お嬢さま、次の種を見つける(高木)
≪ 梅宮みのり視点 ≫
仲が悪いと見せかけていたが意外と気が合うのかもしれない。飛田を引っ張って行く山波の姿を見て、みのりは考えを改めた。
「山波さんと飛田さんって仲が良いんですね」
芽衣子に同意を求めると、彼女は素っ頓狂な声を出してこちらを見た。
「え! いえいえ、そんなわけが……」
眉を寄せてブツブツと独り言を呟く彼女を観察していると、宝物庫が見つかったらしい。山波の声が聞こえてきた。
「おおーい! あったぞー!」
「やったわ。これで次へ進める。芽衣子さんも行きましょう」
「は、はい!」
みのりは、自分の世界に入り込んだ芽衣子を呼び戻し、急いで山波たちの方へ向かった。
「お待たせしました。これが宝物庫?」
みのりが向かった先には、黒い瓦屋根と白い土壁の小ぶりな蔵のような建物が建っていた。両扉の前には硯のような、古びた大きな南京錠がかかっている。
「はい。間違いないと思います。鍵を試してみてくださいますか?」
「あっ、はい」
山波に促されみのりは、先ほど紅が見つけてくれた鍵を南京錠へ差し込む。ずっしりとする南京錠を片手で支えながら鍵を回すと、ガチャと言う音とともに錠が外れた。
「開いた……」
『おお!』
歓声をあげる山波と飛田の声を背に南京錠を扉から外す。碧が割り込む形で入ってきた。
「お嬢様、まずは僕が」
素直に碧へ場所を譲ると、彼はためらうことなく扉を開けた。窓のない建物の中は暗闇の中にいるようで何も見えない。その中を碧は胸元から出したペンライトの光を頼りに、見渡している。しばらくして、部屋の中が明るくなった。電気など通っていないと思っていたのだ。だが、ちゃんと設置されていたらしい。碧が笑みを浮かべて戻ってくる。
「どうやら、何も問題はないようですね」
蔵の中はところ狭しとダンボールやら木箱やらが置かれていた。
(宝物庫じゃなくて物置みたい)
いくつもある棚の中には、びっしりと物が置かれている。
「この中のどこかに黄金梅に関わる何かがあるのね」
これを1つずつ確認しなくてはいけないのだろうか。あまりの量の多さに気が遠くなりそうだった。
「なにやらごちゃごちゃしておりますなあ……」
後ろからついてきた山波が興味深げに辺りを見回す。
「そうですね。あら? どこからかいい香りが……」
ため息をつくように山波へ同意すると、埃臭さとは別にどこからか爽やかな花の香りがした。
「か、香りですかい?」
「えぇ、お香とは違う……これは……梅の香り?」
鼻を鳴らすように匂いを嗅いでいる山波に応えると、飛田が深呼吸するように顔をあげた。
「本当だ……。なんだか甘い香りがしてくる……」
「と、飛田君? あちこち行ったら危ないわよ?」
芽衣子の停止を聞かずに飛田は、匂いの元を探すかのようにふらふらと奥へ歩き出した。その後ろを、殿を務めていたはずの紅がついて行く。
「紅、なぜ飛田さんの後ろをついていくんだい?」
しかし碧の声が紅には聞こえていないようだ。夢遊病のように歩く紅を引き止めようとする。だが、あと一歩のところですり抜けられていた。
「戻ってきなさい、紅」
しかし、紅は立ち止まることなくさらに奥へと進む。みのりが紅たちのあとを追うべきか悩んでいると、飛田が立ち止まったのがわかった。
「この奥から梅の香りがします。かなり熟してて甘い感じの」
飛田が棚の中にすっぽりと収まっている黒い観音開きのついた箱に顔を近づけうっとりしている。その隣には、飛田にキスをしそうなほど顔を近づけた紅が目を細めて匂いを嗅いでいた。
「ギャー、べ、紅! なんてことを、離れなさい。そこからただちに離れなさーい!」
1人で暴れている碧に辟易していると、細めていた紅の瞳が開く。
「お嬢さま、鹿さんの言う通り」
「もしかして……」
紅たちの奇っ怪な行動の理由を思いつき、急いで彼女らの元へ駆け寄る。飛田と紅に場所を譲られ、取っ手を引っ張った。紫の袱紗が敷かれた黒い台座が目に入る。そしてその上には2つの小さな桐箱が横に並んで置かれていた。
