哀れ、百合姫の敗北
薙刀を女が使う武器と馬鹿にしてはいけない。
左右、前後への一足による半身の変化により最小限の
動きで最大の効果を上げる。
薙刀の柄の長い利点を活かし、テコの応用、操作、遠心力を
利用できる優れものであった。
現代社会でも、天道流、楊心流、戸田派武甲流は有名である。
百合姫に対峙した柔磨は、この姫がかなりの使い手であることを見破り、
長引けばヤラレルと気を引き締めた。
『なるほど、これほどの手練れ。寝首をかかれる危険性、大なり。
城主が愛人にするのをあきらめるはずだ。』
「えっ、まことか。」
一方、百合姫は実際に父の首を獲った男を初めて見て、内心戸惑っていた。
鬼神の如く強い男と聞いて、熊のようないかつい剛毛の鬼のような大男を
想像していたのだが、鋼のように極限に引き締まった細身の筋肉の体に水も
したたる色男。
それだけではない。その瞳は、慈愛に満ち溢れ、澄み切っている。
そのギャップにクラクラとなり、この男なら斬られてもよいなどと
一瞬思ってしまった。
『いかん。この色男を倒し、憎っくき牙王に一太刀浴びせん。』
百合姫は気合を入れるのだが、柔磨を外見だけで甘く見ていたことに
まだ気づかなかったのである。
「先手必勝。」
腰の刀を抜いていない柔磨に対して、大上段から打ち込み、
石突きを跳ね上げ顎を狙い、体制が崩れた脛を斬る。
百合姫お得意の連続攻撃、未だかって受けきった者はいない。
あまりの攻撃の凄まじさに見物客は悲鳴を上げ、牙王は
柔磨が脛を斬られ地にのたうちまわる姿を想像して喜んだ。
百合姫自身、「もらった。」と勝利を確信したが、
柔磨は刀を抜くことなく、体捌きだけでかわした。
「何ですと。」
陽炎の如くかわし、スウッと懐に飛び込んでくる柔磨に
百合姫は為す術がなかった。
スガン
心臓に衝撃を覚えた瞬間、百合姫は闇に堕ちた。
後の世に柳生心眼流に引き継がれる鎧透しの重ね当てを
心臓にくらい、息の根が止まったのである。
眠るかのように地面に倒れた百合姫の姿に、見物客は全員
顔色を失った。
見物客自身、柔磨の技を初めて見たせいもある。
「そこまでやらなくても、よいのではないか。」
「殺さなくてもよかったのに、ひどい。」
「かわいそうな百合姫・・・・・」
「敵ながら、天晴れである。それに比べ・・・。」
見物客からザワザワと柔磨を非難する声が広がった。
「ワシの絵図通りになったわい。」
大魔王の真の狙いは、これであった。
それだけではなかった。
「柔磨は 百合姫に命を助ける代わりに愛人になれと申し出たが、
誇り高い百合姫に断らたので腹を立て、命を奪った。」
牙王、いや大魔王の命を受けた者たちが、まことしたたかに
国全体に噂を広めるのであった。




