勇者の横道
「なにしてるんです、勇者様。はやくしてください」
「あのなあ、こっちは病み上がりなんだぞ」
アリスに急かされ勇者は言い訳するが傷はすべて治っていた。
「ったく馬鹿なんだよ。一人でさあ。もし死んでたら囮役を押し付けた俺のせいじゃねえか」
サシャがへそを曲げている。
「だいたいなんで逃げねえんだよ! そういう作戦だろ」
「合図を送らないから仕方ないだろ」
「信号なら三発もあげたよ」
「知らねえなあ、知らねえよ」
勇者は空惚ける。
「馬鹿だよ馬鹿。信じられねえ大馬鹿だよ!」
サシャは怒鳴りつけるとずんずんと歩いていってしまった。
そんな彼女の背中を眺めてアリスはくすくすと笑う。
「合図を送っても勇者様が戻ってこないからサシャさん、自分のせいだって言って凄く泣いたんですよ」
「そうだったのか」
「なのにセシリーさんばかり。そりゃあ二日の間ついてたのは彼女ですけど」
「俺も気がまわらないな」
勇者はサシャを追いかけて走りだした、と思えば振り返り
「アリスもありがとな」
「べつに私はなにもしてませんから」
「それでも、な。心配してくれたんだろ」
「心配なんて。あなたが死ぬわけないじゃないですか」
「そりゃあそうだ。魔王を倒してお前を抱かなきゃ死ぬに死ねない」
「もう。結局それですか。見直したのに」
アリスはため息をついて呆れた『フリ』をした。




