夏休み
夏休み
あっという間にやってきた夏休み。毎朝部活のために家を飛び出していく必用もなく、一日部屋でだらだらと身を持て余す。何か活動をしなければと頭はぐるぐると回る。仕方がないので日記を書いた。
「オケラを数か月前までやっていたのであまりにも忙しかった。それゆえにこの落差には愕然としている。何もない、やることが全く何もない。今日オケラのメンバーが廃品回収をやっていた」
部活動費の調達のために、管弦楽部では毎年夏休みに廃品回収をやっていた。
中学校の校区内の古新聞をかき集めると、大体十万円ほどになる、祭り気分で部員たちが街中を練り歩くのは楽しい行事だった。
コントラバスの谷口が俺のうちへ来て、母親と調子よく話をしていた。
この図々しいデブの男は愛想を振りまいてひとしきり話し込んでいた。母はそれに乗せられて嬉しそうに話し込んでいる。谷口がいなくなった後、麦茶を飲もうとしたら、一リッターまるまるなくなっている。
「谷口君が頑張っているから全部上げたわ」
母は一体何を考えているのか。奇妙な形でオケラを辞めた俺のことについては、母は何と思っていたのか。
そのままむっつりと黙り込んでいたら、蝉の鳴く夕暮れになっていた。
目的も日課も遊び仲間も存在しない夏休み。部屋でダラダラしていると向かいのマンションでは隣のクラスの女子が夏休みの四十日間、ずっと自室で机にかじりついていた。
朝から晩までずっと同じ姿勢で勉強をする。窓から見えるその姿を俺は横目で眺めていた。
俺も見習って勉強すればよかったけれど、そんなに机の前に座っていたら体の骨格が変形して死んでしまうという、と言う強迫症のような理解できない恐怖で、椅子に座ることが出来なかった。
少しずつ精神的に病み始めていたのである。