてるかもしれん」

「それはないでしょう。八雲先輩は進級できることにもっと感謝した方がいいですよ」


 とある講義棟の最上階の一室、そこに生徒会長室は存在していた。軽口をたたいてる俺であったが、内心緊張していた。あれほど学園の噂になっていても直接会うのは初めてだからである。俺が意を決して扉を開ける。


「失礼します。天岩学園二年生の八雲隼人です。生徒会長に用事があって来ました」

「待っていたよ、八雲くん、夜月くん。さあ、入りたまえ」


 生徒会長に促されて部屋の中に入る。そこは、大企業の社長室を思わせる雰囲気を漂わせており、見渡す限り何もない広い部屋の奥に大きな机とパソコンが置いてあった。その少し奥で窓から外の景色を見ている男性が生徒会長である。

 特筆すべきはその身長と体格。百八十五センチもある俺よりも高く、天性の肉体と鍛え抜かれたその筋肉は綺麗な逆三角形の体を作っている。生徒会長がこちらへ振り返る。髪は綺麗な金髪で前髪を挙げたオールバックにしており、そこから覗く蒼い瞳は慈愛に満ちていた。


「黒島くんの件、ご苦労だったね。君のおかげで黒島くんが関わる不良グループを一斉に摘発することができた。私が思っている以上に悪い企みをしていたみたいでね。今回事件を解決できたことはとても大きな成果であった。感謝している」

「礼を言うのはこちらの方ですよ。生徒会長のおかげで、俺は進級することができるんですから。本当にありがとうございました」

「はははっ! 八重先生から聞いているだろう。君の進級が危なくなったのは私の仕業だ。礼を言われるようなことはない。それと、私のことは生徒会長ではなく帝人でいい。聞きたいことがたくさんあると思うが、どうやらもう一人客人が来たみたいだね」


 帝人先輩がそういうと、生徒会長室の扉が開く。そこには、先日決闘をした黒島と綾辻先輩がいた。


「生徒会長! 一体私に何の用が……やや、や、八雲隼人!? どうしてお前がここに!?」


 黒島は見るからに憔悴しきっており、俺をみるなり震え始めた。二度も味わった敗北が黒島に深いトラウマを植え付けていた。


「黒島くん、彼らは今関係ない。君がどうしてここへ呼ばれたのか本当に分からないのかい?」

「私は何もしていません! 純粋にこの学園で強くなろうと頑張っていただけです! どうかご容赦を! 寛大な処置をお願いします!」

「……優秀で誰に対しても優しい優等生。それが君の前の学園での評価だ。スキルも強く、勉強もできる君であったが、私たち生徒会は理事長からの要請でその評価の裏を取る必要があった。そしたら出てきたよ。たくさんの悪事の証拠がね。弱い者に対する傲慢な態度、脅迫、いじめ、窃盗等々。そして、その地方では有名な不良グループのリーダー格であることも判明した。君は天岩学園に入って卒業することで、社会的な地位と権力を獲得し、より悪事を働きやすいような環境を作り出そうとした。その上、不良グループの仲間を使って学園での厄介な人間を倒したり、学園のポーションや魔道具などの貴重なものを窃盗しようとした。全部君のお仲間が喋ってくれたよ」

「私は知らない。私は関係ない。私は何も悪いことはしていない。生徒会長、どうか考え直してください!」

「先日の八雲の件があるのに、よくもそんなことが言えたものだ。証拠なら腐るほどある。お前はもう終わりだ」

「君が何を言おうと結果は変わらない。天岩学園の退学処分並びに刑務所おくりだ。しっかりと更生してくるといい」

「……全部貴様のせいだ。俺を編入させたのも、俺があいつと戦う羽目になったのも、全部貴様のせいだ! 貴様だけは許しておかない!!」


 黒島がスキルを発動する。しかし、俺を含めた周りのみんなは黒島の暴走をただ見ているだけであった。


「おや? 君は編入するときに資料を確認しておかなかったのかい? 私のことが全て書いてあったと思うのだが」

「あんなもの誰が見るんだ! 貴様のことしか書いていない資料など、途中で見る気が失せたわ!」

「そうか、ならば私の方から説明しておこう。私のスキルは【手札公開フルオープン】。自分に関わる情報を公開すれば公開するほど、身体能力と魔力が跳ね上がるというスキルだ。ちゃんと説明はしておいたよ」

