退部届を叩きつける
やがて源次郎の演説も莫大甚大に膨張して、誰のために何を言っているのか分からなくなる。源次郎はとうとう爆発した。
「ヨシ君がそこまで優柔不断で、自分の歩むべき道に無責任な態度を取り続けるのなら、僕はヨシ君を人間として認めることはできない! せいぜい家畜として余生は空しく下らない生き方をするがいい!」
この日源次郎は一時間以上、俺に対してスペシャルに選ばれた侮蔑的な言葉を並べ立て、その末に家畜呼ばわりしてきたので、つい俺が我を失って立ち上がり家畜とはどういう意味だよ!と自分のプライドを訴えてしまった。すると源次郎からは唐突にこう来るのである。
「そうか!それなら今すぐ管弦楽部は退部だ!」
すっと一枚の紙きれが源次郎から手渡された。退部届はすでに用意されていたのである。
「吉崎君は管弦楽部を退部します!」
源次郎は、無理やり俺に退部届を書かせて、その紙を俺の手から奪い取ると、五階の音楽教官室まで駆け上がっていき、ゾンビにバシンと退部届を叩きつけた。
たかだか中学二年生の小曽根源次郎だが、突然現れて大声を上げる源次郎のその勢いに、ゾンビも俺と同じように唖然とした。ゾンビは一言も言葉を発せられない。
ドレミも吹けないトロンボーンの一年生を三人も抱えていたのである。唯一楽器経験者の先輩、ヨシ君を失ってオケラは今年、どうやって全国へ行くんだよ?
退部届を受け取った受け取ったゾンビの手が震える。背筋が硬直した状態でゾンビは言葉もなく背を向けた。
ただ突っ立ったまま俺はすべてを見ていた。これで俺はついにオケラと縁が切れた。ここにおいていったい何が起こっているのだろうと、自分の身の上の出来事に理解が出来なかった。半ば呆然と俺は第二音楽室へ立ち寄った。
「今日で俺、オケラを辞めたみたいだから」
「え?本当にやめたの?」
金管楽器の紅一点、トロンボーンの一年生女子の村岡さんが、子ども気分のまま「なんでえ? なんでえ?ワンワン!」と吠えた。
「これは最後だ」と俺は新品のバストロンボーンを手にした。もう二度と吹けなくなる楽器なのか。少し吹き鳴らしたら、小曽根源次郎は激高した。
「そんな未練たらしいことだからダメなんだ! そんなくだらないものを吹いているのなら僕は先に帰るからね!」
トロンボーンを自在に操る俺に源次郎は絶叫した。校舎の階段を下りて行ったら、篠原先輩がオケラの後輩たちと楽器を持って話をしていた。後悔と罪悪感と申し訳なさと。心が複雑にゆがんだ思いで、俺は暗い表情で篠原先輩に頭を下げた。
篠原先輩もこっちを見てどんな気持ちだったのか深い思いのような頭の下げ方で、俺を見ていた。




