頑固おやじ、推理する(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
善郎は芽衣子とともに新たなるヒントを求め辺りを探した。
「ないなあ。あると思ったんだが……」
「お父さんはいつもそればっかりだから」
呆れ顔の芽衣子にむっとしていると、みのりの明るい声が聞こえてきた。
「えっ、何か見つかったの?」
枯れた池へ急いで向かうみのりを目で追う。
「何ここ、ジャリばっかりね。お水枯れちゃったのかしら?」
何もない池端で不快そうに告げるみのりへ、碧が同意した。
「どうやら、そのようですね」
「それで紅、ここがどうしたの?」
「ここ」
紅を見やるみのりをよそに、紅が短く宣言する。その場へしゃがみ込み、石を掘り返し始めた。
「これは!」
みのりが紅の近くへ寄り、碧が満足げに頷く。
「さすが、僕の紅だ。飛田さんの鼻にも負けない」
「ぼ、僕の鼻だって結構使えますよ!」
手放しで喜ぶ碧の傍らで飛田が反論した。みのりが地面から出てきた物を手にとり、紅へ微笑む。
「紅えらいわ。よくやったわね」
紅の頭を撫でているみのりを尻目に、芽衣子がそっと飛田の側に立った。
「飛田君ってば。そんなこと私がわかってるんだからいいのよ」
小さくシャツの袖を掴み頬を染める芽衣子を見て、飛田が顔を赤らめる。すっかり2人の世界に入り込んでしまったらしい。
「ええい! 離れんかい!」
善郎は芽衣子たちの間に無理やり割って入る。すると、碧がごく真面目な表情で芽衣子を見てきた。
「何を言うんです、僕の紅が一番に決まってます」
また始まった。これ以上ややこしい事態に持っていくつもりだろうか。密かに溜め息を吐いていると、タイミングよくみのりが呼びかけてきた。
「あっ、山波さんちょうどいいところに。これを見てください」
「なんでしょう?」
これ幸いと2人を押し退けみのりのところへ行くと、みのりが手の中のものを見せてくる。それは一個の錆びた鍵であり、端には深緑色のリボンが巻かれていた。
「こいつは……。どこかの鍵のようですな」
顎に手をあてつつ唸ると、みのりも肯定してくる。
「そうなんです。でも、それだけじゃないんですよ。ここを見てください。ここを」
みのりが見せてくる深緑色のリボンへ、怪訝に思いながらも目を落とした。
「このリボンに何か? お、何か書いてあるな……」
土でところどころ汚れてはいるが、確かにそれは古文書に記されている文字と同じものだった。
「たか……おおき……ろに……あらたな……ぎが……らん?」
読めるところだけを類推して読むと、みのりが苦笑する。
「ちょっと土で汚れちゃって文字が読みにくいですね」
「はあ。でも、多分これはメッセージだと思います。確証はありませんが……」
もう少ししっかり読めればもっとみのりの役に立てるのだが、今の自分にはこれが精一杯だ。軽く臍を噛み不甲斐なさを痛感していると、みのりがリボンの文字を指差してきた。
「最初の部分は『宝多き』だと思うんです」
みのりの言葉に頷いていると、横合いから碧が顔を出してきた。
「もしかしたら、このリボンに書かれているヒントは鍵の本体がある場所かもしれませんね」
意見を述べてくる碧に、善郎は頷いた。
「なるほど……。そうだとすると、次はきっとこうです。『ところにあらたな……ぎが……らん』」
「『宝多きところ』?」
ずっと静かに佇んでいた紅が首をかしげてくる。後方で聞いていた飛田が声を上げた。
「宝が多いところっていうと、やっぱり宝箱がたくさんあるイメージですよね」
当たり前すぎることを確認してくる飛田に腹が立つ。一言噛みついてやろうと振り返ると、先に芽衣子が諌めた。
「飛田君、ゲームじゃないんだから……」
「え? で、でも、やっぱり宝がいっぱいあるって言ったらさ……」
おどおどとしながらも話を続ける飛田の語尾に続き、みのりが頬に手をあてる。
「お寺で宝って言ったら、やっぱりご本尊かしら?」
「ですが、『宝多き』ですからね。ご本尊は多くはないと思いますよ」
確かに本尊が何十体もあるところはあまり想像がつかない。善郎は腕を組み考え込んだ。
「社寺仏閣だと、大抵蔵があるはずですが……」
何気なく口を開くと、突然みのりが叫びだした。
「それだ!」
「は、はい? ど、どれです?」
急にどうしたというのだろう。目を瞬かせて尋ねると、みのりが苛ついたように綺麗な黒髪に手をやった。
「宝物庫ですよ。宝物庫。もう、なんですぐに気づかなかったのかしら」
小さく口に手をあてるみのりの発言に、善郎は首肯した。
「なるほど。つまり、そこにいけば何かがある、ということなんですな?」
「ええ、きっとこの鍵は宝物庫の鍵なんですよ。えっと、宝物庫ってどこなのかしら?」
あたりを見回すみのりへ向かい、善郎は大きく胸を叩く。
「俺たちで探します! おい、角! お前、ちょっとこっちに来い!」
「あ、は、はい!」
善郎は慌てて近づいてくる飛田を伴い、境内の横側を探し始めた。