「それがどうしたって言うんだ! 貴様のスキルなど知ったことか! 消え失せるがいい! 【作用点Pムービングペイン】!!」


 黒島が虚空を殴りつける。その音は一直線に帝人先輩へと向かっていく。帝人先輩は手を後ろに組んだまま動かない。そのまま黒島の攻撃が直撃した。


「ふははははは!! なんだ、生徒会長が強いというのは噂だけじゃないか。こんなやつに私は踊らされていたのか? これだったら私がこの学園の一位になれるぞ! ふはははははははは!!」

「……誰が学園の一位になるんだって?」

「……う、う、嘘、だろ」


 帝人先輩は姿勢一つ崩さず、その場に佇んでいた。その体に纏った魔力の量が、黒島を絶望の表情へと塗り替える。


「それでは」

「なにっ!? いつの間に!?」

「こちらもいくとしよう」

「ま、待て! ぐふっ!! ぐほあっ……」


 一瞬で黒島の前まで移動した帝人先輩。俺の【不調で絶好調ダウナーズハイ】の時よりも大きな魔力を纏った拳が、黒島の腹に打ち込まれる。ぶっ飛びこそしなかったものの、凄まじい衝撃が室内を揺らし、黒島は白目をむいて膝から崩れ落ちた。


「黒島秀吉。この学園で一対一で戦えるようになれば、自衛もできる優秀なサポーターになれるはずだったのに。更生のチャンスは与えたが、人間というのは難しいね」


 何という力だ。これほどの魔力は夜月以外に見たことがない。ギリギリ目で追えたが、全力には程遠いのだろうな。これが学園最強。ナンバー1。この人を越えなければならないのか俺は。


「二人とも、黒島の件は会長が話した通り、いずれ大問題を起こす前に壊滅させたかったということだ。実際に悪いことをしている連中で、問題を起こそうとしていたのも事実だから、黒島のことは何も考えないでいい。私はこれで失礼する」

「ああ、ご苦労。後は私に任せたまえ」


 綾辻先輩が黒島を担いで部屋を出ていく。これで一件落着ということだろうか。


「おめでとう、八雲くん。君はこれで晴れて二年生に進級だ。これからの活躍にも期待しているよ。それでは、さっきの話の続きだ。何か聞きたいことがあるかい?」

「はい。まずは、どうして俺を特別進級させたんですか? 俺が特別進級したのは黒島の裏が発覚するよりも前のはずです。どうして俺に期待をしたんですか?」

「一言で表すのであれば、私と同じ波長を感じ取ったからだね。私の【手札公開フルオープン】は扱いが難しいスキルでね。私も最初から強かったわけではなかったんだ。長い間、自分のスキルと向き合った結果、ようやくこの強さを手に入れることができたんだ。だからこそ、分かった。君のスキルが私と同じ扱いが難しいものだということがね。君は気づいていないだろうが、私は数回にわたって君の決闘を見に行ったことがある。その時の君の様子が昔の私と重なったんだ。ああ、彼は自分のスキルと向き合っている途中なんだってね。よって、試してみたくなった。君のスキルがどんなものか。君はどこまで強くなれるのか。期待をしてみたくなったんだ。これが君を特別進級させた理由だ」

「追い詰められた状況であれば、必ずスキルを発動すると踏んだんですね。では、最後に一つ、どうして俺の力量を見る必要があったんですか? 強さだけでいうなら【不調で絶好調ダウナースハイ】だけで満足できたはずです。先日の再決闘は明らかに俺の他のスキルを見るのが目的だった。俺が色々とできることを確認することが帝人先輩に何のメリットを与えるんですか?」

