第四十話 例外とそれでしょ
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嵐のように現れた琴乃は僕とラタスの気持ちをを荒らすだけ荒らして去ってしまった。
僕たちは予想外の事件の後、予定通り、帰りの通りを歩いていた。 会話の話題は琴乃で持切り。
「キヤベさん、本当に明日何もないんですか? 」
「ほんとに知らないんだ。 何があるのかなんて……」
「琴乃さん、泣かれてましたよ。 正直、『ライバル』としては気になって仕方ないんですけれど……」
ライバルという立ち位置がうれしいのか、少し誇張して言うラタス。
「こんなこと、初めてなんだ。 小学校のころから琴乃の事は知っているけれど、あまり感情を表に出すタイプではないんだ」
「あれ? でもキヤベさんが他の女の子と歩いていたり、話したりするとあの成れの果て棒で叩いてきますよね。 あれこそ感情の発露の最たるものじゃないですか」
「それは例外としてだよ。 だから、あんなに取り乱すなんてなかなかないんだ」
「キヤベさん。 キヤベさんは琴乃さんのライバルではないですよね? 」
「……まあ、そうだけれど」
唐突になんの話だろうか。 そんなにライバルという言葉が気に入ったのかな。
「確かに、昔から琴乃さんのことを知っているキヤベさんの方が琴乃さんのことを良く知っていると思います。 会って間もないボクは本当に何も知りません」
昨日、何故ボクの家に来たのか、とかです。 とラタス。 勝手にラタスの家にされていることに、おい、と言いたくなったけれど、まあいい。
「でも、ボクは琴乃さんの『ライバル』です。 その視点からおそらく、今回はその『例外』が該当するのではないかと考えています」
ピッと指を立てるラタス。
「例外が該当……ということは、僕が他の女と一緒に居たことがダメだったってわけか? 」
「そう。 つまりはボクですね、てへぺろ☆」
「お前が元凶かよ! 」
と勢いよくつっこんだ僕だが。 その理論については無いと思うのだ。
「いやでも、それは多分違うよ。 今までも僕が他の女の子と話したり居たりしたら逐一状況を聞かれたり……成れの果て棒で攻撃されたりしたけれど、でも泣くほどではなかったんだ」
「そこまでされて本当に気づいてないんですか……? 」
「え? なんの話? 」
ちょっと小声で言われたから聞き間違えかなと思ったけれど。
「いえ、こちらの話です。 というより、そっちの話ですけれど。 まあ、いいです。 ……思ったんですけれど、どうしてそこまでされるのか疑問に思わなかったのですか」
「そりゃ思うよ! だから聞いてみたんだ。 けれどいつも曖昧にはぐらかしたりヤベが他の女に騙されないように、とか言ったりするんだ。 琴乃は僕の親かよって」
「まあ、それは『親には』なりたくないでしょうけれどね……」
「……? 」
またもや小声で言われた。 なんか、意味深長だな……。
「あ、そうだ。 明日って何か用事はありますか? 」
急に話題が変わったため少し驚いた。
「用事……ああ、なんか大河が明日は空けておけよって言われたから特に何もないんだけれど」
「それでしょ」
「え」
「スマートフォン」
「え」
「確認」
「……え? 」
画面には、大河からのメッセージ。
『明日はコトと一緒にショッピングにでも行ってこい! ちなみにコトには話もうつけてあるからな! 取り敢えず、これで機嫌とってこい! 追記! お礼は要らなくはないぜ☆』
なんでだよ。
▽
「絶対これですよね」
僕のスマートフォンの画面をのぞき込みながらラタスが断言した。
「っていうことは、琴乃はこの約束のことを言っていたってこと……? 」
「そういうことになります」
まるで僕が悪いように言うラタス。
「だって僕このこと知らなかったわけですし……」
「『だって』は言い訳ですよね。 琴乃さんからしたら大河さんがすでに伝えていたという認識になっているわけで。 それを本人つまりキヤベさんからなかったことにしているわけですから」
痛いところを突かれた。 なんか、学校の先生に怒られている気分だ……。
「えー、いやでも、それだけでそんな反応になるか……」
「それと、今の状況ですよ。 琴乃さん的に、自分との約束は忘れて他の女の子との約束はちゃっかりきっちりしているわけですから」
さらに人差し指を伸ばして自信ありげにいう。 探偵に説き伏せられているかのような気分だ。
「うぐ……」
たまらず、うぐの音が出てしまった。
なるほど……。 確かに、自分との約束は放っておいて他の女の子との約束はちゃんと守っているという風に見えたとなれば……。
「キヤベさんのすべきこと、分かりますね? 」
少しうつむいた僕の顔を覗き込むように確認をするラタス。
「……うん。 でも、いいのか? ここから一人で帰るわけになるけれど」
僕は今から誤解を解くべく、一目散に一直線に琴乃の元へと向かうつもりだ。
ただ、流石にデートレベル赤ちゃんの僕でも、帰りに女の子をひとりで返すのはいけないと知っている。 そんな僕の配慮は杞憂だと言わんばかりにラタスは、
「……あの、ボクをなんだと思ってるんですか? 」
と、呆れた声を漏らした。
「え? 『いい』性格をしている居候でしょ? 」
あ、まずい! 素の返答をしてしまった!
勿論、そんな答えを聞いていい顔をするわけもなく、むすっとした顔で、
「……こっちに来てください」
と、人気のないところに連れていかれたのだった。
▽
帰り道から少し逸れた路地裏に連れていかれた僕。
「あ、あの、怒らせちゃった? 」
恐る恐る聞いてみる。 これが普通の人ならそこまで恐れることは無いのだが……彼女は普通の人ではない。 何をされるのか分からないため、自分の身を守るためにも確認は必須だった。
「ええ。 ですので少し懲らしめます」
あ、もうだめだ。 これからきっととんでもないことをされるのだろう。 これを打開するために、
「あ、あの、ご、ごめんなさ」
「えい」
僕の謝罪は空しく、魔法は発動されたのだった。
課題終了
また気合い入れます1