「種だわ」
みのりは、ためらうことなく鎮座してる片方の桐箱を掴んだ。
「え、みのり様! 危のうございます! って、え? 種?」
止めようとする山波に構うことなく蓋を取る。少し黄ばんだ綿に守られているかのように、赤茶色いシワシワの梅の種が入っていた。
「これよ。これ! 見てください山波さん。これが、私が探していたものです!」
「へ? は、はい……」
箱の中身を見えるように山波へ近づけると、彼はおそるおそると言ったふうに箱を覗き込んだ。
「こ、これは……」
「梅の種ですね」
目を丸くした山波と飛田も一緒に飛田も箱の中を見る。飛田の言葉に興味が出たのだろう。芽衣子も近づいてきた。
「どれどれ? あ、これ! 私が植えたやつに似てる」
指を差す芽衣子に、みのりは笑って応えた。
「そうです。これを植えれば黄金梅へ一歩前進です」
「そうですか! そうとなれば早く植えましょう!」
意気揚々と出て行こうとする山波たちの後へ続く。しかし紅に引き止められてしまった。
「お嬢さま、待って」
「えっ?」
みのりの足元にしゃがみ込んだ紅が、太陽で褪せた薄茶色の和紙のようなものを拾う。
「何かしらこれ?」
紅から渡された紙を開くと、中に文字が書かれていた。
「ウマ、レシ、カギノモトハ……フ、モウノダ、イ、チトナ、リムツ、キタチ、シ、トキ、……マデネ、ムリ、ニツカン?」
「お嬢様、日本語を話してください」
「なっ、ちゃんと日本語だったじゃない」
平仮名を覚えたばかりの子供のようにつっかえながら読んだのがいけなかったらしい。呆れたような碧の声音に、カーッと血がのぼる。内心、自分でもそう思っていた。みのりは悔し紛れに碧を睨みつける。いつのまにか戻ってきていた山波が紙を覗き込んだ。
「みのり様、これは『むつきまで』だと思いますが」
「むつき? って、1月の睦月?」
「睦月に何があるんでしょう?」
山波が解読した単語の真意がわからず碧と同時に首をかしげる。しかし、その解釈は違っていたみたいだ。山波が困ったような顔で襟足へ手をやった。
「……いや……この場合は六カ月のことではないでしょうか……?」
「あー、なるほど」
「はい……」
山波の解釈を理解したらしい碧が自己解決させる。こちらにはさっぱりわからないのに勝手に話を進めようとする2人に、みのりはイライラする。
「何が、なるほどなのよ」
「ですからね、6カ月と期限が書かれているということは、その期限内で何かをする。あるいは何もできないかのどちらかだということですよ」
まだわからないのですか、とでも言うような顔をする碧を不貞腐れた気分になりながら見つめた。
「どちらにせよ。他の文章も読み解かないことにはいけませんね」
「それは普通に続けて読めば大丈夫だと思います」
簡単だ、といわんばかりの山波の発言にみのりは目を丸くした。
(この人、何者なの?)
古文書の文字を読み解くだけでも大変なはずだ。それとも古書を取り扱っているからこういった文章に慣れているのだろうか。スラスラと話す山波の声を、みのりは内心で戸惑いながらも黙って聞いていた。
「『生まれし鍵の元とは不毛の大地とない、六月経ちしときまで眠りにつかん』」
「なるほど、『六月経ちしときまで眠りにつかん』ということはどうやら、6カ月は何もできないってことですね」
「えっ、何もできないって?」
碧の言葉に慌てる。嫌な予感を拭いたくて彼に詰め寄ると、山波が代わりに応えた。
「たぶん、墨良神社で何も出なかったのはその成果と……」
「そしたら、この種は? 植えられないってこと?」
嫌な予感が的中してしまった。みのりは膝をついてしまいたくなるのを、必死でこらえる。
「は、はあ。残念ながら……」
あまりにも悲壮な顔をしていたのかもしれない。山波が助けを求めるように碧を見ていた。




