丸くおさめろ
サンドラの言葉を聞いたナジャは、小さく「ふむ」と口にすると、一瞬、考える素振りを見せた。
「それはいいことだな。サンドラ嬢が近衛騎士団に入れば、サマラの警護を任せることが出来るではないか! そうは思わない? サマラ」
ナジャがサマラの手を握った。
「えっ?」
「なっ」
驚くサマラと、パァァっと顔を高揚させるサンドラ。ナジャの言っていることの意味を、瞬時に理解したのだ。
「……そうか! サマラがナジャ様と結婚するということは、王宮に入るという事。そして私が近衛になれば、ずっとサマラと一緒にいられるんだ!」
近衛にもなれて、サマラの傍にもいられる。一石二鳥ということになる。あくまでもそれは、サンドラにとって、ではあるが。
「そうだろう? だから……ねぇ?」
ナジャが促す。
近衛騎士断に入る夢を実現させ、ずっとサマラの傍にいるためには、ナジャとサマラの結婚が必須。それには、サンドラが先に婚約をしなければいけないという難題……。
カザディスを見る。
サマラを見る。
最後にナジャを見ると、小さく頷いた。
「……婚約、します」
「おおお!」
「お姉様、おめでとうございます!」
カザディスがホッと肩を撫で下ろし、サマラが手を叩く。ナジャが満足げに大きく頷くと、
「では私が証人になろう」
と満足気に頷いた。
しかし、サンドラにはどうしても気になることがあった。サマラの元に駆け寄ると小さな声で訊ねる。
「でもサマラ、本当にいいの? サマラはカザディスのこと……」
「あら、お姉様。こう考えてくださらない? 私はカザディス様もお姉様も、両方好きですの。だったら大好きなお二人が一緒になってくれたら、それが一番よいのではないかしら?」
「えええ?」
無茶苦茶なことを言ってきた。
「しかも私がナジャ様と結婚することになれば、近衛になったお姉様とずっと一緒にいられるのでしょう? そしてお姉様が近衛になることを、きっとカザディス様ならば赦してくださる。……違いますか?」
「いや、それは……」
それはそうかもしれない。他の誰かでは無理かもしれないが、カザディスなら、サンドラが近衛を目指すことも理解してくれるような気がしていた。しかし、この短時間でそこまですべてがうまくいったと?
「さすがにお父様も、この条件ならお姉様の近衛入隊を反対できないと思うのです。なにしろ皇子直々のご使命ですものね」
ふふ、と笑みをこぼす。
「でも、サマラは……」
本当はどう思っているのだろう?
「あら、お姉様。私がナジャ様に好意を抱いたのは本当ですのよ? さっき、ダンスをしながら色々なお話をさせていただきましたの。私の悩みを聞いてくださり、助言もいただきましたわ」
「助言?」
「ええ。自分と結婚すればいいのではないか、と。今日の今日で婚約の話が出るとは思いませんでしたけど、私に異論はございませんもの」
全てが上手くいった、とばかり、サマラがはしゃぐ。
「でも、王宮に入るってことは……それなりに大変なんじゃ?」
お妃教育に、他の令嬢から嫌がらせ。身分違いだ、と王宮の人間に陰口を叩かれるかもしれない。そんな思いをサマラにさせることになるのは、許せない。
「あら、お姉様は私が皇后になるのがお嫌ですか?」
「へっ?」
サマラが……皇后。
脳内で想像しただけで悶絶しそうになるほど美しい! 聡明で優しく、国民皆を幸せに出来る存在であること間違いなしの義妹!
「もちろん、お妃候補は他にもいらっしゃるでしょうから、私がなるとは限りませんが」
瞳を伏せるサマラを見たサンドラが、いきり立つ。
「サマラ以外考えられない!!」
そう、高々と宣言すると、くるりとナジャに向き合った。
「ですよねっ? まさか婚約だけしておきながら途中で気が変わるなどということはありませんよねっ?」
射殺しそうな目線を投げつけ、鼻息荒く訊ねると、
「も、もちろんだ! 俺はサマラを一生愛すると誓う!」
半ば脅された形のナジャが、誓いを立てる。
「ならば決まりです! サマラ、ナジャ様、護衛はこの私にお任せください!」
満面の笑みで、言い放つ。
「それは来年の大会でダリアの称号を手に入れてからだね」
くすくすとナジャが笑った。
「ええ、もちろんそのつもりですっ。カザディスのことなど、コテンパンに伸してみせます!」
たった今、婚約したばかりの相手に向けて放つ言葉とは思えないことを口走る。言われたカザディスは、頭を掻き、
「そう簡単に獲らせるつもりはないがね」
と澄ましてみせた。
「あ~ら、先日の大会だって、あそこで待ったがかからなければ私の勝ちだった!」
「それはどうだろう? 俺の方が本当は優勢だったぞ?」
「はぁ? 冗談でしょ! そんなこと言うなら、改めて勝負しても構わないけどっ?」
「望むところだ、じゃじゃ馬めっ」
睨み合う二人を横目に、サマラが笑った。
「まぁ、お姉さまったらすっかり仲良くなって」
「へっ? ちがっ、そうじゃない!」
茶化され、恥ずかしくなる。
「私、お二人がそうしてじゃれ合う姿を見たかったんですの! どうぞ、存分に仲良くしてくださいな」
「これは、仲良くしているわけではっ」
カザディスが狼狽えるサンドラに手を伸ばし、肩を抱く。
「サマラ嬢、姉君のことは俺に任せてくれ。近いうち、絶対に落としてみせるからな!」
「はぁぁ? 誰が誰を落とすですって? 冗談じゃない! 私は絶対、あなたなんかには負けないから! 命乞いなら、お早めにどうぞっ!」
少しばかり頬を染め声を荒げるサンドラの恋は、まだ始まってもいない……のかもしれない。
おしまい




