頑固おやじ、お嬢さまに出会う(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
墨良神社へ向かう道を歩いていると、ふいに背後から若い女性の声がした。道を訊きに来たのかと振り返ると、長い黒髪の少女が佇んでいる。傍らには、茶色の短髪に白い帽子を被った少女と背の高い黒い背広姿の男がいる。
(どこかで見たような……はて……?)
内心で首をかしげたところで、昨日墨良神社ですれ違った一行であることに気がついた。
(あの信心深い子たちか)
昨日とは違い制服ではないが、どこか今時の若い子たちとは違う落ちつきがある。今日もまたお宮参りだろうか。
(つくづく感心な子たちだ)
胸の内で深く頷きながら問い返した。
「おう。なんか用かい?」
満面の笑みで答えたのに、なぜか目の前の少女が胡散くさそうに見つめてくる。上から下までじろじろと見つめた後、ひとりごちてきた。
「本当にこの人から香っているのかしら?」
よくわからないが、なんだかひどく不愉快だ。
(聞こえてるぞ、おい……)
むっとして眉根を寄せていると、側に控えていた白い帽子の少女が淡々とした口調で答える。
「お嬢さま、この人」
黒髪の少女が白い帽子の少女に頷き、再度目を向けてきた。善郎はその瞳の真摯さに息を呑む。
「なんだい? 何かついてるのかい?」
内心でうろたえつつも尋ね返すと、黒髪の少女が突然頭を下げてきた。
「ぶしつけで申し訳ありませんが、あなた黄金梅に関わる何かをお持ちではありませんか?」
顔を上げた黒髪の少女がひたと見据えてくる。
(な、なんで知ってるんだ?)
背中に嫌な汗が伝った。
(まずいぞ、これはまずい)
善郎は動揺を隠すために視線を逸らした。
「黄金梅? そ、それはお山に行けばあるだろうよ。それがどうかしたかい?」
どうにか話を明後日へ向けなければ。善郎は両腕を組み、しきりに頷いてみせる。
「なんせ黄金梅はみんなの宝だからなあ」
「いえ、そういうことではなくて、あなた自身が」
黒髪の少女がこちらの思惑も虚しく、苛立ったように詰め寄ってきた。勢いに押されて身体を仰け反らせていると、横合いから長い手が伸び黒髪の少女を止めた。
「お嬢様、それではいきなりすぎてビックリなさってしまいますよ」
にっこりと柔和な微笑みを浮かべてきたのは、黒いスーツに身を包んだ青年である。笑顔の奥の瞳が酷く冷たく感じるのは気のせいだろうか。善郎は再度視線を逸らし、早口で言い訳を試みた。
「俺が? いやいや、そんな罰あたりなこたーしてねえよ。うん」
目いっぱい顔をそむけていると、青年が前面に出てきた。
「申し遅れました。わたくしみのりお嬢様の側近を勤めさせていただいております。梅田碧と申します」
自己紹介をしながら名刺をずいっと差し出してくる。
「はあ。うめだ……あお……さん?」
善郎は勢いで受けとった名刺に目を落とし、固まった。
「う、梅田!」
震えだした手を必死に隠しながら、なんとか笑みを作る。
「う、梅八家の方がいったいなんの用で?」
精一杯に口の端を上げて青年を見上げると、青年が慇懃な態度で、実は、と語り出した。
「ただ今、お嬢様は次期当主としての試練を秘密裏に行っている最中でして」
「へ?」
青年の言葉に善郎は目を剥く。信じられない気持ちで黒髪の少女を見やると、少女が優雅にお辞儀をしてきた。
「はじめまして」
「あ……」
善郎は全身に油汗が流れ落ちていくのを感じながら、まじまじと黒髪の少女、梅宮みのりを見つめる。
そういえば、新年の行事の際、遠くから見た覚えがあった。あの時は遠くからでよく見えはしなかったが、現当主である美都子様とそこはかとなく面立ちが似ている気がする。
(ほ、本物だ……!)
自覚した途端、足ががたがたと震え出した。
(もう、だめだ!)
神をも等しい人間に対し、嘘をついてしまうとは。もう命を差し出す他償う方法がない。
(だが……)
だがせめて、和子と芽衣子だけはお許し願おう。すべての咎は自分にあるのだから。善郎は覚悟を決め、前方の3人を見据える。
「も、申し訳ございませんでしたー!」
善郎は絶叫とともに、みのりの足元へひれ伏した。




