魔獣対魔物
第三試合は準決勝である。
柔磨の相手は、二丁鎌の使い手・鎌野であった。
ここまで上がってきただけあって不気味な迫力がある。
魔物の異名を持つ男だけに、流石の魔獣もここまでかと見物客の大半は思った。
賭け率は半々となっていたのである。
「始め。」
すっかり慣れたというより、凄惨な試合に感覚が麻痺してきた田島が号令をかける。
見物客の予想を裏切り、両者は動かなかった。
間合いは魔合い。容易に、動けなかったのである。
柔磨にしてみれば、鎌は刀より怖い魔物。
鎌野が人間大のカマキリに見える。
二丁の鎌を手の一部と使いこなす凄腕と見た。
うかつに、攻めることができない。
かと言って、攻撃をかわすことは至難の業である。
そこで柔磨は考えることを止めた。
後の世で、かのブルース・りーの「考えるな。感じろ。」の境地であろう。
強敵を前に侍になっていたことが可笑しかった。
今の自分は、人間ではなく魔獣のはず。
「死ねばよかろう。」
柔磨は全身の力を抜き、スルスルと間合いを詰めた。
「何だ、何だ。気が読めぬ。」
逆に、鎌野は面食らった。
今までの敵は、何らかの気持ちにとらわれていた。
だが、この魔獣は全然読めない。
まさに、無念無想、尋常ではない敵である。
鎌野の制空権に柔磨が侵入した刹那、二丁鎌が生き物の如く柔磨を襲う。
スパッ バサッ ズバン
二丁鎌が柔磨の体を切り裂くも、着物だけであった。
「こやつ、妖怪か。」
怒涛の攻撃が全然効かない柔磨が妖怪サトリに思え、背中を冷や汗が流れ落ちる。
いつの間にか、手にも汗をかいていて、右手の鎌が滑って宙を飛び、柔磨の顔面を
真横に切り裂いたと見えた。
流石の柔磨も真剣白刃取りもできず、地面に倒れた。
ウオオオツ キャア~
見物客は、どよめく。
「やったか。」
鎌野が地面に倒れた柔磨に止めを刺さんと近付いた瞬間、
逆立ちをするかのように跳び上がった柔磨の蹴りを顎にくらい、
意識が飛びそうになった。
何と恐ろしいことか、柔磨は口で鎌の刃の部分を止めていたのであった。
柔磨とて無事ではない。口が少し裂けて、血を流している。
妖怪、口裂け男に見える。
「真剣白歯取り・・・・」
そうつぶやく鎌野の左腕を取った柔磨は、無言のまま一本背負い投げで地面に
脳天から叩きつけた。
ゴギッ
鎌田は、黄泉の国へと旅立った。
「勝負あり。」
「やった~。」「惜しい。」「お見事。」「残念。」
田島が試合終了を告げると、見物客から色々な声が上がった。
人間の感情は摩訶不思議なものである。
まだ完全には柔磨の人気は消えていなかったのである。
「ふふふ。決勝が楽しみじゃ。」
大魔王だけは、不気味に笑うのであった。