「一つは単純に興味があったから。もう一つは君が問題を解決できる人間だということを確認したかったからだ」

「問題を解決できる人間、ですか?」

「そうだ。八雲くんにはこの一年間で私が与える七つの問題を解決してもらいたいと考えている。その問題とはこの学園が抱える問題であったり、私が個人的に興味のある問題であったりする」


 どういうことだ。それこそ何のメリットがある。問題を解決するのであれば、俺の他にも優秀な人材などいくらでも……。


「そのための私というわけですね。八雲先輩が問題を解決するためのサポートをしてほしいということですか?」

「話が早くて助かるね。別に力が強いものであれば夜月くんではなくても良かったのだが、二人は幼馴染と聞いてね。こちらの方がやりやすいと思ったんだ」

「待ってください。意味が分かりません。俺にもあなたにもメリットがないじゃないですか? わざわざ俺を使う意味が分からない」

「君のメリットは簡単だ。もし、問題を七つ解決できたのであれば、三年生への進級を約束しよう。戦闘ランキングでポイントを稼ぐ必要はない。いくら他のスキルがあっても手の内がばれれば、【不調で絶好調ダウナーズハイ】に頼らざるを得なくなるだろう。こちらの方が君のためになると思うがね」

「帝人先輩のメリットは?」

「楽しい。それだけだよ。君はなぜ、決闘研究会の部長である柊一くんが君に目をつけていると思う? 答えは、自分を超える可能性のある人間が育つのを見るのが楽しいからさ。分かち合える仲間がいると嬉しい様に、張り合える強敵がいるというのはとても嬉しいことなんだ。夜月くんは分かってくれるかな?」

「はい。私がこの学園にいる目的は天王寺先輩を超えるためですから。強い人がいるというのはそれだけで楽しいんですよ」

「そういうことだね。どうかな八雲くん。この件、承諾してくれないだろうか? この問題を解決し終えたときには、君は今の数倍も強くなっているだろう。最強を目指すという君の目的にも適っているはずだ。最強に、この私を超えたいんじゃないのかい?」


 帝人先輩が課してくる問題。どれも厄介なこと極まりないだろう。……それでも、最強になるためにはやる価値は十分にある。承諾して損はないはずだ。この一年で変わると決めた。俺も腹をくくらねぇとな。


「……ふぅー、その件、承りました。必ず帝人先輩を超える男になるので期待しといてください」

「うむ、いい答えだ。君が強くなるのを楽しみにしておこう」

「ただ、夜月へのメリットがないように思えます。そこはどうされるんですか?」

「夜月くんには問題が解決するたびに、それ相応のポイントを与えよう。加えて、八雲くんと同じように二年生への進級を約束する。それに、夜月くんも一緒に問題を解決していけば、自ずと強くなれるはずだ。この私が保障しよう」

「なるほど。それなら、気兼ねなく協力できますね。八雲先輩、これからよろしくお願いしますよ」

「へいへい、頼まんすよ。最強後輩」

「では、これで話は終わりだ。解決してほしい問題についてはまた後日伝える。今日からの授業も頑張ってくれたまえ」

「「ありがとうございました」」


 まさか、こんなことになるとは思わなかったな。帝人先輩から与えられる問題、ちょっと楽しみだな。ま、最悪難しいと思えば無理でしたと断って、正攻法で進級すればいい話だしな。気が楽でいいぜ。


「そうだ八雲くん。一つ言い忘れていたことがあった」

「何ですか?」

「今日から、君の戦闘ランキング及びポイントは増減しないことになっている。逃げ道を与えておくと、本気で問題解決に取り組んでもらえないかもしれないからね。進級する手段は一つ、問題を七つ解決するだけだ。留年しないように励みたまえ」

「はえっ?」


 ちょっと待てよ。逃げ道がないのは良くないが、良くないがまだマシな方だ。それよりも重要なことがある。今の状態から順位が上がることが無いってことは……、


「これからも頑張ってくださいね、最下位先輩?」

「……どうして、どうしてなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 父さんごめん。この学園で最強になるって約束したけど、真面目にやったら最弱で、本気を出しても最下位です。 

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