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戦国浪漫  「愛乱武優」  作者: 三ツ星真言
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13/20

謎の黒鬼

 いよいよ武芸大会の決勝戦当日となった。

 試合場は超満員となり、団子売りやお茶売りまで出る始末。

 瓦版によると賭け率は9対1で、柔磨の優勝はもはや時間の問題と

されていた。

 そんな中、賭けの胴元を影で操る牙王だけは、ホクホクしていた。

 試合場に柔磨が姿を現すと、見物客は沸き上がる。

 現金なものであった。


 対戦相手が姿を現した途端、見物客からどよめきと不満の声が上がった。 

 初めて見る顔で、身の丈は6尺を超えるムキムキの大男。

 髪の毛も肌の色も漆黒で、明らかに南蛮人であった。


 牙王がスクッと立ち上がる。

「皆の者、静まれ。

 先日、この男が売り込みに来たので、その場で家来を一度に5人

当ててみたところ、蹴散らしおった。

 真剣を持っているにも関わらずにじゃ。

 その後、本来の決勝の相手とやらせてみたら、瞬殺しおった。

 柔磨の決勝の相手としてふさわしいと判断したのじゃが、何か問題あるか。

 意見がある者は名乗りを上げえ。」

「・・・・・・」

 大魔王である牙王に意見できる者はこの世に存在しない。

 誰しも、命が惜しい。死にたくない。一族郎党をあの世に送りたくない。

 見物客は、恐怖に脅え、静まり返る。

『何でもよいではないか。』

 そんな中、柔磨だけは冷め切っていた。視線も、氷のように冷たい。


「おらぬようじゃのう。では、始めろ。」

 満足そうに試合会場を眺めた牙王は、田島に試合開始を促す。

「始め。」

 棍棒をビュンビュン振り回し威嚇する大男は、さながら黒鬼であった。

 只の馬鹿力の大男ではないのが、よくわかる。

「魔獣の決勝の相手としてふさわしい。これで、これで死ねるか。」

 柔磨のつぶやきを聞いたものは、誰もいない。

 聞いたとしても、その意味を知る者はいまい。

 柔磨は自分から突っ込んだ。

 黒鬼が迎え撃つが、如何せん魔獣の速度が上回る。

「何い。」

 水月に渾身の力を込めた肘打ちが、ものの見事に滑るではないか。

 どうやら、黒鬼は体に油を塗っているらしい。

ビュン

 黒鬼の反撃を間一発でかわしながら、棍棒を握る右手の親指を蹴り込む。

ゴギッ

 確かに骨が折れた音がして、黒鬼は棍棒を地面に落とした。

 一瞬苦痛が顔に出たがうめき声も上げないし、全然慌てていない。

 見物客は、不気味に思った。

 それもそのはず。

 実はこの黒鬼は、クシュティ、インド・レスリングの使い手であった。


 黒鬼は両手を大きく広げ、柔磨に襲い掛かる。

 大人しく捕まるような柔磨ではない。

 攻撃をかいくぐり、拳・肘、膝、足を使った当身を入れるが、油で滑り、

決定打を与えることができない。

 体格の差をものともしない投げ技は習得しているが、油で滑るから

使えなかった。

 とうとう、柔磨は試合場の隅に追い詰められ、捕まってしまった。

「何たる怪力。息ができない。」

 両腕の渾身の力を込めた胴締めに背骨がミシミシと音を立てる。

 眼突きを試みるが、慣れたもので、首を振ってかわされる。


『これで、母上と百合の元へ行ける・・・・』

 勝負をあきらめかけた時、黒鬼が思わぬ言葉を吐いた。

「百合姫様の仇。思い知るがよい。」

 その言葉に、柔磨は激怒した。

 闘争心に火がついた。

 黒鬼の両耳の穴に人差し指をかけて引き寄せると同時に、

激しい頭突きを鼻に人中に顎に何度も叩きつける。

 流石の黒鬼も意識を失いかけ、地面に仰向きに倒れた。

 すかさず、離れた柔磨は黒鬼だけに聞こえるように声を発した。

「拙者は、殺していない。」

 ズガン

 柔磨お得意の重ね当て、浸透力に優れる当身が地面に固定された

黒鬼の心臓に炸裂した。

 黒鬼の意識はそこで途絶えた。


「勝負あり。」

 田島が試合終了を告げると、見物客は割れんばかりの拍手を

柔磨に送った。

 賭けで儲けたせいもあるが、それだけではない。

 地元の者として、余所者に優勝を持っていかれるのがたまらなく

嫌だったし、牙王の悔しがる顔を見ることができたからである。


「静まれ~。」

 牙王は目論見が外れ、内心怒り狂っているが、藩主としての

貫禄と威厳を民衆に示さなければならない。

「柔磨、良き試合であった。褒めて遣わす。

 褒美に、この剣を授けよう。近う寄れ。」

「有り難き幸せ。」

 柔磨が牙王の元へ近づいた時、事件が起こったのである。






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