お嬢さま、製本屋の所属を思い出す(高木)
≪ 梅宮みのり視点 ≫
「私が持っているものと同じだわ! 山波さんはこれをどこで?」
本来古文書とは門外不出のものだ。代々当主となる者が所有している。もしくは、梅宮が認めた一部の者たちが古文書を写した本を持っていると聞いていた。それなのになぜ目の前にいる彼がそれを持っているのだろうか。
(もしかしてこの人、素知らぬ振りをして私を監視する本家の回し者なんじゃ……)
みのりは自分の考えに血の気が引く思いがした。碧たちと引き離されてしまった今、自分一人で立ち向かわなければならない。どう逃げようか、頭を必死に働かせていると、意外な言葉が聞こえてきた。
「それは『黄金梅の実を守る会』の会長からお預かりしたものなんですよ。ですから所有は『黄金梅の実を守る会』にあるものかと……」
みのりは言葉の意味を理解しようと、数回まばたきを繰り返した。
「……そういえば山波さんは『黄金梅の実を守る会』の方なんでしたね。このネバネバになった梅の種のその会長さんから預かったんでしたね」
すっかり忘れていた。一番最初にそんなことを喚いていた気がする。
彼の言う『黄金梅の実を守る会』とは、黄金梅を守る梅宮や梅宮の分家に当たる梅八家たちを助けたいと思った一般の人間たちが集まって結成されたものだ。それらの団体は山波が所属しているところ意外にもいくつかある。『黄金梅の実を守る会』はその中でも古参の部類になるはずだ。その会長ならば古文書を持っているのも頷ける。長年の貢献から梅宮が古文書を与えている可能性は充分に考えられた。
(なんだ、私の早とちりだったのね)
例え本家のために力を注いでいる団体だとしても、有志で集まっている彼らが自分たちの内情について知るはずもない。みのりが心底安堵していると、山波が髪の毛の薄い頭をなでながら頭を下げた。
「はい……。ふがいない自警団で、本当に申し訳ございません」
「いえ、そんなことはありませんよ。山波さんのおかげで次期当主の試練も続けられそうですし」
自分の考えが杞憂だとわかり、自然と笑みが広がる。
(あとは、どうやってこの人を会長さんに会わせないようにするかってことよね)
団体の声が本家まで届くことはないに等しいが、事が事だ。どこかで本家と繋がってしまう恐れがある。そうなる前に、山波が自分たちの嘘に気づく前にこちら側の人間してしまえばいい。そうすれば自分たちは味方ができ、こちらの行動も本家に知られることはないだろう。みのりが物思いに耽っていると、山波が会長から預かったと言う古文書を差し出してきた。
「もったいないお言葉でございます。その古文書はみのり様がお持ちください。みのり様ならば会長も文句は言わないでしょう」
「いえ、これは会長さんにお返しください。私には、これがありますから」
左側に避けて置いた自分の古文書を引き寄せる。
「そうですか……。それでは」
山波は、古文書を風呂敷に包み直し、脇へ置きながら言葉を続ける。
「それにしても、『青き梅もり』ってのは……あ!」
「なんです?」
「この梅は年代物の特別な梅の木のことだとしたらどうでしょう? 墨良神社に一つ由緒正しい梅の木があるんですよ。周囲には『森』もありますしね」
みのりは、山波の仮説を頭の中で組み立てる。一番初めに自分が墨良を選んだのもそれが理由だ。だからこの実を実らせることができたのだろう。あの場所だったら、2つめの種が出るかもしれない。
「確かに……そう言われてみればそうかもしれませんね」
「そうとなれば、さっそく参りましょう! 急いだ方がいい」
嬉々とした表情で立ちあがった山波へ、待ったをかける。
「あっ、でも少し待ってください。今、側近たちと連絡を取ってみますから」
みのりは携帯を取りだし、紅へ電話をかける。
「あ、先ほどの方たちですか。なるほどなるほど」
山波はあげかけた腰を下ろし、彼の妻が持ってきたお茶を啜った。




